第23話 〜アルカナ•インフイニタ〜
「ふむ……片腕を切り落とすか。覚悟は立派だが……浅はかだな」
バルギアスの唇に笑みが浮かぶ。
「その傷で、これからどう戦んだ?」
レオンは肩を上下させながら、それでも聖剣を正眼に構えた。
「……こんくらいのハンデが……ちょうどいいんだよ」
「ッ……!」
セノンは息を呑む。
何度こうして、彼に追い越されただろう。
天才と呼ばれ、誇りを胸に歩んできたはずなのに…
彼に庇われ、助けられてばかり。
熱風が全員を包む。
バルギアスが再び詠唱を紡ぎ、五つの火柱が立ち昇った。
炎が天を突き、頂上で収束し、獲物を焼き尽くさんと降り注ぐ。
「くっ……!」
ガイダルは霊盾剛壁を頭上に掲げ、火柱を必死に受け止める。
カインは影を分裂させ、次々と防御の障壁を展開した。
セノンは震える手で胸を抱き、嗚咽を洩らす。
「わ、私のせいで……」
パァン!!
頬に衝撃。
視界が白く弾ける。
「呆けないで!!」
エリシアの声。透き通った碧と翠の瞳でセノンを睨み据える。
「まだ、誰も死んでいません!!」
「……で、でも……」
「できることをやんだッ!!!」
レオンが血を吐きながら吼えた。
「セノンさんが封印している力があるはずです」
「お前、まだ試してない術があるんだろッ!」
「――ッ!?」
セノンの背筋が震える。
誰にも言っていない。
危険すぎて、封じていた術の存在を。
「このままなら、結局みんな灰になる!」
ガイダルが炎に押されながら歯を食いしばる。
「嬢ちゃんに賭けるしかねぇんだ!」
「……俺の監視は続くんだろ? 死んだらできねぇぜ」
カインが苦笑混じりに言う。
涙が滲む。心臓が張り裂けそうだ。
どうして。
どうしてみんな、こんなに……。
「……ふふ、バカね……ほんとに、バカな人たち」
セノンは震えながらも笑みを浮かべ、ゆっくり立ち上がった。
両腕を広げる。
白の魔方陣が右に、黒の魔方陣が左に浮かび上がる。
世界を裂く轟音、紫電が奔り、相反する力が激しく衝突する。
「な、何だと……!? 神聖魔法と魔術を同時にだと!? そんなものは相殺して……なんだ!?その魔力は!!?」
バルギアスの声が初めて震えた。
セノンの全身を、暴れる魔力が切り裂く。
血が滲み、皮膚が裂けても、彼女は退かなかった。
体中に仕掛けた魔力の増幅術式。
魔力が体を巡るたびに増幅されていく。
怖い。
死ぬほど怖い。
でも今は、この力を出さなければ仲間を守れない。
「私は……叡智を求める者……!」
セノンは唇を噛み、二つの魔方陣をゆっくりと重ね合わせた。
「ここで終わるわけには、いかないのよ……」
光と闇が融合する。
やがてそれは一つの巨大な紋章となり、脈打つ心臓のように震えながら輝いた。
セノンは誰にも届かぬほど小さな声で呟いた。
「……アルカナ・インフィニタ……」
直後、力の奔流が世界を塗り替えた。
火柱は一瞬で掻き消え、紅蓮の炎もろとも、烈火の支配者を呑み込んでいく。
空気が震え、大地が軋み、光と闇が渦を巻いて全てを飲み込む。
「ば、馬鹿な……こんなことが……!こんな力が許されるはずがないーー!!!」
バルギアスの断末魔が虚空に散り、存在そのものが消え去った。
……沈黙。
荒れ果てた大地に、かすかな風の音だけが残る。
セノンの瞳から涙が零れ落ちた。
身体は傷だらけ。息も絶え絶え。
それでも、初めて胸を張れた気がした。
「……やっと……少しは並べた、かしら……」
その直後、ドサッ――。
限界を超えたレオンが、失血と痛みに倒れ込んだ。
「レオン!!」
仲間たちの声が響き渡る中、セノンは膝をつき、笑みと涙を同時に浮かべ、そこで意識は途絶えた。




