役に立ちたいという病、あるいは呪い
「だからっ! アタシはモンスターだろうがなんだろうが、とにかく強い奴と戦いたいんだよ!! 受付の姉ちゃんは居場所だけ教えてくれたらそれでいいって言ってんだろ!!」
「いい加減にしなさいっ! 手続きを踏めって、何度説明したら分かるのっ!!」
普段は気怠げなクロエが、あんな剣幕で怒鳴っているのは珍しい。
周囲の冒険者たちも完全に萎縮して、そそくさと視線を逸らしている。どうやら今日に限ってギデオンさんも不在らしい。ツバキには極力関わりたくなかったが、クロエが本気で困り果てているのを見過ごすわけにもいかず、俺はため息をついて仲裁に入った。
「一体どうしたんだ? 二人とも落ち着きなよ」
「トビー! 私、この狂犬に常識を教えるなんて絶対無理っ! 依頼書も確認しないで、『強い奴はどこにいる?』って繰り返すばかりで、もううんざりよ!」
「おっさん! この受付の姉ちゃんが、手続きがどうとかグチグチ言って話が進まないんだ! 昨日みたいに、パパッとなんとかしてくれよ!」
どうやらツバキは、ギルドにおけるクエスト受注の正規ルートを全く理解しようとせず、ただ力任せに騒ぎ立てているらしい。受付が塞がっているせいで、他の冒険者たちもクエストの報告や受注ができずに立ち往生していた。
「えっと、ツバキ。俺がクエスト受注から完了までの流れを現場で教えるから、今日は一緒に仕事をしよう。まずは簡単な荷物運びの仕事とか……」
「アタシは戦いに行きたいんだ。そんな退屈なクエストなんか絶対にしたくない!」
ツバキは腕を組み、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
討伐クエストか……。俺が同行すれば、完全にお荷物になる。
「……討伐クエストなら」
「トビー。無理は駄目」
俺の言葉を遮るように、クロエがいつになく真剣な目で止めに入った。
「私も少し熱くなりすぎたわ。この子のことは私がなんとかするから、トビーは大丈夫よ」
クロエは俺を心配してくれているのだろう。だが、その気遣いが、昨夜の泥沼のような思考をフラッシュバックさせた。
(ギデオンさんも、クロエも……本当は、俺のこと『邪魔』だと思ってるのかな……)
違う! そんなことない! 俺だって、役に立てるんだ!
「大丈夫! ツバキを現地まで案内するだけだからさ!」
俺は、震えそうになる声を必死に隠して、明るくそう言い切った。
「お! おっさんが手続きをまたしてくれるのか! 頼んだぞ!」
「ちょっと、トビー……!」
制止しようとするクロエを振り切り、俺はクエストボードから『街外れのオーク討伐』の依頼書をもぎ取った。推奨ランクは『C』。だが、事前情報で確認されているオークの数は少ない。ツバキの規格外な戦闘能力を考えれば、俺はただ現地を案内し、後方で隠れていれば済むはずだ。
当然、万年Eランクの俺単独では受けられない依頼だが、「高ランク冒険者が引率する場合に限り、クエストの推奨ランクから二階級下の低ランク冒険者も同行可能」というギルドのパーティルールを適用し、特例Aランクのツバキとの同行という形で強引に申請を通した。
大丈夫。いつもより高いランクの依頼だが、俺だって道案内くらいは出来る。まだ、このギルドで役に立てるんだ。
自分にそう言い聞かせながら、俺はツバキを連れて討伐ポイントの森へと向かった。




