08話 無職卒業
ユーグさんから希望をもらった。
俺もやりようによっては魔法が使えるかもしれないというのは本当に大きな希望だった。
それが欠点で沢渡と瀬川に突き出されたとも言えるわけなのだからな。
その日、ユーグさんは俺の激しい質問攻めに付き合ってくれた。ありがたいことだ。
それで分かった事がいくつかある。
まず、冒険者のランクについて。
ギルドに登録するとFランクとして登録されるが、そこで魔晶石をギルドに納品したりギルド共通の依頼を受けたりすると、ポイントが貯まる。
どれぐらいのポイントで昇格するかは覚えるのが億劫で覚えていないらしい。複雑なのだろうか。
で、ポイントを貯めるとF→E→D→C→B→A→S→Xと上がっていくらしいが、S以上はまさに人外の領域なんだとか。
普通、ギルドにいる最高のランクの冒険者はAランクらしい。
Sに上がるには特別な試験や実績が必要で、結構ハードルが高い様子。Sランク冒険者が誕生するのは数年に一度らしい。
その力は凄まじく中位竜族たる中位属性竜でさえ単独で討伐できるほどだとか。
ちなみに中位属性竜は『竜王の家』のボス一歩手前の強さを誇る。
そして、Xランクともなると魔王を討伐できるレベルだ。過去に到達者は二名のみ。
第三次聖魔大戦で【龍魔王】ヴィシャップを討伐した、『勇者』リーンハルト。
そして、『滅界邪竜』アジ・ダハーカの眷属・『不死巨獣』アジュダハクを封印した、『英雄』エメリヒ二世。
ユーグさん曰く、
「あのせ…邪竜はヤバいんだよ。神話の時代から暴れ回っているらしいからな。
その眷属でさえXランクなんだからヤバさがわかるってもんだろ?
しかもそのアジュダハクでもサイズも数百メートルあって不死、回復能力も凄まじいらしい」
というのがユーグさんの談だ。言い淀むほどの強さってわけか?何か違うかもしれんが。
確かにもはや伝説の存在すぎて理解が追いつかない。
ちなみにエメリヒ「二世」なのは初代がいるからかと聞いたら初代は知られていないらしい。
この世界の人のネーミングセンスとは何なんだ。
あと聖魔大戦ってのは、魔族と人族の大規模な戦闘らしい。字面通りである。
魔族と人族はいつも敵対関係らしいが、今は小康状態ってわけか。
氷河期と間氷期みたいな関係だろうか。千二百年前からは平和らしいが。
衝撃的なことに第五次ぐらいの聖魔大戦で魔族圏と人類圏の境界付近で極大魔術が発動され、統一人類軍が殲滅された際の余波で超巨大なクレーターができ、この大陸の中央にカスピ海もびっくりの湖ができたとかいう。
そのあたりの他は人類圏と魔族圏の境界線は高い山脈で遮られているので、侵攻しにくくなった事が理由だとか。
それ、あれだな。瀬川が言ってた『絶縁破壊』の進化系とかいう対軍禁術だ。
まあ、そんな魔法のことはどうでもいい。当初の目的を思い出せ。金を稼ぐのだ。
色々聞きすぎてちょっと混乱したので、一旦家(崖)に戻ることにした。
ユーグさんには、バルテンの冒険者ギルドに行けば会えると言われたので、また明日行くことにする。
今日は疲れた。
迷宮に行ったと思ったら謎の冒険者に遭遇して衝撃情報を聞かされるし。
ゆっくり、布団ぽい何かで寝た。
翌朝。遅めの起床だ。とりあえず朝食…って、確か昨日結構稼いだはずだ。久しぶりに何かトマト以外買うか。
すみません、ギルドには行けません。いま、グラゴーにいます。
この街に来てから初めての料理を私は作っています。
…本当は、あの迷宮が恋しいけれど、でも今はもう少しだけ、知らないふりをします。
私の作るこの料理も、きっといつか誰かの青春になるのだから。
料理をしようと思ってから数分。俺は一つの問題に突き当たった。
俺ができるようなレベルの料理をするには間違いなく熱が必要だ。
普通の人間なら〈火属性魔法〉があるから火を作るのはそこまで問題ではないのだが、俺は生憎使えない。
ということで魔道具店にやってきた。で、調理用道具のコーナーを物色していたのだが、俺の他にも覗いている人がいてちょっっっっと安心。
勘違いするなよ、ちょっとだぞ?まあ、考えてみれば〈火属性〉の精霊と契約できない人々もいるわけだ。
加熱するタイプの道具を発見したので、値札を覗く。
それは物を置いて魔力を注ぐと熱される鍋だった。
金貨一枚。二万円相当か、安くはない。
しかしこれで崖の中の三津瀬亭に料理というピースが増えるのならむしろ安いぐらいだ。
即断即決。いつかのクリストフ氏を彷彿とさせるスピードで俺はカウンターへ向かった。
店員の中年のおばさんに訝しげな顔をされた。
まあそりゃそうだよな。
「すみません、この鍋銀貨七十五枚で買えますか?」
《『欺瞞』が発動…成功》
「……はい。銀貨七十五枚です。ここにお金をどうぞ」
「どうぞ」
「お買い上げありがとうございました」
この権能、俺が思うだけで口に出さない部分も発動するようになってきた。優秀すぎるだろ。
しかも最近は『言語翻訳』の精度もめっちゃいい。
俺の自称神氏への株も爆上がりである。
ま、俺がこの世界の言語を覚え始めたからかもしれんが。
そうそう、怪しまれないようにするのとちょっと値切るのは忘れない。
え、良くないって?俺は侮られないようにするとは決めたが多少ごまかすぐらいならセーフだ、うん。
店員さんにはまたもやちょっと変な顔をされた。
ユーグさんみたいに破れる人もいるのかな?
次からはちょっと気をつけよう。
魔法の鍋(仮)を持ち帰る道で、何かの肉と塩を買ってきた。
カエルの魔物とか何かじゃないことを願う。まあ美味ければ問題はないのだ。
鍋に肉をどさりと載せる。人生四回目ぐらいの料理だ。
これでも伊達に家庭科をやってきたわけではない。
俺以外の班員が華々しく料理していくのを眺めるプロだったのだ、俺は。
完璧な引き立て役だ。そのお陰で成績は最低だったがな!
まあ焼くぐらいできないとまずい。しかもこれは自動調理だ。
さすがにできるだろう。
そう思っていた時期が俺にもありました。
魔力だけが吸い出される感覚を参考にして、魔力を注ぎ込む。
そこまでは問題なかった。しかし、それがうまくいきすぎてしまったのだ。
例えるなら、ブラックホールは何でもいくらでも飲み込むのと似ている。
鍋がいきなり全開にして吸い込んでしまったのだ。
驚異的な火力が発揮され、肉の表面は一瞬にして焼き焦げる。
赤熱した鍋の前に俺の魔力総量は一瞬にして底をついた。
休憩。
二十分ぐらいで少し魔力を回復させてから、もう一度挑む。
俺の回復速度が早いのか魔力量が少ないのか。どっちだろうね。
まあ、それはいい。
今の間に表面の焦げを丁寧に剥がした。すぐ焼ける状態にある。
ゆっくり慎重に魔力を注ぎ込んでいく。
すると、肉がいい音をたて始めた。
いい香りも漂う。ああ、転移前日以来の肉だ。
転移してからは質素倹約をモットーに毎日トマトだけ食べてきた。
そのお陰で市場の彼とは仲良くなれたよ。よかった。
ああ、久しぶりの肉はたまらん…そんな幸せな感情が体を支配した。
一瞬、気が抜ける。その瞬間、鍋が俺の全魔力を引き出した。
「うわぁぁぁ!」
思わず叫び声をあげる。
二度目の失敗だ。まあ、今回は俺の魔力量が少なかったので一回目ほどの惨状にはならなかった。
表面の焦げを再び剥がして、中身を確かめる。
三十%ぐらいのパワーのチョップで両断したところ、なんと全体に火が通っていた。
災い転じて福となす、ですね。
城塞都市バルテン、三度目。
結構目立つ冒険者ギルドの建物に向かう。
先にギルド員になっておこう。ギルド員の方が魔晶石の買取相場がいいらしいからな。
三階にある庶務カウンターへ行ってみることにした。
ちなみに一階は依頼受付カウンターらしい。ギルドが顧客の依頼を冒険者に仲介する場所か。
二階は昨日も来た魔晶石買取カウンターだ。
三階に着いて、カウンターへ向かう。
「すみません、冒険者登録したいのですが」
「はい、それではこちらの箱に手を置いてください」
言われるがまま手を置く。ん?ここ、国籍って項目があるぞ。どうする、俺?
《『欺瞞』が発動…抵抗成功》
箱がちょっと光り、続いて紙が出てきた。
プリンタータイプの魔道具か。
「あれ…無国籍、ですか。なるほど、ほー、いや、諸国放浪している方なんですね」
今なんか失礼なことを言いかけなかったか?まあいい。
いやぁ、最近の自称神氏がなんか凄い。
抵抗までしてくれるとは。
「はい。戸籍とかは要らないですよね?」
「大丈夫ですよ。ではFランクからのスタートですが宜しいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
戸籍は不要ですよねと告げた瞬間、担当の人が可哀想なものを見る目をした。
おいおい、失礼すぎんだろ。
今回は寛大な心で見逃します、しかし次は無いですよ。
ま、冗談なんだけどね。
「ミツセ・ルパン様。こちらがギルドカードになります。これは身分証明書として使える場所が多いですのでご携帯することをお勧めします」
「ありがとうございます」
ファンタジーお決まりのやつ。ギルドカード。
ステータスが書いてあったりはしなかった。
レベルとかいうめんどくさい概念もないらしい。
冒険者ランクと個人情報、あとは指紋か?
結構ちゃんとしてるな。
登録だけした後、一階に降りるとユーグさんがいた。
なんか知らない女の人と一緒にいる。
しかも結構美人なんだが。許せん。
リア充爆発しろ!
おっと、失礼しました。生まれてこのかた恋人ゼロでして、多少恨みを持っているんですよね、私。
「よお、ルパン。ちょっと相談があるんだが」
「はい。どうされました?」
「あのな…お前も俺のパーティに入らないか?冒険者登録はしてきたんだろ?」
……は?いいの?
勧誘の時って彼のちょっと怖い背格好も相まって「素晴らしい提案をしよう」とか言われるのかと思ったよ。
できるだけ平静を装って聞いた。
「僕のような初心者が…その、いいんですかね」
「お前、強いからな」
やけにストレートだな。この人。
こうして、俺のB+ランクパーティ『スーパーカラフル』への加入が決まってしまった。
…名前…。




