絡み合う糸
「婦長、あの方偉そうですよね。」
「そうね。だけどあの方、山村さんの目は優しい目をしていたわ。私は何十年もいろんな患者さんを見て来ているわ 。いろんな事に不器用なのよ。きっとね。
私の目は確かよ。 」
看護士と婦長は談笑しながら持ち場に戻る
エレベーターが <チン>と音を立て扉が開く
車椅子に乗った律子と付き添いの看護士がいた
「広沢さん お帰りなさい。今日は顔色が良さそうね!」婦長が声を掛ける
「ええ。大袈裟に車椅子なんかに乗せてもらって、、。熱も下がったし食事もきちんと取れます」
「そう。良かった。退院まで後、僅かね!
そうそう入れ違いだったみたいね。広沢さんのお友達から伝言を預かってますよ!山村さんって方」
「あら!タカが来たの?残念だわ・・・。かわいい顔をした子でしょ。」律子が若い看護士に言った
「かわいい??ですか?」若い看護士が不思議そうに言う
婦長が続ける
「8階に入院している山村 隆さん おじいさんの方よ。伝言のお返事を持って来てくださったの。
このナースセンターまでね。直接会って渡されたら?って言ったんだけどね、会ってるのは孫の方で俺は顔も知らないからって慌ててさっき戻られたの。」
「・・・・」律子は動揺した。タカが・・隆が今ここに居たという現実に。
律子は感情を抑えながら婦長に尋ねた。
「おじいさんはどんな方?お会いしたかったわ。」
「ええ、とっても横柄で?ボソボソっと話される感じ。だけど優しい目をされてたわ。
ほんとはすごく優しい方だと私は印象受けたわ。ね!」
婦長は若い看護士に目配せをする
「そうですね。」若い看護士は無愛想に書類をトントンとデスクに打ちながら揃えると席を立った。
「そう。優しい目を・・」
「そうよ。無精髭を生やしていたけどあの方はきちんとすればとってもワイルドでいい男だと思うわよ~~」
婦長は明るく答え その伝言の紙を律子に手渡した
律子は部屋に戻りベッド脇の台から老眼鏡を取り、それを掛けた。
りっちゃんへ
・・・・・しかしながら
・・・・・・・・入れ違いに、
なっちまいます。
隆宏
「しかしながら? なっちまい・・ます? 隆宏・・」
律子は嬉しさと同時になんだかおかしくなり
クスっと笑った。
10代で、しかもあなたと違ってタカは丁寧に優しく物を言うわ。
自分で気付かなかったのかしら?
そう、嬉しさと同時に隆の純粋なところ、嘘をつくのが下手なところがおかしかった。
律子はコピー用紙に書かれた便箋代わりのそっけない紙ながら 胸に付け手紙を抱きしめた。
涙が一筋だけ頬を伝うのだ
こんなにも会いたかった人からの手紙。
名前を伏せているつもりでしょうけど分かるに決まってるでしょう。
左ききのあなたの字は少し右下がりの濃い字を書く。
あなたが書いたセットリストのメモを私が未だに持っていることすら知らないでしょう
50年という月日が流れそしてこんな形で繋がったのよ。今・・・。
隆に、隆に・・・・
「会いたい」
だけど、こんなにも年老いてしまったわ。私の事が分かるはずもなく、今更、会ったところでどうなるの?
どうしたいの私・・
ううん、違うわ。
私が結婚という形を選ばなかったのは・・・・。
あなたの孫が偶然ながらこの私と出会い、友達になった。そんな事は知るはずもなく、
このままお互いが退院すればこの50年間と、何も変わりなく
あなたが幸せでいてくれたなら、それでいいのかも知れない。そして、この先も月日が流れるだけの話で
それが運命なら
それで、、
いいのかも・・・しれない。
律子は隆の下手な嘘に乗っかる事とし、ペンを取る
[タカへ]
タカ 勉強の方はどうですか?
私は体調は戻りつつあるわ。薬の副作用がきつくて大変だったけど今はもう大丈夫。
早く本の続きを見たいわね。
タカは文化祭にはどんな曲をやるのかしら?
教えてくれない?
私も昔を思い出したわ。
私達のメンバーはねいろいろあったけど本当は心が一つってくらい仲が良かったのよ。
タカも部活で今頃たくさんの曲を練習している頃ね。
時間が作れたら、またりっちゃんとお話してくださいね。
[広沢 律子]
______________
[りっちゃんへ]
今は携帯電話の時代ですのでこんな手紙なんて珍しいのではないでしょうか。
毎日部活で文化祭の決め事をしています。
心の曲が<Hey Jude>との事ですが なんで心の曲になったのですか?聞かせてくれないか?
[隆宏]
二人は婦長の心使いで伝言のやりとりをするようになったのだ。
隆は忙しいタカヒロとは電話でのやりとりをしていた。
が、律子との伝言の事は黙っていた。このままもうしばらく律子と話がしたいと思ったのだ。
律子の心の中が知りたかった。
律子の中に少しでも俺の存在があるなら、
あるなら・・どうする訳でもなく・・ただ繋がりたい。今は・・・。
隆はタカヒロの名を借りつつも、気付かぬうちにいつもの語り癖が出ているのもわからぬまま
やりとりは続く




