モノクロな時間から
_______________
「婦長、申し訳ありませんでした。」涙を溜めながら謝る美山
「美山さん、私達の仕事は命を預かる仕事です。
あなた方が思うように伝言はただの伝言。 きっと下らないと思ってたのでしょうね。
広沢さんの毎日を見てきてどう思った?患者さんの表情を毎日見てた?
ただ事務的に検温したり側脈したりと やっている事は同じよね。
あの方ね、いつからか急にイキイキとした表情をされるようになったの。
人間は楽しい事があると元気になれる。楽しみが先にあると病気に立ち向かう勇気も湧いてくる。 元気が漲るの。
病は気からって言うでしょ?薬じゃ効かない事でも治る事も稀じゃないわ
これから沢山経験をすると思うわ。
私達はそんな気持ちの上での、サポート的な事も必要になってくる
メンタル面の事ね。
こんな小さな事でもガックリ来てしまう方もいるわ
分かる?」
「はい分かります」
「この仕事はとてもハードで時に自分を見失う。けれどそんな時に大切な事を教えてくれるのがそれもまた患者さん、そう、人なのよ。
いろんな事を経験してその素晴らしさを実感したからこそ私は今ここにいる。
美山さん、あなたはあなた自身を大切にしてないの。だから人に優しく出来ないの。」
「、、はい。」優しく諭す様に話す婦長に美山は再び涙を流す
「さっ持ち場に戻りましょうか美山さん。」
「頑張りましょうね」
「・・・はい。婦長のおっしゃった通りの優しい方でしたね。山村さん・・普通ならすごく怒られてました私。
それが責める事もなく、しかもご自分が悪いだなんて・・・
ほんと私って最低です。」
「えぇ。それだけ長い人生を歩まれて来られたからよ。あの方に限らず人はみんなそうよ。
これからよ!美山さん。あなたも、これから!
さ、仕事しましょうか!」
「あの、婦長・・少し相談が・・」
_____________
「えぇ。わかったわ。頼みますね。」
____________________________________
「じいちゃん、ギターね楽器屋に見て貰ってきたから
ここに置いてくよ。 じいちゃん・・いや・・
今日は帰るわ。 」下を向いたままリュックを持ち直し病室を後にするタカヒロだった
「おう。 」
隆はハアと溜息をつく
タカヒロが持って来てくれたギターケースをベッドの上に上げる
カチャカチャと開け
中から相棒を出す
隆は頭の中の楽譜を開く
<Hey Jude>
静かに弾き始めた
この曲を いや、こうやって弾くのは何十年ぶりだろうか
見ず知らずのライブハウスでバイトをしながら生活してたっけな
せっかく家庭を持ったものの 俺の相棒はいつもコイツだった
モノクロの中の俺はいつも律子だけを思っていた
「二度と会えない、、、か。 」
ヘイ・ジュード いい加減にしろよ
あの子と出会ったからには捕まえてみろよ
あの子の心を抱きしめてみろよ
なんでも自分でしなきゃだめだ
ヘイ・ジュード ひるむなよ
悲しい歌も 楽しく歌えよ
あの子の事を思い出してさ
そうすれば きっとうまくいくさ
俺の横で歌う律子がいた
感情を入れるには意味が判ってないとって
和訳してたお前がいたな
どんな風に歌ってくれるのかを楽しみにしてたのにな・・
俺が全て悪いんだよ。律子。
「ヘイジュードのアルバム返さなくていいからね。いや借りたもんは返すさ
俺には俺の音があるんだけど 」
隆は思い出した
遠い遠い過去の律子との会話を。今、はっきりと鮮明に。
モノクロが薄っすらセピアに変わった。
「そうだ返さねえと。今返さねえと!」
隆はベッド脇の台の引き出しから携帯電話を出すとタカヒロに電話を掛けてみた
タカヒロはバスの中にいた
ブー・・・・ブー・・・・
携帯がタカヒロの鞄の中で騒がしくなってる事も気がつかぬまま
タカヒロはある場所に向かっていたのだった。




