アカデミー2年生 02
セレスタン達が商売を始めて約1ヶ月。今の所順調…と言うか、売れ残りは何処からともなく現れる騎士が買って行く。とにかく毎回完売である。
だが最近、売れ残る事が減った。どうやらドライアドの野菜が…「美味しい・健康になった気がする・肌が綺麗になった!」と評判になっているのだ。これにはセレスタンも喜ぶと同時に…
「…ラサーニュ領の皆に食べてもらいたいなあ…」
健康に良いと言うのならば。そろそろ…向こうでも安価で販売したいなあ、と考え始めた。
「いらっしゃいま…っせぇ!?」
「まっせえ?」
ある日。何気なく声を掛けた相手は…なんとオーバンだった。セレスタンは思わず声が上擦り、オーバンは首を傾げる。
「……ん?お前…まさかラサ」
「今日のオススメはジャガイモです!!」
「おう…?そっちはリオじゃ」
「ナスも美味しいですよ先生!!」
「先生っつってんじゃねーか。あと俺ナス嫌いだからいらん。
で…何やってんの?」
「「…………」」
おかしい…完璧な変装なのに…!と考えるセレスタン。いや、僕なんて茶髪を黒にした程度なんですけど…と諦めているバジル。
「僕はバート・カリエです。リオだかバジルだか言う人は知りませんね〜」(商品を包む)
「…………(まあ言いたくねえなら詮索しねえけど…)じゃあコレで会計な」
「「毎度あり!!」」
彼は適当に野菜と蜜柑を買って、その場を後にする。セレスタンは乗り切った!と満足気。
「兄貴が食いてえっつーから行ってみれば。この野菜がなんか特別なのか…?
黒髪美形兄妹が店員の生鮮店て…ほんと何やってんだあいつら…?」
オーバンはブツブツ言いながら、首都の中心に向かって歩いて行くのであった。
※※※
「ラサーニュ君。少し時間いいですか?」
「殿下?」
廊下をシャルロットとバジルと歩いていたら、ルクトルが声を掛けて来た。大事な用らしく、セレスタンと2人きりで話したいと言う。
了承すると、お昼に生徒会室集合。ランチは用意する…との事。
「じゃあ今日はお兄様いないのね…残念」
「まあまあ…ジスランとラブレーとルネさんがいるし」
相変わらずこの6人で昼は過ごしている。なんの話かな〜?と考えながらランチの時間がやって来た。
「セレスタン・ラサーニュです」
「いらっしゃい、待っていましたよ」
生徒会室にはルクトルと給仕しかいなかった。気まずいかな…とセレスタンは緊張していたが、彼が色々と話題を提供してくれて楽しい時間を過ごせた。
「ふう…では本題を」
食後、食器を下げてもらいお茶にしながら2人きり。何を言われるのか…と背筋を伸ばした。
「……いえね?雑談なのですが。
最近露天で…若い黒髪の兄妹が売る野菜が評判なんですよ」
「………へ…へぇ〜…」
セレスタンは目を泳がせて相槌を打つ。ルクトルは世間の評判を教えてくれるが、それらはセレスタンも聞いているもの。それが何か…?と訊ねる。
「…それが父上の手に渡りましてね」
「ぶっっっ!!!げっほ、ごほぉっ!」
危うく紅茶をルクトルに吹き掛けるところだった。なんとか堪えて咳き込む。
「ごほ…っ!そそ、それで…?」
「父上…皇帝陛下が「こりゃ美味い。私の肌ツルスベじゃない?」と仰いまして。それを聞いた母上と姉上は「いっぱい買って来てー!」と大はしゃぎ。
それで…皇室魔術師が、この野菜には精霊の力が宿っている…と言うのです」
「うえええっ!?」
それは初耳である。確かにドライアドの作ったものではあるが…
「詳しく調べてみると…体に良い成分が最大限にぎゅぎゅっと詰まってるらしいんですよ。毎日林檎を1個食べるだけで大概の病気の予防にもなるとか。更に怪我の治りが速くなり、魔力も若干回復して。
それで…父上が…次の週末、売り子兄妹を皇宮に招く計画を立てていましてね…」
「……………」
よし、逃げよう。もう首都で売るのやめよう。そう決意した。
「もしいなければ、書類の住所を訪ねるつもりみたいで」
「逃げらんねえ!!!」
思わず叫んでしまった。だがすぐに、最大の危機に気が付いた。
「あっ!!もう住所知られてます!?ラサーニュ伯爵に話行っちゃってます!?「オタクの領民が売ってる野菜パネえ」って!!?」
「(もう取り繕う余裕も無くなってますね…)だ、大丈夫ですよ。時間の問題かもしれませんが…」
セレスタンは頭を抱えた。父親に商売を知られるのだけは避けたい…!ならばどうする?
父親よりも…皇室よりも大いなる力に頼るしか…ないか…と。ついに覚悟を決めた。
目を閉じて深呼吸。遅かれ早かれ報告するべきだったんだから…と自分に言い聞かせる。
前髪を上げて眼鏡を取り、素顔でルクトルの目を見つめる。ルクトルはその瞳にやや見惚れつつ、彼女の言葉を待った。
「…第二皇子殿下に申し上げます。わたし達の販売している商品について…週末に必ずご説明致します。
ですのでどうか…それまで他言無用に願います。特にラサーニュ伯爵に連絡なさるのだけは…お控え頂きたく存じます…」
腰を折り深々と頭を下げて懇願した。ルクトルは優しく返事をする。
「お顔を上げてください。分かりました、約束します。当日は…どうしますか?」
「ありがとうございます。
…こちらから参ります。お話を通して頂けますか?」
「はい。それでは予定を入れておきますね」
セレスタンは膝の上でぎゅっと手を握った。
怖い…陛下に謁見するなんて。考えるだけで身体が震えてしまう。その心情を察したルクトルは彼女の肩に手を置き、微笑んでみせた。
「大丈夫です。非公式の面会にしますから…父上もプライベートではただのおじさんですから!」
「ううぅ…」
なんの慰めにもなっていなかった。セレスタンにとってただのおじさんでもイケオジでも、皇帝陛下である事に変わりはないのだから。
話は終わりかと思ったら、ルクトルは小さな箱を差し出してきた。促されるままに包みを開けると…眼鏡がケースに入っていた。
それは見ればすぐ分かる高級品。お洒落でセレスタンに良く似合いそうだった。
「そちらは兄上から。貴女の眼鏡のフレームを曲げてしまったらしく…お詫びだそうです」
「…素敵…じゃなくてっ!あんな安物の代わりがコレですか!?以前にも宝石を戴いたのに…!」
「貰ってあげてください。好きな子に贈り物をしたい男心ですよ」
その返事に思わず顔に熱が集まった。自分は受け入れる気も無いのに…等色々考えてしまう。それでもルクトルの強い要望で、有り難く受け取る事にした。
眼鏡ケースを撫でて目尻を下げる。嬉しい…そう思わずにはいられない。
しかし週末の事を考えると気が滅入る。複雑な心境のまま生徒会室を出て、もう授業が始まるので教室に…向かわず。別の方向に足を向ける。
※
コンコンコン
「失礼します〜」
「ん…ラサーニュ?今度はどうした、今ちょっと他に…」
セレスタンが行き着いたのは医務室。オーバンの問いには返事もせず、ベッドの上にボフンと倒れた。のそのそ布団の中に潜り込む、カタツムリの完成だ。
「………せんせぇ〜…」
「…なんだ」
「僕…僕…皇宮に行かなきゃならない〜…」
「「はあ?」」
今ステレオ感が。しかし彼女は気付かず、布団に包まったまま一方的に話す。
「僕達が売っている野菜が…凄い物だったらしくて。それを説明に行かなきゃいけないんです…
行きたくない〜…陛下と謁見なんて…怖いよう…やだぁ…うああぁぁん…」
最早オーバンには隠す気もなく、説明しながら泣き出してしまった。さっきまではルクトルの手前平然を装っていたが。本音はこの通り、イヤイヤと涙を流す。
オーバンは布団の上からさする。その時カーテンで隔たれた、セレスタンの隣のベッドにチラッと目を向けた。
「(やっぱお前だったんかい。なんで女装してんだよ)…それ、絶対に行かないといけないのか?」
「うん…行かないと、おじいちゃんに迷惑掛かっちゃう…それはもっとやだよう…
でも怖い…陛下とか…他にも偉い人がいっぱいいるんでしょう?やだやだ…う、ひっく、うぅぅあああ…」
布団ごとプルプル震えている。逃げられないと分かっているからこそ…こうして頼りになる大人に弱音を聞いてもらうのだ。
オーバンは困った顔で頭を掻き…ベッドに腰掛けて布団を優しく叩く。
「大丈夫だ。陛下は、まあ…ただの40オッサンだから。仕事から逃げて、騎士団長や宰相に簀巻きにされて執務室に連行されるようなジジイだから、な?」
な?と言われても。それは本当なのか、何故そんな事を知っているのか、不敬ではないか?疑問は尽きないが、それでも怖い。と言えば…
「あー…非公式の面会って言ってたよな。その…ジャージで待ってるかもしんねえぞ?」
「それは無いでしょう!?」
驚いて思わずガバッと布団を捲った。オーバンは「元気になったな」と笑い、ハンカチでセレスタンの顔を拭う。
「絶対大丈夫だ。どうしても嫌なら俺が付き添う」
「…ううん、大丈夫。バジルも一緒に行ってもらうつもりだし…頑張る」
その笑顔に力を抜き、セレスタンも控えめに笑った。オーバンがハーブティーを淹れてくれたので、2人で並んで飲む。
「んで…野菜の話は俺も聞いてる。なんでそんなモン持ってんだ?」
「……絶対内緒にしてくださいね?誰にも言わないでくださいね?」
「………おう」
彼は後ろのカーテンを気にしながら返事をした。
「実はね。その…木の最上級精霊・ドライアドの畑から持って来ているんです」
「ブフォアッ!!?」「へあっ!?」
斜め上からの攻撃にオーバンは噴き出した。後ろからも何か聞こえるが、彼の声がデカくてセレスタンには届かなかった。
「げほっ、ぐへぁ…それ、怒られないか…?」
オーバンは彼女の発言を戯言だ、嘘だなどと言わずにあっさり信じた。最上級精霊という伝説の存在を持ち出しているにも関わらず、だ。
それだけで彼女は嬉しくて、涙はもう止まっていた。
「いいんです、その畑は僕が貰ったようなものなんですから。領民の為に…使うんです。
それで今、お金が必要で…売ってたんですが…」
「…………そうか。詳しくは聞かんが…皇帝が畑を欲しがったらどうする…?」
「…手放す事は出来ません。陛下がそれで僕を罰するというのなら…最終手段に出ます」
「…どんな?」
「それは…秘密で!
聞いてくれてありがとうございました、お茶美味しかったです!週末は頑張ってきますね!」
セレスタンは礼を言い、一方的に会話を切って医務室を飛び出した。彼は呆然としていたが…大きくため息をつきベッドのカーテンを開けた。
「つー事だ。今の会話は他言無用、兄貴にもな」
「……分かっているさ、叔父上」
そう、セレスタンがいた隣のベッド。
そこには…ルシアンがいたのだ。
「はあ…大変な事になったな。しゃーねえ、俺からも釘刺しとくか」
皇子であるルシアンに叔父上と呼ばれたこの男。
名をオーバン・ゲルシェ、旧姓グランツ。正真正銘現皇帝ローラン・グランツの実弟である。しかしそれを知る者は、セレスタン世代にはほぼいない。
「お前もラサーニュのサポートしてやれよ?あんなに不安がってんだから」
「…私はかの、彼と親しくない。兄上達のほうが適任だろう」
「あっそ…まあ気に掛けてやってくれや」
ルシアンは家族には反抗的だが、何故か叔父に対しては素直だ。普通に会話もするし、頼ったりする。それで皇帝一家は、オーバンに嫉妬心剥き出しだったりするが。
オーバンは机に向かい、手紙を書き始めた。
「ほら、お前ももう帰れ。ったく、授業サボりやがって…」
ルシアンを追い出し、手紙をどこかに送る。その後机に頬杖を突き、ぼんやり考える。
セレスタン・ラサーニュ。まさか…最上級の寵愛を受けているのだろうか。あの子を手に入れる為に兄は…どう動くのだろうか。
アホだが愚かではないので、精霊を怒らせるような真似はすまいが。心配だなー…と思いながら体を伸ばす。
「ふんぐぅ〜…!ふへえ。
皇室に取り込むなら婚姻が一番か。でもルシファーはもう嫁ぎ先決まってるし…
あの子が女性だったら、ルキウスの嫁にされそうだなー。それかルクトル、ルシアン、皇室の男なら誰でもいいだろうよ。…まさか俺もか?」
ナイナイと笑いながら、通常業務に戻るのであった。
※※※
週末、セレスタン達はいつものように野菜を売っていた。約束の時間まで余裕があるからだ。
「…いるね〜、騎士。僕達を迎えに来たのかなあ…」
「放っておけ」
「(…実は毎回遠くから見られてるんだよなあ。セレスお嬢様とグラスは気付いていないみたいだけど)」
少し離れた所に、普段はいない騎士が立っている。セレスタンはため息をついた。
バジルに今回の件を話したら、野菜の噂が広まった時から、いつかこうなるだろうと思っていたと言う。なので入宮も冷静に受け止めている、頼もしい限りである。
今日はバジルだけ連れて行くつもりだったが。グラスが「おれも行く。絶対行く。行くったら行く」と聞かなかった。その為セレスタンを真ん中に、ぎゅうぎゅうに座っている。
グラスは教育も出来ていないので、留守番をさせたかった。皇宮に上がれる服も無いでしょ…と言えば、何処からか燕尾服を調達してきてしまった。
「じいさんに貰った」
「おじいちゃん…!」
セレスタンとバジルは呆れたが、これがまた似合うのだ。健康的になったグラスは予想以上に輝き、黙って微笑んでいれば爽やか系お兄さんになってしまった。
露天の客や町娘にも声を掛けられるが、本人は邪険に扱っている。
「こら、女の子に優しくしないと」
「必要無い。おれの大事な女は、お前だけ。
お前は、おれのものだ。逆に…おれの命も、お前のものだと覚えておけ」
「おおう…」
注意されればセレスタンの手を取って、真っ直ぐに目を見てそう言った。
セレスタンは思わず赤面してしまうが、命の恩人…もしくは絶対に逃がさない仇…的な意味だろうと思っている。
とにかく服もある、じゃあおれも行ける。とグラスは引かなかった。最近の彼はセレスタンの従者を自称しているので、外出に付き添うのは当然だと。
仕方ないので訊ねられた時に自己紹介する以外、口を開くなよ!!とバジルに言い聞かされているが。
本日も売れ行きは好調。最近は個数制限をしないと、あっという間に売り切れてしまう。
それでも1時間早くに完売。彼らは後片付けをして、荷物を預ける為に歩き出す。だが…
「……お嬢様、どうなさいますか?」
「うーん…とりあえず無力化させて」
「「了解」」
彼らの後方、10m程離れた場所から…不審な男2人が付いて来るのだ。足取りからして素人だろう、戦闘訓練を積んでいるバジル、同じく鍛えられているセレスタン、感覚の鋭いグラスはすぐ気付いた。
遠回りして、人気の無い道を進む。そして路地裏に誘い込んだところで…バジルとグラスが荷物を放り投げ、男達に襲い掛かった。
「あがっ!!?」
「なんだ、呆気ない」
慌てて追い掛けた男達は、奇襲に一切の対応も出来ず沈んだ。グラスはスキンヘッドの腕を捻り上げながら、バジルに目を向けた。
「うげ。音も無いのか、お前は…」
「悲鳴を聞いて仲間が来るかもしれないだろ」
「ほぉ〜ん…」
バジルの腕の中には、泡を吹いて失神している髭面の男。セレスタンは2人の鮮やかな手際に感嘆の声を漏らしていた。
男達の目的は野菜か…セレスタンを誘拐するつもりだったのかもしれない。許す気もなく、騒ぐスキンヘッドも意識を落として警備に突き出す事にした。
「あー、やっとくから。お前らすげーな、オレの出番無かったわ」
「「「ぎゃぁあああああっ!!?」」」
「えー…」
だが…突然目の前に制服姿の騎士が現れて、3人は飛び上がった。よく見るとジェルマンで、驚かさないでください!!とセレスタンは憤った。
「いやオレ…ずっとお前らの店の横に立ってたんだけど。マジで気付いてなかった…?」
「「「………………」」」
そう。彼は最初からずっといた。バジルは「今日は視線2つ感じるなー…?」とは思っていたが、場所は分からなかったのだ。
ジェルマンは後片付けも手伝っていたのだが。「誰かそっち持ってー」「んー」と、普通に溶け込んでいた。自然すぎて精霊すらもスルーしていた。
彼は不審な男にも当然気付いていた。行動したら即座に捕縛しようとしていたら…先に従者コンビが片付けてしまったという訳だ。
「その男…セレネにも分からなかったぞ…。隠密、いや擬態の才能あるんじゃないか?」
「ん?今の声…誰?」
ジェルマンは男達を抱えながら周囲を見渡す。しかし声の主は見当たらず…首を傾げながら「後でなー」と言いながら去って行く。
呆然とする3人だが、今はそれどころではない。借りている倉庫の中で着替えて、皇宮に向かうのだ。
セレスタンは誕生日プレゼントで、プリスカに貰った礼服に着替える。ルキウスに貰ったブローチ、眼鏡を掛けて髪もセットする。キリッとしてみせれば美少年の完成だ。
従者コンビも燕尾服姿になり準備万端。歩き始めると…
「おーい、こっちこっち」
「ん…ランディ兄?」
声のするほうを振り向けば、ランドールが手を振っていた。彼は馬車に乗るよう言い、セレスタンは戸惑いながらも乗り込む。
「はあ…これから陛下とお会いするんですよね…」
「大丈夫大丈夫、俺もよくお話しするが…気さくな方だから」
「そりゃランディ兄は殿下の幼馴染ですもん…!」
馬車に乗り、一層緊張が増すセレスタン。そんな中でもグラスをランドールに紹介したりと、和やかな雰囲気のまま皇宮に向かう。
10分程で目的地に到着、セレスタンは大きな門を見上げて身体を震わす。門を通り馬車から降りると…
「セレスタン。よく来てくれた、突然の事で申し訳ないが…」
「………ルキウス様……?」
ルキウスが迎えに来てくれたのだ。その顔は申し訳無さそうに、珍しく眉が下がっている。
しかしセレスタン一行にとって、そんなのどうでもよかった。
「なん…で…、ジャージ姿なんですか……?」
「…………………さあ、父上が待っているぞ」
「いやいやいやいや?」
そう、ルキウスは荘厳な皇宮には似つかわしくないジャージ(青)を着用していたのだ。
セレスタンの疑問は完全スルー、彼女の手を取り歩き出す。慌ててバジルとグラスもついて行くが…グラスは2人の握られた手を凝視している。
「(なんだこの男……?馴れ馴れしい…!!)」
「(頼むから、騒ぎを起こさないでくれよ〜…)」
様々な感情を抱えたまま、皇室のプライベートサロンまでやって来た。この中に陛下が…!とセレスタンは足が竦み、ルキウスの手をぎゅっと握る。
「(可愛い…)その…親戚のおじさんだと思えばいい」
「どうすれば陛下が親戚のおじさんになるんですかぁ…!」
彼女にはどんな慰めも耳に届かない。ルキウスはなんとか緊張を解そうとする。
「…眼鏡、掛けてくれているんだな。ブローチも…よく似合っている」
「…!あ、ありがとうございます!眼鏡もとっても素敵で…お気に入りなんですよ」
「そっか」
微笑むルキウス、周囲の騎士はレア顔だ!!と内心大騒ぎ。
グラスは微笑み合う2人を見て黒いオーラを撒き散らし、バジルが腕をつねっている。少しだけ空気が和らいだところで…
「………入らないんですか?」
「ふぁぼっ!?ルッルクトル殿下ッ!?」
扉が内側から開けられた。彼もジャージ(緑)で…セレスタンは目を丸くした。
さあどうぞ、と中に通されると…そこには。
「らっしゃい」
「いらっしゃい、待ってたわ〜」
「お久しぶりね、ラサーニュ君」
「…………………」
そこには…皇帝(白)、皇后(黄)、ルシファー(赤)、ルシアン(黒)が待っていた。
全員全身ジャージ姿で。セレスタンは困惑と畏れと緊張、もうどうしたらいいのか分からず。
「……僕もジャージにすればよかった……?」
ポツリと呟きながら、立ち尽くすしかないのであった。
おまけ、数日前。
「ん?オーバンから手紙…珍しいな?どれどれ…
『黒髪野菜売り兄妹は俺の知り合いだった。妹は特に怖がりで泣き虫だ、皇宮に呼ぶなら絶対にビビらせんな。つーかもうジャージ着て終始フランクにしてろ。死にたくなければな』
………クィンシー」
「はい?」
※クィンシー・ナハト、宰相でランドールパパ。
「今すぐ私にジャージを用意しろ。ついでに家族全員分」
「………何故ですか?」
「そうしないと私は死ぬらしい」
「……???ではすぐご用意致します」(執務室を出て行く)
「よろしく。ふむ…フランクに、か。
……オーバンを参考にしてみようか……らっしゃい、まあ座れ。こんな感じか?」
突っ込んでくれる人が誰もいなかったが故の悲劇である。
ジャージに巻き込まれた家族。面白そう!!色違いでお揃いにしよう!とノリノリ。ルシアンは表面では嫌々だったが、内心面白がっている。




