第16話 〜カイン修行編 光に閉ざされた墓所~
目を開けたとき、カインは眩しさに思わず目を細めた。
そこは果てしなく続く、純白の空間。
床も天井も壁もなく、ただ一面に光が広がる場所だった。
「……なんだぁ、こりゃ……?」
振り返っても影がない。
手をかざしても、どこにも影が落ちない。
影を操るカインにとって、それは呼吸を奪われるに等しい。
『ここは「光の墓所」。影は存在しない。』
声が響く。現れたのは、光を纏った勇者――
「光の勇者」だった。
その眼差しは冷たく、言葉よりも圧が先に襲いかかる。
『お前の力は影に縋っている。だが、影のないこの空間でどう抗う?』
「……っざけんじゃねぇ……これじゃぁ、何もできねぇ……!」
汗が額を伝う。
どれだけ手を動かしても、足を踏み鳴らしても、影が生まれない。
カインは、ただの人間と変わらぬ無力さを痛感した。
光の勇者の一撃が迫る。
ただの踏み込みにすら、地が震えるような重圧があった。
「ぐっ……ああぁぁっ!!」
拳がかすっただけで身体が弾き飛ばされ、床に叩きつけられる。
息が詰まり、肺が焼ける。
立ち上がるたび、何度も打ち倒される。
何もできない。
何も作れない。
「……クソがぁ……影がなけりゃぁ……俺は……」
その言葉を聞いて、光の勇者は吐き捨てるように言った。
『その時点で、お前は勇者の仲間にすらなれぬ。影が無ければ立てぬのかならば、お前の存在は「無」だ』
「……無、だと……?」
打ち据えられ、膝をついたカイン。
だが彼は、ふと手を見下ろした。
影はない。
だが、心の中には確かにある。
仲間を守りたいという想いが、暗い炎のように渦巻いていた。
「……俺の力はぁ、影に頼るだけじゃねぇ……!」
強く握りしめた拳から、漆黒のきらめきが生まれる。
存在しないはずの影が、無から立ち上がり、形を成した。
「――無から、有を……!」
黒い刃が生まれる。
それは床から伸びる影ではなく、カイン自身の「心」から創り出したものだった。
光の勇者が眼を見開く。
そして、微かに笑った。
『そうだ……影は「無」の象徴。無を受け入れた者だけが、有を創り出せる。』
カインは立ち上がり、無から生まれた黒刃を構える。
光に覆われた空間で、ただひとつ黒が浮かび上がる。
「俺は……ただの影じゃねぇ。影がなくても、俺自身が「闇」になれるんだ!!」
叫びと共に、黒刃が閃く。
その一撃は光の勇者をも押し返し、純白の空間に黒い軌跡を刻みつけた。
光と闇が拮抗する。
その瞬間、空間は揺らぎ、光の勇者の姿が淡く消えていった。
『……ようやく、自分の存在を見つけたな。無から有を生む――それが、お前の「真の力」だ。』
声だけが残り、静寂が訪れる。
深く息を吐くカイン。
手に残る黒刃は、やがて霧のように消えていった。
だが彼は確信していた。
「……レオン、エリシア……待ってろよ。俺も、俺の力を掴んできたぜ……!」
光しかなかった空間に、初めて濃い影が生まれた。
それはカインが創り出した、新たな力の証だった。




