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017話 疑惑の判定

 また起きても、意識が朦朧としていた。

ぼんやりと目の前に映る白い天井。

…今日は気絶してばかりだな。

もう試験は終わっているだろう。

これ以上あったら間違いなく精神力がもたない。


 やりすぎたか?

入試と学校と大人数の視線というトラウマを同時に耐えられるほど俺は強くないらしい。

正直言えば、少し調子に乗っていた。

本来俺は人と話すのさえ得意じゃないんだよ。

あ、ユーグさんは例外です。

あの人は…何というか、不思議なことに自然と話せる雰囲気だった。

まあ、終わったことはもういいや。

気にしない。


 問題はこれからだ。

ペーパー試験でやらかした上に実技でも〇点があったからね。

相当まずいに違いない。

しかも、このバルテン王立学校は公平公正をモットーにしている。

その影響か、学園編御用達の「特別生」とやらは存在しない。

要するに、純粋な試験の点数で全てが決まってしまうというわけだ。

…あれ?俺、詰んでね?

気にしない〜気にしない!

なんとかなると思っていれば大体なんとかなるものなのだよ。


 そうこうしているうちに、頭の激痛も朦朧としていた意識も治りはじめた。

そろそろ大丈夫そうだ。

左手をついて起きあがろうとして、空回り。

最近でもこういうことが絶えない。

ない左腕を見て、思わず苦笑する。

部分的に体力増強っ!

腹筋だけで無理やり起き上がる。


「ルパンさん、起きましたね」

「…ええ」


 待ち構えていた(ように感じた)のは、俺を強制的に転移魔法陣に乗せやがった例の男性試験官だった。

ふむ、こうやって見ると邪悪に染まった顔だな。

そんなくだらないことを妄想していると、彼は訝しげな顔をした。


「どうかされましたか」

「…え!?なんでも…ないです」

 

 …こいつ…!

なんで少し考えただけで分かるんだ!おかしいだろ!

転移魔法陣に乗せられた段階で崩壊気味だった彼への好感度は奈落へと転落していく。

これだから人間は…。小賢しい…。

俺の対人スキルレベルの低下も留まるところを知らない。

というかあの試験でトラウマが再発して本当のコミュ障になってしまったらしい。

それまでは、命の危機だからとはいえ道を歩いてる知らないおじさんに話しかけるぐらいはできたのに。

全くけしからん。


「それに乗れば校門の前に転移します。お気をつけて」


 一度低評価をつけた相手の言葉は全て嫌味に聞こえてしまう。

なんとなく冷たい印象を受けてしまうのも俺が悪い。


 繰り返そう。クズなのはやっぱり俺だ。


——※——


 入試の日から数日が経過した朝。

俺は朝ご飯のトマトを買いに宿の玄関へと向かっていた。


(…そういや俺って質素倹約にしてもトマトしか食ってないな)

 

 今更感溢れる事実を掴んでぼーっとしていると、あまり宿泊客と関わることの多くない主人が、俺を呼び止めた。

その姿勢はコミュ力0の俺としてはありがたい限りだが、それにしても珍しいことだ。

不思議に思ったので、おどおどしながらも振り向く。

心なしか主人は少し嬉しそうな顔をしているように見える。


「ルパンくん、君宛に手紙が届いてるよ」

「え?」


 思わず素の反応が出てしまった。

俺に手紙を書く人なんて、いるとすればユーグさんあたり?

沢渡&瀬川という線も考えたが、ああいう反応を取っていたのに今頃になって俺に手紙を書くとは考えずらい。


「あ…りがと…うございます……」


そのまま駆け足で三階の部屋まで戻ってきた。

…人と話すのは疲れる。

封筒に書かれた紋章と文字を見て、驚いた。


『バルテン王立学校 入試課』


思わず二度見してしまう。

あれ…?要項によると、合格者にのみ、連絡が行くんですよね……!


「よっしゃああああああああぁぁぁ!」


人目がないのをいいことに、 思わず絶叫してしまった。

ああ、この満足感に達成感。

生まれてこのかた四回目の受験ですが、初めて、初めて上手くいきました。

そう、俺は小学校受験、中学受験、高校受験と三連続落ち続けたのだ。

親は俺にあんな名前を付けたにも関わらず俺に期待していたらしく、ずっと受験させた。

だが、俺はそれに応えられなかった。

もしかしたら、俺の両親に対する恨みは罪悪感も混じっているかもしれないな。


まあそんなことはいい。

とにかく今は喜びを噛み締めよう。

その後も何度か叫んでいたら、隣の部屋の人が俺の部屋の扉をどんどん叩く音が聞こえてきた。


「おいお前!いい加減にしろ!」


まずい!

シラナイヒトコワイ!

『隠蔽の指輪』、『無音の指輪』発動!

そして、開け放された大窓から外へDIVE!

呪いの権能『空間機動』も発動!


ドアが乱雑に開けられたのと俺が飛び降りたのは同時だった。

中に入ってきたチンピラっぽい人が戸惑った顔をしている。

ふ…ふはははは、ギリギリセーフだ。

そう、この権能『空間機動』は、空中に足場を作ることが可能なのだ!

普通ならチートスキルだけど、重大な欠点がある。

これ、非常に疲れるのだ。

形容しがたい倦怠感に包まれる、身体強化モードと同種の疲れだ。

だから、発動できる時間は連続だと一分が限界だ。


 とはいえ、なかなか役立つ権能だと思う。

ありがとう、邪神様。

それにしても、チンピラ早く出てけよ。

人の部屋の中を掻き回しやがって。

一分過ぎたら俺やばいんですけど。

まずい、そろそろ疲れてきた。

まだチンピラは大声をあげて探し回っている。

早く出ていってくれ…!

そろそろ限界だ。

あ…もう…だめだ。


 足場が突如消失し、重力に従って俺の体は落ち始める。

あのチンピラ、部屋の中で突如立ち止まってたけど、何してたんだ?

まあいいや。

高いところから落ちるのは相変わらず怖いけど、転移直後の大ジャンプよりはマシだ。

…着地。

『無音の指輪』『隠蔽の指輪』のおかげで、そこまで目立ちはしなかったので、急いで効果を切る。

そのまま自分の部屋に戻ったら、すでにチンピラはいなくなっていた。


 それにしても、本当によかった。

合格なんて正直信じられない。

あんな成績だからな。

もう一度通知書を読み直すと、入学式の日時が書いてあった。

数日後の日程だ。

そのタイミングで振り込みなどもするらしい。

説明会とかはないの?スピード早くない?

ま、とりあえず行ってみよう。


——※——


 入学式、当日。

バルテン王立学校。

校門前にはかなりな長蛇の列ができていた。

並ぶのは嫌いだ。

事実、迷宮に行っていた時は全部スキップしていた。

ただ、ここでバレると面倒くさいので真面目に列に並ぶ。


結構待ったが、ようやく校内に入ることができた。

それにしてもここって広いな。

周囲の人は、外よりもだいぶ少ないように思える。

名門校だけあって野次馬が多いのかな?

まあいい、俺が行くところは一つだ。

クフフ、有象無象には興味などないのですよ…。

というか関わるハードルが高すぎるんだよね。


 そうこうしているうちに、目的の場所についた。

それは、制服販売所。

俺が転移してから着続けてきた服は、我が中学伝統の学ラン&黒ズボンだ。

いくつもの死地を潜り抜けてきただけあって、愛着もあった。

ところが、あの忌々しい茶色の属性竜の野郎に左腕部分と左足部分を吹っ飛ばされた挙句、右足部分も大穴を(中にあった足ごと)あけられてしまった。

なので、俺はあれから泣く泣くあれを着るのを諦め、バルテンの服屋で買ったお洒落とは無縁の服を着ているのだ。

そのせいで、周囲から度々白い目を向けられた。

その度、俺の精神はどんどん抉られ、対人スキルも絶望的なものと化した。

仕方ないじゃん!俺にファッションセンスなんてないもん!

しかし、ここで俺が気軽に着れる制服を手に入れるということは、俺が注目される率も減る!

つまり俺の精神も削られずに済む!

なんて幸せな生活なんだ!


ということで、制服だ。

学ランとはいかなかった。残念。

ユーグさんに聞いたところ学ランやそれに似た服自体がないらしい。

…学ランって軍服から進化したものじゃなかったっけ?

ツッコむのはやめておけ。ここは異世界だ。

デザインはブレザーぽいかな?

嫌いではない感じだ。

そして、女子はセーラー服。

そう、セーラー服だ。

やはり女子学生に似合うのはセーラーだ。

これは異世界でも共通の普遍原理らしい。

ちょっと感動してしまうな。


 一式を揃えて、学費を振り込んで、ようやく式会場に向かえる。

どこかで見たことのある会場だと思ったら、なんとあの実技試験会場の体育館だった。

人がすでにちらほら入っている。

用意された椅子の数から考えて、合格者は六十人ほどらしい。

かなり広いこの体育館に六十人なので、席と席との間隔が広い。

コミュ障の俺には非常にありがたいね。


その状態でボーッとしながら数十分待っていると、教師陣がやってきた。

もう生徒の席はほぼ全員埋まっている。

あの性悪試験官もいる。

そして、理事長らしき先生が教壇に登った。

外見は、一言で言えば髪のない好々爺。

絵に描いたような優しそうなおっさんだった。

そのおっさんは今も演説している。

挨拶に始まり、学校の理念や仕組みやらを説明している。


数十分に渡って。


口調は優しいし、内容もつまらなさすぎる訳でもないのだが、とにかく長い。

できるなら『無音の指輪』でも嵌めたいところだ。


 そんな時、空席だった俺の前の席に突如人影が現れた。

前兆もなく。

どうやら転移魔法のようだ。

ちょっと驚いていると、一度現れた人影は再び揺らめき、消えた。

咄嗟に前を見ると、理事長のすぐ背後に人影が現れた。


は?あの人は一体何をしているんだ?

あたりを見回すと、新入生は皆唖然としている。

ところが教師陣は気づいていそうにも関わらず、無視している。


結局その人影は演説中教師一人一人の後ろに現れたり頭上に現れたりやりたい放題していた。

なんちゅうやつだ。


「以上です。それではいい学年生活を送ってください。

 ああ、あとハーさんは後で理事長室に来といてね」


そう言って理事長先生は話を締めくくった。

なんかハーさんと呼ばれた人(=転移しまくってた人)はギョッとした顔をして、そのまま転移で消えていった。


 あいつ、マジでなんだったんだ?

理事長先生からタメ口使われるって…。


 その後、生徒会長やらなんやらの話が続いて、式典は終わった。

校歌とかはないらしい。

ま、あったとして物理的にも精神的にも歌えないけどね。


 次は、実際に生活を送ることになるクラスに送られた。

どうするのかと思っていたら、怪しい爺さんが出てきて何か唱えたと思うと、眩しい光に包まれて、次の瞬間には教室だった。

あの数の他人を強制転移できるとは。驚きだ。

その時、なんか爺さんに睨まれた気がして思わず目を瞑る。

視線…怖い。


誰かの声が聞こえてきた。どこかで聞いたことがある声だ。

ゆっくりと目を開ける。


「あら、お久しぶりですわね、受験番号133、ミツセ・ルパン」


 受験番号79、レイラ・シャウワーが、そこにいた。

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