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第18話 〜レオンの修行編 終わりなき戦い〜

白い虚空に張られた岩場──風が無いはずなのに細かな砂塵が舞う。


目の前に立つのは、かつて見たあの甲冑姿とは別の威容を放つ男。


聖なる輝きを宿したその姿は、まさに「正義の勇者」の幻影そのものだった。


『ここが……お前の試練場だ、エヴァンは言っていたな』


幻影は静かに笑う。


声は聞き覚えがある。


だが、その瞳は無垢な正義ではなく、研ぎ澄まされた刃のように冷たい。


レオンは鞘の聖剣に手をかける。


剣先が微かに震え、柄に触れた掌に心地よい重みが伝わる。


だが、それだけでは足りない。


胸の奥がヒリつく。


敗北の記憶、魔王に弾かれた痛み、仲間を守れなかった無力感が一気に蘇る。


『行くぞ!』


幻影が一歩踏み出したと同時、雷のような衝撃が空気を裂く。


二人の間に、音が割れるほどの速度差が生まれた。


最初の数十の斬り合いは、レオンが翻弄されるだけだった。


ゼノスの動きは速く、剣捌きは滑らかで、どんな隙もない。


レオンが一閃を放てば、幻影は受け流し、逆に寸止めの一撃で痛烈な衝撃を与える。


受けるたびに骨の芯まで冷え、息が詰まる。


負けては立ち上がらされる。


幻影の術は残酷だった。


倒れるとすぐに、疼くような静寂とともに体が蘇る。


傷は残らないが「痛みの記憶」は胸に刻まれる。


何度も何度も、レオンは同じ敗北の輪廻を強いられた。


時間の隔たりが曖昧になる中、レオンの思考は揺れた。


なぜ自分は剣を振るうのか。


なぜ守りたいのか。


仲間の顔がフラッシュのように浮かぶ。


エリシアの柔らかな声。


セノンの薄笑い。


ガイダルの豪快な笑い声。


カインの冷たいまなざし。


守るはずの人々の顔が、彼を握りしめる拳に熱を与えた。


ある瞬間、幻影の剣が真正面から降りてきた。


無数の敗北の中で、レオンは初めて「待つ」ことを選んだ。


動きを読んで待ち、踏み込む。


刃と刃がぶつかる衝撃が骨の奥を震わせ、二人は一瞬、静止したように見えた。


『正義とは何だ、勇者よ!』


ゼノスの声が近い。


だが今回は、レオンの内側に違う声が混じっていた。


仲間を信じて、何度でも立ち上がること、それが俺の正義だと。


力の行使だけでは破れない壁がある。


速度や技の差は埋めがたいが、心の折れない強さは鍛えられる。


レオンは自分の鼓動を剣に乗せ、次の一閃を放った。


刃先から放たれた光がゼノスの甲冑の隙間を穿つ。


小さな裂け目が出来、幻影の表情が一瞬歪んだ。


だが、勝負はまだ終わらない。


ゼノスは笑ってから本気を出す。


そこから一連の連撃が始まる。


足を取られ、体勢を崩され、幾度も地に叩きつけられる。


だが倒れるたび、レオンは仲間の顔を思い出し、小さな誓いを繋ぎ直す。


最後の試練が訪れた。


空気が爆ぜ、聖剣の柄奥に埋まる宝珠が震える。


光が剣身を伝い、レオンの体を満たす。


エヴァンの意識が優しく囁く。


『お前の正義を形にしろ』


それは命じるのではなく、導く声だった。


レオンは膝をつき、剣を横に構える。


目に宿るものが変わった。


かつての軽口の勇者ではない。


覚悟が、寡黙な強さとなって体中に漲る。


彼は剣を振るった。


今度は技術だけでなく、信念そのものを刃に乗せて。


光の刃が走り、風を裂き、幻影の防御を突破した。


ゼノスの剣が弾かれ、そしてその瞬間、レオンの一撃が胸を掠めるように命中した。


幻影は静かに崩れ、甲冑は砂塵へと溶けていく。


地面に残るのは、静かな余韻と暖かな残響だった。


レオンは膝をついたまま息を整える。


身体は痛むが、胸の奥には燃えるような熱が残っている。


手の中で聖剣が振動し、赤い宝珠が穏やかに輝いた。


聖剣と、そしてエヴァンと、本当に“響き合った”瞬間だった。


やがて空間に静かな気配が戻る。


遠くで、エヴァンの声が届いた。


『お前は己の正義を見つけた。だが忘れるな。それは剣だけで得られたものではない。仲間のために何度でも立ち上がることだ。』


レオンはゆっくりと立ち上がる。


聖剣の同調率が上がったのを、自分でも感じた。


新たな技が体に刻まれた感覚。


光を刃に凝縮する、小さなが鋭い刃「光刃衝(こうじんしょう)」。


使えば熱量と切れ味が共に増し、魔王の甲冑の隙間を穿つ術だ。


「……行くぞ。仲間のところへ戻るんだ」


レオンはそう呟いて、胸に手をあてる。


敗北の苦さは消えないが、その重さが糧に変わったことを知っている。


彼はもう以前の自分ではない。


立ち上がる度に研がれた「正義」を、次の戦いで試す決意を固めて。


岩場の空間が揺らぎ、次の修行場へ導かれる風が吹いた。


残る仲間たちの声が遠くから重なり、レオンは小さく笑った。


痛みも含めて、それが今の自分だと受け入れて。



ーーーーーー


修行の果て、再び集う勇者一行。


眩い光がひとつの点に収束し、再び白の空間へと変わった。


そこに現れたのは、試練を終えた五人の姿。


「……戻ってきた、のか」


レオンが剣を握り締め、深く息を吐いた。


傷は癒えている。


だが彼の瞳には、正義の勇者ゼノスを越えた者だけが持つ、確かな光が宿っていた。


「レオン様……!」


エリシアが駆け寄る。


彼女の周囲には淡い緑光が揺らめき、ただ存在するだけで空気が澄む。


癒しの力が瘴気を祓うほどに膨れ上がっているのだ。


「……へぇ、瘴気の海を一掃するなんてな。嬢ちゃんも随分と化けたな」


カインが口の端を上げた。


だがその足元には、彼が生み出した漆黒の影が確かに存在している。


空間すべてが光に満ちた世界で、彼は無から影を創り出すことに成功したのだ。


「だが俺も負けねぇ、全てを照らされても漆黒に染められる」


「ワシは鍛え直しじゃい。この盾を使いこなさにぁならん」


ガイダルが重々しく霊盾剛壁を突き立てる。


その表面には、魔力と精神を融合させた複雑な紋様が刻まれていた。


「力だけでは守れんからのう。守ることこそがワシの本質……最強の盾を、ようやく手に入れたぞい」


「へぇ、みんな成果は出せたみたいねぇ」


不意に背後から声がして、皆が振り返る。


そこにはセノンが、白衣の裾をひるがえしながら立っていた。


彼女の周囲には魔法陣が幾重にも浮かび、空間そのものが軋むような気配を放っている。


「お、お前……何をやったんだ」


レオンが思わず一歩引く。


「ふふん。ちょっと研究をね。瞬間移動と、出力増幅。それに身体強化用の術式を組み込んだのよ。まぁ、実験台は私だけだけど」


セノンは楽しげに笑った。


「……修行じゃなくて研究だと?」


カインが呆れた声をあげる。


その様子を見て、仲間たちの間に笑いが広がる。


短いが濃密すぎる三ヶ月の修行を経て、彼らは再び一つの輪になったのだ。


そこに、エヴァンが姿を現す。


『よくぞ生き残った。お前たちは確かに強くなった……あとは、心だ』


「心……?」


レオンが問い返す。


『力は揃った。だが、魔王を討つのは“勇者一行”という一つの意思だ。それを忘れるな』


静寂が訪れる。


やがてレオンが皆を見回し、大きく頷いた。


「俺たちは、必ず勝つ。魔王ゼノスを……ぶっとばしてやる!」


仲間たちの瞳がその言葉に応え、強く輝いた。


空間が一際強く輝き、エヴァンが作成した異空間が消滅し、通常空間へと戻ったのだった。


第3章にお付き合いいただきありがとうございます!

次回は幕間です。一行の日常をお楽しみください!!

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