番外編〈1〉
朝霧先生の過去のお話です!
ミーンミンミンミン
陰のできない校庭にジリジリと太陽が照りつけ、蝉の鳴き声で心も休まる暇がない。
「香、これってさすがにまずいんじゃ......」
「ん、何のこと」
そこには香をジロリと睨みつけながら校舎へと入っていく大勢の大人がいた。
◆
私が忍術学校に入学する年から女子の入学も認められるようになった。
この国には未だに男女差別があることくらいニュースでよく知っている。
しかし、中学生までの間で男女差別があることを実感することはなかった。男女差別には出産や育児が関係することも多い。だからこの年齢では実感がなくてもおかしくはない。
私はこの忍術学校で差別というか、いじめというか、そういうものを経験したのだった。
そして忍術学校を大きく変えてしまった。
◆
「香〜、また先輩にからかわれたの?」
その言葉にビクッとして、
「な、なんでわかるの!」
「ははっ、香は気持ちが態度とか表情に出やすいからすぐにわかるよ」
「京花にはほんと敵わないな」
苦笑いをする。
「で、私今どんな表情してた?」
この質問にクスクスと笑い、
「絶対あいつを泣かせてやる!って顔だよ」
うわっ、そんな性格悪いやつみたいな表情してたんだ私。
「前まではさ、香、すごく悲しい顔してたの。でも最近はそれとは真逆の表情になったよね!」
「それっていいことなのかな......」
「いいことかダメなことかはアタシにはわからないよ。でも香が悲しい表情してないだけ、アタシは安心するかな!」
「照れくさいことよく平気で言えるな」
「こらっ! そんな言い方は良くないよ!」
頬をムッと引っ張る。
「わかったわかったごめんて」
手をパタパタとさせ降参した。
「でも確かに最近先輩たちしつこいよね。女が入学して何が悪いのよ!」
「......」
その日は授業に集中できなかった。
なぜ、女だからとからかわれるのか。
生まれながらに身体的に男のような強くなれないから?
精神的に大人びているから?
子どもを産んだら忍者としてのブランクができるから?
同性でも同じ人間なんて1人といないのに、性別が違えばあらゆることが違ってくることなんて当たり前だ。
でもなぜそれを受け入れられない、なぜわかろうとしない。
考えても無駄だ。私が彼らの思考を理解できないのと同じ。
「ぅ、こう、香!」
「はっ!」
「なにぼーっとしてんのよ! もう寮に帰ろ、明日はテストなんだから勉強しないと」
「そうだった」
ガラガラ
「おっいたいた朝霧さぁーん」
だるい。なんでいつも絡んでくんだよ。
「おや、京花ちゃんもいっしょか!」
「京花ちゃんはいつもペコペコしててお利口さんなのに、あんたは睨んできて頭にくるんだよな。女のくせして生意気な」
「は?」
言いたいことが多すぎて逆に言葉が出てこない。
こんなやつに構ってる方が時間の無駄。
「京花、行こ」
その場を離れようとした、瞬間髪をグッと引っ張られた。
「京花ちゃんはいいけどお前はダメだ」
「香!大丈夫?! 先輩方さすがにそれは酷いですよ!」
私はもう我慢の限界だった。
これまで何を言われたって睨むだけで済ませてやっていた。それをありがたいと思っていれば良いものを......
私に火をつけたのはお前らだからな。
ズドォーーーーーーーーンン!!!!!
髪を掴んできた男を廊下の壁へと押し付け、顔ギリギリを狙って思いっきり殴った。
壁には大きな穴が開いていた。
「お前ら私より強いと思っているから喧嘩を売ってくるのか? それとも喧嘩したいだけなのか? それならいつでも買ってやるよ」
これまで誰も見たことのない不気味な笑顔で宣戦布告をした。
目の前の男は恐怖で腰が抜け床に座り込んでしまった。
もう1人の男も唖然としていた。
「さすがに可哀想か。フッ」
「こ、香。手大丈夫?」
「うんちょっとヒリヒリするだけだから何も問題ない。それよりテスト勉強しないと!」
それから香はなにかがプツンと切れたように、怖いもの知らずになった。
「おいそこのAとB、こっち来い。この間の続きだ」
「ちょっと香、やめた方がいいよ!」
京花が小声で止めに入る。
「いや、謝りたいだけだよ」
その言葉を聞くとAとBが近づいてくる。
「ま、まぁこの間のことを反省しているならその謝罪を受けてやってもいいぞ」
「そ、そうだ! 謝るべきはそっちだしな」
香の前に2人が並んだ。
「先日は本当に申し訳ありません」
頭を異常に深く下げる。
「でしたなんて言うもんかボケーーーーー!!」
そのまま地面に手をついて2人の顔を目掛けて回し蹴りした。
「てめーらが謝れ!」
恐怖のあまり腰を抜かして驚いた。
「ひぃ〜!!」
「す、すんませんでしたぁー!」
床に這いつくばりながら遠くへと逃げて行った。
「香、さすがに手は出しちゃだめだよ」
「わかってる。でも顔を見るだけで頭に血が上って、どうしても我慢できなくなった。みんながみんな、あんなやつらじゃないってこともわかってる。でもここにいるとすれ違う人みんなの視線が気になってきて......」
香はこれまで十分我慢してきたから。
ここまで怒りが爆発してもおかしくないよね。
それからというもの、いじめてきた先輩にすれ違うたびに絡み続けた。
とうとう先生にある提案をした。
「先生、手合わせの制度を導入してください。同じ学生同士で戦わないと自分の成長を感じられなくて」
「それもそうだな。これまで教師以外は実戦のみだったしアリだ」
その噂が広まったからだ。
「香、これってさすがにまずいんじゃ......」
「ん、なんのこと」
「あそこにいる大人たち、先輩の親だよ」
「ほとんどが先輩忍者ってことねー」
香は気にもしていなかった。
その視線を。
「妙にこっち見てくるけど何も無いといいな......」
京花は不安を抱いた。
◆
「朝霧、少し話がある。こっちに来い」
「え、私?」
疑問に思いながらスタスタとついていく。
「朝霧、先輩に喧嘩を売っていたのか?」
ビクッとする。
しかし事実だから嘘をつく必要もない。
「はい」
「すまない。俺は朝霧の悩みに気づいていながら手を差し伸べなかった。奴らの親も同じ忍者で、俺は彼らへの恐怖の方が勝ってしまった」
喧嘩を売っていた理由を知っているらしい。
「叱るために呼んだんじゃないんですか」
「いや叱るなんてことはしない。ただひとつ大きく忍術学校が変わってしまうんだ」
目を伏せながら言った。
「どうしたんですか」
「今回の件で親が酷く怒っていてな。学年ごと校舎をばらけさせろと」
「そ、そんな! 私が大人しくすればいいだけの話ですよね」
「いいや、最近導入した学生同士の手合わせなのだが学生を育てるためにはとてもいい案だ。学校側もこれを続けたい意向だ。そして朝霧は強い。だから同じ学校にいてもいつかどの学生も戦うことになる」
「戦わなければいいだけじゃないですか!」
「もちろんその案も提示した。だが彼らの親が断固拒否している。みんなにはただ強くなって欲しいのが俺の本心だ。たとえ離れ離れになっても会えないわけではないから、ここはこちらが折れることになった」
「......そうですね私はそれでいいと思います。あんなことを言う人たちと同じ空間に居たくないし」
◆
「はぁー、私じゃなくてあいつらの要望だし。私は関係ないし」
ドタドタドタ
「香!」
「京花、そんな急いでどうしたの」
「学年ごとに分校するって話は本当?!」
「うん、らしいよ。これで清々したな」
ポタッ
「え、京花泣いてるの......?」
「私仲良かった先輩もいてっ、頼りにもしてたからなんでこんなんになっちゃったんだろうって」
溢れ出てくる涙を拭い続けている。
すると、
「言ったよね暴力は良くないって! 暴力ではなにも解決しないんだから私たちは我慢すればよかっただけの話なのに!」
「京......花?」
「全部香のせいなんだから! みんながみんな悪くないってわかってたはずなのに結局はみんな離れ離れになったんだから!」
「ご、ごめん。京花、ごめん」
辛そうに謝る香を見てから走り去ってしまった。
◆
翌日、1年生を東京に残し先輩はそれぞれ青森と鹿児島へと行った。
「香」
聞き慣れた声がした。
「京花......」
「昨日はあんな言い方してごめんなさい。自分勝手な言動だったと反省してる」
「いやいや悪いのは本当に私だし。結局みんなに迷惑かけちゃって......」
「私たちまた前みたいに仲良しでいられるかな」
「なに言ってんの京花、私も仲良しでいたいよ」
心の奥底では昨日の言葉が忘れられない。
これからも京花の顔を見るたびに、私が彼女に与えた傷を思い出すのだろう。
「そうだそうだ! 今日ショッピングでも行こー!」
「うんそうしよう!」
◆
分校の制度は現在も続いている。
結論、分校にしたおかげで日本全国での任務が容易になった。円滑に任務が進むことから、これからもこの体制は変わらない予定だ。
番外編をご覧いただきありがとうございます! 憂斗が以前学年ごとに学校が違う理由を少し話していましたが、その背景にはこのようないざこざがあったのです!
朝霧先生は何も考えてなさそうですが、実は色々と心に残りやすいタイプです。衝動的に行動してしまった過去もあり、今は心を落ち着かせて自分を制御しています。でも怒ると誰よりも怖いので要注意です! ちなみに京花と香は今も仲の良い親友ですが、香はいまだに分校を申し訳なく思っています。




