希望
北山の違和感は髪型が違った。身長が違った。立ち方が違った。
知ってるのは顔だけだった。
「……」
言葉に詰まる北山とは違い楓が口を開く。
「もー、まさか離れ離れになるなんてね」
「……その顔、どうなってんだ」
「うんー?」
小首をかしげて楓は明るい表情で説明を始めた。
「気がついたら顔が潰れてて人前にでるのがねぇ? ちょっと恥ずかしいって言うか。お腹とかも痛かったんだけどすぐ治ってよかったわ。動けるようになって偶然みつけたのよ。えぇ、深雪をね? まったくあの女はあたしのダーリンをたぶらかす悪女なんだけど顔だけは良いからね? もらっちゃった!」
「なんだよそれ、深雪は今どうなってんだ?」
「あー、あの子はもう動かなくなっちゃった。あはは」
無邪気な笑顔に北山の背筋は凍った。
かつてのクラスメイトは本当に人間か? とても信じられない。世界がこうなっていることも理解に苦しむのに目の前で喋るコイツが何なのか分からなかった。
「あ、そう。あんなに大きな音を立てて校門閉めるなんてさ、アピールしてるもんよ? 全く不用心ね。でもまぁ、北山に会えたし今日はいいかなー。さーて、帰ってダーリンのお食事を用意しなきゃ!」
踵を返し街へと向かおうとする楓を北山は呼び止めた。
「西城の言うダーリンってまさか……東里か?」
振り向いた楓の半分は深雪の顔をほころばせ答えた。
「もっちろん! あたしの玲よ。待っててね北山、明日迎えにくるから」
そう言って楓は街へと向かっていった。
追いかけるという判断に北山は迷った。ゾンビの駆除と見回りでそろそろ日が暮れる……この施設は大きく安全の確認に時間が掛かり過ぎた。一人で校門を飛び越え向かうには志村達に説明しないと今後の動きが……今行かなければ追いかけるのは難しい。
約十秒だけ考えて北山は志村達の所へと向かった。
図書館以外にも出入り口は存在し、北山は一番近い職員室からの入り口を志村に開けてもらった。
「お疲れ様ー」
戻ってきた北山に紫乃がお水のペットボトルを手渡した。
「ありがとな」
水を飲む北山に志村もデスクから離れて声高らかに叫んだ。
「よっしゃー! これで我が城は完璧だな。ご苦労!!! んじゃ北山の携帯端末も充電するかーよこしな」
「おう」
今まで通話を繋いでいた端末を手渡した。
「さて、食料もまだまだあるし今後どうしようか」
平和な城に籠もるだけだといずれ物資が尽き、困る事を北山は知っていた。
「食料の確保の為に外へ出る必要がある、俺がこの地域に来る前の土地では暴動が起こっていた。だから、安全なルートを考えないとな。土地勘が無いから志村に任せたい」
「結構あるけど、流石になぁ。助けが来る事も視野に入れたいけど難しいよなぁ」
難しいんだなぁーと紫乃は話を聞いてて欠伸をしていた。お腹も膨れてかなり良い感じに瞼も重くなってくる。
そんな紫乃が興味のある話を振った。
「それにしても北山も大変だね。知り合いに色々起きてて。ねーモコちゃん!」
携帯端末を抱えたぬいぐるみの頭を撫でながら紫乃が呟いた。
「……見えてたのか?」
なんのこと? と分かっていない志村の表情を北山は読み取った。
「さっき知り合いにあった」
「お、まじかよ。なら合流したほうが良くないか? だって人数は多いほうがいいだろ? まだ近くにいるか?」
「いや、それが……死んだと思ってた奴で」
北山自身も理解が追いついていない。死んだと思ってた奴が生きてて顔が変わっていた?
説明がとても難しい。
「ははっ死んだと思っていた奴が元気に動いてるってか? そんな変な話……おっと? そこらへんに彷徨いてるアイツ等も死んでそうだけど動いてるな? どーなってんだ???」
そもそもアイツ等は何なのかについて志村達は知らなかった。
「病気か? てか、ゾンビってなんだよ。映画だとアレだよな。次々と感染していくやつで大抵ウイルスが悪いことしてるっていう」
「あー、紫乃も知ってる。ひたすら食べ歩きしてるんだよね? とことこ歩いて生きてるお肉見つけては襲って行くって感じでしょ? あと主人公とかは噛まれても感染しないよねー。あ、萌も一回噛まれてみたら?」
とんでもない事を言う紫乃に志村は言い返す。
「おいおい、物騒な事を言うなよ。これでゾンビになったらどーすんだ? もし俺様がゾンビになったら真っ先に食ってやるからな?」
「ひぇぇ、モコちゃん助けて。肉食系男子が隣にいるよ」
騒ぐ二人を横目に桐島が口を開いた。
「で――アレは人間なの? 化け物なの?」
動く死体は生きているのか、そもそも意識があるのか北山は意識した。
「そりゃー、化け物だろ。あんな痛そうな怪我をしてて、何知らぬ顔で動ける人間なんて居る訳ねぇ。変なウィルスが原因だったら薬とかあるんじゃねーか?」
「あぁ、そういえば変なマッドサイエンティストが前に動画をあげてたな。対抗する薬を用意してるだとか、お金を送ってくれたら渡すやら話題を聞いたぞ」
過去に二回、映像を見たことを北山は思い出していた。似たような仮面をつけてる男を殺したこともあったな……と。
「この施設内のネットワークは生きている。だから、北山との通話も繋げることが出来たが外部に繋がらない。調べたいけど難しいな。ま、ウィルスが蔓延しても大丈夫な奴はいるだろ。風邪を引いたのいつだ? 記憶にないくらい昔すぎだしな」
「紫乃は先月に風邪引いたよー。鼻水がほんっとうに大変で頭クラクラするし最悪だよー」
感染したらアイツ等のようになってしまう……北山は思い出していた。目の前に姿を現した西城は東里と一緒に隔離させられた。その後、合流した時は意識もしなかった事が存在する。それは、西城が本当に噛まれて感染していたとしたら? 感染してるにも関わらず、普通に過ごしているとしたら?
「感染しても変わらない奴を知ってる。あのウィルスは症状が現れない奴が存在する……」
北山の呟きに志村は身を乗り出す勢いで食らいついた。
「まじかよ。それが本当なら……奴らを元に戻す薬だって作れるんじゃね―か? 志村財閥の力を使って薬を開発出来たら億万長者ってレベルじゃねーぞ? もはや世界征服だ。くっ……ふはぁ!」
「モコちゃん萌の顔が極悪人だよ。警察を呼ばないと大変だよ」
「おいおい、上枝紫乃ちゃんよぉ。薬が出来れば世界は元通りで平和さ。全人類が幸せで俺様も幸せって訳よ。んで、北山の知る感染しても症状が出ない奴は何処にいるんだ?」
西城楓は北山に言っていた。迎えに来ると……。
「それが明日、迎えにくるらしいぞ」
「ラッキー向こうにも生存者がいるんだろ? そこと合流して何とか志村財閥の人間とコンタクトさえ取れれば……おっと、よだれが出てきた」
「ばっちーねモコちゃん。今日はうんっと離れて寝ようね」
「おいおい、希望が見えてきたんだ。俺達は生きられる! んじゃ、日が暮れる前に寝床やら色々と準備すっかー」
寝床をどうするか……女子が一人に男子は三人。上枝紫乃に気を遣うか少しだけ悩んだ志村は全部丸投げした。




