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第52話:灰色の進化、空を舞う竜

『竜の巣』第八層。ドレイクの屍が転がり、粒子となって消えていく静寂の中で、カイトの手のひらにある『ドレイクの竜鱗』が、脈動するように鈍い光を放っていた。

 その光が気になるのか、カイトの足元に座り込むティロフィがのぞき込む。


 「これで準備は整った。ティロフィ、君の可能性を見せてくれ」


カイトが静かに告げ、手にしていた竜鱗をティロフィへと差し出す。

 瞬間、竜鱗は細かな光の粒へと砕け、渦を巻いてティロフィの身体へと吸い込まれていった。


――カッ、と。

渓谷を塗りつぶすほどの、強烈な金色の閃光が弾けた。

 それは単なる成長ではない。種としての根源的な再構築。

 光の繭の中で、ティロフィの骨格が軋みながら肥大化し、小さかった翼が内側からの圧力で力強く押し広げられていく。どの属性にも染まれなかった灰色の鱗が、金色の光を飲み込み、より深く、より硬質で強靭な鱗へと変貌を遂げていった。


『使役モンスター:ティロフィが【グレイ・ドラグネス】へと進化しました』

『新スキル【飛翔】【魔纏・爪】を習得しました』


光が霧散した中心に、その「竜」はいた。

 体長は約二・五メートル。かつての一メートルほどの幼体とは比較にならない存在感を放っている。背中には、自身の巨体を容易に覆い隠せるほどの巨大な翼が備わり、四肢には鋼鉄をも容易く引き裂くであろう鋭利な爪が鈍く光る。


「グルゥゥ……」


喉の奥から漏れる咆哮は、もはやリトルドラゴンのそれではない。

 ティロフィはゆっくりと立ち上がると、主であるカイトを見つめ、その大きな頭を親愛の情を込めてカイトの胸元へ寄せた。


「……見事だ、ティロフィ。最高の姿だよ」


カイトはその硬く冷たい、しかし確かな生命の熱を感じる鱗を撫でた。


「さて……まずは、その力を試させてもらおうか」


カイトの視線の先。進化の余波を感じ取ったのか、通路の奥から新たな『ヤング・ドレイク』が二体、猛烈な勢いで突進してきた。

 先ほどまでは、名もなき騎士が傷をつけ、そこをティロフィが執拗に狙わなければ致命傷を与えられなかった強敵だ。


「騎士、待機。――ティロフィ、行け!」


カイトの指示が飛ぶ。

 ティロフィは地を蹴った。以前のような這うような加速ではない。

 

「【飛翔】!」


巨大な翼が一度羽ばたく。それだけでティロフィの巨体は重力を無視して宙へと浮き上がり、瞬時にドレイクの頭上へと到達した。ドレイクが困惑したように顔を上げた瞬間、ティロフィの右爪にどす黒いまでの高密度な魔力が集束する。


「【魔纏・爪】からの【爪撃】!」


魔力を物質的な刃として纏わせた爪が、大気を引き裂く。

 上空からの急加速を加えた一撃。ティロフィの爪がドレイクの脳天を直撃した。


ズドォォォォン!!


重厚な衝撃音が反響する。

 先ほどまでただの【爪撃】を弾いていたドレイクの硬質な頭蓋が、まるで熟れた果実のように容易く粉砕された。追撃の必要すらない。一撃。文字通りの即死だった。


「グルァッ!」


もう一体のドレイクが、仲間の死に激昂して飛びかかってくる。

 ティロフィは着地際、そのまま翼を翻して横へとスライド。空中に留まったまま、残った一体の背後に回り込むと、今度は左爪による【魔纏・爪】が付与された【爪撃】を叩き込んだ。

 背骨を完全に断ち切られ、二体目のドレイクもまた、粒子となって霧散していく。


「……素晴らしいな。攻撃力、機動力、共に想定以上だ」


カイトは満足げに頷いた。

 今までのティロフィは「手数」と「隙」を突く戦い方だったが、進化した今の彼女は、自ら戦局を破壊できる「主力」へと昇華している。


その後、カイトは騎士とティロフィを連れ、さらに奥の第九層へと足を進めた。

 そこはドレイクの群れが闊歩する、まさに死の領域。だが、今のカイトのパーティにとって、そこは最高の狩場へと変わっていた。


「騎士、一瞬でいい、三体を止めろ。ティロフィ、右の二体を空から分断。俺が合図したら、同時に攻撃して仕留めるぞ」


「…………」

「グルァ!」


名もなき騎士が【流剣】で三体の猛攻をいなし、円を描くような盾捌きで一箇所に集める。そこへ、上空を旋回していたティロフィが急降下。魔力を纏った翼で突風を巻き起こし、敵の視界と姿勢を奪う。


「今だ、やれ!」


騎士の【一閃】が一体の首を跳ね、同時にティロフィの爪が残りの二体を地面ごと粉砕する。

 カイトは後方で【エリア・マイナーヒール】を飛ばし、二体の体力をコントロールすることだけに専念する。


調教師という職業は、使役獣が強くなればなるほど、その真価を発揮する。

 一人での行動より、パーティーで戦っている今の方が、カイトは「盤面」を支配しているという確かな感覚を得ていた。


数時間のレベリングを終え、二体を確認する。

 二体のレベルは着実に上がり、何よりカイトとの呼吸が完全に一致し始めていた。


「よし。今日はここまでにしておこう」


カイトがそう言うと、ティロフィは名残惜しそうに翼を畳み、騎士は静かに剣を納めた。

 進化したティロフィの背中越しに、カイトはさらに深層へと続く道を見つめる。

 次は十層のボス、フレア・サラマンダー。そして、その先にある十一層以降は更に強力な竜たちが跋扈する領域だ。


(この世界ではまだ攻略されていないダンジョン、俺たちがどこまでいけるか楽しみだ)


カイトは二体を【眷属の庭園】へと戻し、竜の巣の入り口へと引き返した。

 夕闇に包まれた断崖を見上げ、少年は静かに、しかし力強く拳を握る。

 灰色の竜と、鉄の騎士。

 強力な二体の仲間をさらに強くするためにまだまだやることは沢山ある。


『現在のジョブ:調教師(Lv.17)』

『使役モンスター:ティロフィ(種族:グレイ・ドラグネス)、名もなき騎士(Lv.UP)』

『ティロフィ:Lv.7、名もなき騎士:Lv.12』

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― 新着の感想 ―
乗っただけ融合するから名もなき騎士は名無しなのかな?
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