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外界機兵アナザイム  作者: 紅陽炎
29/31

29:幻想戦域

球体の中。その操縦士、櫛木耕一は

すぐにそれが調停者の刺客だと悟った。

あまりにも異質過ぎるからだ。


(子供だと? 馬鹿にしているのか!?)


上空へと昇っていく少女を球体は追いかけた。

上へ上へと上り詰め、辿り着いたそこは

眼下に雲を見下ろせるほど高い青空。

通常のテツビトならば辿り着けない位置。


「何処までも他の連中に姿を見せる気は無いらしいな!」


改めて正面の少女を見る。

長い金髪とゆったりしたドレス。

ますますもって人間のそれと変わらない外見だが、

人間は空を飛べないし、大きさも人と比べれば巨人だ。


(……テツビト、か)


羽があるわけでも無ければ機械部品も見えない。

周囲に粒子を放っているのか、若干光り輝いているように見える。

それが余計に幻想的に見えてしまうことが、

ますますもって耕一を不快にさせた。


(いや……)


櫛木耕一は思う。

そもそも道具とは人が使う為に生み出したものであり、

ある意味で人の肉体の延長だとも言える。


ならばテツビトに託されたものはなんだろう。

名前の通り『ヒト』――――『人』であればどうだろう。

戦闘効率を目指したならば、わざわざ人の形をとる必要は無い。

船外作業にしても、もっと適切な形があったはずだ。


それでも人の形にこだわると言うのなら、

それこそ人間の願いであり、エゴに他ならない。


ならば目の前にいる少女の姿をしたテツビトは

人が望んだ一つの形には違いない。

もし、あの少女の姿が滑稽に見えるなら、

それは相手を侮っていることに他ならないことだ。


何故なら、その姿は一つの終局点なのだから。

例え自分の望まぬ姿であったとしても、だ。

加えるならば勝つ可能性が無ければ自分の前に立たないはずだ。


そう考えた途端、目の前の存在が恐ろしい存在に見えだした。

顔に浮かぶあどけない表情(わざわざ表情があるとは凝ったものだ)も

油断でも誘う意図があるのかとすら思えてくる。

それが正しい姿だろうと櫛木耕一は考えを改めた。


「元より調停者のテツビトだ。

 油断などしないがな」



◇◆◇



空中で球体と向かい合う少女。

それらが最強のテツビトというのは何の冗談か。

そのシュールな光景を想像して和弘は苦笑する。


(あれはあれで、やり難い相手だな)


太陽光を反射する鈍色は、ただ自身を照らすだけ。

そこに次も砲台も模様も無い。

ツルッとした丸い装甲が見えるだけだ。


どこから見ても同じように見える。

それがどういう意味を持つか。


「砲台も無いのか。

 そう上手くはいかないな」


それは見た目の弱点が無く、

また死角が存在しないことを意味していた。

何処からどう攻撃しても、まったく同じ結果を返す。

それを突き詰めた形があの球体なのだろう。


「どうせバリアもあるだろうしな……」


機能性を追求した一つの極限。

シュールだと思うこと自体、

想像力が欠如しているのだと和弘は思った。


形や向き、威嚇するような外見など、

それがテツビトのような無機質であろうとも動きや表情が存在する。

しかし目の前の球体には、そういった情報が一切見えない。


何も見えてこない。

そのことが和弘に不安を煽る。


「和弘さん! 球体のデータ登録完了です。

 照準狙えます!」


その不安も麻由の声を聞けば闘志に変わる。

仕掛けたのが和弘が先だ。

調停者が扱う高出力のエネルギーガンを構える。


「ここは臆さず攻める!」


しかし先手を取ったのは球体の方だった。

照準を定め、引き金を引くところで、

光の槍がエネルギーガンを貫いた。


「速っ……!?」


間一髪、銃から手を離したところで

刺し貫かれたエネルギーガンが爆発する。

近くで起こった爆風は右腕を巻き込んだが、

しかしその手は健在どころか、袖ともどもなんともない。


それを皮切りに球体はレインティスプに向けて

次々に光の槍を撃ちだしてきた。

構えたエネルギーガンよりも先手を取れるほど、

圧倒的に速い光がレインティスプに向かう。


それほどまでに光の槍が速くても、

レインティスプの対応速度を超える程速くは無かった。

和弘から見るとスローモーションも同然の

光の槍をなんなくかわしていく。


「他に武器は!?」


言いながら和弘はここに来る途中で

麻由に教わったことを思い出す。

和弘の考えと呼応するように様々な近接武器が画面に表示される。

勿論この丁度いいタイミングは麻由の仕業だ。


「これだ!」


レインティスプの手の中で和弘が選択した武器が創られる。

物理強度を強化した立体データは物理攻撃の武器と相性が良い。

テツビトを壊して人を殺す、壊した破片が海を汚す、

この世界では禁断の武装である。普通ならば。


だが、この場所は普通じゃない。

和弘が選んだものは相手の攻撃方法と同様の槍。

更にそれを、投げた。


「行けえっ!」


機械制御された完璧なモーションで投擲した槍は

大きく弧を描いて球体に向かう。


今まで見ることが無い軌道だったのか、

単に今までと違う武器故に認識されることは無かったのか。

投げた槍は迎撃されることなく向かっていく。


そして球体に当たる直前でスパークを起こして、

その場で霧散して消えた。


「やっぱりバリアか!?」


カプセルバリアなどとは違う物理攻撃にも耐え得る障壁。

その強度に舌を巻く。


レインティスプが投擲した槍だって、

普通に使っている立体データなど比ではないくらい強力になっている。

アートラエスくらいなら一撃の元に破壊するくらい容易なものだ。

だが結果は逆に一撃で壊されてしまっている。


しかも形状が球体である以上、特に有効な武器があるとも思えない。

何処を攻撃しても効果は同じだろう。


(あの光の槍が砲台のようなもので飛ばしているなら、

 その瞬間に攻撃を叩き込んでもいいか……)


あれこれと考えを巡らせる和弘に

更に悪いニュースが続く。


『和弘さん、解析終わりました。

 あのバリアは装甲表面から発生しているようです』


「隙間は無いってことか。

 じゃあ相手の攻撃時にバリアが開くってことが?」


さっきまで考えていた和弘の作戦の半分くらいが潰された。

運が悪いと言うよりは、和弘が考えることくらい、

相手も考えているということだろう。


『それですが……あの光の槍はバリアを固形化して

 飛ばしているだけのようです』


「バリアを弾にして飛ばしてるようなものか」


それはつまり、こちらがさっきの立体データで盾を作っても、

向こうの攻撃は容易に貫けると言うことを意味する。


(いっそ巨大なハンマーで叩いてみるか?)


そう考えてみるものの、不確定要素に賭けるにはまだ早い。

どちらもダメージはゼロではあるが、

こちらの攻撃は相手に通用しないのに対して、

相手の攻撃はこちらに当たっていないだけだ。


この均衡は相手の攻撃をかわす和弘の集中力次第だ。

均衡が破れるとしたら……。


(どうする……?

 もう何も手立てが無いぞ!?)


その未来を想像してしまった和弘に

焦りが浮かび始めていた。



◇◆◇



一方で球体の中、櫛木耕一は()も(・)し(・)て(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

強いて言えば攻撃目標に設定したくらいである。

後は自動で攻撃を仕掛けているのを見ているだけだ。


「あの動きはなんだ?

 推進システムが違うのか?」


耕一は目の前の少女の動きの不可解さに目を見張っていた。

あり得ないほど急激な速度差でストップ&スタートを繰り返す。

その動きには見覚えがあった。


検証の為の戦闘映像で見た動きだ。

通常の動作、スロー、早送り。

勿論映像だから出来る動作だ。

しかし目の前の少女はそれを実践していた。


「まるで時間を操っているとでも言いたげだな……」


このまま同じことをしても永遠に当たらない気配はある。

しかし付け入る隙は見つけていた。

少女の構えるエネルギーガンを自動反撃で破壊したあの時。

あの少女は避けることが出来なかった。


あれで確信した。目の前の少女は人の操作だということを。

それはつまり人の意識外の事には反応出来ないということだ。


櫛木耕一は笑みを浮かべると

命令コマンドをいくつか付け加えた。


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