第7話「前線将兵の憂鬱」
第6章第7話「前線将兵の憂鬱」
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東部国境付近 第26師団所属2/116歩兵大隊陣地
2210時
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「連中逃げていくぞ」
「まったく。今日はこれで終わりか?」
「しらん。ただ、あと……10分ぐらいで後ろの第6中隊と交代するから俺らには関係ないな」
ルーメリア王国が独立してから東の騎士王国とは何度も開戦と休戦を繰り返していたが、休戦の定義は『数万人が戦死するような大規模な戦闘をしない期間』と言うのであって、小競り合いが全くないと言う事ではなかった。
通常、そう言った状態を紛争状態だとか小康状態と言うのだが、王国南方領土のさらに南では小国が乱立しており、人口が3000人を超えると分離独立戦争が起こり、周辺諸国が後先考えずに軍事的経済的政治的に様々な支援を出鱈目に行ってきた結果、誰に強制されることもなく戦争が日常となってしまった地域がある。
この地域は古代よりアジアの大国がヨーロッパに勢力拡大をする場合、必ず通る必要がある地域であるため、欧州各国が積極的に投資した。と言う面もあるのだろうが、騎士王国に併合されるまでは中欧の大国であったルーメリア王国の足を引っ張りたいというのが実情だったように感じる。そのような地域があるからこそ、大規模な戦闘をしなければ平和だというイメージが定着してしまったという背景がある。
王国南方領土の西側に存在するさーびぃディス連邦共和国は『9つの国境、8つの自治区、6つの独立行政市、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、1つの国家』と形容されるキメラ国家だが不思議と平穏を保っている。その違いは何か?非常におもしr…興味深い議題だがここでは扱わないこととする。
騎士王国軍も最初は数個師団をぶつけてきたのだが、人的資源において大いなる不安を抱えるルーメリア王国軍はNATOと同じ考えに至った。すなわち、徹底的な攻勢阻止と兵站破壊である。長距離偵察パトロールによる敵進行意図の早期発見と友軍航空戦力による航空阻止、重砲兵による阻止砲撃、重迫撃砲、地雷原、狙撃銃、機関銃による濃密な弾幕射撃、自動車化歩兵による機動防御に加え、長距離戦闘パトロールによる物資集積場や補給部隊の襲撃を行っていた。
開戦から1年ほど経過したときから明らかに頻度と物量がガク落ちした。開戦半年で粗方防衛陣地が完成していることを考えるとよく頑張ったのではないだろうか?と言うのが後方勤務組の見方だが、前線将兵からしたら、身の危険が少しでも排除されるのであればそう言った小難しいことは心底どうでもいい。
騎士王国軍は余りの損害に耐えかねたのか最近は1階の攻撃に正規軍数個師団をぶつけるのではなく、懲罰兵や奴隷兵からなる数個大隊をぶつけるだけであり6重の地雷原を突破することすらできていない。そのため、阻止攻撃を要請する通信兵や実施する砲兵、兵士たちのために食事を作ったり、汚れた軍服を洗濯したりする需品部隊以外は比較的暇だった。
だからこそ、彼らは無駄話に興じる事が出来るのだ。ただ、この後死体を片付け、地雷を再敷設するという大仕事が残っている。10分後、後方待機中だった第6中隊が塹壕にやってきてさあ帰れるぞ!と言うところでその後片付けをやれと言われて絶望するのは別の話だ。
「……抜けたな」
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「向こうが都合よく突撃を噛ましてくれたおかげで砲兵がうるさかったからこちらのエンジンは聞こえてないでしょう」
「そうだな。…総員傾注! 前線を突破した。あと一時間もしないうちに目標に到着する! それまでに準備を終わらせておけ!」
「「「「「ッ応!!」」」」」
問題であった前線の突破方法の解決法は前線部隊による派手な戦闘音に紛れて強引に突破する。というものだった。その為、15時から待機していた彼らは様相が居になかなか始まらない先頭を待つことおおよそ7時間後にやっと出発できた。なにごとも予想通り、或いは都合よく物事が進むはずがない。と言う事実を彼らは学んだ。
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「偵察、戻りました」
「ああ、どうだった?」
「警備は合計70名前後、巡回が二人一組で4組。ドアなどに守衛が10名、残りは兵舎にいると思われる」
「物資は?」
「集積地中央の1か所にまとめられています。小山になっていて、篝火で囲まれているのですぐわかるかと」
集積地の300手前で待機した小隊より偵察に出していた部下からもたらされた情報は、おおむね出発前の情報と一致していた。その事前情報にも続き準備がされている。決行に際し大きな障害はないと判断できる。数の上で倍程度不利だが、任務の特性上完全に殲滅する必要はない。ただ、集積されている物資を焼き払えばいいだけと言う事を考えれば、コソコソして忍び込み、物資を焼き払い、敵に捕捉される前にスタコラサッサと逃げ帰ればいい
「10分後に集積地を襲撃する。グレックは車両部隊を率いて退路の確保を」
「了解」
「残りは、俺についてこい。集積地を襲撃する。出発は3分後だ。各員準備をしろ」