8、可愛い相棒
かくして、ルカの『迷宮新聞』編集部殴りこみ?事件は、有能編集者の采配で解決した。
「大丈夫ですよ。編集部の会議で、おてんば姫騎士シリーズとして続編が決定してますから」
「はぁ!?」
「なんと! そうであったか!」
何も知らなかった俺は呆然とし、ルカは機嫌よく帰って行った。仕事の邪魔をして申し訳ないと菓子折りまで置いて行ったとのことだ。そのあたりの記憶が俺にはない。
まったくどうなっているんだ。
俺の軽い気持ちで始めたことが、なんだか大事になっている気がする。
そもそも俺は伝説級の探索者を斥候として名を残したいと思っているんだ。恋愛小説家として人気が出たところでどうにもならないじゃないか。勘弁してくれ。
ああ、それよりもあの無駄に有能な銀縁眼鏡編集者のせいで、俺は終わらせたはずの『おてんば姫騎士』の続編を書かないといけない。
最近のルカはすっかり素直になってしまったし、これ以上のネタが俺には思いつかない。
発売された本は、すごい勢いで売れているらしい。なぜあそこまで人気になんだ。解せぬ。
「ウィル、そろそろ潜ろうか」
「……ああ、そうだな」
俺は探索者で斥候のウィル。
相棒のルカは戦士として一流だ。
二人なら、迷宮の最下層にある『竜の宝箱』にも行き着けるだろう。
そして俺たちは伝説になるんだ。
「ああ! やっと見つけました! やはり迷宮都市にいらっしゃったのですねルカティル様!」
「ジャン!? なぜここに!?」
「尊き方、王家の血を持つルカティル様が、こんな薄汚い迷宮都市にいらっしゃるとは……なんとおいたわしい!」
唐突に俺たちの前に出てきた男は、高位の魔術師である金糸の刺繍がされたローブを身にまとっている。これはまさか……。
「さぁ、城へ帰りましょう! 安心してください! ジャンの魔術があれば……」
「いやだ! 帰らぬぞ!」
「ルカティル様!」
何事が言い合う二人を呆然と見ていた俺に、ジャンとかいう魔術師が殺気を込めた目で見てくる。え? 何? 怖いんだけど。
「この男が……この男がそそのかしたのか!」
「ジャン! ウィルに手を出すな!」
何か魔法を発動させようとしたのがわかり、防御しようとした俺の前にルカが立つ。その広い背中になんだかよくわからない感情が湧き上がるのを感じた俺は、慌てて首を振って気持ちを落ち着かせる。危なかった。
「ルカティル様、もしや……」
「ウィルは唯一の存在(相棒)だ」
「唯一の……この金髪碧眼、顔だけみたいな男が……ルカティル様の唯一……」
おい顔だけは余計だ。それに金髪は目立つから気にしてんだ。ルカの黒髪がどれだけ羨ましいと思っているのか、一回金髪に染めて出直して来い魔術野郎め。
それよりもルカの言い方だが、それだとパーティメンバーだと魔術師に伝わってない気がするぞ。むしろ厄介な勘違いになるんじゃないか?
ほら、殺気もどんどん膨れ上がっているし……。
「そこの金髪、消えてもらおうか」
「ジャン!」
「おいルカ、悪いが俺は逃げるからな?」
気配を消してこの場からさっさと逃げ出した俺だが、脳内で『おてんば姫騎士』に新たな登場人物が追加されたことにより、これからもネタに困らない生活が送れるとホクホクしている。
そして、俺を追いかけながら「絶対にウィルから離れんぞ!」と叫ぶ相棒が最近やたら可愛く見えてきたから、少し困っているんだよなぁ。
完結です!
お読みいただき、ありがとうございます!
感想欄こっそりあけておきまっする!(土下座
今回、初めての要素を盛り込み投稿してみましたが……大丈夫かな……