第63話:懐かしのパーティと食材の調達
日曜日の朝。
カイトは前日の夕方、自分へのご褒美だけでなく「家へのお土産」としてさらに数体の食材モンスターを狩り、ホクホクとした気分で帰宅した。一夜明け、再び訪れた『食実る豊穣の地』のゲート前は、昨日以上の熱気に包まれていた。
しかし、今日のカイトは昨日とは違う。
人混みの中に、見慣れた、それでいて懐かしい顔ぶれを探す。
「おーい! カイト!」
ひときわ元気な声が響いた。声の主は、カイトの最初のパーティーメンバーであり、今は壊剣士の佐藤だ。彼は相変わらずさっぱりとした短髪を揺らし、大きく手を振っている。
「佐藤、こうして一緒にダンジョンに行くのは久しぶりだな」
「マジで久しぶりだな! 学校での噂、結構すごいことになってるぜ?」
挨拶もそこそこに、佐藤がカイトの肩を叩く。続いて、混雑したゲートの脇から、凛とした表情の女性と、おっとりとした雰囲気の女性が歩み寄ってきた。
「カイト、お待たせ。……あんた、連絡が急なのよ。昨日の今日で装備のメンテナンス、無理やり終わらせたんだからね」
「カイト君、お久しぶりです。元気そうでよかった」
田中は相変わらずの毒舌だが、その瞳には再会を喜ぶ色が微かに混じっている。
それに対して鈴木は、聖女のような穏やかな微笑みをカイトに向けた。
「みんな、急に誘って悪かったな。……よし、それじゃあ行こうか。今日は俺が最高のBBQを振る舞うよ」
四人はゲートを潜り、草原の広がるダンジョン内部へと足を踏み入れた。
ゲートの先は、昨日見た時と同様にシュールな『野菜マン』たちが跋扈し、それらを追う冒険者たちで賑わっていた。
佐藤たちは「うおっ、本当に歩くジャガイモがいる!」と盛り上がっていたが、カイトは彼らを急かして奥地へと進むよう促した。
「悪い、俺の職業柄、どうしても人目につかない場所で戦いたいんだ。今の俺の仲間を見られると、ちょっと騒ぎになりかねないからな」
「調教師だもんな、ここのダンジョンに出ないはずのモンスターを呼び出したら確かにまずいか? 分かったよ、カイトに任せるぜ」
佐藤の快い了承を得て、四人は昨日カイトが走ったルートを辿り、約三時間かけて他の冒険者の影が一切なくなった深部へとたどり着いた。
「ふぅ……この辺りなら大丈夫だな」
周囲の安全を確認し、カイトは深呼吸をする。佐藤、田中、鈴木の三人が興味津々といった様子でカイトの手元に注目した。
「よし――おいで、イスト、ティロフィ」
カイトが右手を振ると、空間が翡翠の光に包まれ、二体の影が具現化した。
陽光を反射し、白に輝くフルプレートメイルを纏った騎士、イスト。
そして、全長四メートルを超え、灰色の鱗が鈍い光を放つ圧倒的な威容のドラゴン、ティロフィ。
「…………え?」
佐藤の口が半開きになり、腰に差した剣の柄に置いていた手が滑り落ちる。
田中は持っていた杖を落としそうになり、目を見開いて絶句した。
鈴木は、あまりの威圧感に一歩後退し、言葉を失って立ち尽くしている。
「……紹介するよ。俺の仲間だ。白騎士のイストと、灰塵竜のティロフィ」
カイトが静かに紹介すると、まずイストが一歩前に出て、三人の前で優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります。主の友たる皆様。私はイスト、主の剣として付き従う者です。本日はよろしくお願い申し上げます」
「喋ったぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
佐藤が今日一番の絶叫を上げた。田中も「嘘、人語を解するモンスター……!? そんなの聞いたことがないわ……!」と驚愕を隠せない。
「いや、俺も初めてイストが喋った時は腰を抜かしそうになったから、気持ちはわかるよ。それと、こっちがティロフィだ。少し図体がデカいけど、仲良くしてやってくれ」
「グルゥッ」
ティロフィが挨拶代わりに鼻息を一つ吐くと、その風圧だけで周囲の草が僅かに揺れる。佐藤たちはその圧倒的な強者のオーラに戦慄しながらも、カイトの落ち着いた様子を見て、次第に「カイト、本当にどこまでやばくなるんだ……」という表情へと変わっていった。
「よし、驚きも落ち着いたところで、狩りを始めようか! 今日は昨日狩れなかったレアな食材も狙うぞ!」
狩りが始まると、そこはもはや一方的な「蹂躙」だった。
まずターゲットになったのは、川を優雅に流れていたマグロバージョンのスシ・タートルだ。
「佐藤、右から追い込んでくれ! イスト、一撃で仕留めろ!」
「お、おう! 任せろ!」
佐藤が岩場を跳ね、スシ・タートルの退路を断つ。そこへイストが目にも留まらぬ速さで接敵し、白の剣で亀を一撃で仕留めることに成功した。
ドロップしたのは、板前が握ったかのような完璧な形状の『寿司16貫セット・箱入り(マグロ)』。
「すげぇ……本当に寿司が落ちた……」
さらに草原の奥では、カスタード色の巨大なスライム、プリン・アラモード・スライムがプルプルと震えながら逃走していた。
「逃がさないわよ! 【炎弾Ⅲ】!」
田中の放った火球がスライムの進路を阻む。そこへ上空からティロフィが急降下し、その巨大な質量で「バフッ」と踏み潰した。
跡形もなく消えたスライムの代わりに、そこにはガラス容器に入った豪華な『プリン・アラモード』が鎮座していた。
「カイト……あんたの戦い方、もうソロの領域を完全に超えてるわね。というか、私たちが手伝う必要ある?」
田中が半眼で尋ねるが、カイトは笑って答えた。
「何言ってるんだよ。久しぶりに四人でパーティーを組めたんだ、昔みたいに連携しようぜ」
「そうですね。……田中さん、カイト君の後ろは私たちが守りましょう」
鈴木の癒しの魔法がパーティ全体に掛かる。必要ないほど元気ではあったが、その温かな魔力がカイトの心を躍らせた。
その後、四人は『オコメ・マン』の群れを四方から包囲して効率的に袋詰め米を回収したり、『トマト・マン』の放つリコピン弾を佐藤が盾で防ぎながらカイトが指示を出すなど、懐かしいパーティーの動きを再現して楽しんだ。
一時間も経つ頃には、佐藤たちの顔からも緊張が消え、「次はあのフランスパン野郎を仕留めるぞ!」「ナスビ・マンの足元に気をつけて!」と、昔のように笑い合いながら狩りに没頭していた。
最強の使役獣二体と、信頼できる旧友たち。
カイトは、激闘の合間に見せる彼らの笑顔を見ながら、この世界に来て一番の「休日」が始まったことを確信していた。
『現在のジョブ:調教師(Lv.21)』
『使役モンスター:イスト(Lv.11)、ティロフィ(Lv.7)』




