不向きな自分
――ルミオン視点――
(あれが、噂の『東の狂犬』……)
重厚な扉が閉まった後、私は小さく息を吐いた。
狂犬という物騒な二つ名に反して、随分と可愛らしい、年相応の娘だった。
「いかがでしたか? ルミオン・ギルド長」
隣に控えていた補佐役が、静かに尋ねてくる。
「ツバキ君は分かりやすい子だね。あの様子なら、こちらの思惑通り必ずこの依頼を受けてくれるだろう。予定通り進めてくれ。……もう一人は」
トビー君のことを思い返す。
東都市のギデオンが、何度か「昇格の特例」について本部に話題を上げている低ランク冒険者だ。
実際に会ってみてわかったが、なるほど、確かに筋の通った善人ではある。
だが――武力という絶対的な基準をねじ曲げてまで、彼を昇格させる理由はどこにもないということも同時によくわかった。
「あれはただ、成り行きに身を任せているだけだ。自らの意志で道を切り開く強さがない。私の言った通り、いずれツバキ君の重い枷にしかならないだろうね」
ギデオンも、とんだお人好しだね。
「好きにさせておいていいよ。……彼はどうせ、何も出来ない」
東都市で噂になるほどの変わり者の低ランク冒険者だと、少しばかり期待をしていたんだがね。
私はパチンと扇子を閉じ、彼への興味を完全に打ち切った。
――トビー視点――
ギルド長室を出て、長く豪華な廊下を歩き出した直後。
ピタリと足を止めたツバキが、振り返って俺を思い切り睨みつけてきた。
「な、なんだよ……」
「おっさん、アタシとパーティを続けるのが嫌なのか?」
声が震えている。
ツバキは、無茶苦茶に怒っていた。
「さっきの『繋ぎ役』って言葉に怒ってるのか? でも、ツバキも『強い奴とパーティを組みたい』って言ってたじゃんか……。それに、俺はどう足掻いても戦闘力のない低ランクだし」
俺が視線を逸らして言い訳を口にすると、ツバキがギリッと歯を食いしばった。
「おっさんは、あんな女に言われっぱなしでいいのかよ! アタシには偉そうに説教するくせに、自分のことになると急に諦めて……なんだか、全部人任せに見えるぞ!」
鋭い刃物のようなストレートな言葉に、胸の奥を深く抉られる。
何も言い返せない。
「……人には、向き不向きがあるんだよ」
絞り出すようにそう答えた俺に、ツバキは絶望したような、ひどく傷ついた目を向けた。
「そうかよ! アタシと一緒にいるのは不向きかよ! もういいっ!!」
「あっ、おいツバキ!」
ツバキは踵を返し、俺を置いて猛スピードで廊下の奥へと消えていってしまった。
残された俺は、華やかな南都市のギルドで一人、立ち尽くすことしかできなかった。
(そりゃ俺だって、お前の役に立ちたいよ……)
でも、俺には戦いの才能なんて欠片もないんだから、どうしようもないじゃないか。
ギュッと握り込んだ拳が、情けなく微かに震えていた。




