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第65話:噂話と復讐

宴もたけなわ、メインのバイソン・ステーキやピー・マンの肉詰めを平らげたカイトたちは、食後のデザート……ならぬ、サイドメニューの「揚げポテト」をつまみながら、川のせせらぎに耳を傾けていた。

 『ポテト・マン』からドロップしたジャガイモを、カイトがその場でカットし、深めの鍋でカラリと揚げたものだ。岩塩の塩気が、戦いと食事で火照った体に心地よく染み渡る。


「ふぅ……マジで食った。カイト、お前の料理、こんなにうまかったんだな!」


佐藤が揚げたてのポテトを口に放り込みながら、満足げに背もたれに体を預けた。イストはカイトの傍らで静かに佇み、ティロフィは少し離れた場所で、お土産用の肉を狙おうとする不届きな『レタス・マン』を睨みつけて追い払っている。


「いや、道具と食材が良かっただけだよ。……それより佐藤、さっき言ってた『三十一層以降』の話だけど。具体的にどう苦戦してるんだ?」


カイトが問いかけると、佐藤の表情が少しだけ曇った。隣でドレッシングをかけたレタスを齧っていた田中も、その言葉に眉をひそめる。


「ああ。今の俺たちの主戦場は三十一層から三十四層の『岩場エリア』なんだけどさ……。あそこの敵、総じて硬すぎるんだよ。ガレムとかロックウルフとか、一応ダメージは通るんだけど、一戦一戦が泥沼っていうか。攻撃が弾かれる感触が強くて、思うように殲滅速度が上がらねえんだ」


佐藤は自分の大剣を見つめながら、拳を握りしめる。

 カイトは少し考え込み、三人の現在の状況を尋ねた。


「みんな、今のレベルは?」


「全員、上級職のレベル十七よ」


田中が短く答えた。上級職の十七。一般的に見れば、校内の二年の中でも間違いなく上位に食い込む実力だ。しかし、統合ダンジョンの三十層を越えると、敵のステータス……特に物理・魔法耐性は飛躍的に跳ね上がる。


「なるほど……。でも、それなら焦らなくて大丈夫だと思うよ」


「……え?」


予想外に軽いトーンで返された佐藤が、ポテトを噛む手を止める。


「佐藤、お前の職は『壊剣士』だろ? 多分、レベル二十になれば【火砕断】を覚えるはずだ。それがあれば、高圧の爆発を乗せた一撃でガレムの装甲も内側から粉砕できる。……田中もそう。レベル二十で【プロミネンス・レイド】を習得すれば、単体火力も範囲制圧も今とは比較にならない。三十一層の岩石系モンスター相手なら、火力のゴリ押しで突破できるようになるよ」


カイトがさらりと告げたスキル名と習得レベルに、佐藤と田中は顔を見合わせた。


「……お前、なんで他人の職のスキルツリーまでそんなに詳しいんだよ」


「まぁ、昔からデータを見るのは好きだったからな」


カイトは苦笑して誤魔化した。実際には、彼ら三人の適性と今後の成長について、前々から真剣に考えていた結果なのだが。


「そっか……レベル二十か。あと三つ。そう聞くと、少し希望が見えてきたな」


佐藤がパッと表情を明るくする。地道なレベリングの果てに確実なパワーアップが待っていると知れば、モチベーションも変わるというものだ。鈴木も「よかったです。私も、レベル二十になったらもっとみんなをサポートできる技を覚えられたらうれしいです」と微笑んだ。


ひとしきり攻略の話が終わると、佐藤が思い出したようにニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「ところでカイト。……お前、最近学校で自分の噂がどんなことになってるか知ってるか?」


「……噂? いや、全然。俺、基本一人のことが多いし」


カイトが首を傾げると、田中が呆れたようにため息をつきながらスマホを取り出した。


「あんた、自分の『今の立ち位置』を自覚してなさすぎるのよ、最近すごいわよ」


「ほんとほんと、特にカイトをバカにしてたやつらがもう噂広めまくっててよ」


そういった佐藤に詳しく話を聞いてみると、曰く、カイトは今までの嘲笑してきた者をすべて記憶してる。曰く、教官でもカイトには勝てないから実質制御不能。曰く、実はすでにプロのクランに内定をもらっているからカイトに逆らうと将来が危うい、等々……。


それを聞いたカイトの絶叫が河原に響いた。隣で聞いていたイストが「主……どうされましたか?」と心配そうに首を傾げる。


「なんでも、三十層の変異ボスの戦闘を遠くから見てたクラスメイトがいたらしくてな。そいつが掲示板に戦闘の詳細を書き込んでから、噂が勝手に一人歩きしてこんな状況になってるんだよな」


佐藤が笑いを堪えきれずにポテトを口に運ぶ。

 カイトは頭を押さえた。だから最近、廊下ですれ違うクラスメイトが妙に背筋を伸ばして挨拶してきたり、龍崎教官以外の教官がやたらと丁寧に接してきたりしたのか。


「……ただの誤解だよ。復讐なんて考えてないし、プロの内定なんて一通も来てないって」


「でも実際、お前が一番キツかった時期に、バカにしてた奴らはいっぱいいたろ?」


佐藤が少し真面目なトーンになって尋ねた。


「正直、俺たちはあいつらが今のカイトの活躍を見て、ビクビクしてるのを見るのは少し溜飲が下がるんだけどさ。……カイト自身は、正直どう思ってるんだ? 昔バカにしてきた奴らのこと」


田中も鈴木も、カイトの答えを待つように視線を向ける。

 カイトは、静かに川の流れを見つめ、最後の一本のポテトを口に運んだ。


「……特になんとも思ってないよ。恨んでもいない」


「え、マジで?」


意外そうな佐藤に、カイトは静かに微笑んだ。


「元々、俺の選択したルートが弱くて効率が悪いって言われていたのは事実だし、俺自身も強くなるのに相応の時間がかかった。端から誰かに理解されるなんて思ってなかったんだ。だから、あいつらが何を言ってようが、俺にとっては背景のノイズみたいなものだったんだよ。……それに今は、イストやティロフィ、それにこうしてみんなと笑ってられる時間の方がずっと大事だからな、そんなくだらない復讐だとか考えてる暇ないかな」


淀みのない、本心の言葉。

 それを聞いた佐藤たちは、一瞬呆気に取られた後、顔を見合わせて苦笑した。


「……お前、本当に強いな。強すぎてちょっと怖いぞ」


「ひどいな。……だからさ、もし機会があれば伝えておいてくれ。俺は何も気にしてないから、普通にしてくれって。そんなに怯えられると、こっちまで居心地が悪いからさ」


カイトが困ったように言うと、佐藤は力強く頷いた。


「わかったよ。カイトがそう言うなら、俺たちから上手く言っておいてやる。……ったく、あいつらも命拾いしたな」


「本当に。カイトがその気なら、今頃学園が一つ消えてるかもしれないんだから」


田中の毒舌まじりの冗談に、カイトは「やめてくれよ」と笑い飛ばした。


太陽は燦々と降り注ぎ、河原には再び和やかな笑い声が戻る。

 自分を信じてくれる仲間と、過去のわだかまりを一切気にする必要のない強さを手に入れた少年。

 明日から始まる学園生活は、これまでとはまた違った景色になるだろう。だが、カイトの隣には変わらず白の騎士と灰色の竜が寄り添っている。それだけで、十分だった。


『現在のジョブ:調教師(Lv.21)』

『使役モンスター:イスト(Lv.11)、ティロフィ(Lv.7)』

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 多分佐藤くん達が敢えてこういう話題を振ったのも、カイトくんには復讐とかよりてっぺんを目指して欲しい=強くなっていく友があんなアホ達の為に変な時間使って欲しくないなぁ…的な、一種の不安や…
もし初期メンバーがカイトの威を借りたり、ちょっとでも距離を取ろうとしたら、 読後にこんな気持ち良さを味わえない。本当に変わらない日常を提供してくれるのは最高。 どこまでも眩しいまでの青春を楽しんでほし…
日常回もいいよね
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