双子の絆
タオフィに言われたあの日から…シャルロットは時間を見つけては祈っていた。
お兄様が元に戻るように…同時に、このままでもいいのでは?という考えも消えはしなかった。
バジルに様子を見に行ってもらい、近況を聞く。兄は今…沢山の人に可愛がられて、いつもニコニコ笑っているらしい。
写真を見せてもらったけれど、その姿は。自分の記憶にある…控えめな兄の笑顔と全く違った。大人しくて人見知りだと思い込んでいた兄は…本当は。
写真を握り締めて、ルシアンの言葉を思い出す。兄が友人を作る機会を奪っているのはお前だ、と言われた時。
何も知らないくせに…!と内心憤った。
「…何も知らなかったのは…私なのね…」
ならばいっそ…やり直せばいいのでは?
彼女はこの日、首都の神殿に足を運んでいた。それでも、どうしても近くにある皇宮には行けなかった。
礼拝堂で目を閉じて祈る。いつもなら大勢の人がいるはずなのに…偶然にも礼拝者は彼女とバジルしかいなかった。
すると…隣に誰かが座った。
「…グラス?」
「………」
彼は冷たい目でシャルロットを一瞥した後、前を向き静かに口を開いた。
「おれは。セレスが笑顔で生きていてくれればそれでいい」
「………私もよ」
彼も自分と同じ…そう解ってしまった。グラスはそれだけ言って姿を消してしまったが。これは、彼がルシアンと会話する4日前の出来事。
そうだ…双子じゃなくてもいいじゃない。私が姉で、セレスが歳の離れた弟でいいじゃない。
ゲルシェ先生(皇弟と聞き驚いた)が養父となってくれたのだし。もうセレスを傷付ける者はいないわ。
そうよ。お兄様はずっと私を守ってくれた。どんな時も…時には命を賭けてまで。だから今度は、私の番。
「セレス…大丈夫。これからは、仲良し姉弟になりましょう。
お姉ちゃんが守ってあげる。これ以上、誰にも傷付けられないように。その為ならどんな責め苦も厭わないわ」
「お嬢様…?」
彼女の左腕に巻かれた糸が…急速に存在を失っていく。このままであれば、シャルロットの願いは叶うだろう。あとは…セレスタン次第。
バジルはその美しい微笑みを恐ろしいと感じた。何か、取り返しのつかない事態になってしまうのでは…と。
「へーぇ、悲劇のオジョーサマってワケ?はっ、いーんじゃないっすか?俺カンドーしすぎて泣いちゃいますわー、およよ〜ん」
静寂な礼拝堂において、騎士の声はよく響いた。
シャルロットとバジルが振り向けば、ハーヴェイが靴音を鳴らしながら近付いて来る。
彼はふざけた口調で泣き真似をするが、指の隙間から見える目は冷酷だ。
シャルロットが座る椅子の横に立ち、早くスタンが大っきくなりますよーに!と祈る。でももうちょっと可愛さ堪能してからね、と付け加えた。
「…何よ。貴方、少しお兄様に慕われているからって…口出ししないでくれる?お兄様を誰よりも想っているのは私なんだから」
「…言っとくけどさ、その考え方きっしょいわー。自分に酔って周りを見なくて…そんなだから大事なモン失くすんですよ。
俺が何言ってるか分かんない?分かんないだろーなー!」
シャルロットは歯軋りをした。
彼は何を言いたいのだろう。本当に、解らない。
バジルは普段ハーヴェイの朗らかな姿しか知らないので、棘のある態度に驚きを隠せずにいる。
ハーヴェイは踵を返し、手をヒラヒラ振って礼拝堂を出ようとする。
「そんじゃ、俺これ以上貴女と話す事なんも無いんで。さいなら、シャルロットサマ」
「……待ちなさいよ」
ここまで言われ、シャルロットは引き下がれない。
長年兄と向き合おうとしなかった、自分の非は認めている。深く後悔もしている…だが。
「あんたに…そこまで言われる筋合いじゃないんだけど?所詮他人のクセに…!!」
メリ…ビキベギ…バギィ…
長椅子の背もたれを握り潰しながら、令嬢は騎士を射殺さんばかりの視線で刺す。
ハーヴェイとバジルはヒュッと喉を鳴らして「こわっ…」と同時に口から零す。神官は全員逃げた。
「ハァ…伯爵家の財政厳しいんだから、賠償問題起こすなよ…」
頭を掻きながら、ハーヴェイはもう一度シャルロットに向き直った。
大股で近寄り彼女の眼前に立ち見下ろす。どちらも怯まず、バチバチと火花を散らした。
「あのさあ。貴女…アンタの一番大事なモンって何?」
「お兄様に決まってんでしょ?」
「じゃあさ、なんでスタンが父親に理不尽な扱いを受けて…「お兄様を怒るお父様なんて嫌い!」で済ませんの?いや、済むと思ってんの?」
「そ…出来れば、お兄様と父親も…仲良くして、欲しかった…」
「その結果がコレ?この半端娘がよお」
「あ"…?」
ハーヴェイは肩を竦めた。
「そうやって騎士に突っかかる度胸をよ、なんで最初っから発揮しないの?アンタの中途半端な態度がどれだけスタンを追い詰めたか…分かる?」
ハーヴェイは額に青筋を浮かべた。全ての元凶は伯爵だが…シャルロットの態度も許せなかった。
「アンタが半端に庇うから、影で虐めればいいや!ってなるんだよ。
やるなら徹底的に悪女になれ。お兄様に暴言を吐いたならその口を縫い付ける。手を上げたなら斬り落とす…ぐらいの勢い見せろよ。
聖女だのなんだの言われていい気になってたんだろ?素直になってみろよ」
もちろん本当にやるなよ?と念を押す。彼女ならやりかねないので。
「それかアンタも一緒になってスタンを突き放せばよかったんだ。そうすりゃあの子はルキウス殿下の手を取れたんだ。バジル、お前もだ」
「……!!」
「皇太子殿下が…何?」
「教えてやんねー」
これまでルキウスを始めとし、何人もがセレスタンに手を差し伸べた。だが…
シャルロットとバジルがいるから。自分は逃げて、あの子達に全てを背負わせたくない。味方である彼らの存在は、セレスタンには重荷にもなっていた。
「自分の体面ばっか気にしてよ。ホラ、大事なモン落としちまった。それを俺らが拾った。で、アンタは返せ!ときた。
ははっ、スタンの意思なんてガン無視かい。それでよく最愛とか言えるな〜」
シャルロットは憤怒の表情で黙って聞いていた。そろそろ爆発しそう…とハーヴェイは退散する。
「目を背けるな」
彼は最後にそう告げ、完全に姿を消した。
シャルロットは屋敷に帰ってからも、ずっと繰り返し考える。何が正しくて、間違っているのか。
皇宮に来るよう連絡を受け…ハーヴェイの言葉が脳裏に浮かぶ。
「…ええ。行ってやろうじゃないのよ。私は間違っていない…!!」
「…………」
バジルは何も言えずただ俯くのみ。彼らはルクトルと共に馬車に乗ろうとした。
「行ってらっしゃいませ」
「…貴女も行かない?」
見送るナディアにそう訊ねた。彼女がセレスタンを慕っているのはシャルロットも理解している。幼児化してからは一度も顔を合わせていない事も…
だがナディアは首を横に振った。
「お近くにいても、恐らく私に出来る事はございません。それならば…私は与えられた役を全う致します」
シャルロットを支えて欲しいという願い。
いつか旅に出た時の為…サバイバルの腕を磨き、買い物の値切り交渉の特訓。更に刺繍も続けている、全てはセレスタンの力になる為に。
シャルロットは「分かったわ」と息を吐き、バジルにエスコートされ馬車に乗る。
馬車内ではルクトルと2人きり。シャルロットは少々気になっていた事を聞いてみる。
「…殿下」
「はい、なんですか?」
「伯爵家に来ていただき、本当に感謝しています。推薦があった、と伺いましたが。どなたから…?」
「叔父上、という事になっています」
含みのある言い方が気に掛かり首を傾げる。
ルクトルは小さく笑い、「内緒ですよ?」と前置きをして真実を教えてくれた。
「セレスタン君ですよ」
「え…」
「彼が僕に力になって欲しい、とお願いしてきたのです。部外者になってしまった自分では難しいから…」
『権力があって優秀なルクトル様にお願いしたいんです。あの子が学園を卒業するまでで結構ですので…どうか、力になってあげてください…』
その時の様子を思い出して微笑んだ。指をもじもじさせて、申し訳なさそうに眉を下げて。
そんな姿を見て、どうして突き放せるだろうか。
シャルロットは呆然とした。
「(離れても…私を気に掛けてくれていたの…?)」
自分は酷い事ばかりしたのに。
今だって…そんな優しい兄の消滅を望んでいる、のに?
「わ…わたし…なんてこと…!」
「ラサーニュ嬢…?」
兄の幸せばかり考えて、今までのセレスタンを蔑ろにしていた。そう気付き…爪を手の平に食い込ませて、懸命に涙を堪える。
「会いたい…お兄様…」
「…これから貴女達には沢山の時間がありますよ」
彼の笑顔が心に沁みて苦しい。
会いたい。今すぐ…大好きなお兄様に。弟ではなく…双子の片割れセレスタンに。
金色の糸はここにきて、輝きを取り戻してきた。
※※※
皇宮に着き、ルクトルと共にセレスタンがいる場所に案内される。そこには人集りが…何故か一様に顔を険しくさせているが。
シャルロットが前に躍り出ると、そこには。
腕を真っ赤にして汗と涙を流して、剣にもたれ掛かるセレスタンの姿があった。
「あっ、おい、ラサーニュ嬢!!」
「お兄様っ!!?」
ハーヴェイに肩を掴まれるも、勢いよく振り払い兄の元へ。その小さな身体が痛々しく、触れる事すら躊躇われた。
「お…おってぃ。おってぃ!!」
だが…セレスタンが歓喜の声を上げて、何度も名前を呼ぶ。
会いたかった、そう何度も何度も…
セレスタンはこんな自分を受け入れてくれた。なのに、私は…
「………っぁ…ああああああっ!!!」
これまで堪えていたものが、全て溢れ出てしまう。止められない、抑えられない!
小さな身体に縋り、大声で泣いた。はしたないとか情けないとか、今は全て吹っ飛んでしまう。ただただ、兄が愛しくて自分が情けなくて。
すると、2人を細く美しい黄金の糸が覆っていた。これがタオフィの言っていた…と思ったが、どうでもよかった。
「お兄様…お兄さまぁ…!ごめん、ごめんね」
「おってぃ、なかないで…やだ、やだよう。
だれっ!?ろってぃをなかせたのはっ!!?」
地面に蹲るシャルロットを前に、セレスタンは剣を引き抜き構えた。
最愛の妹を背に隠し…自分達を囲む大人達を睨み付ける。
「お、落ち着けスタン!」
「だれ!!?ゆるさない、ロッティをなかせたな!!
ロッティはぼくがまもる!!ぜったいに、ぜったいに!!!
ぼくはロッティのおにいちゃんなんだから!!」
幼いながらに、顔を険しくさせて周囲を見渡す。誰もが口を出せず、どうする?といった具合に顔を見合わせた。
「ま、まって、お兄さま。ちがっ、うの。誰も…悪くない、の」
シャルロットはしゃくり上げながら、なんとか誤解を解こうとする。
「ほんと…?ひどいこととか、こわいことされてない?だいじょうぶ?」
「ええ…大丈夫よ。だって…」
私の心を揺さぶるのは、いつだって貴方だもの。
嬉しいことも、悲しいことも。どんな時も…
ああ…やっぱり弟はやだ、お兄様がいい。
可愛くて格好良くて、いつも守ってくれるお兄様。大好きで大切な私のお兄様。
どれだけ嫌われていようとも…愛してる。
「……んぶっ!?」
「とりあえずコレでふこうね」
セレスタンは一先ず何か拭くものを探す。で、ジェルマンが持っている…自分のマントが目に入った。
それを奪い、思いっきりシャルロットの顔面に押し付けて上下する。
「待って、ちょっ。ぶ…ふふっ、あははっ!」
「ほら、きれいにしましょうねー」
「いたたた!きゃあ〜!」
「よし、かんぺき」
「うふふ、ありがとうお兄様」
拭き終われば、シャルロットの顔面は涙の跡やら擦られたせいやらで赤くなっていた。更に髪のセットは崩れ、地面に座り込んでいるからドレスも汚れている。
だが、涙で霞むバジルの目には。セレスタンと笑い合うその姿が…どんなに高価な宝石やドレスを纏った時よりも、輝いて見えるのだ。
「あー、なあにこれ?きれいだね」
「本当ね。私とお兄様を繋ぐ大切な物よ」
セレスタンは今頃糸に気付き、触れようと手を伸ばす。だがすり抜けてしまい、残念そうに頬を膨らませた。
「ふうん?へんなの」
「あら、何が?」
「だって…こんなものなくても、ぼくたちはつながっているよ」
「………うん」
「「えへへ」」
2人が小さく笑うと…糸が弾けて消滅した。その様子に大人達は騒然とする。
「な…!?消えちまったぞ、大丈夫か!!?」
「大丈夫ですよー」
慌てたハーヴェイがタオフィに掴み掛かるも、彼は笑顔で双子を見つめている。
糸は消えたのではなく、彼女らに吸収されたのだ。次第にセレスタンも、大人の姿に戻るだろう。
それを聞き、皆安堵の息を吐く。
じゃあ今のうちに、小さいセレスタンを堪能せねば。そう考え視線を戻すと…
「…えーと、お兄様?」
「のって」
セレスタンはシャルロットに背を向けて片膝を突き、短い両腕を背中に回している。
そう…おんぶだ。彼女は無謀にもシャルロットを背負おうとしているのだ。
「ぼくがおへやまでつれてってあげる!おにいちゃんだから、おにいちゃんですから!!」
「いや…その…」
誰か助けて…という期待を込めて周囲を見渡すが。気まずそうに目を逸らす者、笑いを堪える者、可愛い〜と悶える者。誰も手を出そうとしない。
困ったシャルロットは正直に、自分で歩けるわ。と断った、が。
「のってっ!!!」
「はっ、はい!」
ここまで押しの強い兄は初めてだ。そう驚きながらも、とりあえず中腰で肩に手を乗せる。この後どうしよう…?と考えていたら、シャルロットの身体が宙に浮いた。
「っ!?」
「シーッ」
ふわふわと、セレスタンの手に両膝が乗る形となった。犯人は、口元に人差し指を当てているタオフィ。
「(魔術かしら…?)」
「わあ、ロッティかるいね!」
立ち上がり歩き出す。シャルロットはちょっと体勢キツいな…と思いながらも笑顔だ。
すれ違う人々が「なんじゃありゃ!?」と驚愕の表情に。恥ずかしいけれど、一生懸命な姿に愛おしさが込み上げてくる。
「む、かいだん」
セレスタンは関門に足を止める。階段はいつも抱っこされているので、ジェルマンをじっと見上げた。
指名されたジェルマンだが。このままでは…シャルロットごと抱っこする事に?と躊躇う。
「セレスタン様、お嬢様。失礼致します」
「ぬおー」
そこでバジルが名乗りを上げて、セレスタンを正面から抱えた。必然的にシャルロットも近付き互いに赤面する。
後ろで「まただよ…」「天然タラシか…?」等々好き勝手言う声が聞こえてくるが無視。目的の階で下ろして、再びセレスタンは歩き出す。
「はい、ここがぼくのおへや!!さあはいって」
「はあい、お邪魔します」
「ほっほ、おかえりなさい。お嬢様、いらっしゃい」
中ではカリエが待っていて、シャルロットの事も快く出迎える。
双子の交流を邪魔しないよう、アビー、ジェルマン、ルシアン以外は席を外す。タオフィ、ハーヴェイ、デニス、アリスティドは扉の外で待機している。
カーペットの上に並んで座り、セレスタンは「あっ」と声を上げた。
「ロッティにあげたいものがあるの!」
「あら、何かしら?」
「いちご!!アビー、どこにあるの?」
その瞬間。セレスタン、シャルロット、バジル以外が凍りついた。
アビーはなんとか笑顔を作り、「今持って来ますね〜…」と返す。
「(ど、どうしましょう殿下!?2日前の苺ですし、もう捨てちゃいました!!)」
「(落ち着きなさい!とにかく今すぐ厨房に行き用意するんだ。生クリームをつけ忘れるな!)」
「(はい!!)」
彼女はダッシュで厨房へ向かう。その間セレスタンは、アリスティドから貰ったプリンを取り出していた。
「はい、あーん」
「あーん♡」
子供用の小さなスプーンで掬い、シャルロットの口に運ぶ。一口食べて、あら…?と目を見開いた。
「(これ…懐かしい味がする)」
「はい、つぎ」
「はーい♡」
どこで食べたのだろう…?と疑問に思うも、可愛らしい兄が待機しているので吹っ飛んだ。
時間を掛けて食べ終わり、次は私が食べさせてあげる!とスプーンを手に取ったのだが。丁度そのタイミングで、偽造された苺を持ってアビーが戻ってきた。
「ありがとー。ロッティ、はいどうぞ」
「え…これは?」
「えへへ〜。ロッティいちごすきだもんね」
セレスタンは全く気付いておらず、ルシアン達はこっそり息を吐いた。
そしてシャルロットは、兄の優しさを受け…再び込み上げてくる涙を堪える。
「(お兄様は…私なんかの事、嫌いなのに。小さいお兄様が…うぅ、やっぱり複雑だわ…)」
俯き膝の上で拳を握る。そこへ小さな手が重ねられ…自分を覗き込むセレスタンと目が合った。
「ロッティ。ぼくは…
君を憎むことはあっても。嫌いにはならないよ、絶対に。
愛してるよ、ロッティ。ずっと…」
「……………」
耳元で囁かれ、シャルロットは言葉を失った。幼児らしからぬ物言いと冷然さに、ぞくりと身体が震える。と、同時に…
「(お、お兄様が…私を見てくれている…
嫌いでも無関心でもない…憎んでいる。ああ、それは…きっと私だけの特権…!
お兄様、お兄様、お兄様…!!今貴方の目には私しか映っていない…)」
気分が高揚し、胸が高鳴る。畏怖と情愛が入り混じり、恍惚とした表情で兄を見つめる。
本能で危機を察知したバジルは、こっそり双子を引き剥がそうと画策した。
「そ、その。セレスタン様は一度シャワーを浴びられたほうがよろしいのでは?剣を振われたようですし…」
「…!そうだな!!アビー頼む、今すぐに!!」
「はいっ!」
「ほ?じゃあまっててね、ロッティ」
「はーいお兄様♡シャルロットはいつまでも待つわ♡」
他の者も賛同して、セレスタンは手を振りながら浴室に連れて行かれる。
シャルロットは残念そうに見送りながら、教会について話したいという皇帝に呼ばれて部屋を出た。何度も振り向きながら…
「ふー……」
「何があったんスか…?」
ルシアンは額の汗を拭い、やり切った表情。廊下で待機していた面々は異様な雰囲気に不思議がる。
それぞれ所用で席を外し、部屋にはアリスティドとジェルマンのみ残された。
「「……………」」
初対面である彼らが会話に困っていたその時。
「……きゃああっ!!?」
「「!!?」」
浴室からアビーの短い悲鳴が聞こえた。彼らは咄嗟の判断で駆け出し扉を開けた。
「「どうした!!」」
「あ……!!」
そしてすぐ後悔した。
「……ジェイル?アリス君…?」
「「は………」」
彼らの目線の先には…
座り込むアビーに覆い被さる、一糸纏わぬ姿のセレスタン(15歳)がいた…
「「「「…………」」」」
刹那とも永遠とも思える沈黙。それを破ったのはまずアリスティド。
女性に免疫のない彼は、一切顔色を変えず…鼻血を垂らして直角に倒れた。
「……きゃああああああっ!!!?」
「ジェルマン卿ーーー!!!早く出て、早く!!!」
「わわわ悪いっ!!あだだっ、今出るから!!!」
「シャーリィ!?今シャーリィの声が!!」
「「「我が君ー!!!」」」
ゴスッ!!という鈍い音を皮切りに、浴室は絶叫の嵐が発生した。
ジェルマンは重いアリスティドを引き摺り離脱を試みる。だが精霊達が波のように浴室に押し掛け、哀れジェルマン身動き取れず。
アビーは必死にタオルでセレスタンの身体を隠して。
セレスタンは首まで真っ赤に染めて、桶やら石鹸やら手当たり次第ジェルマンに投げつけている。
「おかえりなさい…セレスタン様」
カリエは隣の部屋で騒動を聞き、何が起きたか即座に把握した。
「何これー!!?ここはどこ、僕は誰ー!!?」
「ここは皇宮でお前はセレスタン!!そしてオレはジェルマン!!」
「出て行け変態騎士!!兄弟揃って覗きか!!ガス兄に言い付けてやる!!!」
「冤罪だー!!!…ジスラン何してんだ!!?」
ぎゃあぎゃあと騒動が収束しそうにないので、カリエは笑いながら重い腰を上げた。
「ほっほ…説明する事が多そうですなあ」
そう呟く彼の目尻には、僅かに涙が輝いていた。
「あら。気を利かせて全裸の時に戻るよう設定しておいたのだけれど。何やら騒がしいわね…」
クロノスの術は、衣服には効果が及ばない。




