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若葉の頃<6>

_____________

隆の肩に舞い降りた ひとひらの桜の花びらを律子はこっそりとポケットにしまっていた

二人だけの場所でたたずむその桜の花を律子は調べてみた。


北海道から来たその桜は<紅華 コウカ>と呼ばれ通常の桜よりはやや遅咲きで色も濃いものだった

「あーだから最後まで残ってたのね。」


その紅華の横には珍しく二部咲きの<十月桜>と呼ばれるものも植えられていて 全国でも珍しい場所だと

言う事も分かったのだ。散る桜の横で、新たに芽吹きを待つ桜。


律子は

きっと忘れない。そう思っていた。なんとなく<永遠>というものを感じたのだ


__________________________







「隆、いよいよだね!

Hey Judeのアルバム、返さなくていいからね」



「ありがとう、 借りたもんは返すさ。ただ文化祭終るまで もう少し聴いてていいか?俺には俺の音があるんだけど、・・まだ聴いていたい。必ず返すからさ」


「うん。分かった。じゃ 手垢一つ、付けないでよね!大事なもんだから。」


「あ、ああ 」



「冗談よ!タカなら許す! 」


「おい タカって呼ぶなよ。」

頭をかいて照れる隆


「今は二人だし!いいじゃない?タカ!タカ!タカ!タカー !!!」


「お、おい!

ここでいきなりキスしてやろうか!」


「ダメ、ダメよ! 」


はしゃぎながら階段を駆け上がる二人






先に教室にいた下野が隆を呼ぶ



「隆 順調か?ユニット?」


「まあな。

そうそう、下野ジミヘン好きだったよな!


やらねぇ? 」悪戯な笑いを浮かべ、隆は下野の首元に手を回し、窓際に連れて行く


「ん? 何を?」

「相談があるんだけど 。  サプライズだ ・・

ラスト2曲からドラムのテンポあげてくんねえ?」


「テンポ上げるのはヤバいんじゃね?」


「大丈夫みんなちゃんと聴いてるから

時間を作ってやりたい事がある

お前とやりたいんだ

俺ら最後だぜ?」


けしかける隆



「そうだな、、、 最後だな。 俺ら。 けどなんで内緒に?河本とかりっちゃんには?」


「ダメダメ出来なくなっちまう。」



「・・・隆、まさかとは思うが、、」


「そうだ。そのまさかをやる。」



「へぇー。 面白そうじゃん?」

「だろ?  おぬしも悪じゃのう?」 と隆が言うと

「いえいえお代官様ほどでは ・・」と下野がおどける。



アッハハハ


「革命だよな!」

「俺らは自由になるんだ。」





「おーい!新聞部の壁新聞と当日のパンフレットが掲示板にあるぞ! 」


河本がやってきた



「じゃ、下野。 男同士の約束だ 」

「おう。」 二人は右拳を付き合わせた

「あ、言い忘れたけど下野、この前聴いてて思ったんだが、少しだけ音が響きすぎてる感じがしたんだ。

もうちょっとタイトな音が欲しいんだがどう思う?」


「そうだな同感だ。裏面をキツ目にチューニングしておくよ。」


「うん よろしく。」隆は全力でライブの成功に掛けていた


「何をヒソヒソ話してたんだ?」二人を呼びに来た河本が聞く

「女の話に決まってんじゃん」下野が答える


「廊下の掲示板にさ、各クラブの出し物の詳細と写真が張り出されてたから見に行かねえ?」河本が誘う






_____________________文化祭当日



保護者や近隣の一般客が続々と正門から入り始めた


「幸助~~」

「あ、かあちゃん・・来たんだ・・」  下野の母親が自宅工場からそのままの恰好で来た。そして大声で息子を呼び止める

「来ちゃ行けなかったのかい?」

「エプロンくらいはずしてきなよ・・参観とかも昔っから来なかったくせ・・」

「学生時代は最後だろ?父ちゃんは工場の受注が特急だったからどうしても無理で。

最後なのにさ、、ごめんよ幸助。それと大学のお金なんとかなるよ。大村の伯父さんに借金する事にしたよ。

幸助頑張ってたから。  今日かあちゃん見てるから。頑張んなね!」


「・・・うん」

「もっと喜びなよ!大学を諦めなくていいんだよう。」小さい子に接するように幸助の頬を両手で挟みながら母は言う



下野は悩んだ。

男の約束、母との約束、、、


行きたかった大学へ行けるチャンスを自らの手で潰そうとしている


<アイツは金持ちで、金の事なんか考えなくていい、、苦労せずにすんなり行けるんだろ・・>


<俺たちは自由だ!・・・男の約束・・突き合わした拳に俺は嘘をつこうとしている・・>



「下野~~~リハよ!」部長の律子の声がした。


「りっちゃん・・どうしたらいいんだ俺・・」

「どしたの?顔色悪いよ?なんかあった?」


_________________下野は苦しくなって律子に打ち明けた


「俺は最低だ。男の約束も守れない。自分がかわいくて、、でも。・・」

「下野。言ってくれてありがと。人はそれぞれなんだよ。自分の人生じゃない。自分で決めていいのよ。

私が下野なら同じように決断してたもの。」


「隆の事、河本に言うの?止めるのか?」


「いいえ。聞かなかった事にする。隆も止めない。彼も彼が選んだ事だもの。結果がどう転ぼうとね。

ただ下野、テンポは変えないで!リハも今のままでやって。

みんなには迷惑掛ける事は許さないわ。部長としてね。

その後、どうするかは隆が決めるでしょ。


・・・・2部も・・・まぁいいや!後は運にまかせましょ!」明るく律子は言った。

下野は少し落ち着いたのだった


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