再開
志村は奥の部屋から飲料水と食料を取り出してテーブルにばらまいた。そして、北山から携帯端末を受け取り常時通話を繋げられるよう機材を準備する。
その準備の間に紫乃はむしゃむしゃと出された食料――菓子パンにかぶりついていた。甘いパンはとても美味しく、二個目に何を食べようか吟味する。
桐島は返された自分の装備の点検をしていた。その中の一本を紫乃は、横目に咀嚼音を奏でている。視線の先にあるナイフ……ひときわ目立つ大きなナイフはイノシシでも簡単に解体できそうだった。紫乃が握ったことのある包丁よりも一回り以上大きい。
「んじゃ、北山にはゾンビを倒してもらって来てもらおう」
志村の言葉で北山がバットを片手に立ち上がった。
「あぁ、とりあえず何かあったら連絡をする」
常時通話は繋がっている状態だが、イヤホンを北山は耳につけていない。それは恐らく足音を逃さない為かな? と、紫乃は考えていた。耳に集中して後ろから襲われたら駄目だもんね。
装備を返された桐島……北山と二人でゾンビを倒しに行くわけではなく彼の役目は志村と紫乃を守ることだった。紫乃もそれには納得している。志村と二人っきりで襲われた暁には全滅するだろうと容易に想像出来る。
簡単なバリケードを外して北山が外に出た。
それを見送る紫乃は軽く手をふる。
「うし。北山がゾンビを全滅してくれたあとはどうしようかな。残念なことに警察へ連絡を入れてみたが繋がらん!」
警察に連絡が出来ない……紫乃も仕方ないよね―と納得した。こんな非日常があったら皆が警察に連絡するよね。
「あ、電話しよーっと」
紫乃も返された携帯電話で家族に電話を掛けた。
しかし、電話は繋がらないと音声が流れる。
「だめだーモコちゃん繋がんないよおー」
長い溜息を吐きながらモコちゃんに携帯を押し付けた。
その間も志村はディスプレイとにらめっこして北山の様子を見守っている。
紫乃も少し見てみるとバットでうろつくアイツ等をバットでボコボコと殴りつけていた。動かなくなり周りを見渡す北山はイヤホンを耳にはめる。
「よし、校門へ向かってとりあえずそこは真っ直ぐ歩いてくれ。アイツ等の侵入口だったからそこを片付ければ後は簡単なはずだ」
そう志村が告げた後に北山は足取り軽く進んでいった。
紫乃は志村の話を聞いていて、もう少し起きるのが遅かったらこの施設中にゾンビが居てだめだったかもしれない。あ、でも。志村が起こしてくれていたかな? ラッキー! 口の中の菓子パンをごくりと飲み込んだ。
お腹も膨れて机にぐったりと項垂れる。
装備を整えた桐島ものんびりと座って過ごしていた。そんな中で一番働いている北山は校門に到着した。
平和な日常ならちょっとそこにお買い物へ行きそうな主婦へとバットを叩きつける。ゾンビを殺す事に戸惑いもなかった、東里達と別れてもう数週間という時間が北山を変える。
人間は簡単にゾンビへと姿を変える……志村と合う前に過ごしていたキャンプ地も簡単に全滅した。北山が食料を確保する為に離れなければ、あのキャンプで過ごしているはずだった。
ここで北山が見逃せば志村達を危険に犯す。それを回避する為に。
ゾンビをひたすら殺していく。握る腕には力が入り、迷い無くフルスイングで次々と殺す。
北山の頭ではとある懸念が漂う。
忘れもしない東里と別れたあの日。皆で移動していた時に起きた悲劇を……安全と謳う地へと向かっていた北山達は騙された。ゾンビの群れにやられ車は大破し、隣りにいた宝塚も救う事が出来なかった。
東里含め三人は別の方向へと逃げていった。次々とゾンビを殺してやっと出会えた東里は西城を抱えて死んでいった。
そこに深雪は居なかった。
あれから出会う事も無く、ただ時間だけが過ぎていた。
じゃぁ、あの映像は見間違いか? 他のゾンビとも歩く速度さえ違っていた。なのに、ゾンビから逃げる訳でも無く。
北山の目は軽い足取りに見えた。
そんな事を考えながらも北山は校門周りを全て制圧した。志村の指示に従い周りの安全を確保する。
上枝紫乃と桐島歩をこの施設で見つける事が出来たが、話に聞いていた西条兄妹は何処にも居ない。カメラの映像でも見つかっていない様子だから、恐らく入れ違いになったかもしれない。
北山がキャンプ地を離れ彷徨っている時に鼻水を垂らしながら助けを求めてきた志村……この制圧した校門から少し離れた所で偶然出会った。
北山から話を聞いて一番安全なのがこの施設だと言い戻ることになったのだが……到着するまでに少し時間が掛かっている。その間に出会わず外へ出ているならもうここには居ないかもしれない。
ゾンビ溢れる街で逃げ回っている姿を想像していた。
近いうちに助けに行けるか……?
北山が守れる範囲にも限界がある。
「出来るなら周りで人に死んでほしくないな……」
小さく呟いて最後のゾンビへバットを振り降りし、指示された場所を全て制圧した。志村が最後に北山へ告げる。
「北山はこの後、侵入口がないかぐるっと一周回ってアイツ等が入ってくる経路を確認してくれ。流石にカメラじゃ細かい所を見れねぇ」
「あぁ」
バットの音が響くことはなく暫く周りを北山は歩いていた。この施設もいずれ食料が尽きるだろう……そうなると街へ移動しなくてはならない。
汗で滑り落ちてしまわないようにバットを握りながら北山は一周回って校門へ辿り着く……そして、みんなのいる部屋へ向かおうとした瞬間。
視界の端に人影を捉えた。
北山は目を見開いてその人物を観察する。顔がよく見えなくて北山はその人物へと足が勝手に進んでいた。
その位置はちょうど、カメラから死角となり志村との通話もとっくに途切れて二人だけの空間。
「……深雪か?」
あの時、離れ離れになった友達。震えるでも無く、こちらに視線を送るわけでもなく横顔だけが近づいていく。違和感……距離が縮めば縮む程に北山を襲う違和感。
「生きてたのね北山」
目の前にいる深雪が口を開いてこっちを向く。
その顔は見慣れたはずだった……稀に野球の試合でも応援してくれていた。どうしてこうなった?
「あたしは楓よ」
西城楓の顔半分が深雪となっていた。




