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第31話 〜その命の果に〜

「ここまでだ」


上段に振りかぶった剣を袈裟掛けに振り下ろすイシュト。満身創痍のレオンには防ぐ術はなかった。


これまでの旅が頭の中をめぐる。


ガイダルの豪快さ、カインの薄ら笑い。


セノンの怒った顔と愛らしい姿。


そしてエリシアの笑顔。


すべてが走馬灯となって頭を過ぎっていった。


ーー振り下ろされる剣。


動けないレオン。


エリシアは必死に動いていた。


全てを投げ売ってでも守りたい!その一心だけだった。


ーーレオンのすべてを包むかのように、レオンは視界が影で覆われ、すべての時が止まったような気がした。


ーーザシュ!!


目の前に移るのは金色の揺れる髪と薄緑のワンピース。そして吹きあがる血しぶきだった。


「エリシア!!!!」


レオンに覆い被さるように間に入ったエリシアは背中を大きく切られていた。


「ど、どうして!!?」


倒れ行くエリシアの姿は、かつて目の前で亡くした妻エレンの姿とまるで同じだった。


「………エ、エレン……??」


イシュトは血を流して倒れるエリシアに遥か昔、領土戦争に巻き込まれ殺された妻エレンの姿をみた。


「ふ、ふふ・・・うぅ・・・ふぅふぅ・・・レオン・・様、申し・・訳ありま・・・せん」


「しゃべっちゃだめだ!!」


「私、イヤだったんです。レオン様がいなくなっちゃうの。レオン様に生きてほしいんです。」


止まらない出血。


「いつも、どんな時も、誰に対しても実直で・・・ふざけて見せて、全てを大切に思っているレオン様が…」


ゴフッ!

エリシアの口から大量の血があふれてくる。


「…大好きなんです」


苦痛の中の笑顔。


頬に流れる一筋の涙。


「わかった!わかったからしゃべるな!!」


為す術のないレオンは狼狽するばかりだった。


「レオン様の夢、素敵です・・・全てを手にして、そのすべてを幸せにしたいと思っている。本当に深い愛の人です。夢をあきらめないで・・・もっと強く求めてください。おねがい・・・」


 頬へと伸ばされた手が地に落ちる。腕にかかる体重から力が抜ける感覚が伝わってくる。


「うわあああぁあぁぁぁああ!!!」


力が抜けたエリシアの身体を抱きしめるレオン


「俺の夢にはエリシアがいなきゃダメなんだ!!死んじゃだめだ!!」


レオンは強く噛み締めた。


口の端から血が滲む。


「エリシア!お前じゃなきゃダメなんだ!!」


『強く…なりたいか?』


!!!?


『助けたいか?』


『強く望めばその願いがかなえられる』


『全てを可能にする』


『お前は勇者だ』


『覚悟を決めろ』


頭の中に響く、聞いたことがない低い声。深淵の闇の底から聞こえるような。


立ち上がるレオン。


「エ、エレン…わ、私は? 何故ここに? 違う…違う!違う!!ああぁぉああーー!!!殺す!殺してやる!!よくもエレンを!!」


狂乱するイシュト。


イシュトは剣を顔の横に構え、刺突の予備動作に入った。


「俺は、全てを手に入れる!! 絶対に誰も死なせない!!!」


闘気が急激に膨れ上がるレオン。


レオンの目の前にエヴァンが現れる。


精神世界に行った分けではないがイシュトには見えていない。


エヴァンが初めてこっちの世界に現れたのだ。


「ようやく、覚悟が決まったな。時間がない。その娘を助けるならば一撃で倒すしかない』


「あぁ」


『聖剣が覚えている戦い方はすでにお前の身体が覚えただろう。要は使い方だ。あれを使え』


「がああぁぁぉあーー!!」


イシュトの切っ先がレオンに向かってくる。


レオンの姿が揺らいだように見えた。


次の瞬間、7人のレオンがイシュトを囲むように現れた。


「な、何!!?」


「終わりだ!ブレイク•レイ!!」


聖剣が赤く燃え上がる。左手を前に出し、聖剣を担ぐように構えたレオンたちが石畳の床がはじけるほどの踏み込みで突進する。


「速い!!?」


7人のレオンが入り乱れ、イシュトの後方に一人だけ現れた時には、イシュトは袈裟掛けに切り伏せられていた。


「ぐはぁ!!」


片膝をつき、荒い息があたりに響く。


イシュトの瞳はエリシアを見つめていた。


「……エレン、すまない………私は……間違えてしまったようだ……」


ドサ!


腕をエリシアに伸ばそうとしながらイシュトは力尽きた。


イシュトの息が途絶えたことで、セノンたちを捉えていた千剣も消滅した。


「レオン!!」


「エリシア!!」


仲間全員がエリシアの近くに走り集った。


セノンは神聖魔法で最大の回復をかけるが、エリシアに変化はなかった。


「そ、そんな」


膝から崩れ落ちるレオン。


「すまねぇ、俺たちがなんにもできなかった・・・」


「う、うぅ・・・」


セノンの目から涙があふれ、頬を伝い落ちている。


次第に、エリシアの身体が光に包まれ粒子へと変わっていく。


そして首から下げているロザリオの宝石へと集結していく。


巫女の宿命なのか、神の奇跡で亡くなった者を天に導いているのか、身体が薄れていく。


巫女の魂は、祈りとともに器へと還る。


誰も、動けなかった。


滴る水の音だけが、空洞に響いていた。


レオンの腕の中で、 エリシアの温もりだけが、ゆっくりと消えていく。


そして全てが収束し、その場にはエリシアのロザリオだけが残ったのだった。


レオンの叫ぶ声が世界を震わせた。


そして、いつもレオンを見つめているかのように、ほくそ笑む闇が確かに存在していた。


ーーーーーー


暗く、広い部屋。


外の雷鳴で見える人影。


「イシュト…逝ったか……」


空を見上げるのは魔王ゼノスだった。


「すまなかった……せめて安らかに眠れ」


かつての仲間に祈りを捧げたのだった。


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