エピローグ
リリィとの約束の日。俺は映画館に向かっていた。
あのゲームにはもうログインしていない。というよりあの後からずっとサーバは閉鎖されている。自分同士との殺し合いを終えログアウトしたユーザが運営、マスコミ。さらには警察にまでその非道を訴えたのだ。運営会社は慌ててサーバを止めたが、何せゲームスピード1万倍だ。止めた頃にはゲーム内に誰1人残っていなかったらしい。
もっとも閉鎖されていなくてもログインする気になんてならないけど。
だから、あの後改めて約束しなおしたわけじゃないけど、リリィは必ず来ていると信じていた。
巨大ショッピングモールの最上階にある映画館。そのフロアーの真ん中にある柱の下。映画が始まる30分前の昼の1時半と約束していた。
約束より10分早く映画館に着いた。
フロアーには沢山の人がいた。真ん中の柱ってどれだろう、と辺りを見渡す。
真っ直ぐにこっちを見ている女の子と目が合った。真ん中の柱っていうのがどれかはまだ分かっていなかったけど間違いない。彼女がリリィ。
背が高い。170ある俺よりも少し高いかもしれない。長い黒髪が真っ直ぐに腰まで流れていた。切れ長の黒い瞳。顔もすっきりと細く可愛いというより、綺麗という言葉がぴったりだ。
ゲーム内のリリィと正反対って言ってもいい容姿。でも間違いなく彼女なんだ。
はやる気持ちを抑え、彼女に向かってゆっくりと歩いていく。
「待った?」
「ううん」
月並みの俺の言葉に、彼女も型どおりに答える。そして微笑んだ。まったく違う顔のはずなのに、その笑顔はやっぱりリリィだった。俺も微笑み返す。
「ゲームのリリィと同じだね」
「君も、同じだよ」
「そうかな」
「うん」
リリィはそう言うと、また微笑む。
一歩彼女に近づいた。リリィも一歩前に出る。背の高い彼女は少し身体を屈ませた。
大勢の人の前で、俺達は始めてのキスをした。
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