表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東の狂犬は、万年Eランクにしか懐かない  作者: 揚げ太郎
【第1章】狂犬との出会い
8/27

最強の戦果、最悪の居場所

ー クロエ視点 ー

「……トビー、早く帰ってこないかしら」

カウンターで事務作業をしながら、私は何度も入り口の扉をチラチラと見てしまっていた。

今日のトビーの様子は、明らかにおかしかった。なんだか一人で思い詰めているような、今にも消えてしまいそうな危うい雰囲気で、「ツバキの案内は俺に任せてほしい」と無理をして笑っていた。止める間もなく送り出してしまったが、心配でたまらない。

トビーは自分を卑下しているが、彼の日々の仕事に助けられている東都市の住民は数え切れないほどいる。冒険者たちだって、彼のことを「チュートリアル」と見下して呼んでいるのは、調子に乗った一部の若手だけだ。大半の冒険者は、不器用で人が良い彼を慕い、頼りにしている。

私だって、受付嬢になったばかりの頃は「万年Eランクの冒険者?」とバカにしていた時期もあった。けれど、誰もが嫌がるドブ浚いや重い資材運び、面倒なギルドの書類整理を文句一つ言わずにこなしてくれる彼に、今までどれだけ助けられてきたことか。

ギルドが『強さ』しか評価しないこの体制は、絶対におかしい。

ギデオンさんも私と同じ思いのようで、最近は「トビーをなんとかギルドの正規職員として雇い入れられないか」と、本部に掛け合うための書類をあれこれと準備してくれているところだった。

そんなことを考えていると、外出していたギデオンさんが険しい顔で帰ってきた。

「もう! ギルド長、どこに行ってたんですか? 今朝はあのツバキがまた騒いで、大変だったんですから!」

「すまんな。最近、討伐クエストの前情報と実際の被害にズレがあるという声が多くてな。調査チームと念入りな打ち合わせを行っていたんだ」

ギデオンさんの言葉に、胸のざわつきが大きくなる。

最近、討伐クエストの前情報の精度が異様に低いのだ。トビーを森へ行かせたくなかった最大の理由は、それだった。

「帰ったぞー!」

その時、ギルドの扉がバンッと開き、ツバキの能天気な声が響き渡った。

よかった、無事に帰ってきたんだ。私はホッと胸を撫で下ろした。

「受付の姉ちゃん! 情報になかった珍しいモンスターがいたけど、討ち取って来たぞ!」

ツバキは意気揚々とカウンターに歩み寄り、背負っていた血塗れの布をドサリと置いた。

無造作に開かれた布。そこから転がり出たものを見て、私は完全に声を失った。

巨大な牙、岩のような皮膚。――『オークキング』の首だった。

嘘でしょ? なんで、こんな街の近くにボスモンスターが出現しているの?

「なんという事だ……」

ギデオンさんも驚愕に目を見開き、血相を変えてツバキへ状況確認の質問を矢継ぎ早に浴びせている。

……あれ?

私は、背筋が凍りつくのを感じた。

「ねぇ……あんた。トビーは?」

私の震える声に、ツバキはキョトンとした顔で振り返った。

「おっさん? そういえば、どうしたのかな? 帰り道にはいなかったぞ」

頭の中が真っ白になった。

オークキングが出現した森に、トビーが一人で残されている?

やはり、行かせるべきではなかった。後悔しても、もう遅い。

なにより、トビーを森へ置き去りにしておきながら、悪びれもせず無邪気な顔をしているツバキが、今は心底憎いと思った。

「なに考えてるの!! トビーは、あんたの面倒を見ようと同行してくれたんでしょ!?」

私がカウンターから身を乗り出して怒鳴りつけると、ツバキは心外だと言わんばかりに困った顔で反論してきた。

「戦場についてくるということは、自分の身は自分で守るという覚悟があってのことだろう? 弱いのが悪いんじゃないか」

どいつもこいつも……強さのことばかり!!

怒りで視界が滲み、ツバキに掴みかかろうとした瞬間、ギデオンさんの怒声が空気を震わせた。

「言い争いをしてても始まらん!! 至急、救出チームを編成する!!」

その一喝で、私はハッと我に返った。

そうだ。こんな所で言い争いをしている場合じゃない。トビーの命がかかっているのだ。

私は涙を拭い、すぐさまトビーの救出に向けて冒険者たちへの招集をかけ始めた。


ー ツバキ視点 ー

……まただ。

怒号が飛び交うギルドの片隅で、アタシは一人、ポツンと立ち尽くしていた。

誰も、アタシの活躍を見てくれない。

どれだけ強い敵を倒しても、誰も褒めてくれないし、一緒に喜んでくれない。

いつもみんな、バケモノを見るような、憎しみと恐怖の混じった侮蔑の目でアタシを見てくる。

『お前のその強さは、より多くの人の役に立たせられる。少し外の世界を見てこい』

祖国にいた時だってそうだった。「武者修行」なんていうのは建前で、強すぎて誰も手に負えなくなったアタシは、事実上、故郷から追い出されたのだ。

アタシはただ、自分の得意な「戦い」で、誰かの役に立ちたかっただけなのに。

(……アタシの居場所は、ここにもないのか)

誰もアタシを見ようとしない騒騒しいギルドの中で、アタシは深く、暗い息を吐き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ