第6話「俺たちは糞野郎になったのだ……」
第9章第6話「俺たちは糞野郎になったのだ……」
………………
『これが…、これが、天から齎される天罰であれば、どれほど救われた事だろうか……』
これは、ノーザンブリア全市民に対して勧告された緊急退去命令のわずか、30分後に観測された巨大なキノコ雲に対するある騎士王国貴族の感想であるが、実に的を得ていた。きっと地球の指導者たちや物理学者たちもこう思ったに違いない。『あの青い空が真っ赤に燃え上がり、生け生きようとするものを一瞬で焼き尽くす業火…。我々は、己が己で制御できない人工の太陽を、自ら作り出してしまった』と。
その恐怖は最初に実戦使用されたものよりも数千倍の威力向上を成し遂げ、全世界で数万発も保有するに至り、早期警戒戦力の実用化、IRBM撤廃によるリアクションタイム延長、SLBM実用化による何があろうと確実に人類を滅亡可能とする事による恐怖による支配、ABM条約による恐怖からの解放の拒絶……これら様々な恐怖の補強により誰かが最初のボタンを押した瞬間、目につくすべてのモノに対して破壊の限りを尽くすだろう。と断言できる『理性』を手に入れた。
『勝者はありません』
その理性は、この言葉が端的に示していた。相互確証破壊という狂気によって保障された安全が崩れたその時、人類は敵味方の区切りを付けず、残らず道連れにして滅亡するだろう。明確な死の恐怖によってのみ、それでしか自らを律すことができない人類が生み出した究極かつ確実ではあるものの、最終的であっては欲しくないその安全保障は、『人の歴史は戦争の歴史』とまで言われた血塗られた地球人類が滅亡のその時までただ唯一、他者を信頼した例となるのかもしれない。
少なくとも、地球の核保有国は必死にその力を制御しようと勇猛果敢に挑んだ。その制御は、『死にたくない』という最も基本的な人間の欲求にに頼った責任を放棄しているにも等しい解答しか出せなかった。
==========
==========
「急げ! 急げ! 重砲は置いていく、工兵隊! 爆破の準備を…」
「負傷者を1か所に集めろ! ここで処置をしている時間はない。後送に耐えうるだけの応急処置をしたら病院船に運び込め!」
「第3/94大隊、総員掌握! 第74号陸軍配当船に乗り込みます!」
「こちら、第1海上機動旅団司令部。隷下の全部隊に再度通達する。現在撤収中である。これから指示する地点に直ちに集合せよ。海軍軍港施設第4倉庫街操車場、職人街中央広場、東貿易地区客船埠頭、ケルヒン工業地区石炭揚陸場、シベリア鉄道連絡線埠頭……」
「こちらはルーメリア王国軍です! ノーザンブリア市民の皆さんに勧告します。 現在ノーザンブリアには全域に、緊急退去勧告が発令されています。直ちに、指定された集合地点に集合の上、退去してください。避難民集合点は東旧市街中央芸術会館前広場、ドランケル皇帝記念広場、サイオン戦役勝利記念公園、ブランティス総合運動公園、ノーザンブリア西第3商業ギルド会館駐車場……」
まぁ、当然と言えば当然なのだが、元々が150万人都市であるノーザンブリアにルーメリア王国と騎士王国の軍隊が首都最終決戦のために集まり、騎士王国軍15万と、ルーメリア王国軍40万(30万以上が後方支援部隊であり、宿営地管理部隊以外の大半は既に安全圏まで後退している)を合わせた200万人余りを30分で退避させようなどと不可能であった。それでもやれることはやる。だって死にたくないから。そう言った心理が働いているのだが、やはり敗戦国は悲しいらしい。騎士王国軍15万の過半数を占める負傷者は退避する騎士王国軍部隊が嗜好品として携行することとした女性兵士以外はそのほとんどが野戦病院に放置されることとなった。…あれ、おかしいな。予定では敗残国は悲惨なのだ。というつもりがやはり、騎士王国軍がクソなだけではないか? そんな疑問がわいてきたぞ…。
幸いにしてルーメリア王国軍の前線部隊はそのほとんどが第1軍集団作戦機動集団であるため機械化率は極めて高く、とりあえずルーメリア王国軍だけであれば、重装備を別にすれば一人残さず撤退することは可能そうであった。まぁ、24榴や15加の様な国力のいかんともしがたい差から機械化が遅れた日本陸軍ですら軍馬牽引をあきらめた重砲類は機械化率105%(5%の予備を保有するという意味)を達成していたため、量産性能が高くすぐに損害を回復できる重迫撃砲連隊の12迫や独立臼砲連隊の33臼は完全に切り捨て、より高コストな各種重装備類の撤収を優先した。これも一種の合理主義だろう。
撤収開始42分時点でルーメリア王国軍全軍が撤収完了し、安全なNBC防護対策がなされた退避壕への収容が完了したとの報告が入った。それから時を置き、撤収開始47分時点で、一人の男が国防軍で正式採用されている将来装輪戦闘車両計画によって開発された10式装輪装甲車の派生型である10式NBC偵察車の近くに2つの金属製のコンテナとTH3サーメートを地面に置き、一人ため息をつく。その心境は『まさか自分がこのような愚行を犯すことなろうとは……』である。
地球人類が必死に維持しようとした理性はスプートニクショックが、ボマー・ギャップ論が、ミサイル・ギャップ論が……恐怖にとらわれていたのか予算獲得に動いたのか(wwⅡ終了後、軍拡に歯止めがかかったのは事実である)それは分らないが、そう言った恐怖によって戦略核兵器やその運用環境を整えることにより整備された。しかし、その理性の前提条件を整備するのに少し遅れて、その理性を根底からぶち壊す戦術核兵器の整備がなされた。迫撃砲や榴弾砲から発射される核砲弾、オネスト・ジョンのようなロケット砲から発射される戦術核ロケット、F-106デルタダートの空対空核ロケット弾(当たらないのであれば至近弾すら致命傷になる様にすればいいじゃんという狂気の産物である。なお、これ防空戦闘機の武装である。つまり、放射性落下物が自国領内や同盟国領内に降り注ぐことになる)、など様々あるがこれらはまだまだ常識的な範疇にある。一番非常識なのはブルーピーコックであろう。鶏式保温装置とはなんなのか……。機密解除されたのがエイプリルフールであったことから英国人すら冗談だと思ったらしいが、別の日だったら信じたのか君らは……。と思ったのはこの小説を書くにあたりリサーチしたときのことだ。
アクティブディフェンスやエアランドバトルなどの全縦深同時打撃という世界恐慌にも匹敵する惨事に対応すべく、アメリカが考案した比較的まともな非常識な武器が目の前のコンテナの中にあるデイビークロケットである。
騎士王国の中心部との距離はおおよそ4000メートル。デイビークロケットの最大射程ギリギリである。なぜこのような危険を冒すのか。それは、時間的制約が主であった。ICBMやSLBMはプラットフォームの建設や訓練などの準備に数年単位で時間がかかり、IRBMもTELを最小射程の外側に移動するまでに1時間以上かかるため迅速な攻撃行動には不向きであった。そもそもが、3者ともに戦略兵器であって戦術兵器ではないため攻撃速度と言うモノは戦術兵器ほど重視されていなかった。戦略爆撃機に関してもそれだけのために高いコストを使った後で使い道がないばかりか、滑走路の整備に何カ月もかかるためこれも廃案となった。そのほか、榴弾砲による砲撃も考えられたが、後始末の問題から没となった、最後に残ったのは特殊核爆破資材とデイビークロケットであった。だが、特殊核爆破資材は固定兵器である以上、確実性にかけ、デイビークロケットは発射直後にNBC偵察車に駆け込めばほぼ影響はないとされ採用したのであった。
ゴォォォォォォォォ________…………
突然の閃光と最低でも440m/s以上の爆風、そして1000ケルビン以上の熱線に避難民や核兵器に関する知識などまったくない騎士王国軍は振り向き、失明した。そして不幸にもその熱線を直接浴びてしまったモノは地面に黒い影だけを残し、この世から物理的に離別した。そのため、人造の太陽を直視したことにより失明したという『報告』はほとんど上がらなかった。
1分後、爆発が収まり、伏せた状態から起き上がった、者たちが見た光景は、木材等の可燃物が軒並み燃え尽き、レンガや無鉄筋コンクリートなどの比較的脆弱な構造物が倒壊し、爆心地となった王宮施設が丸ごと消し飛んだ王都ノーザンブリアであった。
広島や長崎への原爆投下は既に東京大空襲などの通常兵器による民族浄化がなされていたため、科学的準軍事的には衝撃であったが、都市一つが丸ごと壊滅するということ自体にはもはや驚くほどのことではなかった。(事実、原爆疎開は新潟市でしかその事実を認定されていない)だが、この世界において戦闘により150万人が居住する世界最大級の都が壊滅したのは初めてのことであり、世界は恐怖した。たしかに、この世界この時代にも戦争の結果多数の都市が廃墟となったことはある。だがそれは、戦闘後の乱取りによって荒廃したのであって、直接的な戦火に飲まれ、消滅したのは2例目であり、2例ともルーメリア王国軍によるものであった。だが、国際法さえクリアしていれば、それ以前に行われていてもおかしくなかった。カーングラードとは違い、圧倒的な力による破壊は人々に恐怖を植え付けたのであった。
核兵器の本当に恐ろしい点は、爆発時の爆風や熱線さえしのげば、直ちに影響しない。という点である。遺伝子異常による白血病やがんの発症、免疫力の低下に奇形児の誕生などエトセトラエトセトラ。世代を超えて、数百年にわたる戦災を土地ではなく、生存者に背負わせることにある。時間がたつにつれ、被害が拡大し、悲劇と憎悪、恐怖を国民に植え付けていく。これこそが、他の通常兵器と異なる点であり、外交プレゼンスと密接な関係になってしまう原因だ。二大超大国保有による滅亡の恐怖による抑止と一強体制確立による恐怖支配体制の確立。何方がマシか? それは分らない。しかし、どちらにおいても薄氷の上に立つ安全保障体制であることは変わりない。
かくして、人類は新たなるステージ。恐怖からの逃避へと進んだのであった。その後、その世界初の核兵器実戦使用を行った男は、退役後に回顧録でこのように語っている。
『こうして俺たちは糞野郎になった。……人は、例え異なる世界であっても、異なる時代であっても、それが使える状況であるならば、何度でも愚行を繰り返す最低な生き物なのだ』
正直、私自身も忘れていたのですが主人公の武器や兵器などを召喚する能力って、FPSゲームのシステムを移植したということになっているのですよね。第1章の時点でインベントリー内部の在庫のデータがあったのですが、最初から核兵器アリはきつい……ということになってデーターの全消去ということになったのですが(ほかにも金欠で苦しまないと面白くないと思ったのがありますが、めんどくさくなるだけだったという)そのデータを出していないので唐突になったという……