第7話「第1軍集団」
第8章第7話「第1軍集団」
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__汎用的飛行魔法。重力制御系魔術四大難問と言われる魔術の一つである。何が難しいか? 熱核融合炉、運動エネルギー回収型無限機関、偏向重力シールドなど他の難問にも言えることだが、重力制御術式はイメージが難しいという問題がある。魔法とはいかにして世界をだますかが要求される技術であり、魔術師は世界すら欺く世界最高峰の詐欺師である。そういう有識者もいるぐらいだ。だからこそ、火を出す、水を出す、といったイメージしやすいものよりも重力の制御と言うモノはイメージがしにくい。また、科学技術で実現されていないものだからイメージがわきにくい。だから発動難易度が極めて高いと言われている。
また、魔術と魔法の違いを示す時によく使う言葉として『魔法とは油彩絵の具であるが、魔術は水彩絵の具である』と言うモノがある。これは、魔法は重ね掛けが出来ないが、魔術には可能である。しかし、あまり重ね掛けをし続けると、それ以上色を重ねられない限界がいずれ訪れる。という意味なのだが、汎用的飛行魔法はこれがもろに影響する。
すなわち、ただ飛ぶだけなら簡単に実現可能であるが、そこに『空を自由に』等と考えた場合は重ね掛けの限界がすぐに来ることを覚悟しなければならない。これでは本当に自由に飛んでいるのか? という疑問が出てくる。また、その程度の魔法であれば、飛行機やジェットパックなど科学的な代替手段で十分であろう。という意見もあった。
だが、突破口は意外なところにあった。近接砲打撃戦である。この戦闘スタイルは一時期、ハリウッドのアクション映画ではやったガンカタに近いところがある。圧倒的な機動力をもってして、敵の懐に入り込み、左右や背面或いは上面より、攻撃を仕掛け、機動そのものやおとり、フェイントなどを使い分け、翻弄することで有効な反撃をさせずに直接攻撃或いは銃撃によって敵を撃破すると言うモノだ。これを達成するためには大前提が存在する。何らかの手段で自由度の高い高速移動技術を習得していること。
その何らかの手段で自由度の高い高速移動技術を習得していること。なのだが、これは一般的に移動の概念を強化する概念強化魔法が良く使われる。ただ、この概念強化魔法は単縦にA地点からB地点に移動するという概念に付随する移動速度というファクターを強化…つまり、移動速度の増速を行うだけで、A地点からB地点に直接向かわず、C地点を一度けいゆうしてからB地点に向かう。という設定が出来ない。そこで、概念強化魔法の移動所要時間を400ミリ秒程度にデジタル的処理で区切り、術者側からの干渉がない限り自動更新する制御技術を組み込んでいた。
__これを飛行魔法に応用すれば汎用的飛行魔法が実現できるのではないか?
そう言った疑問が出てきた。一枚のキャンパスに何十回も絵の具を塗っていったら、流石の水彩絵の具もほとんど黒になってしまう。だが、1回ごとにトレシを重ねていったら? そして、1回ごとにそのトレシを捨てていったら? 答えは簡単。いつまでも水彩絵の具の特徴的な鮮やかな透明感ある色が続くのである。
こうして、汎用的飛行魔法が完成したのは開戦2カ月前だった。そして、その短い期間で戦力化できたのは第301飛行歩兵大隊ただ一つのみであった。読者の諸君はこう思うかもしれない。
__たかが2カ月で戦力化できるわけねぇーだろ。仮にできたとしてもそれに対応した戦術が用意できるのか?
と。これに関しては問題ない。地球においてもアメリカなど一部先進国において、ジェットパックによる個人空中機動戦闘システムが開発され、大々的に運用が開始されていた。そのため戦術自体は存在している。そこに装備や士気、練度、戦場などの諸要素に合わせて微調整をしてもらう。当然だが、司令官の構想を全力をもって現実にするのは参謀や幕僚たちの職域である。そのため、俺は彼の仕事を奪わないようにしなければならない。という建前の元ほとんどかかわっていない。
彼らが装備するメインアームはアメリカ陸軍唯一の個人空中機動戦闘システム常時配備部隊である、第101空挺師団第4旅団戦闘団カラヒーがほぼ専用装備として装備するジェネナルダイナミクスRM277-Rである。これに100連発の複々列弾倉を組み合わせることで、遮蔽物がほとんど意味をなさない弾幕射撃が可能となる。ちなみにだが、何故ベルトリンク式を使わないかは、空中でベルトリンク式の再装填は非常に困難をを伴うという地球での運用研究の成果があるためだ。
まぁ、考えて見れば当然なのだが、地上部隊が機関銃を使う時、大抵はバイポを使用している。つまり、地面や遮蔽物に重量のほとんどを任せられる状況にあるのだ。だが空中からの場合は、スリングと片手で10キロ程度の機関銃を支えながらフィードカバーを開け、新しいベルトリンクを用意するという苦行が待っているのだ。たしかに、個人空中機動戦闘システムは20メートルクラスのジャンプが主であり、そのほかの用として、エアボーンやヘリボーン時にパラシュートやファストロープの代わりに使用する程度でしかない。だから、ベルトリンクの再装填などほとんどないのだが、万が一ということはあるし、ウイングスーツと併用して、高高度長長距離滑空作戦においては小型軽量で多弾数というのは何よりも重要なことであった。そこに都合よくNGSWによさげなものがあるではないか? これを採用しよう。という経緯で採用されたのだ。
対騎士王国大攻勢の主力を担う第1軍集団の最前衛、槍の穂先である作戦機動集団には第17機械化師団と第34自動車化師団、第1機甲師団、第101特務歩兵大隊、第301飛行歩兵大隊の5個部隊である。第101特務歩兵大隊が敵野戦司令部を撃滅し、第301飛行歩兵大隊が作戦上重要な目標を強襲するとともに、上空から基幹となる3個師団の援護を行う。第1機甲師団が有力な残存兵力を食い破り、第17機械化師団と第34自動車化師団が残りを平らげる。
それが作戦機動集団の基本的な作戦構想であり、上手く作用していた。そして、彼らの働きにより残存兵力をまとめ上げ、再編制することで組織的戦闘能力を再建しようとしていた騎士王国軍をずたずたに引き裂いた後は、軍砲兵によって掘り起こした後に、2個野戦軍と1個集団軍によって整地していく。