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第八話

 審判の時を待つように、ルーシーは目を瞑る。

 そんなルーシーを──カイルは抱き締めた。

 


「ルシアン。ベッドへ行こう」


「──ッ!」

 


 カイルはそのままルーシーの身体を抱き上げ、ゆっくりと立ち上がり、大きなベッドへと運ぶ。



「カ、カイル?」


「降ろすよ」



 ベッドに降ろされた身体が、柔らかな寝台にわずかに沈む。  

 固まってしまったルーシーをよそに、カイルはボタンの外れた上着を脱ぎ捨て、ベッドに腰を下ろした。


 そして、ルーシーの髪を指で梳く。



「ルシアン」


「ちょっ、ちょっとまって!!」



 ルーシーが慌てて声を上げると、カイルは手を止める。



「まっ、まだ、まだ心の準備が!! ちょっと待ってくれ……」



 カイルは何も言わない。

 ただ黙り、じっとルーシーに視線を向けるだけ。



「抱くのは、いい……覚悟してきたことだ。だけど、一つだけ、お願いしてもいいか?」



 ルーシーは一呼吸置く。

 


「ルーシーって、呼んでくれ…………ルーシーを、抱いてくれ」



 ──これが、自分を、ルシアンを守る最後の砦。


 ルーシーなら、なんだっていい。

 ルシアンの双子の姉として生まれ、ずっと隠されてきた存在なのだと。

 そんな姉が、救国の英雄様と結婚して、子を作ったのだと、言い訳できるから。


 でも、ルシアンだけはダメだ。



「ルシアン」



 名を呼ばれた。

 しかし、その名は双子の姉の名前ではない。



「……違う」


「ルシアン」


「違う、違う」


「ルシアン・アルヴェイン」

 

「違うっ、違う違う違う!!」



 ルーシーは叫ぶ。

 耳を塞ぎ、目を瞑り、身体を丸める。



「オレは! おれは、わたしは……ルーシーなんだ」


「聞いてくれ、ルシアン」


「嫌だ! なんで分かんねぇんだよ!!」


「ルシアン!!」


「──ッ!?」



 ルーシーの肩を掴み、叫ぶカイル。


 これまで生きてきて、初めて見るカイルの剣幕。

 思わずルーシーは口を噤む。



「俺が、憧れたのはルシアンなんだよ……」


「僕(・)が、あの日からずっと、一緒にいたいと願い続けたのは──誰でもない、ルシアンただ一人なんだ!!」



 ──心臓が、跳ねた。  

  



「ふっ、ふざけんな! なんなんだよ! お、おまえ。意味、わかんねぇよ……」


「何度でも言うよ、ルシアン。俺はルシアンとずっと一緒にいたいんだ。どんな関係でも構わない。ずっと隣にいたいんだ」


「だからそれが意味わかんねぇって! 言ってんだろ!」



 嫌だ。



「俺は君に救われたんだ。あの日、あの時、俺を見つけてくれたあの瞬間に!」



 どうして。



「ルシアン。これだけは聞いてくれ!」



 こんなにも──



「俺は、ルシアンが好きだ!」



 ──胸が高鳴るんだ。




◯────



「落ち着いたか?」


「落ち着いてなかったのはオマエじゃねぇか……」

 


 ベッドに二人、並んで腰掛ける。

 

 随分取り乱してしまった。

 それも、よりにもよってコイツの前で。


 でも、コイツが悪いんだ。

 オレのことを、好きだなんて言いやがる。



「ごめん。勝手に髪を触ってしまって」


「どこ謝ってんだ、てめぇ」


「……はっ! もしかして、俺が君を抱くつもりだと思ったのか? もちろん君を抱こうとか、そんなことをしようとしたんじゃないんだ!」


「……じゃあなんで上、脱いだんだよ」


「え? それは寝苦しいから……」


「ややこしいわ!」



 大きくため息をつきながら、ルシアンはベッドへ倒れる。



「ルシアン」


「……なんだよ」 


「俺は、別にルーシーを否定したわけじゃないんだ。ただ、ルシアンを殺してまでルーシーになる必要はないって思って」


「ルーシーとして生きてる君も、昔みたいな君も、俺はどっちも好きって言いたくて、それで、なんだ、上手く言えないけど──」



 身振り手振りを交え、あたふたしながらも伝えようとしてくるカイル。


 そんな彼を見て、ルーシー、否、ルシアンは笑った。



「ありがとな、カイル」


「──え?」


「あのさ。オマエさえ、嫌じゃなかったらでいいんだけどよ……寝る前に、こうやってオマエの部屋に来ても、いいか?」



 隣から突き刺さる視線を避けるように、ルシアンは目を逸らし、指と指を合わせる。

 


「まだ、オマエにルシアンとして抱かれるってのは、怖いから、無理だし……オマエには苦労をかけると思うけど……」


「気にしなくていい。大丈夫だよルシアン。俺はどんなルシアンでも好きだから」


「さっきから好き好き言い過ぎなんだよ……」



 コイツは、本当に馬鹿だ。

 こんなオレのどこが良いんだか。


 ルシアンは枕を手に取り、顔を埋めて丸くなる。


 

「まぁ、なんだ。オマエが本当に我慢できなくなったら……その、手でするぐらいは、してやるから……そん時は、言えよ?」



 枕から少し顔を上げ、カイルと目を合わせる。


 カイルはゆっくりと立ち上がった。そして──



「ルシアン──ちょっと走ってくる」


「は? 今から?」


「今日はありがと。また朝」


「ちょっ、カイル!?」



 脱いだ上着を引っ掴み、部屋を飛び出していくカイル。



「なんだってんだ。アイツ」



 そんな後ろ姿を眺めながら、ルシアンはコクリと首を傾げた。

 

 


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