第147話:信じていた仲間たち
第四十五層のゲートから溢れ出す青白い光が収まり、カイトの足元に冷たい石畳の感覚が戻ってきた。
ダンジョンの転移陣を通り抜け、地上へと帰還を果たしたカイトは、無意識のうちにふうと深く息を吐き出した。二日間にわたる過酷な単独連戦。耐熱魔道具を維持し続けながらの炎の森の踏破、そして最後の覇炎王蛇との激闘。傷一つ負わなかったとはいえ、神経をすり減らしたことによる心地よい徒労感が体にじわじわと広がってくる。
だが、目を上げて帰還フロアのロビーを見渡した瞬間、カイトの足がピタリと止まった。
窓の外を見やれば、すっかり陽は落ちて夜の闇が街を包み込んでいる。通常であれば、探索を終えた冒険者たちがまばらに行き交う程度の時間帯だ。
にもかかわらず、そこには佐藤をはじめとする佐藤パーティー、そして九条院を筆頭とする九条院パーティーの面々――すなわち、新設クランの仲間たちが誰一人欠けることなく勢揃いしていたのだった。
「……え? みんな、どうしたの……?」
あまりの光景に、カイトは少し呆けたような声を漏らしてしまう。今日、自分が帰ってくる保証などどこにもなかったはずだ。もしかしたらダンジョン内でさらに何泊かして遅くなる可能性だって十分にあったのだから。
呆然と立ち尽くすカイトの前へ、九条院が滑らかな足取りで歩み寄ってきた。その凛とした佇まいの裏に、どこか月明かりのような温かい安堵の表情を浮かべている。
「ふふ、驚かせてしまったかしら。みんなね、結城くんのことが心配でもあり――それ以上に、あなたを信じていたのよ。覚えてるかわからないけど、結城くん、自分で2日ぐらいで行けるかなってつぶやいてたのよ? 私たちはあなたならできると思っていた、だから、疲れて帰ってきたクランリーダーをみんなで出迎えようと決めていたの」
「九条院さん……」
「いくら結城くんでも無茶をしすぎていないかハラハラしていたけれど……その顔を見る限り、無用な心配だったみたいね」
九条院がくすりと微笑むと、その後ろから佐藤がガシガシと自分の頭を掻きながら笑い声を上げて歩み出てきた。そのままカイトの肩をポンと力強く叩く。
「おいおい! で、カイト! 肝心の攻略はどうなったんだ……? って、まあ、そんな顔見せられたら聞くまでもないよな!」
佐藤のカラッとした笑顔に、周りのメンバーたちも笑みを溢れさせる。期待と信頼に満ちた視線が、一斉にカイトへと注がれていた。
カイトは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、力強く頷いてみせた。
「うん。無事に中ボスを倒して四十五層を攻略してきたよ。この後このままギルドに行って、正式にギルドカードの階層更新をしてもらうつもりなんだ」
カイトがそう告げた瞬間、ロビーに小さな歓声が上がった。
中堅冒険者にとって大きな壁とされる四十五層の突破。それをたった二日で、しかも単独で成し遂げてしまったのだ。常識外れもいいところだが、目の前のリーダーならやってのけるという信頼が、彼らの表情を晴れやかに輝かせていた。
すると、歓声が落ち着いたところで鈴木が身を乗り出し、悪戯っぽい笑みを浮かべてカイトに提案する。
「ねえカイトくん! ギルドでの手続きが終わったら、よかったらそのままみんなでご飯に行かない? 攻略直後で疲れてるっていうなら、無理強いはしないけどさ!」
「いいね! お祝いと決起集会を兼ねてさ! 今日はカイトのおごり……とは言わないから、パーッとやろうぜ!」
佐藤も乗っかり、周りのメンバーたちも「賛成!」「行こう!」と口々に盛り上がり始める。
仲間たちの温かい誘いに、カイトの疲れなど一瞬で吹き飛んでしまった。カイトは自然と笑みを溢れさせ、みんなを見渡して頷く。
「もちろん行くよ! それに、四十五層の中ボス……覇炎王蛇の攻撃パターンやフィールドのギミックもバッチリ頭に入ったからね。みんなもこれから先突破するボスだし、その対策や話も聞いてもらおうかな」
「うわっ、それは助かる! 先行者の生の情報ほどありがたいもんはないからな!」
「結城くん、ふふ……相変わらずどこまでも頼もしいリーダーね」
九条院が嬉しそうに目を細め、佐藤が誇らしげに胸を張る。
トラブルから始まった一ヶ月のタイムリミット。だが、カイトの圧倒的な実力と、それを信じて待っていた仲間たちの絆によって、拠点を手に入れるための最大のハードルは、あっけなくクリアされたのだった。
「よし、じゃあまずはギルドでサクッと更新を終わらせてこよう!」
「「「おー!!」」」
カイトの号令にみんなで元気よく応え、和気あいあいとした賑やかな声が夜の街へと響いていく。
大崎の最高の拠点を取り戻すための証明を携え、一行は足取りも軽く、夜の冒険者ギルドへと向かって歩き出したのだった。
『現在のジョブ:魔人(Lv.42)』
『使役モンスター:イスト(Lv.8・天空騎士)、ティロフィ(Lv.8・黒白龍)』




