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第51話:進化の兆し

統合ダンジョン第十四層。吹き抜ける草原の風を切り裂き、鋭い金属音と獣の咆哮が交錯する。

 カイトの目の前では、つい先日仲間になったばかりとは思えないほど精緻な連携が繰り広げられていた。


「……」


【流剣】


名もなき騎士が、迫りくる『ウィンド・ウルフ』の牙を長剣の腹で受け流し、その勢いのまま円を描くように盾を叩きつける。姿勢を崩した狼の脳朶のうだを、騎士の剣が冷徹に貫いた。間髪入れず、騎士の影から弾丸のような速度で飛び出したのはティロフィだ。


「グルァッ!」


ティロフィは【身体強化】によって増幅された膂力を爪に込め、逃げようとした別の狼の喉笛を一撃で引き裂く。

 数時間に及ぶ演習。カイトは後方で二体を支援しながら、動きが噛み合っていく手応えを感じていた。その時、視界の端で無機質なシステムメッセージが明滅した。


『使役モンスター:ティロフィがレベル10に到達しました。個体進化が可能です』

『進化条件:ドレイク系統の【竜鱗】を使用する』


カイトの瞳に鋭い光が宿る。

 「進化」。それは調教師という職において、使役獣を強くするために欠かせないものだ。そして条件として提示されたのは、単なる経験値ではなく特定の触媒――それも『ドレイク』の鱗だった。


(……なるほど。やはり、進化の方法もゲームと変わりないか)


カイトは満足げに頷き、二体を【眷属の庭園】へと戻した。

 目標は定まった。単独ダンジョン『竜の巣』。かつてティロフィをテイムした場所のさらに深層、第八層から第九層に生息する純粋な身体強化型――ヤング・ドレイクから、その進化の礎を奪い取ることだ。





そして土曜日。

 カイトは再び、『竜の巣』の入り口に立っていた。

 先週、ティロフィをテイムした時はまだ大盾士と大癒術師の合わせ職としての立ち回りだったが、今日の彼は「調教師」としての顔を崩さない。


「行くよ、みんな」


指を鳴らすと同時に、翡翠色の光が渦巻き、騎士とティロフィが左右に並び立つ。

 カイトは迷わず第一層の奥へと足を踏み入れた。



一層の岩陰から、数体のリトルドラゴンが殺到する。先週はカイト自身が「魔力の一閃」で仕留めた相手だが、今回カイトは一歩も動かない。


「騎士、道を作れ。ティロフィ、漏らすな」


騎士が重厚な一歩を踏み出し、大盾を構える。リトルドラゴンの突進を、まるで巨大な岩壁のように正面から受け止め、一切のノックバックを許さない。

 騎士は盾の陰から、魔力を込めた剣を水平に薙いだ。


【一閃】


目にも留まらぬ速さの斬撃が空気を裂き、正面の個体を一瞬で沈黙させる。その隙間を縫うように、ティロフィが低空を滑走した。地面を蹴るたびに岩が砕け、灰色の影がリトルドラゴンの群れを攪乱していく。

 ティロフィは【爪撃】の一撃一撃で的確に心臓を抉り、騎士の攻撃から漏れた個体を瞬く間に解体していった。一分と経たず、通路を塞いでいたリトルドラゴンの群れは文字通り「消滅」した。




階層を下るごとに、空気は属性の熱と冷気に汚染されていく。第六層、ティロフィと出会った灰色の岩石地帯を通過し、七層へ。

 前方には、フレア、アクア、ストーム――異なる属性を纏ったリトルドラゴンが、まるで魔法の砲台のように陣取っていた。


「グルオォォン!」


火球と水弾、そして真空の刃が同時にカイトたちを襲う。

 騎士は即座にカイトの前へと立ち塞がり、盾に魔力を集中させた。


「騎士、【流剣】で受け流せ」


カイトの指示を聞き、名もなき騎士は飛来する火球を剣の腹で叩き落とし、同時に水弾を盾の表面で滑らせて軌道を変える。属性攻撃の暴力的なエネルギーが、騎士の剣技によってあらぬ方向へと散らされていく。


「ティロフィ、ストーム(風)を狙え。翼を折れ」


カイトの指示を受け、ティロフィが崖の壁面を垂直に駆け上がる。上空で旋回していたストーム・リトルドラゴンに対し、ティロフィは飛び上がって空中で身を捻り、尾を鞭のようにしならせて叩き落とした。地面に激突したところへ、騎士が距離を詰め、魔力を一点に凝縮した【一閃】でトドメを刺す。

 異なる特性を持つ二体が、カイトという指揮官を介して一つの生命体のように連動していた。




そして、ついに目的の第八層。

 そこは、これまでのリトルドラゴンとは明らかに「格」の違う咆哮が響く場所だった。


体長三メートルを超える巨躯。翼を捨て、四肢の筋肉を異常なまでに発達させた純粋な陸戦竜――『ヤング・ドレイク』。

 彼らはブレスを吐かない代わりに、その巨体そのものを弾丸として撃ち出す。

まさに、ティロフィそのまま強化したようなドラゴンだ。


「……来たか」


前方のトンネルから、岩壁を削りながら三体のドレイクが突進してきた。その突進力は、これまでの魔物とは比較にならない。

 騎士が盾を深く構える。ガァァァン! と、これまで聞いたこともないような金属の悲鳴が上がり、騎士の足が数メートルほど後退した。


「……やはり重いな。だが、それだけだ」


カイトは大癒術師の力で騎士を支援する。一瞬で体力を全回復させ、さらに防御力を底上げする。

 騎士は押し込まれた力を逆に利用し、盾を跳ね上げた。


「グルァ!!」


そこにティロフィが爪撃を当てるがドレイクの硬い鱗に弾かれてしまう。


「断て!」


【一閃】、騎士の剣がドレイクの硬質な鱗を強引に切り裂き、深々と肉に食い込む。激痛に咆哮を上げるドレイク。そこへ、攻撃を弾かれ一度下がっていたティロフィが上空へジャンプし、自由落下に近い加速で突撃した。


「グルゥァッ!!」


ティロフィは【身体強化】を全開放し、全体重を乗せた【爪撃】をドレイクの傷口へと叩き込む。そのまま飛び掛かり、首の付け根を強靭な顎で噛み砕いた。

 カイトは二体の動きを冷静にコントロールし、ドレイクの群れを確実に処理していく。



 そうしてその後も戦闘を繰り返していく。

 カイトの魔力が徐々に削られ、騎士の鎧には無数の傷が刻まれ、ティロフィの灰色の鱗も泥と返り血に染まっていく。

 治癒を掛けるのも一度や二度ではなかった。

 そして、二十五体目を倒したその時。

 粒子となって消えていくドレイクの残骸の中から、鈍い光を放つ一枚の硬質な破片がカイトの足元に転がった。


カイトはそれを拾い上げ、目を細める。

 『ドレイクの竜鱗』。

 鋼鉄をも凌ぐ硬度と、竜の生命力が宿った進化の触媒だ。


「……手に入れたぞ」


カイトがそう呟くと、呼応するようにティロフィが寄り添い、その鱗をじっと見つめた。

 灰色の鱗が、共鳴するように淡い翡翠色の光を放ち始める。


「これで準備は整った。ティロフィ、君の可能性を見せてくれ」


渓谷が広がる竜の巣。

 カイトの手の中で輝く竜鱗と、進化を待つ灰色の竜。

 「魔王軍」へと近づくための儀式が、今、始まろうとしていた。


『現在のジョブ:調教師(Lv.16)』

『使役モンスター:ティロフィ(Lv.10)、名もなき騎士(Lv.8)』

『獲得アイテム:ドレイクの竜鱗』

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― 新着の感想 ―
> カイトは大癒術師の力で騎士を支援する。 これの意味がいまいちわかりませんでした。今は調教師だから大癒術師としての力は使えないですよね? (レベルリセットしても力が使えるなら、流石にみんなやるだろう…
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