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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
19/102

アカデミー1年生 18



 セレスタンは後日、改めて自室でクッキーを作り生徒会室に持って行く事にした。オーブンは無いので寮の厨房で貸してもらった。

 しかし生徒会室は、人見知りの彼女が訪ねるにはハードルの高い場所。悩みに悩んで…


「ロッティ〜…お願いがあるの…」


「任せてお兄様、誰が目障りなの?」


「違うよお!?」


 頼りになり過ぎる妹に助けを求めるのであった。が、事情を聞いたバジルの発言にセレスタンは驚いた。


「確か…生徒会に差し入れは禁止ですよ?」


「うっそお!?」


 生徒会には成績優秀者が多数在籍している。その為お近付きになりたい生徒が多く、禁止にしないと贈り物で溢れかえってしまうのだ。折角作ったのに、と肩を落とす。


「形にも拘ってみたのに…」


 どれどれ?とシャルロット、バジル、ジスランが覗き込むと…袋の中にはデフォルメされた動物型のクッキーが。いずれも丁寧に作られており、彼女の気持ちがこもっている事がよく分かる。何故かゴリラだけリアルなのだが。


「はあ…そもそも手作りの時点で駄目だよねえ。仕方ない、皆でこれ食べよっか」


 わーい!と喜ぶ3人。この日は学園のサロンで楽しいお茶会にするのでした。




 ※※※




「だったら個人的にくれても、いいんだが…!?」


「そ、その手が……!!!」


 数日後、週末。いつものようにラサーニュ邸に遊びに来たルキウス。クッキーの話を聞き項垂れていた。そんな彼を見ながらこっそりと勝ち誇った顔をするジスラン。同行者のランドール、ギュスターヴ、ハーヴェイは笑いを堪えている。

 話の流れで、じゃあ今作ろうかなという事に。セレスタンはシャルロットも呼ぶと言い出した。


「(男性は胃袋を掴め!僕が掴んでも意味無いし、ルキウス様もロッティと楽しい共同作業で…近付く2人の距離、触れ合う手。うん、名案!)」


 彼女はまだシャルロットとルキウスをくっ付ける事を諦めていなかった。伯爵からの圧力も顔を合わせる度にあるのだ。

 しかしお菓子作りと聞いて、ジスランとバジルは顔面蒼白だ。


「セレス、ロッティを犯罪者にしたいのか…!?」


「なんで!?」


 このままではシャルロットに皇太子毒殺の容疑を掛けられる…!そう危惧した2人は、やんわりと彼女の同席を拒むのであった。

 納得出来ないが、彼らの必死さが伝わったセレスタンは諦めた。その様子にルキウスはため息をつき…


「はあ…セレスタン。以前から思っていたが、お前は私とラサーニュ嬢を結ぼうとしているのか?」


「……え…っと〜…ですね…」


 伯爵の指示だと言う事は知っている。それでも…セレスタンの本心がどこにあるのか知りたかった。


「私も彼女も、互いに特別な感情を抱いてはいない。それは分かるだろう?」


「(う…確かに)」


 そう…彼らの婚約を望んでいるのは、伯爵夫妻と使用人のみ。当人同士の感情など一切考慮しないまま…

 それを指摘されたセレスタンは、眉をハの字にして言葉に詰まってしまった。


「……もしも彼女が私を慕ってくれていたとして。私にそのような感情は無いし…政治的観点から言ってもラサーニュ家の令嬢と結婚する必要は無い」


「………はい…ごめんなさい…」


 まさに正論。だが彼女には、父親の命令に従うしかなく…八方塞がりになってしまったセレスタンは泣きそうな顔で俯いた。


「すまない、責めている訳ではない。ただ…理由を知りたかっただけで。もしや伯爵に何か言われているのか?」


 というルキウスの言葉に、セレスタンは肩を跳ねさせた。その場の全員が分かりやすい…と苦笑した。そこでハーヴェイが素朴な疑問を口にする。


「なあスタン。どうして伯爵はシャルロット嬢を皇太子妃にしたいんだ?」


 それは彼女も分からない。とりあえず、自分の予想を口にしてみた。


「……さあ?多分…皇子様との結婚=女性の幸せ?未来の皇后陛下の実家として、社交的地位を確立する為?ルキウス様が素敵な男性だから…ロッティを守って幸せにしてくれるという願望?あと〜…」


「素敵な男性…ふふんっ…」


 ルキウスは最後しか頭に残っていないようだ。頬を緩めていたらランドールが小声で「きっしょ…」と呟いた。それすらも笑って流している。


「こほん…これはラサーニュ伯と一度話す必要があるな…」


「父上と…ですか…!?」


 ルキウスの言葉にセレスタンは青褪めた。その反応に全員首を傾げる。何か問題が?と。彼女は膝の上でぎゅっと手を握り、口を固く結んでしまった。


「(計画失敗で父上に怒られちゃう…!!こうなったらルキウス様の人格に問題がある事にして、ロッティは幸せになれないと言い訳を…不敬どころじゃないね!!)どうしよう…!いっそルキウス様にえげつない性癖でもあれば…!」


 という呟きに全員噴き出した。どうしてそうなった!!?と思いつつ…



ハ「女性を監禁する願望があるとか」

ギ「いや、足が超臭いとかどう?」

ジ「ギャンブル狂」

ラ「メイドに手を出しまくってる」

ハ「私服のセンスが超ダサいとか」

ジ「露出狂」

バ「うーん…動物虐待をしている?」

ラ「実はヅラ」

ギ「イビキがうるさい」

ラ「どえらい水虫持ち」

ハ「よく見ると常に鼻水が…」

ル「やめんかお前ら!!!」



 とまあ「こんな皇太子は嫌だ」な大喜利が始まってしまった。しかも段々と下ネタ方向に進んでしまい…


「(ピーーー)で、(ピーーー)だとか。それで…(ピーーー)して、そんでもって(ピーーー)な…」


「なるほどー…ハーヴェイ卿、そりゃドン引きだわ」


「…………ひえ……」


 主にハーヴェイと相槌を打つランドールの所為だが、セレスタンは真っ赤になって耳を塞いでしまった。気付いたルキウスとギュスターヴがそれぞれの頭に拳骨を落とす。


「お前らは何を言っているんだ!!!子供の前で…!!」


「騎士として恥ずかしくないのかい!?」


「「いってぇ〜…!」」


「ぼ、僕厨房行ってきまーす!!!」


 セレスタンは逃げる事に成功。歩きながら、今後も男として生きて行くんだから…下ネタにも対応出来ないとまずいかなぁ…と将来に不安を覚えるのであった。伯爵に怒られる!というのはもう忘れている。




「いてて…副団長、騎士だって男なんすよ!?女性がいる訳でもあるまいし…たまにははっちゃけたっていいじゃないですかっ!」


「そ…う…だけ、ど!」


「そうですよ、殿下。13歳なら立派な男ですよ」


「やかましい!!」


「「(俺/僕はこんな大人になりたくない…)」」


 男同士の会話は続く。





 セレスタンが作ったクッキーを皆で食べて、ルクトル用にとお土産も持たせて。そろそろルキウス達が帰る時間に。


「それでは皆様、お気をつけて」


「ああ。それより…ラサーニュ嬢の事。本当にお前の意思では無いんだな?」


「はい…。2人がお嫌なら、無理を言いたくありません…」


 その言葉にルキウスは満足げに頷き、セレスタンの頭を撫でた。

 帰って行く4人を見送り、夜。セレスタンはシャルロットの部屋を訪ねた。



「ロッティはさ、ルキウス様の事どう思ってる…?」


「ん〜…皇太子として尊敬する方とは思うわ。男性としては…別に…」


「そ、そう…?じゃあ父上は、どうしてロッティに皇太子妃になって欲しいと思ってるんだろう…?」


「色々予想は出来るけど…ちょっと聞いてみるわね!」


「えーーーっ!?」


 シャルロットは思い立ったら即行動、セレスタンとバジルを部屋に残して伯爵の元へ向かった。伯爵は愛娘の訪問はいつでもウエルカム。デレデレの笑顔で出迎える。


「(気色悪…)お父様、聞きたい事があるの」


「なんだいロッティ?お小遣いが足りないのかな?」


 シャルロットは表面上は「お父様大好き!」に振る舞ってはいるが…根底では嫌っている。それは当然、愛する兄に酷い仕打ちを長年してきているからだ。

 今回も下手をすれば兄が叱られる…そう考え、慎重に言葉を選ぶ。


「あのね、皇太子殿下ってよく私を訪ねてくださるじゃない?でも…私はあの方怖いのぉ…」


「そ、そうなのかい!?でもね…」


 ルキウスに申し訳無いとは思いつつ、顔が怖いので会いたくないと言ってみる。すると伯爵は狼狽えた。


「ロッティはいずれ皇后になりたくないのかい?」


「……私が皇后になってしまったら、もうお父様とは気軽に会えなくなってしまうわ。それでもいいの…?」


「う…うーん…ロッティの幸せには代えられないさ!」


「確かに皇太子妃は全貴族女性の憧れだろうけど…私は望まないわ」


「ははは、それは君がまだ子供だからね。いずれ分かるよ」


「(ふうん…私の幸せとか言いながら意見は完全無視。皇后になるのは、この人の幸せの為…ね)」


 シャルロットは悲しげな顔で演技をしつつ、冷静に伯爵の言葉を分析する。


「それに皇后になれれば、いくらでも贅沢出来るんだよ?」


「(はーん…そっち?)でもお父様、私が国のお金を自由に使える訳ではないわよ?」


「大丈夫だよ。ロッティのお願いなら、皇太子殿下も聞いてくださるさ!」


「………実は私…トリザナ家の子息にもお誘いされているのよねえ…」


「え…皇国一の商家、トリザナ商会の息子にかい…!?」


「ええ、お金に不自由させません!って熱烈に迫られちゃって。でも皇太子殿下もいらっしゃるし…悩むわあ…」


 トリザナ家とは代々続く皇国の商家であり、平民ながら保有財産は小国の予算に匹敵すると言われている。それを聞いた伯爵は考え込む。


「(皇太子妃として高位貴族との繋がりを優先するか…トリザナ家の財産をいただくか…)」


「(まあ嘘だけど。社交辞令でお美しいって言われただけ。でもこの人が私の嫁ぎ先を財産で決めているのなら…)」



 伯爵はたっぷり悩んだ結果……



「ふむ…ロッティが望まない結婚は駄目だね!皇太子殿下には申し訳無いが、身を引いていただくしか…」


「(勝った!!!)ありがとうお父様!でも殿下はお兄様にも優しくしてくださるから、今後も訪ねて来るとは思うわ。だけど皇室との繋がりは家にとって益だし、いいわよね?」


 その発言に伯爵は疑う事なく快諾した。内心勝ち誇り顔のシャルロットは、挨拶をして書斎を後にする。そして足取り軽く自室に戻るのであった。





「という訳で、もう安心よお兄様!」


「ロッティすごーい!!」


 こうしてセレスタンはミッションから解放された。これで2人共、本当に好きな人と結婚出来るね!と上機嫌で部屋に帰るのであった。




「……お嬢様、旦那様に適当言ってよろしいのですか?」


「ん?いいのよ。だって…」


 シャルロットはカップに残っていた紅茶を飲み干し、バジルに向かって邪悪な笑みを見せる。



「だって…近いうちにあの男には失脚してもらう予定だもの。罪状はなんだっていいわ。

 そしてお兄様が伯爵になり、私が支える。でもお兄様は当主を重責に感じてそうだから…親戚から優秀な子を養子にする可能性も考慮しておかないとね」


「はい。何人かリストアップは済ませてあります。後はタイミングで変わってきますが…」


「ふふ…そうね。私達が学園を卒業する時、その時が勝負よ」


「かしこまりました…」



 この2人は、人知れずそんな計画を立てているのであった…



 この日以降セレスタンは伯爵に、早くロッティと殿下の婚約話を進めろ!!と無理難題を言われる事は無くなったのでした。





 ※※※





 それから穏やかな日々が続く。


「もうすぐ剣術大会よね。ジスランは参加でしょうけど…お兄様とバジルは?」


 この日のランチ、話題は来週行われる剣術大会について。

 

 学園の一大イベント、剣術大会。

 この大会は皇帝夫妻や各騎士団長も見学にやって来るほど注目されている。参加するのは男子のみ、4・5年生は強制参加だが1〜3年生は希望者のみ。ジスランのように騎士を目指す者ならば1年生から参加するが…


「いや無理僕無理絶対無理!!」


「僕も遠慮致します」


 セレスタンは首を高速で横に振り、バジルも不参加との事。ジスランはセレスタンならば実力は充分なのに…と思いつつ口を噤む。無理を言ってこれ以上嫌われたくないのだ。







 だが大会当日…事件は起こる。



「セレス!お前選手にエントリーされていたぞ!?」


「「「…ええええぇぇえぇっ!!?」」」


 予選会場に向かったはずのジスランが、血相を変えて観客席まで来た。その言葉は信じ難いものだったが…彼が嘘を言っている風ではない。

 なんでなんで!?と涙目になり混乱するセレスタン。そんな彼女を…少し離れた所からニヤニヤと見ている生徒達。それに気付く事なく、彼女はジスランに連れて行かれた。



「ほ、ほんとだあ…!」


 ジスランの見間違いであって欲しい。その願い虚しく、トーナメント表にセレスタン・ラサーニュの名があった。



 ここで簡単に大会について説明しよう。

 1〜3年生(下級生)は参加者も少ないので、2ブロックでトーナメントが開催される。4・5年生(上級生)は4ブロックだ。

 皇帝も見る試合は、グラウンドに用意された特設会場で行う。

 だが試合数が多くなってしまうので下級生は決勝以外、ギャラリーのいない会場で試合が行われる。簡単に言えば予選だ。


 そして全学年共通なのが、決勝は時間無制限、それ以外は1試合5分まで。

 5分経っても勝敗がつかなければ、審判が判断する。

 それ以外の勝利条件は

「相手の剣を弾き飛ばす」

「相手が足裏以外の部分を地に付ける」

「喉元に剣を突きつける」

 である。降参も可能。


 そうして各学年優勝者の5人で、再度トーナメントが行われる。大体優勝するのは5年生である。




 セレスタンとジスランは別ブロック。つまり最終戦まで当たる事は無い。


「(待てよ…最初はびっくりしたけど、わざと負ければよくない?)」


 別に優勝したい訳でも無い彼女はそう思い至り、ほっと胸を撫で下ろす。しかし一試合はこなさなければいけないだろう、運動着に着替えて予選会場入りした。心配そうな顔をするジスランを尻目に、どうやって負けようかな〜と考えている。



 試合は進み、セレスタンの番だ。相手は同じクラスの…どころか隣の席の男子。彼はすでに勝った気でいるのか、憐れみの視線を彼女に送る。


 距離を取り対峙し、互いに礼をする。審判の合図と共に…同時に仕掛けた。


「(一回くらい、打ち合っておかないとね!——え?)」


「なっ!?」


 力負けした〜!と剣を落とすつもりだったのだが。逆に相手の剣を弾いてしまい…カランカランと音が響く。



「…勝者、セレスタン・ラサーニュ!」


「(………えーーーっ!!?)」




 こうして彼女の前途多難な剣術大会は幕を開けた。




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