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退魔の英雄  作者: 明太子
外界之魔陰
73/81

61-3 内界での二戦。

毎日投稿五日目。

多分次で陸拾弌話は終わると思います。


では楽しんでください!!

 仕様の違う得物の闘いは、より敵を知る方が勝つ。

 いやそれは何にしてもなのだろう。相手の得意を知らねば対応が遅れるのは必然であり当然。だが、これが刃の交じり合いとなれば詩に直結する。

身体強化(イェシュア)

呪文の様に唱えられた言葉は、魔術師の力を底上げする。

(速度が上がった…)

冷静に時雨はそれに自力で追い付き、彎曲する刃を払う。金属と金属の廻る音はどうしてか心地が良い。

 振る。いや、絡め取るような軌道の大鎌。それは断頭台の得物のよう時雨の白いだけ首を狙う。単調な動きの連続。たが、やけに弾き難い。

「どうしたよ剣聖⁉︎まさかこの程度だってのかぁ⁉︎」

元より荒く溌溂とした魔術師の声が一層乱れる。しかしそれでも時雨は永久凍土の様に瞬き一つしない。相手の一挙手一投足を網膜に取り込み、情報を知識とする。それは学習する事だけを与えられた機械の様でもあった。

 逆袈裟の軌道。手首をくるりと返し唐竹に斬り込む単調な連携。時雨は初撃を薙ぎ、二撃目を横軸で避けた。不運にも軌道上に置かれた時雨の、いや葉加瀬のゴミは四散する。

(はぁぁ…掃除が面倒ですね)

間接視野で捉えたそれに舌打ち紛いの溜息を残した。

「死ねッ‼︎」

婉曲させる事を放棄した言葉の襲来。軌道は横一文字。彎曲の中央点とも取れる最大起伏を時雨は刃で捉えた。


 筈であった。


 キメ細やかな肌に良く映える鮮血。それは頸筋の中辺から滴る。

(射程を見誤った。いや、寸前で伸びた?───詠唱を破棄して発動可能なのか)

時雨は、親指の腹で血を拭う。細くまるで糸で引いたような赤線の痕が残った。

「ありゃ?結構踏み込んだんだけど、ギリギリ届かなかったかぁ.......たるいなお前」

「身体的能力の向上の術式。それと鎌そのものを変形させる術式。恐らく後者が貴方が起源として組み上げた我流術式と言ったところですか」

「──────あぁ?」

二つの二枚貝を組み合わせたよう、会話は成立と言う二文字を消失した。

「魔唱ではなく、敢えて簡易的な詠唱に留める?なるほど──────」

情報のインストールは時雨の中で完結を迎える。

 なるほど。そのたった一言に篭められた意は重く、多量である。

 氷結した時雨の貌が刹那に溶ける。

 鋭い刃を持つ時雨の眼光が数段砥がれた。魔術師は、溢れ出した唾を喉に通す、それはやけに甘くやけに水性であった。

「余り長い事研究室を空けておく訳にも行きませんので」

まるで見えない誰かと会話をするように、時雨は淡々と告げる。

「何を言って──────


 大鎌の柄を肩に掛け魔術師は一歩を踏み出し、そしてその一歩を退いた。

「おや感情に任せて踏み込んでくるかと思ったんですが.......案外慎重派ですね」

時雨は大太刀本来の重さに従うよう、切っ先をだらりと斜め下に向ける。まるで振り子の様に一定の範囲を振幅し続ける。 

 魔術師は目をずっと下ろし足元を見つめた。格子状に切り込まれた、集積場の床の一辺が丁度爪先に重なる。

 そこが境界線であった。だがそれは名ばかりに相手を押し出す結界ではない。入り込むこと自体に許可は要らず、出る時に命と言う代償を残せばよい三途の川である。

「──────やはり、その鎌は貴方の精神性と連結していたのですか」

時雨の視線は魔術師の顔から右へとずれた。あれ程死神を連想させるような健大な鎌は、草刈りのそれと大差がない。

 用を済ませ、見る価値も無くなったそれから時雨は目線を戻す。

「同時に言葉遣いもそれに該当するのでしょう。──────死ね。などと言った攻め言葉は一時的、鎌を増幅させるある種の詠唱。種が分かれば幾らでも対処が効きますね」

「だからどうしたってんだ!!事実俺の精神性の上がりように寄っちゃ、言葉の詠唱は不要になるんだぜ!!」

腹に力を入れる声はどうしてかどもり、節々が震え、呼吸の間隔が大層乱れる。

「いえその心配は無用と言うモノです」

「何ッ!?」

「貴方は、ほんの一瞬。死を連想した。それは闘いに置いては決定的な敗北が確約される禁忌の行い。死を刈り取る側から刈られる側に回った人間は脆く、弱い。──────そして己の敗北を理解できない愚かな俗物へと成り下がる」

視線は固定化されていた。スポーティな私服は時雨の動きを浮き彫りにする。

 時雨に向いていた刃はくるりと上を向き、切っ先は縦長の円を描いた。


 

 平均的な体躯をした成人男性の片腕、それは大凡4,5キロ程度に収まとされる。仮に頭の高さから落とした場合、それは0.6秒で地に落ちる。

 当然それが織りなす音など可愛げが無い。


 辺りは一面血の海と化した。役目を終えた首切り役人と、現実を知らない斬首刑者。対照的な二人の顔がその赤黒い鏡に反射した。

 術式的意識と乖離された鎌は只の短い鉄棒と化し、掌にピタリと収まる。

「私の境界とも言える間合いを一時的見切りはした。ただそれに甘んじ下がることを放棄し、命を守る行動を切り捨てる」

魔術師の足元に広がる血海に立った波紋が、瀬戸際を外へと押し広げる。

「さて、ご同行願いましょうか」


 




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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。

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