58-2 鉄の輪
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初見でしたら第零話から読んでもらえると助かります。
祐は口を閉じる代わり目を限界まで開いた。目は口程に物を言うとは言うが少々行き過ぎた、選択肢に滝澤は微笑する。
「おいおい、てめぇの身の丈がバレたことにそこまで驚くたぁ......お前さん、敵方に捕らえられたら速攻で攻め落とされんぞ?」
「──────ッ!!いや待て。確かにバレたことにも驚きはしたが、何であんたが退魔の衆を知ってるんだ?」
やっとの思いで喉詰まりを解消し、祐は流れる手付きで机を叩く。ドラマで犯人に照射する為のスタンドライトが重心をぶらす。
「別に不思議な事じゃねぇだろ。ありゃ一応国家容認組織だぜ?怪事件何て文言を愛してやまない人間なら名前くらいは知ってる」
薄暗い空間。申し訳程度の暖色の電球が部家を照らす。立ち上る煙は、磨りガラスの先。
「んじゃ、あんたはオカルト好きの人間って事か?」
「ハハッそういう訳じゃねぇ────ただ俺の担当が怪死体なもんでね。いつの間にか俺の頭に仕舞われてたってだけだ」
「それじゃあどうしてあいつが魔術師だと?」
意を突いた問いに滝澤は、持っていた煙草を机の下に下ろす。
重力に負けた先端の灰が、脚と脚の間にぼとりと堕ちる。
「──────さぁな」
「さぁな?適当な発言で出てくる単語とは思えねぇんだが」
滝澤は乾ききった笑いを浮かべる。言葉を介すうち、次第と立場が逆転した事に誰一人として気付くことは無い。
「昔、一度だけ見たことがあってな......仕事の道中。静けさが喧騒を喰らいつくす深夜二時、その胃袋を穿つ一撃の銃声は痕を残さなかったんだ。まるで空の境界の狭間に溶け込んだように。遠くのビルの先に一人の狙撃手が立ち尽くしていたよ。多分あれが魔術師なんだろうと本能的に感じた」
それは紛れもなく愛煙家の狙撃手の話だと祐は疑わなかった。
であれども、やはり滝澤がかの映像から魔術をねん出したのかは定かでは無かった。
「言わば理論もクソも無い只の直観だ。だがな、視認不可能な攻撃。道理の立たない不可解な現象。そこには知ることの無い理論が体系化されてると俺は信じてる」
「あの攻撃もその無知の理論が形成されてると?」
滝澤は深々と頷いた。まるで己が命題の答えを合わせるように。
「えぇっと滝澤さんだっけか?本当にありがとう。あんがた居なかったら留置場送りだったわ」
自動ドアを二度潜った先。祐は数段上に立つ滝澤にけたりと笑いながらそう口にする。
「別に感謝されう事ちゃう。単に西の出来が悪いだけや」
煙草の先端が上下に揺れ動く。
「ハハッ。それじゃ」
祐は手を上げてくるりと背を向けると、大通りまでのたりと歩きだした。
白髪の後ろ髪は馬の尾の様に揺れた。それがどうしてか滝澤の眼には神秘的に映る。
「もし仮に神が居るんだったら。あのガキみてぇな容姿なんかねぇ?」
貫かれた右脚は祐の想像以上の損害を残していた。応急処置程度に巻かれた包帯は赤黒く色づいている。
「四季さんとの約束時間から三十七分経過。殺されんで、これ」
ざらついた画面に表示された日本時間。新手のメンヘラ女であれば即刻祐を殺しに来るであろう。
「一旦別れた場所に向か........」
『報告:鬼川祐様との合流に成功しました。質疑:どうしてこのような場所に居るのでしょうか?』
人間らしからぬ声色との久々の会話は、思いの外気味悪く感じた祐は寸分思考が遅れる。
「あぁ実は飯屋で、魔術師と対峙してさ。それで警察に捕まって今まで取調室で事情聴取を受けていたところ」
支離滅裂な会話だというのに四季は、特段可笑しがる様子も見せない。現実的に在り得れば彼女にとって異質な現実など無いように。
『論理:魔術師との対面。その右脚の風穴、右肋骨のヒビ、右耳の微細な裂けはそれによるモノと断定。報告:かく云う私もまた魔術師との対面がありました』
「はい?」
流れ作業の一環であるように四季は並々ならない報告を残す。
『論理:他の報告から退魔の衆が魔術師に狙われていると断定。現状戦績負けはありません。許諾:傷を治してもよろしいでしょうか?」
「あぁうん」
腰を下ろすと四季は祐の風穴に手を差し出す。
魔力が集中し、痛みが宙に拡散する。血の流れが一定に成り、地面の感触が頭の先まで繋がる。
手の位置が上へとのし上がる。人のいない駅に止まる列車の様にては瞬時に上へと昇る。
祐の顔のすぐ隣。柔らかな手と、柔軟な香りが一色に女性らしさを魅せた。
どの瞬間からは祐自身分かりはしない。それでも祐は上目遣いの四季の眼を見つめていた。
『質疑:どうかなさいましたか?』
「いや、美人だなと思っただけだよ。もちろん他意はないよ」
祐はさらりと答えると四季は電源を抜かれた電光のようにぷつりと止まった。
『─────返答:有難うございます。報告:治療が完了しました。』
細々しく言葉を紡ぐと四季はあからさま視線を遠ざけた。顔が赤く紅潮することは無い。それでも人間臭く四季は動揺する。
(褒めたはずなんだけどな。何か俺変なこと言ったか?)
祐は首を傾げた。髪を靡かせる風に音こそあれど、答えは無かった。
数秒の無言の空間は、傍から見れば初々しいカップルにでも取れるのだろうか。
乱れていた魔力が途端に収束する。
『提案:一度この件も在りますので、本部に戻りましょう』
「ん。分かった」




