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第58話:光と闇の竜、穿つ竜騎士

日曜日の午後、西日が差し込む『竜の巣』第十四層。

 カイトが手にした『風竜の宝玉』が、共鳴するように激しく震え、緑の光を放ち始めた。その光はカイトの指の間から溢れ出し、既に揃えていた火・水・地の魔力と混ざり合い、一つの巨大な「理」となってティロフィへと吸い込まれていった。


「――ティロフィ、進化だ!」


カイトの声が響くと同時に、ティロフィの巨躯が眩いばかりの金色の光に飲み込まれていく。

 それは、イストが白騎士へと至った時と同じように、圧倒的な質量を伴う「繭」だった。

 光の繭の内部へと、周囲の魔力が渦を巻いて収束していく。捧げた三つの宝玉。それらすべてを糧とし、灰色の竜は「幼体」から「成体」へとその在り方を塗り替えようとしていた。




やがて、極限まで高まった光の繭がほどけていき、霧散していった。

 そこに立ち現れたのは、かつての「灰竜」をさらに二回りも巨大化させ、強者の威容を纏った新たな姿だった。


体長は四メートルを超え、全身を覆う鱗は、磨き上げられた黒曜石のような黒が混じる深い灰色へと変化している。その鱗一枚一枚が、物理・魔法を問わずあらゆる干渉を弾き返す盾のように強固だ。翼はより巨大に、力強く。その背筋から伸びる尾は、一振りで大地を両断せんとする質量を携えている。


『使役モンスター:ティロフィが【灰塵竜】へと進化しました』

『新スキル【灰の咆哮】【竜血】を習得しました』


「グルゥゥゥゥオォォォォォン!!」


新生ティロフィの咆哮が、第十四層全体を震わせた。その瞳には知性と野生が完璧な均衡で宿っており、主であるカイトの前に膝を突く所作には、王者の風格さえ漂っている。


「……待たせたな。今の君たちなら、あの場所へ届くはずだ」


カイトは、白き鎧を輝かせるイストと、灰塵の翼を広げるティロフィを見据えた。

 三週間前。自らの実力不足を認め、一歩を引いた「あの場所」――。

 一行は、かつて一度歩みを止めた第十五層のゲートへと再び足を踏み入れた。


第十五層。

 ゲートを潜り抜けた先で待ち構えていたのは、今までの「ドラゴン」とは一線を画す、対を成す二体の守護者だった。


右方に鎮座するのは、白の鱗に包まれ、鳥のような清らかな羽毛を持つ巨大な翼を広げた『ライト・ドラグネス』。

 左方に君臨するのは、黒の鱗を纏い、コウモリのような角ばった翼で威嚇する『ダーク・ドラグネス』。

 どちらも五メートルを超える巨躯を誇り、光と闇の魔力を文字通り肌で感じるほどのプレッシャーを放っている。


「……光と闇の竜か。厄介だな。だが、やるぞ!」


カイトの号令と共に、戦いの火蓋が切られた。


「グルァッ!」


ティロフィが前線へ躍り出る。対するダーク・ドラグネスは闇魔法による身体強化を即座に発動させ、その巨躯を漆黒の霧で包み込みながらティロフィへ肉薄した。

 至近距離での衝突。爪と爪、鱗と鱗が火花を散らす。ダーク・ドラグネスが放つ闇の弾を、ティロフィは進化した頑強な鱗で真っ向から受け流し、至近距離から新たな必殺技を放つようにカイトが指示を出す。


「【灰の咆哮】!」


ティロフィの喉元が赤黒く染まり、咆哮と共に超高熱の灰を孕んだブレスが噴出された。

 闇の霧を焼き払い、ダーク・ドラグネスの皮膚を蝕む灰の奔流。しかし、その背後でライト・ドラグネスが翼を広げた。


「ギィィィヤァァァァッ!」


清らかな光がダーク・ドラグネスの傷を瞬時に癒やしていく。さらに、ライト・ドラグネスは空中に無数の光弾を生成し、雨あられのようにカイトたちへ降り注がせた。


「……【吸魔の剣】!」


カイトの前に躍り出たイストが、白き剣を一閃。

 迫りくる光弾を真っ向から斬り伏せると、その魔法エネルギーが剣へと吸収され、イスト自身の魔力へと変換されていく。しかし、どれほどイストが魔法を無効化しても、後方からの執拗な回復魔法のせいで、前線のティロフィはダーク・ドラグネスとの膠着状態から抜け出せない。


(回復を先に止めなければ、膠着から抜け出せない……。なら!)


「ティロフィ、上昇しろ! イスト、ティロフィの背に乗れ!」


「「――!!」」


一瞬の驚き。しかし二体は迷わなかった。

 ティロフィが強引にダーク・ドラグネスを弾き飛ばし、一気に上昇。カイトの上向きにされた盾を足場として蹴り、イストが宙を舞う。

 灰塵竜の広大な背中へ、白騎士が降り立つ。

 竜の剛力と、騎士の技。

 それは、物語の中でしか語られることのないような「竜騎士」の誕生だった。


「一気に行くぞ! 【ヒーリングウィップ】!!」


カイトは調教師のレベル20で覚えられる【ヒーリングウィップ】を、ティロフィに当てる。


 体力が回復し、攻撃速度と移動速度の上昇したティロフィが空を裂き、ライト・ドラグネスへ向けて垂直降下を開始した。


 ダーク・ドラグネスが慌てて割って入ろうとするが、カイトが放った【ホーリー・バレットⅡ】の連射がその動きをわずかに止める。


「イスト、今だ!」


「……はぁっ!!」


ライト・ドラグネスの頭上。超高度から加速したティロフィが急接近し、その背からイストが弾丸のように飛び出した。

 ライト・ドラグネスは防御魔法を展開しようとしたが、イストの【吸魔の剣】がその展開される前の魔力を一瞬で喰らい尽くす。

 

 キィィィィィィン!!


イストの【一閃】が、ライト・ドラグネスの美しい白の翼を、その根元から断ち切った。

 

「ギィヤァァァァッ!?!?!?」


悲鳴を上げ、バランスを崩して地面へと墜落していくライト・ドラグネス。イストはそのまま落下速度を利用し、頭上に降り立ち、さらに追撃の斬撃を叩き込む。


パートナーの無惨な姿に、ダーク・ドラグネスが激昂し、イストへ向けて最大威力の闇のブレスを放とうとした。

 だが、その隙をティロフィは見逃さない。


「仕留めろ、ティロフィ!!」


「グルゥゥゥゥオォォォ!!」


先んじて喉元に溜め込まれた灰の魔力が、限界を超えて圧縮される。

 至近距離。無防備にブレスをチャージしていたダーク・ドラグネスの顔面へ、ティロフィの【灰の咆哮】が直撃した。


ドォォォォォォォォン!!


爆発的な熱量と、触れたものを即座に灰へと変えるような強力なブレスが、闇の竜を包み込んだ。

 

 一瞬、十五層は静寂に包まれ、光と闇の竜たちが消えゆき、光の牙と闇の牙が静かに落ちる。

 

 この世界の冒険者が見ることが叶わなかった巨大な壁を、カイトたちは今、圧倒的な力で踏み越えた。

 ティロフィは体に流れる【竜血】の効果により、戦いの傷はすでに癒え始めている。

 

「お疲れ様です、我が主」


白き鎧に微塵の汚れも残さず、イストが静かに一礼しながら拾ってきたボスドロップを二つ、カイトに手渡す。

 その隣で、灰塵の竜が戦勝の咆哮を上げた。


十五層を越え、カイトの見据える先には、さらなる「未踏の地」が広がっている。

 この世界の誰もが知らぬ場所へ、彼らは進撃していく。


『現在のジョブ:調教師(Lv.21)』

『使役モンスター:イスト(Lv.9)、ティロフィ(種族:灰塵竜 Lv.5)』

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― 新着の感想 ―
融合を発動! 灰の翼に導かれ、白き刃が道を拓く 現われよ! 「竜騎士ティロフィト」!
「戦闘の火蓋が切って落とされた」は誤用です。 正しくは「戦闘の火蓋が切られた」か、「戦闘の幕が切って落とされた」です。
成長途中のイストとティロフィだけでも過剰戦力、今だって魔王で通用しそうだよね? まぁ、調教師と眷属を育て終わったところで、本人の近接戦闘力に穴があるから… 魔王への道のりはまだ遠い…のか?
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