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9:学校サボって、女の人とそーゆうことしていたわけ⁉

「すんごい美女だったな。神使なのにちょい興奮した」


鈴の言葉に私はムッとして、尻尾をつねった。


……あ、なんか耳がツンとする。


私は何度か唾を飲み込み、ようやく最上階、五十二階に到着した。


エレベーターのドアが開くと、いきなりまたドアがあった。


……え、このインターフォンを押せばいいの……?


私は恐る恐るインターフォンのボタンを押した。


「澪か?」


いきなり刀岐ときのに名前を呼ばれた。


「今、開けるから」


ガチャと音がしてドアが開くと、そこに髪が濡れ、上半身裸、腰にタオルを巻いた刀岐ときのがいた。


「な、な、な」


驚いて後ずさり、背中がエレベーターのドアにぶつかった。


「あ、わりい。急に来るから……。今、慌ててシャワー浴びたんだよ。ほら、入れよ」


刀岐ときのが腕を伸ばし、私の手を掴んだ。


「……!」


もしこの光景が外から見えたら、みんな何を思うだろう。


「俺、着替えるから。まっすぐ行くとリビングだから、そこで待っていて」


後ろでパタンと静かにドアが閉じ、カタッと音がした。


オートロックで鍵がかかったようだった。


刀岐ときのは廊下を少し進むと、左手のドアの方へ消えていった。


「見たか、澪。刀岐ときのの体。腹筋、バキバキに割れていた。アイツ、何気に体鍛えているんだな」


「……」


そんなところ見ている余裕なんてなかった。


文句の一つを言いに来たのに、いろいろ圧倒されて、もう何をしにここへ来たのか分からなくなっていた。


とりあえず靴を脱ぎ、廊下を進んだ。


……廊下も長い……。


途中、左右に沢山ドアがあった。


そして突き当りのドアを開けると……。


「すごい……」


鈴も「うわあ」と声を挙げた。


一面がガラス張りでそこから外の景色が飛び込んできた。

町が見渡せ、遠くの山々も見え、空が青く広がっていた。


そして。


白を基調に、白い大理石の床に黒のローテブル、白い巨大なソファセット、右の壁には巨大な壁かけの液晶テレビ。左奥にはダイニングテーブル。


刀岐ときののことだから部屋は乱雑なのだろうと思っていた。


だが予想に反し、部屋は綺麗に整えられていた。


そうか。


さっきの女の人が……。


通り過ぎた瞬間のミントの香り。


慌ててシャワーを浴びる刀岐ときの


何よ、学校サボって、女の人とそーゆうことしていたわけ……。


沸々と怒りが湧き上がってきた。


「澪、何突っ立っているんだよ。中に入って座れよ」


服を着た刀岐ときのが後ろにいて、私の両肩を掴んだ。


……さっきまであの女の人に触れていた手……。


「気安く触らないで」


私は刀岐ときのの手を払ってリビングの中に入った。


文句を言うだけ言って帰ろうと思った。


「澪、喉乾かないか? 飲み物はいろいろ揃っているぞ。ジュースがいい? あ、女子だとレモンティーとかがいいのか?」


刀岐ときのは嬉しそうに私を見た。


な、なんなの⁉

調子が狂うじゃない。


「み、水でいい」


「え、水でいいんだ。分かった。用意するからソファに座って」


「……」


私はソファに座った。


「なんか澪、らしくない」


「鈴、うるさい」


私は鈴の頭にぽんと指で触れた。


「はい」


刀岐ときのは二つのグラスをテーブルに置いた。


「で、澪、今日はどうした?」


ニコニコと刀岐ときのは私に尋ねた。


プツンと私の中で何かが切れた。


「今、どうした、って聞いた? 分からないの、刀岐ときの? 今日、平日だから。学校、授業あったから」


その言葉に刀岐ときのの顔色が変わった。


ようやく分かったか。


「昨日の一件があって、町での実践授業は中止になったよ。けど、体育館で降霊術で呼び出した霊を使って、除霊と浄化の実践授業は行われたの! デュオが来ていないの、私だけだった。織田先生が刀岐ときのの代わりにデュオやってくれた!」


「……澪、ご」


「悠から聞いた。刀岐ときのは鎮守府では神童で知られているんでしょ。きっともう、除霊も浄化も……きっと調伏だってもうできるんでしょう? でも私は、調伏なんてやったことないし、除霊も浄化も今日、初めて挑戦した。私はちゃんとした理の守り手になりたいの! だからちゃんと練習したいの! なのにデュオであるあんたは学校に来ないし……。どうして私の足を引っ張るの⁉」


「ごめん、澪」


「ちゃんと来るって約束したじゃん!」


「そうだな。俺が悪かった。明日はちゃんと行くから」


「……昨日も、一昨日もそう言ったよね⁉ 私、刀岐ときのはいい加減だけど、約束したからちゃんと来てくれるって思ったのに、結局来なかったじゃない」


「本当にすまない」


「もういいよ!」


私は怒りが頂点に達し、ソファから立ち上がり、部屋を出ようと歩き出した。


「ごめん、澪、待って、行かないで」


刀岐ときのも立ち上がり、私の後を追った。


私はドアを開け、廊下に出た。


「待って、澪」


刀岐ときのが私の手を掴んだ。


「離してよ!」


「本当に申し訳ないと思っている」


「思っているだけじゃ何も変わらないでしょ!」


「……起きられないんだよ」


「……はぁ?」


「だから、朝、起きられないんだ」


脳裏に、さっきの美女と裸で抱き合う刀岐ときのの姿が浮かんだ。


「な……それは刀岐ときのが悪いんでしょ! 女の人と夜遅くまでそんなことしているから寝るのが遅くなって起きられないんでしょ‼」


「え……?」


「え、じゃないわよ。気づかないとでも思っているの⁉」


「女……って、もしかして、星崎のこと言ってんの?」


「し、知らないわよ、名前まで! さっきエレベーターで会っただけだし」


「そうか、星崎のことか」


「名前なんてどうでもいい」


「いや、澪、なんか勘違いしてない?」


「は?」


「星崎は鎮守府の職員だ」


「……だから?」


年上の、社会人の女性と付き合っていると言いたいのか⁉


「いや、星崎は俺に仕事の依頼に来ているだけで」


「……仕事……?」


「しまった。これ、秘密だった」


「……」


「まあ、澪ならいいか。俺さ、うん、澪の言う通り、鎮守府ではちょっと知られた存在で。除霊も調伏も浄化もできる。あと生霊の扱いも分かるし、他にも呪いとか、式神を扱うとかいろいろできるんだよ。それで鎮守府から仕事を依頼されるんだ。星崎はその鎮守府の窓口で俺の担当というか。それでしょっちゅうここにきている。でもそれだけ」


刀岐ときのはそう言うといきなり私の腰を引き寄せた。


「なんだ、澪、やきもち焼いたのか?」


「な、なんで私があんたにやきもち焼かなきゃいけないのよ!」


「澪、素直じゃないな」


「っていうか、私はただ、あんたに学校に来て欲しいだけなの‼ 私のデュオなんだからデュオとしての務めを果たしてよ!」


「分かった、分かった。じゃあさ、澪、朝、起こしに来てよ」


「……はあ?」


「だから言っただろう、俺、朝、起きられないって。澪が起こしてくれれば問題解決だ」


「嘘、他力本願⁉ 信じられない」


「俺が学校に行かないと困るのは澪だろう」


「だからって……」


刀岐ときのは私の体を離すと、リビングに戻った。


「なんなのよ……」


私はリビングの中を見た。


棚から何かとると、刀岐ときのが戻ってきた。


「はい、これが鍵」


刀岐ときのは手に持っていたカードキーを私の目の前に突き付けた。


「コンシェルジュがいる受付の横の通路、これをかざせば通れるから。もう受付で声をかけないでOK」


「ちょっと待ってよ、私は……」


「絶対になくすなよ。この部屋の鍵、持っている人間、世界中で澪と俺だけなんだから」


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