07話 魔法使いへの道(?)
例の迷宮、『竜王の家』とやらから出てきた。
浅い階層にいたからか、出てくる魔物は弱いのが多かった。
大きな亀の化け物とか、キラキラに光る硬そうな蜘蛛とか。
大体は四割威力のパンチで撃沈できました。まあ結構威力あったとは思うが。
しかし、魔物が落とした魔石(?)を集めてギルドに持っていったら驚きの金貨二枚!
ちょっと担当者の方が驚いていた。
何と儲けられる仕事だろう…!ボク感動しちゃったよ。
一人でウキウキしていると、突如知らない冒険者の人から話しかけられた。
ちょっと怖い顔の人だ。白髪に鋭い目つき。俺のことが気に食わないのだろうか。
確かにこんな儲けて調子乗ってる奴がいたらウザいと思う。
「よお。俺はBランク冒険者のユーグだ。お前凄いな」
周囲はざわめいている。Bランクというのはそれだけ凄いのだろうか。
意外なことに褒めてくれた。素直に嬉しい。
なんかこの人はなぜか信頼できる気がする。
見た目とのギャップが凄いな。
「ありがとうございます。何せ迷宮に潜ったのは初めてなもので、色々教えて頂けると嬉しいのですが」
「礼儀正しいな…って、あれで迷宮初めてだと?!信じられねーぞ…」
そういうと、ユーグは少し考えるような顔をして、少ししてから言った。
「お前、呪子か?それか『神の祝福』でも持ってるのか?」
「…呪子?ギフト?どういうことですか?」
「その様子だと違いそうだが、説明するよ。
呪子も『神の祝福』持ちも、大筋は変わらない。
どちらも一般の人間ではあり得ない特殊能力を所持しているんだ。
その能力は多岐に渡ってな、全ての魔法を完全無詠唱で発動できる奴から、どう料理しても毒物を生み出す奴まで居て、ピンキリだよ」
初耳だ。もしかしたら、『欺瞞』もそれに入るかもしれない。
もしかしたら、俺が転移者であることも関係している可能性がある。
俺は小声で言った。
「少し人が少ない所に行っていいですか?内容が内容なので」
「おお…わかった。転移魔法、簡単なものなら使えるぞ」
俺らはバルテンの城壁の外、人気のない岡に移動した。
魔法というのは本当に便利である。俺も使えたらなあ。
「ここでいいか?」
「はい。その、ですね、僕は実は異世界転移者なんです」
「…?そんな人間がいるのか?初めて知ったぞ」
またもや予想外の反応だ。『管理者』の口調から転移者は過去にもいたように感じられた。
しかも、転移した直後に見た沢渡や瀬川たち、そして俺の様子を見ると、おそらくかなり強い。間違いなく目立つだろう。
少しは転移者の存在が知られていてもおかしくはないと思うのだが。
「はい。『管理者』とかいう人が言ってました。
あと異世界転移者だってのは気にしないでください」
《『欺瞞』が発動…大部分成功》
意図せず発動してしまった。こんな場合も発動するとは。
「おいおい…大物すぎんだろ…まあその件はいい。
で、な?
呪子と『神の祝福』所持者の違いは、呪子はその能力の代わりに何かデメリットを受けているが、『祝福』持ちはそのデメリットを持たねえんだ。
だがな、『神の祝福』所持者は先天的になんかのハンディを持ってる奴が多いんだよ」
情報量が多いな。要は『神の祝福』は障害の埋め合わせみたいなものか?
で、問題は呪子ってやつだな。
「じゃあ、呪子のメリットとデメリットの例を教えてください」
「え?おう。さっき言った全ての魔術を無詠唱で使えるやつの場合は、記憶力がめっちゃ悪かったな。詠唱文覚える必要がないからある程度は問題なさそうだったけど」
「あ、そういうデメリットなんですね…」
そういう類いのデメリットなのか。
というか料理が崩壊してしまう奴はこの上更にデメリットを負うのかよ。
「というかさ、さっき転移者だったのを気にするなって言われた瞬間一気に気にしなくなりかけたんだが、あれがもしかしてお前の権能か?だとしたら凶悪な権能だな」
げっ、バレた…!こんな時どうする、素数を数えて落ち着くんだ……!
1,2,3,5,7,11,13,17,19……よし、落ち着いた。
1は素数じゃないって?
そんなことは知らん。
取れる選択肢は二つ。
『欺瞞』でやりきるか、事実を話すかだ。
しかし、さっきすでに『欺瞞』は破られている。
ここでもう一度破られようものなら、信頼を失うだろう。
様々なことを教えてくれた恩もある。そんな人を騙すのはいい気分がしない。
というかまず通用しない可能性が高そうだ。
よし、決めた。本当のことを話そう。
「ユーグさん」
「どうした?図星か?」
「はい。多分、これも『管理者』さんの助けなのでほぼ間違いないと思います」
「ふーむ、精神操作系か、結構レアだな。
呪子って大体一万人に一人ぐらいの割合だから、身の周りに意外といるんだが、精神操作系には出会ったことがねーな」
意外だ。あんな適当なツラしていい権能をくれたとは。
「僕の権能に付随するデメリットは魔法が使えないってので合ってますかね」
「え?お前、魔法使えないのか?」
実に意外そうな顔だ。
「はい。試してみますよ…
雄大なる空間に満ちし無限の業火、偉大なる火炎を司りし精霊よ、今ここにその威を示し愚かなる者どもを焼き尽くせ、『火炎砲弾』」
あえて転移直後に使えなかった初級魔術の魔法を詠唱する。
やめてくれよ?今詠んだら使えるとか。
期待した(?)通り、魔力だけが体から吸い出される感覚だ。
それを見て、ユーグさんは驚いたように言った。
「ちょっと待て、お前精霊と契約してないよな?」
「…?してないですよ?というかそんな行程が必要なんですか?」
「あー、やっぱりお前この世界で生まれたんじゃないんだな…普通は五歳の誕生日に親に連れられて教会で契約するんだよ。精霊に気に入られるようになる、または提供する魔力を大量にできるようになれば、より高位の魔法が扱える。で、その契約した精霊に魔力を渡す代わりに現象——魔法を起こしてもらうんだ」
そう言ってからユーグさんが何か小さく呟くと、地面に突如魔法陣が展開された。
地面から出現したのは、銀色の巨大な蝙蝠。
「精霊ってのは言ってしまえば自然エネルギーの塊だ。だから——
こうやって容易く普通じゃ考えられない現象を起こせる」
ユーグさんの言葉に合わせて、瞬く間に彼の体が高空に舞い上がった。
ゆっくりと降下する彼に俺はただ見惚れていた。
俺にBLの趣味はないが、単純に格好良かったのだ。
「なるほど…」
「ま、俺は契約できた精霊が獣属性だったから炎を出したり水を出したりはできないんだがな!」
そう言いつつ、彼も何だか楽しそうだ。
俺の悩みが一つ消えた。精霊と契約できれば魔法が使えるようになるのなら、すぐにでも契約してもらおう。
そうすれば過度な劣等感が薄れるはずだ。
元の世界の時代から数えてもかなり久しぶりの達成感のある日だった。