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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
32/102

アカデミー2年生 03



 頭上に大量の?を浮かべながら挨拶をしたセレスタンは、促されるままに座った。


「野菜マジ美味かった…ぜ?ぞ?」


「はあ…」


 斜め前に座る、砕けた口調のこの男は本当に皇帝なのだろうか。疑問に思い始める程度には混乱している。胸元に『ローラン』という刺繍があるので、多分本人だろう。


「毎日食いたいから農家紹介して欲しいわ。皇室御用達とか要るか?」


「あなた、もうそれいいから」


「ちょっとお父様は黙って」


「すみません…」


 妻と娘に怒られて、皇帝は口を閉じて小さくなった。セレスタンはその姿にルキウスの影を見た。


 現在座っているのは皇帝夫妻、ルシファー、セレスタンのみ。皇子3人は立っているもので、セレスタンは非常に居心地が悪い。

 彼女の後ろに従者コンビが立ち、ランドールはルキウスの隣に立っている。プリスカもその隣、それと給仕が3人壁に控えている状況だ。

 騎士はギュスターヴとハーヴェイ。セレスタンは知り合いが多くて安心している。彼女への配慮だろう。


 向かいに座る皇后が、微笑みながら挨拶をする。


「初めまして、私はオフェリー・グランツ。そこの白ジャージの妻をやっております」


「(白ジャージて…)お目に掛かり光栄にございます。僕はセレスタン・ラサーニュです」


「私の紹介は不要よね!…野菜売り兄妹って、ラサーニュ君の事だったのよね」


 皇后の隣に座るルシファーが、興味津々そうに訊ねてきた。セレスタン側の事情はある程度弟達に聞いているらしい。


「は、はい。僕と後ろの2人で販売しておりました」


 バジルとグラスはスッと頭を下げた。ルシファーは3人を見比べて…首を傾げる。


「ええと…兄()設定って聞いてるけど…?」


「「「……………」」」


 従者コンビは心配そうにセレスタンを見下ろし、本人は硬直して「え…あ、う…」と言葉にならない声が漏れるばかり。


「…そ、の。僕が…じょ、そう、して…ま……ふぁい…」


 両手で顔を覆って、それ以上何も言えなくなってしまった。



 兄妹にした理由など無い。ただ…「セレスタン」でなければ、女の子になれると思った。それだけなのだ。そんな事言える訳もなく…女装癖があるって思われるだけじゃん!と恥ずかしくなってしまった。

 ルシファーはまずい事聞いたかしら…?と顔を引き攣らせる。



「………ぅ…」


「「「(泣いてる!!?)」」」


 ついには堪えきれず、泣く寸前である。完全に被害妄想ではあるが、責められている気がしてならないのだ。

 全員が滝のような冷や汗をかき、内心大パニック。そこでバジルがルキウスに向かって小さく手を挙げた。それに気付いたルキウスは、皇帝にアイコンタクトを送る。


「…そちらの少年、名は?発言を許可する。他の者も、今は公式的な場ではない。好きに発言しなさい」


「ありがとうございます。僕はラサーニュ家執事、バジル・リオと申します。

 畏れながら申し上げます。我が主人セレスタン様について、僕の提案で女性の振りをしていただきました。

 店番は男性が3人よりも…女性がいるほうが、お客様に安心してお買い物いただけると愚考した次第でございます」


 バジルは物怖じせず堂々と発言した。

 その言葉に全員がその通りだ、じゃあ仕方ない!と賛同する。だから泣かないで!と念じながら。



「(庇ってくれてる…バジルはすごいなあ…。僕なんて…なんて、情け無い…)」


「(いやぁ〜…怒りMAX状態のシャルロットお嬢様に比べると、陛下の御前でも気楽だなあ)」


 セレスタンも幼少期から伯爵の圧力に怯えていたが…彼のように「この人よりマシ」という考えにはならないようだ。

 グラスが優しく頭を撫でてくれて、段々と落ち着いてきた。その様子を…ルキウスは視線で射殺す勢いである。


「そちらの…少年は…私は初対面だな。名をなんと言う…?」


 今すぐ離れろ、代われ!!と叫びたい気持ちを抑えてグラスに発言を求める。グラスはバジルと視線を交わしてから口を開いた。


「自分は、グラスと申します。セレスタン様の従者です」


 彼は教育中だが覚えがよく、数ヶ月で会話も上達した。まだつっかえるが、意識すれば敬語も使える。約束通りそれ以上は語らず、ルキウスも聞かず。微妙な空気が流れた。



「も、申し訳ございません!少々取り乱してしまいまし…て…?」


 なんとか復活したセレスタンが声を上げる。だが…皇帝の後ろ、窓を見て固まってしまった。他の者もつられてそちらを見ると…



「………………………」



 窓の外に。耳をピンと立てて歯を剥き出しにしている、子犬形態のセレネがいたのであった。

 なんか怒ってる!?と、許可を得てから窓を開ける。セレネは彼女の腕に収まり、毛を膨らませた。


「あ、あの時の犬っ!?」


 ハーヴェイの発言で、数人は思い至ったらしい。お茶会でセレスタンにキスした犬だ!と。


「お前ら…シャーリィを泣かせたか……?」


「「「喋った!!?」」」


「あわわ…!泣いてないよ!!」


 セレネは威嚇したまま大きくなってみせた。突如巨大な狼が出現し、女性陣は短い悲鳴を上げた。騎士達が皇族一家の前に立ち、剣に手をかける。

 広い部屋とはいえ、真体のセレネがいるとちと狭い。セレネはセレスタンに巻き付くようにして密着した。


「あ!あの時の狼っ!!?」


 今度はランドールがそう言った。あの夜、屋上から見下ろしていた狼だ!と。


「まっまま待って!陛下、こちら僕の契約している精霊です!!害はありません、信じてくださいいい!!」


「精霊…?」


「落ち着いてセレネ、僕は大丈夫。この人達は敵じゃないよ」


「……本当か?シャーリィ、怖がってないか?」


「うん。セレネ達がいてくれるから…怖くないよ」


 セレスタンはセレネの首元にぎゅっと抱き付いた。それならば…と威嚇をやめる。ポフっと小さくなり、彼女の肩に乗った。

 大事に至らずセレスタン、バジル、グラスは胸を撫で下ろす。全員元の位置に戻り、皇帝の発言を待つ。



「その…精霊、とは?人語を操り姿を変えるなど…聞いた事も無いが…?」


 皇帝が恐る恐る聞くと…セレスタンは逡巡した後、観念して口を開いた。


「…この子は光の最上級精霊・フェンリルにございます。名はセレネ、縁ありまして僕と契約してくれました。ちなみにシャーリィとは僕の事です」


 彼女の発言に、一同口を開けている。


「信じ難いお話とは存じますが…本物です…

 それと他にも紹介したい子達がいます、おいで。バラ、セラ、ガブ」


 彼女が名を呼ぶと、同じく外で待機していた3体が姿を現した。全員人間サイズになっており、翼を広げて優雅に微笑みセレスタンに並んだ。

 彼らについても、いつまでも隠し通せるものではない。ならば先に紹介してしまおうと決断した。


「バラキエル、ここに」


「ガブリエル参りましたわ」


「セラフィエル、お呼びかい?」


 光り輝く3体を目前に、一同は言葉も出ない。正直なところ…セレネよりも神々しく目立っている。それに気付いたセレネが再び狼の姿になり、自慢の毛並みを靡かせてみる。


「この子達は中級から上級精霊天使に進化して、更にセレネの眷属になり上級以上の存在となりました」


「………ちょっと頭を整理させてくれない?」


 皇帝はテーブルに肘を突き、眉間に皺を寄せて両手を口元に当ててそう言った。暫く沈黙が落ちるが…バラキエルとガブリエルが、ルシアンに向かって飛んだ。


「な、なんだ!?」


「いつぞやは大変失礼を致しました」


「あの頃は私達も、お子様でしたわね…ふふっ」


「………もしやお前ら、私に退けと言っていた精霊か?」


 2体は頷く。ルシアンは美丈夫と美女に挟まれて、分かりやすく狼狽えた。バラキエルは彼の頭に腕を乗せて、ガブリエルは艶かしい動作で腕を組む。羨ましい…!というハーヴェイの呟きが、静まり返る室内によく響いた。


「こらっ!申し訳ございません殿下!」


「あ…いや…構わない」


 セレスタンが慌てて2体を引き剥がし、ルシアンに向かって勢いよく頭を下げる。

 しかしそれを切っ掛けに空気は軽くなり、皆思い思いに口を開く。


「ほう…眷属というシステムか…」


「美しい…まさに神話の天使様ね…」


「あのおチビちゃん達?すげー…」


 楽しげに雑談する若者を尻目に、皇帝は脳みそフル回転で何が正解なのかと考える。




「あー…まず、本当にそちらは光の最上級精霊殿で間違いな…」


 皇帝が確認しようとすると…セレネがセレスタンの後ろでカッ!と牙を剥いた。その形相に誰もが慄く、気付いていないのは彼に背を向けているラサーニュ家の3人のみ。


「ないようだな!!」


「?」


 セレスタンが振り向くと、ニコニコ顔のセレネ。前を向くと、また歯を剥き出しにする。

 皇帝は言葉を間違えたら死ぬ…!と気を引き締めた。


「(大前提として、彼の言葉は全て真実であるとする。フェンリルも、精霊の進化も。では…)あの野菜に力を込めたのは光の精霊殿で相違ないか?」


「んと…ドライアド、です」


「「「ごふぉっ!」」」


 ラサーニュ家とルシアン以外が吹き出した。


「…ドライアドとも、契約を…?」


「いえ。…誠に身勝手とは存じますが、詳細を語る事は出来ません。ただ…」



 セレスタンは簡潔に説明する。


・訳あってドライアドから畑を貰った。

・これまた訳あってお金が必要なのだが、家には頼れないので野菜を売る事にした。

・青果物に精霊の力が宿っている事は知らなかった。

・現在この事を知るのはこの場の全員とオーバンのみ。

・自分は公にしたくない、特に伯爵家には知られたくない。…といった具合に。



 全て聞いた皇帝は頭を抱えた。そして1つ疑問が浮かぶ。


「ドライアドと契約はしていない…もしや刻印を授かってはいないか?」


「………………はぃ」


 セレスタンはぐるぐるに目を泳がせた後、小さく肯定した。


「……他に…フェニックスの刻印も…?」


「!!?ど、どどどうして、それを…!?」


 不意打ちに対処出来ず、彼女は否定し忘れた。その様子にルキウス、ルクトル、ランドールが体を固くさせる。

 皇帝はそんな息子達に視線を向ける。刻印持ちは確認出来なかった…と聞いているが?という意を込めて。


 ルキウスは「この時が来たか…」と一度目を閉じて。真っ直ぐに皇帝を見据えた。



「……陛下。私は以前、虚偽の報告を致しました。申し訳ございません、如何様にも罰を受けます」


「………………」


「…え、え?ルキウス様…?」


 いきなり空気が重くなり、セレスタンは狼狽える。誰も言葉を発さず、彼女は顔を青くさせる。


「……何故そのような真似を?」


「…私の独だ「セレネだぞ」えっ?」


 突然割り込んだ声に皆気を取られた。そう、セレネである。


「セレネがその男に言ったんだぞ。シャーリィの許可なく言いふらしたら…殺すと」


「うええっ!?そんな事言ってたの!?」


 元生徒会トリオは目を丸くした。そんな事言われていない!だがセレスタンのリアクションから、セレネの発言は真実味を帯びている。


「そうだぞ。シャーリィは目立ちたくないんだよな?

 刻印は一種の契約。力の一部を譲渡して「この人間は自分の所有物だ」と誇示する為のモノ。

 人間にとって刻印持ちは希少なんだろ?お前らは…シャーリィが欲しいんだろ?だがこの子の意思を無視するような行いはセレネが許さん。だから、勝手に報告したら殺すぞ…と」


「………(嘘か真か、問い正す事は…フェンリルの発言を疑うという事…それは悪手か…)ならば仕方あるまい。ルキウス、此度の件は不問とする」


「!…いえ、陛下。わ」


「セレネが。そう。言ったんだぞ?だ・ぞ???」


「「「……はい…」」」


「ぎゃーーーっ!?殿下、ランディ兄ぃー!!」


 正直に話そうとするルキウスを、セレネが巨体で押し潰した。ついでに両脇に立っていたルクトルとランドールも巻き込んで。3人は床に突っ伏し、セレネはその上で欠伸をする。

 こんな態度ではあるが…セレネなりにルキウスを認めているのだろう。そうでなければ庇いはすまい。



 セレネがこの話題は終わり!と強引に線引きをする。

 皆言いたい事はあれど、大本命の青果物について話し合う。


「じゃあお金が欲しいだけなのよね?今後も売るの?」


「うーん…もう首都での商売はやめようかと。目立つし…初日で知り合いにバレましたし…」


 ルシファーの問いに、セレスタンはハーヴェイを見ながら答えた。彼は舌を出しながら「めんご」とおちゃらける。


「やめちゃうの!?もっと食べたかったわ…」


 しょぼんとするルシファーと皇后に、セレスタンはお土産があるんですと言った。

 天使達が翼の中から大きな包みを取り出す。どうやって仕舞ってたんだ?という疑問は皆押し殺す。


「えっと…こちらを」


「わあ、メロン?美味しそう…露天でも売ってたの?報告には無かったけど」


「いいえ、販売していません。野菜が売れなかったら、奥の手として出そうと思ってたんです」


 高級そうなメロンの登場に、女性陣が目を輝かせる。早速食べたい!との事で切ってもらう。


「何これ、今まで食べたどのメロンより美味しいわ!!」


「本当だ…これは1玉金貨10枚はくだらんな…」


「…………!!」


 その場の全員に振る舞われ、護衛のハーヴェイが「俺も俺も!」と催促する。セレスタンが笑いながら一切れ渡し、遠慮するギュスターヴにもお裾分け。更に給仕の3人にも、彼らは恐縮しながらも口にする。

 ルシアンは無言で2つ目に手を伸ばす、お気に召したようだ。


「セレス、オレには?」


「あ、待って。はい……どわあっ!?」


「えー…?あ、うめえなコリャ」


 セレスタンが何気なく渡したのは…ジェルマン。彼の登場に、皆「いつの間に!?」と驚いた。


「いや、今メロンを厨房から持って来たのオレだけど」


「……そういえば…そうですね?」


 兄であるギュスターヴすら気付かなかった。彼は本当に擬態、いや場に融和する才能があるのかもしれない。

 セレスタン達を襲った男達の調査と報告が終わったので合流したようだ。皇帝達は騒動を知らなかった為、ジェルマンに説明を求める。



「は。先程セレスタン達が店を畳んだ後の事です。不審な男2人が彼らを追っていたので尾行しました。

 目的は青果物の評判を聞き、畑の所在を突き止めて盗もうとしていたようです。ですが撒かれそうになり、慌てて追い掛けたら返り討ちに遭いました」


「そんな事が…!何かされていないか、怪我は!?」


「だ、大丈夫ですよ!バジルとグラスが捕まえてくれました!」


 ルキウスは狼狽して彼女の両腕を掴んだ。その返答に大きくため息をつき、そのまま隣に座った。


「よかった…やはり露天は危険か…」


「ひえぇ…」


 セレスタンの肩に額を乗せて無事を喜んだ。これ以上は本当に、もっと大きな事件になりかねない。なのでもう商売はやめるよう彼も懇願した。


「(近い…!)分かりました、やめますから!」


 だから離れて!と願うも動かず、彼女の隣にぴったりくっついてしまった。

 諦めて放置し話を進める。商売をやめたらもう食べられない…と悲しむルシファー。そこでセレスタンは、皇室に個人的に卸しましょうか?と提案。

 すると大喜びなのが皇后。即座に契約やら進めてしまった。提示された条件に不満はない。むしろ露天より大儲け、いいのかな?と遠慮する程。



「……一度、畑を見ていいかな?」


「………えっと…相当入り組んだ場所にあるんですけど…」


「いいよ」


 皇帝は親指を立てながら言った。セレスタンは困惑するも、商品の安全性・生産状況の視察は必要な事だよね…と納得。


 結果、伯爵に絶対気付かれないようお忍びで教会訪問が決定した。


「…何故そこまで父親に隠す?君が父親を…疎んでいるのは知っている。

 だが最上級精霊と心を通わす君の社会的地位は、伯爵なぞより遥かに上になる。

 君を縛れる物は何も無い。なのに…」



 ルキウスが彼女の手を握りながら訊ねる。どうして日陰の道を選ぶのか。公表すれば…女性として堂々と生きられるのに、だ。



「…ありがとうございます。でも僕は地位も名誉も要りません。僕には大きすぎます、だから…

 大切な人達を。領民を守れれば、それでいいんです。それ以上はこの手に余りますから」


 セレスタンも握り返し、苦笑しながら答えた。


「…ならば…私のこの手にも、預けてくれればいいのに…」


「ルキウス様…」


 彼らは頬を染めて見つめ合い、2人の世界に入ってしまった。その光景を目の当たりにした皇帝は、2人以外を呼び寄せて円陣を組み小声で話し始めた。



「え、どういう事?ウチの息子、ソッチ?」


「……………」


 セレスタンの事情を知る者はそっと目を逸らす。

 精霊に愛された子と繋がりが出来るのは嬉しいけど、男同士じゃ無理がある。

 なら…公女のルネと婚約とか勧める?と皇帝が言えば、プリスカが「私が婚約しましょうか!?ルキウス殿下の側近で、一応侯爵令嬢ですよ!」と名乗りを上げる。

 シャルロットと皇子の誰かが婚約する?という話になれば。ルシアンは速攻で「嫌です」と拒否、ルクトルも「うぅ〜ん…ははは、いやあ、はっは!」と誤魔化す。



 ボソボソ会議をする傍ら、ルキウス達はまだ帰って来ない。


「ルキウス様…刻印を知られてしまいました。以前の…僕の生涯を貴方に捧げるとは、一体…」


「薄々感付いているのではないか?私と生涯を共にする…そういう事だと」


「……僕は、伯爵になるんです…。でも…それは勅命ですか…?」


「いいや。父上すらも君に命を下す事は出来ない。だから…私は自身の力で、君を手に入れてみせる」


 熱い告白を受けて、セレスタンは真っ赤になっている。周囲からの視線には一切気付いていない。



「その手を離せぇ…!」


「馬鹿やめろ!!相手は皇太子殿下だぞ!!(てか殿下、告白してたの!?バレたってのは聞いてたけど!)」


 グラスが2人の間に割り込もうとするも、バジルが羽交い締めにして止める。

 だが話が進まないので、ルクトルがルキウスを引き摺って離す。



 畑の視察は明日。今後皇宮に青果物を持って来るのはセレスタン本人が、基本は毎週日曜日。

 話を纏めてセレスタンはそろそろ帰らなきゃ…と考えた。だがその前に、と皇帝が引き止める。


「君に何か褒賞を与えたい、どうか?」


「褒賞!?そんな、戴けるような事は何もしていません!!」


「いいや。こう言ってはなんだが…我々はこうして、最上級精霊殿との繋がりを持てた。それは金品には換え難い宝、偉業である。

 本来なら公表して然るべきなのだが、君はそれをよしとしない。ならばささやかでも贈り物をしたい、それだけだ」


 恐縮するセレスタンだが、ルクトルが笑顔で耳打ちをする。


「要するに「お宝あげるから精霊殿が暴走しないようお願いね、国の味方してね」って事ですよ。深く考えなくて大丈夫です、適当に宝物庫を漁りましょう」


「ええ…?」


 自分が望んでしまったら、セレネは国を滅ぼしかねないんだっけ…と考えた。天使達だって脅威だろう、今更になって自分がどれ程の力を有しているのか正確に理解した。

 じゃあ安そうな、埃をかぶってそうな物を貰おう…と決めた。



 その場は解散となり、皇帝夫妻に挨拶をして下がる。

 案内されて宝物庫の扉の前に立つ。従者は入れないと言うので、セレスタンとトリオが足を踏み入れた。

 精霊達も廊下待機。宝物を壊しそうで怖い、というセレスタンの考えによる判断だ。


「何か気になりましたら、遠慮なく手に取ってみてくださいね」


 薄暗くて少々空気がこもっているが、綺麗に掃除された部屋だった。宝物が整頓されて並び、セレスタンはおっかなびっくり眺める。


「わ、綺麗な装飾の剣…絶対高そう…。このお皿デカい!!何この王冠、宝石いっぱい!」


 いずれも高価そうな物ばかり、とても恐れ多くて手が出せない。

 なんか無いかな〜…と部屋中を歩く。その時…広い部屋の奥、壁に掛けられている細い剣が目に入った。


「………?」


 それはこの国の主流であるロングソードではなかった。大きさは近いが…形は違う。黒い鞘は少々反っていて、柄も凝っている。明らかにこの国の物ではなく…彼女は惹かれた。



 そろっと両手を伸ばし、剣に触れる。彼女の行動に気付いたルキウスが、慌てたように声を掛けた。


「あっ!?それは…!」


「……軽い…」


 が、間に合わず。セレスタンは剣を手に取り、まじまじと観察している。


「「「………!?」」」


 ほえー、と言いながら剣を掲げるセレスタン。トリオは何故か口を開けて凝視している。



 セレスタンが手にしている剣。それは…遥か遠い国で造られたもの。(カタナ)と呼ばれる片刃剣であった。

 



ハ「ジェルマン卿さー、潜入捜査とか超向いてんじゃね!?」

ジ「悪党諸共捕縛される未来しか視えない」

ハ「………すまん」

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― 新着の感想 ―
[一言] ミカさん登場かな。グラスの故郷に繋がるアイテムゲットかな。
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