第6話「越境(前編)」
「ピピ、ピピ」
「ふぁー」
森に入り、夕方まで歩いたところで洞窟を発見し、そこで野営した。そのへんの枯れ木を集め、多目的シートを載せその上に寝袋という野営中の寝床としては上等な寝床だがやはり体が痛い。
水のうからタオルに水を染み込ませ、顔を拭き目を冷ましてからベルトキットとホルスターだけを装備して洞窟の外に出る。流石にいないとは思うが朝食中に追撃部隊に襲撃されたくないから外に敵がいないか確認する。
「あーさっぱりし――なんか来る?」
あれは……小鬼か?
足音が聞こえてからしばらくして姿を現した足音の主は醜悪な顔と緑色の皮膚が特徴的な小鬼だった。
こちらに近付く小鬼達は錆び付いた剣やナイフ、赤黒いシミがこびりついた棍棒を構え警戒するような足取りでゆっくりと進んでいるが、どうやら俺の事には気が付いていないようである。
恐らくは目覚まし時計の音で小鬼達を招き寄せてしまったのだろう。
……殺るか。
太もものホルスターから拳銃を抜き背を向けている小鬼の頭部に照準を置き、ダブルタップで頭を撃ち抜く。突然隣の小鬼の頭が吹き飛び、動揺している残りの小鬼に照準をスライドさせ、重なった瞬間にトリガーを絞り2人目も赤い花を咲かした。
仲間が2人殺られたものの、未だに俺がどこから攻撃しているのか分からずキョロキョロと辺りを見渡す小鬼達。そんな小鬼達に俺は情け容赦なく銃弾を浴びせ続ける。
だが、3匹目の小鬼の頭蓋骨を9ミリルガー弾でぶち抜いた直後、最後の小鬼が洞窟の奥から銃撃をくわえている俺の姿に気が付いた。
一瞬目が合い、お互いに動きが止まったが、すぐにトリガーを絞り、最後の小鬼を射殺した。
「まずいな…急がないと」
撃ってから気づいたが、昨日まで使っていたM1911と違いサプレッサーを装着していなかったのだ。銃声に反応した何かが近づいてくるかもしれない。
急いで洞窟に戻り、プレキャリを装備し、寝袋と多目的シートをストレージに収納した。アサルトバッグを実体化させ、バックパックからフィールドジャケットと予備のマガジン、戦闘糧食、水の入った水筒を移しベルトキットから雑のうとして使っていたブットバッグを入れてアサルトバッグを背負う。バックパックの方はストレージに収納した。最後にMCXとイサカM37を実体化させた。
装備を整えた俺は、自身の身の安全を優先し、その場を去ることになった。全く、朝から忙しいな。と思いつつどこか楽しんでいる自分がいた。
…………
「――うおっ!?」
あれから30分たち、そろそろ休憩をしようかと思い、丁度よい大きさの岩に腰掛けようとした瞬間、直前まで俺がいた所を一本の矢が通過し背後の地面に突き刺さる。
「や、やべぇ!?」
突然の敵襲に泡を食いつつもスリングで吊るしてあったMCXを引っ掴み、木の影に隠れる。警戒を怠っていたことを恥じるのを後回しにし、MCXのチャージングハンドルを少し引きチャンバー内に弾薬が装填されていることを確認し、地面に刺さった矢の方向から射手の位置を特定する。
えーと、矢の突き刺さっている角度を見る限り……木の上から撃ってるなこりゃ。どうりで気づかなかったわけだ。一応、自分では警戒しているつもりだったが一人ではどうしても穴ができてしまう。そこをうまくつかれたようだ。
「貴様か、騎士王国からの密偵というのは!残念だったな!私に見つかった不運を呪いながらここで死ね!」
いくら探そうと影も形も見つけられなかった相手から一方的に、そう叫ばれた俺はわざわざ自分の位置をさらす意図がわからなかった。
明らかに勘違いで襲撃されている事が分かった俺はあまり気乗りしないが、こういう手合は大抵、口で言ってもわかってもらえないので制圧することにした。
「覚悟っ!!」
しかし、言葉での説得を試みるために牽制射を撃とうとした俺は、いつの間に接近していた襲撃者――黒い外套を纏った相手に接近戦を挑まれてしまう。
「さっさと死ね!!」
「よっ、あっぶね!?」
念の為銃剣を装着していたイサカM37で受け流しながらタイミングを計り、襲撃者が焦れ決着を着けようと大振りな攻撃に出るのをひたすら待つ。
ところが襲撃者はお前の考えは分かっていると言わんばかりに、冷静に俺の急所ばかりを的確に狙って剣撃を繰り出してくる。
白兵戦はまず手足から軽いキズを負わせ、痛みや出血によって相手の戦闘能力を確実に奪い、弱体化したとことで急所を狙うのがセオリーだ。しかし、最初から目や心臓といった重要区画を狙ってきている。たしかに最小限の力と最小限の予備動作と適度に入るフェイントから高い力量を感じるが、どうも相手憎しが先行しすぎているように感じる。
心の奥底に憎しみという余計なものが入っているということは、じきに大ぶりの攻撃をしてくるはずだ。
「このっ、いい加減に――ッ!?」
__ほら来た
神経を磨り減らすような時間が続く中、待ちに待った瞬間がやって来る。
反撃しようともせず、余裕たっぷりに攻撃をヒラヒラと避け続ける俺にイラつき、襲撃者が手に握る直刀を大きく振りかぶったのだ。
銃剣のフィンガーガード部で襲撃者の剣を受け止め、一気に押し返そうとする。だが、向こうが上から切りかかっているという体勢ではうまく体重を入れられない。イサカを手放し、空いた手で力の拮抗が崩れ、前のめりに倒れる襲撃者の手首を掴み、そのまま投げ飛ばし十字固めで拘束した。
軍隊式格闘術を習得していたのが、俺の命を救う結果になったのだ。
「ぐっ……虜囚の辱しめは受けんぞ!!殺せ!!」
……………
○今日の補足説明
Qなんで一人で行動してんの?
A途中の街で降りたからです。
Qなんで奇襲されたの?
A人間という生き物は上下の警戒が疎かになりやすく米陸軍ではジャングルの中を複数人で行動するときは必ず2人以上を木の上の警戒に当てるように指導する教官もいるようです。
格闘戦のあれこれ
Qなぜ刃で受けないのか?
A刃で受けると刃が死ぬからです。
Q押し返すようなフェイントって?
A鍔迫り合いの構えを見せ上から振り下ろす形をとっている襲撃者に体重を載せさせてから一気に力を抜くことで前のめりにさせるためです。