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外界機兵アナザイム  作者: 紅陽炎
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30/31

30:古の星の樹

この球体に名前は無い。

これは桜木美月が設計して表に出さなかったようで、

失踪後に備品整理の際に偶然見つけたものだ。


既存のテツビトのシステムを流用しつつ、

今までのテツビトと明らかに方向性が違う機体。


対調停者用と思わしきその設計書は、

誰にも見つからずにデータの奥底に眠っていた。

これを何故、表に出さなかったのかは分からない。

明らかに人殺しに特化していたからかもしれない。


だからこそここに居る。

人類を皆殺しにしてでも調停者を炙り出すために。

狙い通り出てきた調停者のテツビトは、

想像通り何もかも超越した機体だった。


裏から人類を管理している調停者。

ずっと操り人形でいるくらいなら死んだ方がマシだ。

自分を含めた全人類も。



◇◆◇



『む、無理です! 無茶言わないで下さい!

 私一人で考えるなんて!』


攻撃が通用しないと知って、

一度戻ってしまおうと考えた和弘達だったが、

球体が光の槍を下方にバラ撒いたことで

その目論見はあっさり崩された。


今ここで和弘達が去ってしまえば、

この球体は下方にいる人間を皆殺しにするだろう、

それでは意味が無い。

そうさせない為に和弘達はここにいるのだ。


しかし和弘は光の槍を回避するのに集中している。

ならばと和弘は麻由に良い案が無いか丸投げした答えが

先程の言葉である。


『大体こっちだって何もしてないわけないじゃないですか!

 和弘さんも一緒に考えて下さいよ!

 レインティスプはもっとスピードだせますから。ほら!』


麻由がそう言うとモニターに見える光の槍がますます遅くなった。

簡単に避けられる速度が、考え事をしながらでも

避けられる速度に、というレベルまで。


「まだ速くなるのか」


『言っておきますけど、

 まだアナザイムより遅いくらいですよ』


絶え間無しに飛んで来る光の槍。

それを避けながら和弘も考える。


自分に打つ手がないならば、

相手に変化が訪れるのを待つしかない。


例えばエネルギー切れ。

もしくは下にいる人達が撤収した後ならば、

和弘達が離脱しても問題は無いはずだ


(これらは全部、運任せだし、

 こっちが取れるアクションが欲しいな)


追い詰められた時、誰もが自分の都合のいい事を考える。

『もし○○が出来たなら』と。

そして、それがあり得ない未来ということを

和弘はここ最近痛感していることでもあった。


「相手がもうちょっと弱ければ

 色々試せるんだけどな……」


勿論これも都合のいい事のひとつだ。

ただ何も案が無いよりマシだろうと、

麻由が拾い上げた。


『それってどんなことですか?』


「海中に落として水圧はどうかなって。

 海の中って誰も活動してなかっただろ?」


『どうやってですか?』


「でかいハンマーで叩くか、紐つけて引っ張るか……

 それやるにしろバリアが問題でさ」


コーティグバリアを思いだす。

九条姫香との戦闘の時は機体同士の接触で両方とも弾かれてしまった。

あれがこちらで同じことが起きないとも限らない。

海の中に押し込みたいのに、それでは意味が無い。


もしかしたら、こちらだけが吹き飛ばされるだけかもしれない。

それだけならまだいいが、その隙に光の槍を撃ち込まれでもしたら、

たまったものではない。


『じゃあ私が解析してみます』


「出来るのか?」


『私が和弘さんを頼る分くらい私を頼って下さい』


言外というわけではないが『あなたも頼っています』という言葉に

和弘はなんとなく照れ臭い気分になる。

この世界に来たばかりの頃は後ろ向きに信頼を置いていたが、

今はもう少し前向きに信じてもいいはずだ。


バリアの解析が済んだら……

いや、解析に失敗しても次の手を考えよう。

そう思えるくらいには前向きになれる。


しかし打開策を考えているのは和弘達だけではない。

和弘が一歩ずつ踏み出した時には相手は既に仕掛けていた。


(なんだ? 攻撃が散漫になってきてるような……)


光の槍の攻撃範囲がレインティスプに集中していたのが、

そのまま数を増やし、射出角度を広くして、

広範囲にばら撒いている。


(あんなところに撃っても当たるはずないのに。

 移動先にヤマでも張ってるとしても、あれはちょっと……)


和弘が気づいた時は相手が光の槍をばら撒いてから

ある程度時間が経っていた頃だった。

それはつまり、気づいた時はもう遅かったという意味と同じだ。


普段通りに避けていたはずのモニターが

一瞬でフラッシュに包まれていた。


「うわああああっ!?」


思考が混乱し、意識は真っ白になる。

不意打ちで発生した状況が

危機感による焦りを伴って身体を硬直させる。


後ろにいる麻由の存在が、和弘の意識を若干ながら引き戻す。

フリーズから復帰した意識は最適な行動とまではいかないものの、

和弘に離脱行動を取らせた。


脱出するのに数秒。

普通ならやられても文句が言えない時間。

だが自己嫌悪に陥ってる場合じゃない。


「麻由! 被害状況は!?」


言いながら状況を確認。

無我夢中で何処にいるかも分からないが、

すぐにやられた理由ともども理解した。


レインティスプから見て右上、左上、右下、左下へ

外れて飛んだ光の槍。


そこから同じ色の線が繋がった膜になっていた。

点ではなく面による攻撃。

ネットのような形で絡めとられたような感じだ。


それが目の前に迫っていた。

慌ててそれを避ける。


和弘が無我夢中で操作した結果、

レインティスプはただ後退しただけのようだ。

光の槍よりも早く下がった、それだけだ。


自分の頭で状況を理解できると、たちまち思考も落ち着いてくる。

そして麻由の言葉で折角冷静になった心がまた揺らされた。


『和弘さん!

 レインティスプ、損傷無しです!』


ただし今度は良い方向にだ。


『コックピットへの転送機能と移動システムの空間歪曲が

 防御フィールドのような作用をしてるみたいです』


つまり空間自体が歪んでしまっているために、

攻撃が機体に届いていないということだ。


「初耳だぞ!?」


『避ける機体ですから、私も想定してませんよ!』


「そりゃ……もっともだ」


それに実際に消しているわけではないので、

命中した敵の攻撃が何処に行ってるのか

分からないのが不安要素としてあった。

コックピットに繋がればデッドエンドだ。


(いや、待てよ。

 あの光の槍ってバリアと同じなんだから……)


ふと、和弘に断片的な考えが思い浮かぶ。

今にも沈みそうなヒントを掬いあげて形にする。

出来た答えは球体への攻撃方法だ。


「麻由! バリアの解析は後だ!

 こいつがあと何発……いや、どのくらい耐えられるか計算できるか!?」


『わ、分かりました!』


その言葉と同時にモニターに麻由からのデータが表示される。

バリアの解析結果だ。破る方法までは出ていないので、

まだ解析中だったのだろう。


バリアのエネルギーを集めて飛ばすので、

バリアを張ったまま攻撃が可能。

全方向に飛ばすことは出来るので死角が無い、など。

今まで仮定していたものが確証に変わっていく。


(ついでに形も応用できる、か……)


それで先程痛い目をみたばかりだ。

光の槍も油断を誘う形なのかもしれない。

また何かやられたら今度こそ終わりなのかもしれない。

そんな考えが微かによぎる――――のを、断ち切るかのように。


『出来ました! 10秒なら確実に……』


それを聞いた瞬間、和弘は覚悟を決めた。

行動を下げ、再び球体を正面に捉える。


「麻由! スピードは現状維持。

 合図をしたらスピードレベルを一気に引き上げてくれ!」


『は、はいっ!』


少女は飛ぶ。

球体に向かって軽やかに、激しく。


次々に飛んで来る光の槍を避ける。

光の幕は腕を交差して突き抜けた。

干渉波による光が目を焼く。

このままではぶつかる、と思う距離になって――――


「今だっ!」


『はいっ!』


レインティスプはその場から消える。

白桜色の残滓をかすかに残して。



◇◆◇



「避けただとっ!?」


この球体に乗って、櫛木耕一は初めて叫び声をあげた。

当たったはずだ。光の干渉波は出ていたはずだ。

しかし目の前に映るのは、自分の仕掛けた罠である、

光の網を避ける少女の姿。


「時間を巻き戻したというのか!? 馬鹿な……!」


こんな理不尽なことがあってなるものか。

実際にそんな事は無い。

レインティスプは一度当たった後、後退して避けただけだ。


しかし後退速度は目に見えない速さだった為に、

耕一の目には『当たったと思ったら、避けていた』という風に

見えてしまっていた。


得体が知れない現象は焦りと恐怖を産む。

丁度彼が海上の人間にやったことと同じように。

だが耕一の戦意はこの程度で衰えない。

得体が知れないことなど百も承知だ。


少女が突撃してくる。

それに合わせて光の槍を撃ち続ける。

その中に混じった光の網は、

今度こそ捉えたかに見えたかに見えた。


しかし少女は手を顔の前に交差させると、

その網に突撃し、そのまま突き抜けた。

先程の当たるでもなく避けるでもない第三の結果。


「馬鹿なっ!?」


しかし光の槍は近接だから撃てないということはない。

バリアから生み出され、球体の性質上その死角は存在しない。

故に人為的ミスで無ければ、どの距離でも対応可能である。


しかし少女は球体に迫るその瞬間、消えた。

光の網を強行突破して、肉薄してまでチャンスを自ら不意にする。


果たして本当にそうだろうか?


「な……に……?」


耕一の心は揺らがない。

今まで革命軍を指揮していた年月の分、

調停者に対する感情の分、その決意は重い。


だが立て続けに起きた不可解の現象に

思考に空白が生まれる。

ほんの一瞬だった。

その一瞬で勝負はついた。


激しい音と共に衝撃。

機体が上下に揺れて、身体をコックピットに打ち据える。


「う、え……!?」


思わず上を見上げてしまう。

そこに見えるのはコックピットの天井だけだ。

だが櫛木耕一は見えるはずの無い光景を確かに見た。


突き抜けるような青空を背景に。

右手を突き出している少女の姿を。

その少女の表情は耕一にどう映っただろうか。



◇◆◇



元々アナザイムの移動からして、

その速度は人の目に捉えられるものではない。

それはレーダー……つまり機械でさえも。


しかしレインティスプはあえて見える速度で動いていた。

こ(・)う(・)い(・)う(・)()の(・)()に(・)。


元々の目的は海に叩き落すことならば、

直進すること自体がフェイク。

急激な速度変化は人の反射すら騙す為。


更に上空に飛んだレインティスプは

それ以上の速度で真っ逆さまに落ちていく。

突き出した右手は指を突き立てて球体を掴む形で固定する。


レインティスプの空間制御フィールドと球体のバリアが干渉を起こす。

それは大きな光となってモニターを白く染める。

あまりの眩しさに和弘はおもむろにモニターを切った。


「どうせ見えないならっ!!」


黒い画面の中に映し出されるのはデータ。

センサーの計測値と麻由が表示してくれる情報。


それはテツビトの戦闘において、

自分の目よりも信頼できると和弘は知っている。

後は操縦士として、和弘がそれに応えるだけだ。


その瞬間はすぐにやってきた。

レインティスプと球体が接触してから、わずか数秒にも満たない間。


レインティスプの突き出した手。

それが球体のバリアを突破して装甲に触れ、なお突き進む。

立てた指がめり込む手ごたえを和弘は感じた。


「いま、だっ!!」


和弘の手が動く。

レインティスプは球体に片手逆立ちのように倒立する形のままで、

その指から莫大な光を噴き出しながら、真っ逆さまに落ちていく。


落ちていく軌跡は光の柱となって、

両者とも海へ落下していった。



◇◆◇



かつてない賑わいを見せていた大規模戦闘。

祭りも同然だったはずの海域は今は見る影もない。

数多くの命が散り、無残な残骸が数多く残されていた。


誰もが初めて行うだろう救出作業は遅々として進まなかったが、

それでも必死に助けようとする意志が、人間としての矜持が、

徐々にではあるが落ち着きを取り戻そうとしていた。


人の命を吸って噴き出た炎と煙は空に暗雲を作り出していた。

今にも雨が降ってきそうな不安げな天気は、

この場の全ての人の心を映しているかのようだ。


生き残ったことへの希望と、

あの球体が降りてくることに対しての絶望。

つい先程の虐殺を行い、悪夢のような光景を作った謎の球体。

あれが降りてきたら今度こそ終わりだと、誰もが悟っていた。


恐らくその時は人間の尊厳など無視して、

逃げ惑うことだろう。


だからこそ誰もが目を向けた。

暗雲を吹き飛ばし、空から海に向かって突き刺さる巨大な光の柱を。

そして、その後の光景を。


それは夢か現か幻か。

光の柱が消えたその後に立つものは巨大な桜の樹。

遠くからでも見ることの出来るほどに大きい桜は、

海上に誰も見ることの無い大地をかすかに想起させた。


その場にいた誰もがその光景に見入っていた。

何が起こったのかは分からない。

しかしこの悪夢が終わったことを理解していた。


桜は美しく花びらを舞わせながら、

ただ悠然と咲き誇っていた……。


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