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第9話「ノーザンブリア包囲戦」

第8章第9話「ノーザンブリア包囲戦」

…………………………


 統一歴1892年7月4日。騎士王国において、初ともいえる巨大な失態をノーザンブリアの民にさらした。いや、『建国後においては』という注釈をつけるべきであろう。なぜなら、そもそもこの国の元首、騎士王の初代は西の島国、現在の連合王国よりの流れ着いた落ち武者であるからだ。それに比べれば大したことは無い。ということは全くないが、100年ほど前に軍事史で唯一自らの名前を歴史区分に着けることに成功した偉大なる天才に数的優勢下の連合8万5000を損害わずか9000弱で完敗したり、最終的に冬将軍の手を借りることで追い返したとはいえ、国土を侵食されたことが些細なことになってしまうほどの大失態が目の前にあった。


 彼らが世界で最も美しい都と主張する(実際、サンクトペテルブルグは素晴らしい都市である)騎士王国王都ノーザンブリアは直ぐに鎮圧されるだろうという反徒ことルーメリア王国軍に完全に包囲されていた。


 開戦3日目にして西部戦線が随所に突破され、現在全面的に蹂躙と評するしかないほどの惨敗を重ねているほか世界最大最強としているバルチック艦隊(ロイヤルネイビーは本国艦隊、海峡艦隊、地中海艦隊、西インド艦隊、東インド艦隊、中国艦隊と複数に分割しているため単一艦隊での戦闘力評価であればランドルフ級戦艦が登場するまでは偽りなき最大最強であった)が弱小海軍と思っていたルーメリア王国海軍によって補足・撃滅された。


 また、騎士王国陸軍ワイバーン飛行隊所属のノーマルワイバーン600体、ワイバーンロード130体が開戦直後に一方的地上撃破され、わずかに残されたワイバーン各種と東部戦線より引き抜いた軍所属の戦闘用大型ワイバーン合計400体と緊急動員された訓練用や民間で郵便配達等に使用されていた本来であれば戦闘に耐えられない小型種900体を制空権獲得のため投入されるが、5日と立たずに壊滅した。


 え? あぁ、騎士王国軍は航空機はだめなのだが、ワイバーン騎兵は竜騎兵だから騎士道に反しない! むしろ素晴らしい! という考え方らしい。旧態歴然、瀕死の重病人、エトセトラエトセトラ。ロシア帝国やハンガリー=オーストリア二重帝国をさす様々な比喩が思い浮かんでくるが、ここまでひどくないはずだ。


 建国以来、王都ノーザンブリアに泥を付けられたのは今のところ5回しかない。1回は建国直後の動乱の時代。2つ目は正教会とカトリックの宗教戦争の飛び火、3つ目は国家親衛隊の反乱、4つ目が102旅団、現在の201旅団による救出作戦、5つ目が今回のノーザンブリア包囲戦である。4回目と5回目はおおよそ15カ月しか離れておらず、両方ともルーメリア王国によってもたらされた。さらに言うと、ルーメリア王国が独立したおかげで騎士王国が所有する有力な植民地がこぞって独立戦争を始めたためどれだけ呪詛の言葉吐き続けても足りない相手であった。


 すでに、騎士王国は3個師団を包囲軍に対して突撃させ、そのほとんどを戦死させている。また、現状都市部への砲撃こそされていないものの、都市外部のまるで付城の様に存在する7つの山岳要塞やワイバーン飛行場、飛行船発着場、軍補給倉庫、軍駐屯地、に対して、24榴や15加を装備する野戦重砲連隊が昼夜を問わず砲撃を続けている。おかげでノーザンブリア内部にとどまる騎士王国の人間たちは身分の関係なく、いつ自分たちの頭上に降り注ぐのかと戦々恐々としており、眠れぬ夜を過ごしていた。



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 ノーザンブリア市民が戦々恐々としている中、攻撃目標を選定する第1軍集団統合火力統制指揮所、第1軍集団参謀府作戦局火力作戦指揮班、野戦重砲兵連隊などの各部門の人間たちはノーザンブリア市街地に対して砲火力による攻撃は考えていなかった。流石にカーングラードと違い、ルーメリア王国にとって保護すべき自国民はいないため国家治安維持法は適応できないとしていたためだ。そもそも論として、中間補給拠点として有益でなおかつ、騎士王国軍による補給路を狙ったゲリラ攻撃の拠点になりうると予想されたカーングラードを消滅させるために成立させたのが国家治安維持法であった。侵略を国内治安維持活動と置き換え、軍隊を重武装な警察とを置き換えることで、戦時国際法を無力化するための方便であった。


 なお、砲火力の指向は考えていなかったが、航空火力の指向は考えていた。というよりもそれしか考えていなかった。今回投入する戦力は第101特務歩兵大隊と、第180特殊航空大隊であった。第180特殊航空大隊はヘリコプターを装備する部隊である。15カ月の歳月を経てやっと実戦投入にこぎつけたのである。


 実を言うと、運用は2回目になる。その記念すべき第1回目は大成功をおさめ、それを目撃した騎士王国軍の兵士たちも全員捕虜すら取らず殲滅しているから情報は漏れていないはずだ。まぁ、ワイバーンの2倍以上の速度と俊敏な機動性、ホバリング能力を持ち合わせ、現時点では如何なる航空兵器も及ばない攻撃力、単機にて歩兵1個分隊程度を輸送できる輸送力と、工業製品故の替えの効き具合を持ち合わせるヘリコプターに対して応急的な対策が有効かどうかは語るべくもない気がするが…




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 ルーメリア王国軍によるノーザンブリア攻略作戦が開始されるまで5時間前。


 暗闇に包まれた軍港の海中に8隻の特殊潜航艇がゆっくりと進んでいた。彼らは海軍特務と呼ばれる秘匿部隊であり、沿岸艦隊所属の水雷艇駆逐艦より進発した。乗り物は533㎜電池魚雷をベースに5メートルほど長くしたものに、4人分の座席と操縦装置、ジャイロコンパス、簡易的な潜望鏡をもつオープンカーならぬオープンミゼットサブマリンである。まぁ、マイアーレの大型バージョンと思ってくれれば問題ない。


 残念ながら循環式の酸素ボンベは用意できなかったため、呼吸する度に気泡が浮き出てしまうが、それは現場努力(バイザー型の金網)によって解決した。


 彼らは見張りの少ない岸壁から(おか)の上がり、各地に設置された大小41の沿岸砲台に近づき、それを爆破した。特に苦労したのが、射程33000の305㎜3連装砲を装備する第30番砲台と第35番砲台の2つであった。一体全体、極東でイエローモンキーの28榴に苦しめられた経験があるわけでもないのにどうしてセヴァストポリじみた要塞陣地があるの疑問だ。この砲台は当初、同質量のプラチナと同程度言われるほど高価であるが重量当たりの爆発力をC-4の4倍程度にまで高めた試製ハンドアックス高性能爆薬で無理やり爆破しようとしたのだが、全く効かなかった。そこで、火炎放射器で蒸し焼きにすることで対処した。


 当然騎士王国軍は直ちに反応するが、連日連夜の砲爆撃によりその士気はどん底であり、疲弊しきっていた近隣の警備部隊は赤子の手をひねるかのようにたやすく撃退された。


 直ちにまとまった部隊が急行するがそれに呼応するかの様に沿岸艦隊所属の特殊揚陸艦から発進した上陸用舟艇に乗った先遣隊の陸軍軽歩兵大隊が軍港を確保し、以後続々と増援部隊が海から進出し、夜明けまでに旅団規模の部隊が上陸に成功した。


 これにより、騎士王国はノーザンブリアに残っていたほとんどの予備部隊を投入し、何とか防衛ラインを再構築するが、予備戦力はほとんど使い切ってしまったということである。ルーメリア王国軍は戦死者517名、重傷者784名、車両53両大破、火砲34門大破と予想以上の損害を受けたが、陽動作戦は成功したのだった。







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