第4話「森の中の戦闘(前編)」
「なんだと!!!?」
〔ガッシャ―――ン!!〕
「ヒィィ!」
ここは騎士王国王宮の玉座の間だ。主に国王が謁見の義を執り行うときに使われているが、怒鳴り散らすときにも使われる。怒鳴っているのは当然、この国の国王であるオルクマルク3世だ。仮にも騎士王を名乗っておきながら、完全なビール腹なのは日頃の食生活と運動不足が原因だろう。
なぜ怒鳴っているかというと、囚人二人に脱獄された挙句、王宮施設のことごとくを破壊され、逃げ切られ、現在捜索中。と言う報告を受けたからだろう。
国王に報告をすると言う貧乏くじを引いた将軍はまた無茶ぶりが来るのかと内心ため息を付きながら言い訳を考えていた。しかし、それはいらぬ心配だったようだ。
「メルキャッツを使う!あいつを連れてこい!」
メルキャッツとは国王直轄の特殊部隊であり、平時は国王の身辺警護を行い、有事の際は要人の救出や暗殺など直接行動作戦のほか、心理戦や情報戦、不正規作戦を得意とする部隊だ。国王直轄であるこの部隊は、すべての部隊員が美女であり国王のハーレムであると言う噂がある。仮にも騎士王を名乗っているのだから女性関係はしっかりしてほしいものだ。
そんなことを考えつつ、陸軍参謀本部の使い走りでしかない将軍は、どうせ王国軍最高司令部隷下というどう考えても失敗したときの責任を負わなくて良い部署に移管できたのは嬉しいことだ。いつも邪魔ばかりしてくる王国最高司令部もたまには面倒ごとを引き受けてくれるようだ。と楽観視していた。
「貴様も歩兵軍団を率いて北の森を包囲し、絶対に逃がすな」
ただ、準備段階で楽観的な考えをするものは実行段階で痛い目を見るというのは世界すら超えるようで、しっぺ返しを受けてしまった。
……………
「あーーー!!ックソ!!なぜ私があのデブの妾にならなければならんのだ!!??」
私、ルシエ・エルンファルトは極悪人(本当か?)とか言う普人種の捕縛または殺害を命じられ、王都北部の森にやってきている。このだだっ広い森をひとりで探すとか無理な気もするがとりあえず感覚拡張を発動し、五感の拡張と鋭角化を行い索敵と奇襲への警戒をすることとする。
〔ピコ――ン〕
ッ!!
何だ今のは?もしや探知されていて、警告とでも言うのか?しかし、仲間のためにもここで引くわけには行かない!
……………
王都の北20キロほどにあるこの世界に来てからはじめての森の中でおよそ半日ぶりのまともな食事にありついていた。まともと言ってもレーションであるが……
後になって考えれば多分、レーションを温めるために火を使ったのが悪かったのだろう。気づいたのは偶然だった。その時俺は制服にチェストリグとPDWというPMCスタイリングの様な軽装備からコンバットシャツ&パンツに着替え、その上からタクティカルベルト、チェストリグ、トレッキングシューズと言うミリタリーな装備に変更していた。
MCXに代わる新しいプライマリーウェポンとして選択したのはオールマイティに活躍できるFN SCAR-Hだ。アサルトライフルではあるが、7.62㎜弾は射程・威力の2点が良好で、中距離での狙撃にも使用可能だ。特殊作戦部隊用に開発されただけあって、剛性もしっかりしているし、拡張性にも優れる。さらに人間工学的に優れた設計により反動も比較的制御しやすい。まぁ、ハンドガードが太く、コスタ撃ちがしにくいという欠点があるのだが……
セットアップはレシーバトップにACOGを設置し、バックアップにMBUSを乗せるという標準的なものだ。アッドオン式のグレネードランチャーやショットガンなどは火力が上がるが、それ以上に重量増と言うデメリットが積み重なるから装備していない。夜になったら、右のレールにフラッシュライトを装着する予定だが、こちらもまだ明るいうちはいらない。軽量性を重視したセットアップだが、ハートビートセンサーと言うものを取り付けている。これは超音波検査装置を索敵用にカスタマイズしたものと言う説明が分かりやすいだろうか?コウモリの様に超音波を当てて反射波にクラッター処理をする事で移動目標……人を見つけ出す装備だ。視界の効かない森の中では敵より優位に立てるようになる。
異変に気付いたのはそのハートビートセンサーの動作確認をした時だった。マニュアルでピンを打った時、索敵範囲ギリギリの場所に弱めの反応が返ってきた。故障かもしれないという希望香的観測が正しいことを願い、数秒後にもう一度、ピンを打ってみたところ、すさまじい速度で近づく反応をとらえた。
完全にこちらの位置がばれているとしか思えないほど迷いのない動きだ。急いでハートビートセンサーのモードを連続波照射に切り替え、銃のセーフティーを解除した。
ブレストニーリングという運動性と射撃安定性のバランスが取れた射撃姿勢でSCARを構え、ACOGのレンズの向こうの敵をにらむ。とんがった耳と華奢な体……ジャパンライズされたエルフと言うべき見た目だ。ファンタジーが正しいのであれば、近接戦闘力よりも遠距離戦闘力の方が高そうだが、油断はしない方がいいだろう。
〔プッシュ!!〕
引き金を絞ると同時に高性能サプレッサーにより減音された銃弾は銃口から飛び出し、マッハ2.15という超音速で飛翔し、音を置き去りにしながら標的に対して飛翔していった。
……………
〔パッシュン!!〕
ッ! 目にも止まらぬすさまじい速度で飛翔してきた矢が私が少し前までいた空間を貫き、その後方にある木の幹に突き刺さった。感覚拡張の魔法をかけていなければ探知などできなかっただろうし、探知出来てから実際に着弾するまでの時間がほとんどなかった。着弾してから飛翔音が聞こえたことから、考えても音より早いことは確かだ。
恐らく、これが銃と言う武器なのだろう。私たちエルフは自然とともに生きていると言えば聞こえがいいが、実際は僻地の限界集落に引きこもる呼吸する骨董品でしかない。何千年もの間使われ続けた弓矢の正統進化版である銃を長老たちは蛮族たちのおもちゃと笑っていたが、この距離で、この正確性……持たざる者の努力と言うものはすごいものだ。生きて帰ってこれるか怪しくなってきた。