第44話 ~勇者ゼノス~
これは古い記憶だ。
「泣いても、笑ってもこれで最後だ!」
「…本当にいいのね?」
私の言葉にエレンが返してきた。
「僕は「正義の勇者」だ!呪いなんかに負けないさ!」
そう、真実を知って尚、私は魔王レインを倒す事にしたのだ。
「私はお前を信じている!」
あの頃はイシュトも目に光を宿していた。
「まぁ、何かあればあたしがあんたを止めてあげるわ」
セイリンの言葉に私は笑ったのだ。
「あぁ!!……いくぞ!!」
そして、私達は魔王レインを倒した。
世界は救われた。
だが、終わりではない。
世界を平和にする為に……
人々を救う使命が私にはある。
未曾有の危機が去った。
人々は手を取り合い、平和に向かう
——はずだった。
人は…私利私欲を優先した。
領土を奪い、私腹を肥やす。
そうして貧富の差が大きくなって行く。
私は手を取り合う事を示して回った。
剣を振るうこともあった。
その最中、エレンが死んだ。
産まれたばかりの小さな子を残し…
夫のイシュトは娘を教会に預けた。
エレンの遺言、「世界の平和」の為に。
共に戦った。
平和を求めて。
30年が経つ頃、イシュトは老齢に差し掛かる。
私に時止めの秘術を求めた。
魔王から引き継いだ力の一つだった。
イシュトの肉体は老いなくなった……だが
——感情を無くしてしまった。
それでも私と共にいてくれた。
——800年が経った。
人は何も変わらなかった。
繁栄はした。
しかし、戦争は無くならない。
繁栄の末、戦争で死ぬ人が増えた。
人同士が争う。
魔王がいた時より多くの人が血を流し、命を落としていく。
なんの為に…なんの為に私は魔王を倒したのだ。
……だから……私は……魔王になる事にした。
世界を蹂躙し、繁栄を止める。
人と人が争わない”平和”の為に!!
私は…魔王ゼノス
かつて、正義の勇者と呼ばれた存在だった。
ーーーーーー
ゼノスは、今、最も発展した国をターゲットにした。
魔王として君臨し、人々に恐怖を与える為にはより大きな衝撃が必要だったのだ。
空中に浮かぶゼノス。
「——喰らえ」
黒き瘴気が、空を裂いた。
街を覆うように現れた“爪”が、音もなく、大地ごと抉り取る。
ブラックファング•インフェルノ
ゼノスが魔王レインから受け継いだ力だ。
巨大な瘴気の爪が街の三分の一を廃墟にする。
突然の襲撃に逃げ戸惑う人々。
「ハハ……ハーハッハッハッハ!!!」
嗤う。
——嗤うしかなかった。
「我は魔王!!魔王ゼノスである!!我が前に服従はない!!命の灯火を捧げよ!!」
高笑いをしながら2度と3度と放つ。
頬を伝うものがあった。
——涙だった。
ただ、 誰も気付くことはない。
いや……
気付いてはならない
守ろうとしていた人々を己の手で屠る。
世界のための犠牲。
自分でもわかっていた。
最善であっても最良ではない。
後戻りはできない。
……誰か止めてくれ
この地獄を
——この私を。




