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第48話:灰色のドラゴン

『竜の巣』。

 その入り口を跨いだ瞬間、五感を襲ったのは、暴力的なまでの魔力の奔流と、断崖を吹き抜ける咆哮のような風だった。

 カイトは一歩、また一歩と、切り立った岩場を踏み締める。現在のジョブは『調教師』レベル13。魔騎士としての全能感は霧散し、身体に宿る魔力の総量も劇的に減少している。しかし、その足取りに迷いはない。


「……まずは、一層か」


前方の岩影から、小型の爬虫類が地を這うような音を立てて姿を現した。

 『リトルドラゴン』。

 体長一メートルほど。四足歩行のその姿は、後の巨竜を予感させる力強い骨格を持っているが、背中の翼はまだ小さく、空を舞うには至らない。だが、その瞳には捕食者の鋭い光が宿っている。


「グルァッ!」


三体。左右と正面から、完璧な連携でカイトを包囲し、跳躍した。

 カイトは動じない。腰の剣を抜き放ち、左足を一歩引いて重心を下げる。


「【魔力の一閃】」


 追憶の指輪に登録しているスキルを『魔騎士』の魔力の一閃に変更していたカイト。

魔力を込められた一閃が三体のうち二体のリトルドラゴンを一撃で仕留める。


(レベル13とはいえ、基礎的な身体能力と『危機感知』があれば、この程度の速度は止まって見える)


カイトは、残り一体となったリトルドラゴンの攻撃を避け、受け流し、そして切り付け最後のリトルドラゴンも倒す。


一層から三層までは、この無属性のリトルドラゴンが群れをなして襲いくる。カイトはそれらを一掃しながら、迷うことなく下層へと続く崖道を下りていった。






四層に足を踏み入れた瞬間、空気の質が劇的に変化した。

 岩肌から蒸気が立ち上り、足元の土は凍りつき、時には突風が視界を遮る。


「属性リトルドラゴンの領域か」


曲がり角の先、全身に火花を散らす『フレア・リトルドラゴン』が火炎の息を吐きかけた。カイトは「短距離テレポート」でその背後へ回り込み、大癒術師のスキル【ホーリー・バレット】を叩き込む。光の弾丸は属性の相性を無視し、火竜を沈黙させた。


五層では『アクア・リトルドラゴン』の放つ鋭い水弾を、盾で受けきる。

 カイトは戦いながら、常に周囲の気配を探っていた。彼が求めるのは、単なる属性の強さではない。この特殊な単独ダンジョンにおいて、極めて低い確率で出現する、ある「異端」だった。


そして、第六層。

 そこは、これまでの熱気や冷気が混ざり合い、奇妙に静まり返った灰色の岩石地帯だった。

 

 数分ほど探索を続けた時、カイトの『危機感知』が微かな違和感を捉えた。

 前方の大きな岩の窪み。そこには、他のリトルドラゴンとは明らかに異なる色をした個体が、一匹だけで座り込んでいた。


「……いたな。お目当ての個体だ」


それは、灰色の鱗を持つリトルドラゴンだった。

 『グレイ・リトルドラゴン』。

 火でも水でも、光でも闇でもない。唯一ブレスを持たず、ゲームでも最初は『ハズレ』扱いされていたモンスター。


 だが、カイトは知っている、その灰色の鱗の奥に秘められた、底知れない「可能性」を。



カイトが近づくと、グレイリトルドラゴンは鋭い唸り声を上げ、身構えた。他の個体よりも一回り小さいが、その四肢の筋肉は驚くほど引き締まっている。


「……無駄な戦いはしたくない。俺の仲間になれ」


カイトは右手を差し出し、調教師の初期スキルを発動する。


「【テイム・オーダー】」


翡翠色の魔力の波動が放たれ、灰色の竜を包み込む。

 しかし、竜は激しく身体を震わせ、その魔力を物理的な咆哮で弾き飛ばした。


「グルオォォォッ!」


拒絶。それも、並大抵の意志ではない。

 竜はそのままカイトに向かって突進してきた。その速度は、これまでのリトルドラゴンの比ではない。カイトは紙一重でかわすが、頬に鋭い爪がかすり、薄く血が滲む。


(……いい根性だ。やはり、君で正解らしい)


カイトは微かに口角を上げた。

 一度で成功するとは思っていない。カイトは大癒術師の魔力操作を極限まで精密にし、竜の精神の「隙」を狙う。


「二回目だ……【テイム・オーダー】!」


再びの魔力。竜は岩場を跳ね回り、翻弄するように動くが、その着地地点を完璧に予測していた。放たれた魔力は竜の頭部に命中する。

 しかし、またもや弾かれる。


三回目。

 四回目。

 五回目。


カイトの魔力が削れていく。調教師としてのレベルが低い今の彼にとって、連続したスキル使用は精神的な負担も大きい。だが、カイトは休まない。

 竜の方も、次第に息が荒くなってくる。カイトは攻撃を一切仕掛けず、ただひたすらにテイムの魔力だけを送り続ける。


「君は、この場所で終わる器じゃないはずだ。俺と一緒に、その灰色の鱗を塗り替えに行こう」


カイトの言葉に、竜の動きが一瞬だけ止まった。

 その隙を、彼は逃さなかった。全魔力の半分を注ぎ込み、今日一番の密度を持った波動を解き放つ。


「【テイム・オーダー】!!」


今度は弾かれなかった。

 翡翠色の光がグレイ・リトルドラゴンの全身を包み込み、激しく明滅する。

 竜は必死に抗おうと爪を地面に立て、岩を砕くが、次第にその抵抗は弱まり……。


カチリ、と。

 カイトの脳内で、鎖が繋がったような確かな感触が響いた。


『グレイリトルドラゴンのテイムに成功しました』


光が収まると、そこには荒い息をつきながら、どこか呆然とした様子でカイトを見上げる灰色の竜がいた。

 先ほどまでの敵意は消え、代わりに不思議な親愛の情が、カイトとの間に結ばれたパスを通じて流れ込んでくる。


カイトはゆっくりと歩み寄り、その小さな灰色の頭に手を置いた。


「……苦労させられたな。だが、歓迎するよ」


竜はカイトの手のひらに、その硬い鼻先をこすりつけた。

 カイトは一度空を見上げ、この新しい相棒に相応しい名を思考する。

 灰色の、しかしすべての原初を秘めた色。


「君の名前は……『ティロフィ』だ」


名前を呼んだ瞬間、ティロフィの灰色の瞳がキラリと輝いた。

 まるでその名を待っていたかのように、小さな尻尾が左右に揺れる。


「よろしくな、ティロフィ。これから、君を最強の竜に育て上げる。……もちろん、俺も一緒にな」


カイトはティロフィを【眷属の庭園】へと格納した。

 初めて手に入れた「一人の仲間」。

 「魔王」へと至る道のりに、確かな、そして唯一無二の彩りが加わった瞬間だった。


『現在のジョブ:調教師(Lv.15)』

『使役モンスター:ティロフィ(種族:グレイリトルドラゴン)』

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 属性がなにもない→逆に言えばどの属性にもなれる可能性があるってことですもんね。果たしてティロくん(ちゃん?)はどんな育成をされるのか、今から楽しみですな。
語感悪くない? 呼びにくくない?
え?ティロフィナーレ?(難聴) 何だか猛烈に悪い予感がするのう…
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