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完結●伊織くんは愛されたい!~問題児と才女の初心(うぶ)な恋~  作者: 一番星キラリ


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10/50

10:怖く……ない?

結局。


カードキーを押し付けられ、私は刀岐(ときの)の部屋を後にしていた。


「澪、明日から刀岐(ときの)を起こしに行くのか?」


鈴の言葉に私はため息をついた。


「……とりあえず何回か試してみる。なんで朝起きられないのかもよく分からないし」


「ふうーん」


「それよりまだ時間、大丈夫だよね?」


「あ、うん。鎮守府はこっから歩いて十五分で、併設されている病院もすぐそばだから」


鈴の言葉にホッとして私は走り出した。


◇


「澪ちゃん、わざわざ、ありがとう」


悠が入院している病室を訪ねると、悠は元気な笑顔で私を迎えてくれた。


「明日には退院すると陽から聞きました。もう大丈夫なんですね?」


私はベッドのそばの椅子に座り、悠に尋ねた。


「うん。本当は入院の必要もないぐらい元気なんだけどね。こうやって入院していると、鎮守府の偉い人からの小言を聞かないで済む」


真面目そうな悠から思いがけない言葉が出て、私は思わず笑ってしまった。


「澪ちゃんは……怪我はなかった? 大丈夫だった? ……澪ちゃんのこと突き飛ばしてしまっただろう……」


悠の表情が翳った。


「大丈夫ですよ。私、運動神経いいんで、ちゃんと受け身とれましたから」


「本当に?」


「はい」


私の笑顔に悠はホッとした表情になった。


「怪我はなくても……怖い思いをさせてしまったね。申し訳ないことをした。ごめんね、澪ちゃん……」


「それも気にしないでください。むしろ、生霊に憑依されたのに自我を保つために無茶させてしまって、私の方こそ申し訳ない気持ちでいっぱいです」


「それこそ澪ちゃんが気にすることじゃないよ。僕は鎮守府に所属する理の守り手なんだ。すべきことをしたまでだから」


「じゃあお互いに無事だったので、ごめんなさい合戦は終了ですね」


「澪ちゃん……」


悠が私を真っ直ぐ見て、手をゆっくり伸ばした。


「怖く……ない?」


「え……?」


「頬に触れても大丈夫?」


私はコクリと頷いた。


あの時、とても怖い思いをしたが、私は瞳の奥にいる悠の存在を感じていた。


悠が懸命に霊を抑えようとしているのは分かっていたから……。


悠の手が私の頬に触れた。


私は真っ直ぐ、悠を見た。


「……良かった」


悠はそう言うと大きくため息をついた。


「もう、澪ちゃんに触れることができないと思っていたよ」


悠の言葉に私は胸がきゅんとしていた。


それを誤魔化すように、悠に質問をした。


「そういえば、あの生霊について分かったことはあるんですか?」


「うん。今日、お見舞いに来た職員が教えてくれたよ。元々あの生霊に憑りつかれていた女性は、三か月前ぐらいからストーカー被害にあっていたんだ」


「ストーカー被害?」


「そう。ただ、ストーカーしている男が頻繁に変わっていたらしいんだ。十代ぐらいの学生と思ったら、会社員のおじさんだったり、二十歳の大学生だったりと。本人は話し方などから同一人物だと言っていたが、どう見ても別人だ。だから警察もストーカー被害の相談を受けたものの、どうしたものかと困っていたらしいんだ」


「それってつまり、生霊がいろいろな男性に憑依して、ストーカーしていた、ということですか?」


「そうなるね」


「……怖いですね」


「刀岐(ときの) 伊織(いおり)が生霊の顔をはっきり見て覚えていたから、似顔絵が作成された。警察も捜査を開始したし、鎮守府の職員も動いている。きっと犯人は見つかるはずだよ」


「刀岐(ときの)はあの時、生霊を素手で掴んでいましたが、あんなこと、できるんですね……」


「それ、聞いたよ。驚いた。多分、これまで誰も生霊を素手で掴むなんて、したことないだろうな。でも……思わず素手で掴みたくなるぐらい頭にきていたのだろうね。そしてそこまでして助け出したかったんだろうね、澪ちゃんのことを」


あの時の刀岐(ときの)の姿が脳裏に浮かんだ。


……私を助けるために素手で生霊に挑んだということ……?


「あー、澪、来ていたの!」


振り返るとラフな服装(よそおい)の陽がいた。


「陽、仕事は終わったのか?」


悠の言葉に陽は頷いた。


「うん。今日は悠がいないから、内勤で。も~、退屈だった」


陽はそう言ってから


「あ、澪、お見舞いでもらったフルーツゼリーがあるから食べる? 高級フルーツのゼリーだよ」


「! 食べたいです」


私は悠と陽とゼリーを食べて、病院を後にした。


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