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皇国の精霊姫  作者: 雨野
日常編
13/102

アカデミー1年生 12



 セレスタンおひとり様生活2日目の朝。



「あふぁあ…ぁ〜…」


 夜明けと同時に自然と目が覚め、のそのそ起き上がる。そして軽く支度をして、木剣を手に外に出た。



「はよー、スタン」


「おはよーございます、ハーヴェイせんぱ…………はっ!!?」


「驚きすぎい。朝はえーな、特訓?」


「あ、は、はい」


 油断しきっていたので、屋敷の外にいたハーヴェイに跳び上がって驚いた。そして皇太子一行がいる事を思い出したのである。

 彼は丁度交代の時間なので付き合ってやるよ、と自身も木剣を手に取った。



 一緒に走り込みをして、素振りの後打ち合う。


「なあ、もしかして毎朝やってんの?」


「はい。僕は…弱いから。数をこなして身体が自然に動くよう…頑張らないといけないんです」


「ほーん……」



 2人は軽く汗を流して終了した。ハーヴェイはセレスタンに騎士を目指しているのかと問い掛ける。



「え…?いえ、僕は将来伯爵に…」


「いやいや、ブラジリエ伯爵だって当主で団長よ?それともラサーニュ家って事業が忙しい?」


「いいえ…」


「ふーん…?じゃあ、なんで特訓してんだ?なんか強くなりたい理由があんの?」


「あ……」


 セレスタンは彼の率直な疑問に…返せる答えが無い事に気付いた。




 切っ掛けは貴族の子弟として…嗜みとして学び始めた事。それが段々とジスランに強要されて引き際を見失った。

 じゃあ、今は?大事な人を…妹を守る為?いや、ジスランや頼りになる執事もいる。現にシャルロットは、セレスタンの助けを必要としていない。

 純粋に強くなるのが楽しいという時期も過ぎた。

 いくら剣の腕を磨いても父親が褒めてくれる訳でもない。


 なら…なんで?惰性という言葉が一番しっくりくるのではないか?それは……



「無い…無いんです…。僕は…カラッポな人間、です…」


「…………………」



 彼女は泣きそうな表情になり、俯いて服の裾を握り締めた。すると…ふいーーーと長く息を吐く声が聞こえて、頭に大きな手が乗せられる。

 殴られる!!と反射的に考えたセレスタンは、肩を跳ねさせ後退って逃げた。だがにゅっと長い腕が伸びてきて…


「よっこいしょー!!」


「んっ!!?」


 何故か、ハーヴェイの腕に座らされていた。



「いやいやカラッポて!お前まだ12歳じゃん?ガキんちょがナマ言ってんじゃねーわ!」


「で、でも…!」


「人生こっからがなげーんだぜ?お兄さんが楽しいコト色々教えてやんよ。

 まずはメシだ、朝メシだ!健全な精神は健全な肉体に宿る。朝メシをきっちり食う事から1日が始まるのだ!!」


「え…あ、はい…」


 セレスタンを抱えたまま彼らは屋敷に入る。途中すれ違うメイドや騎士に朝の挨拶をすると、皆笑顔で返してくれる。彼女はこの屋敷で、このような扱いを受けた事が無い為…戸惑うと同時に、嬉しくて仕方がなかった。

 ハーヴェイは部屋の前で、支度をするセレスタンを待っていた。だが出て来た姿を見て…


「なんだソレだっせえ!!」


「ださい!?」


 彼女はいつもの、眼鏡と前髪で顔を隠すスタイルだ。昨日ずっと上げていたので今更すぎるけれど…やはり人前ではこの姿でないと落ち着かない。何故そんな変な頭なのかと聞かれて…


「えと…女顔を、隠す為…に」


「かーーーっ、イラネー!!おら上げろ!」


「あーーーーーっ!!」


 彼女のこのスタイルは伯爵に命じられた訳では無い。女だと周囲にバレないように…自分で考えた末の結果だ。それを初めてださいと言われ、少なからずショックを受ける。

 衝撃で動けない間に眼鏡を取られ、前髪も適当に留められた。これでヨシ!と満足したハーヴェイは、またも彼女を抱えてダイニングに向かう。



 そこにはすでにラフな格好の皇子2人とランドールが座っており、セレスタンは待たせてしまった!と青褪めた。


「おはようございますっ!あの、お待たせして申しわ「はいストーップ!」んむっ!?」


 急いで降りて頭を下げようとしたらハーヴェイに口を塞がれた。


「お前、謝んのが習慣になってんだな。いいか、今回俺達は招かれざる客だ。殿下方の予定に合わせんな存在を気にすんな」


「ひえ…」


 ルキウス達も頷き、とりあえず朝食に。どうして皇族と一緒に食べているんだろう…?と不思議に感じながらもフォークを口に運ぶ。


「その…ハーヴェイ卿と随分親しいのだな」


 ルキウスがそう訊ねる。彼女はほぼ連れ回されている状態なのだが、控えめに肯定した。



「俺の事…兄上って呼んでもいい、ぜっ?」


 キランと歯を見せて笑うハーヴェイ。それに意を唱える者が現れた。


「いいや、俺がお兄ちゃんだ」


「いや、僕だね」


「なんで!?いや副団長はともかくナハトも!?」


 そう、ランドールとギュスターヴである。



「僕はお兄ちゃんだよね?一緒に絵本を読んだりしたもんね」


 とナチュラルにマウントを取るギュスターヴ。



「いやいや、副団長には妹さんも弟もいるじゃないですか!俺は5人兄弟の末っ子だから弟欲しいの!」


 そう言ってセレスタンの頭を撫でるハーヴェイ。



「弟が欲しいのは1人っ子の俺も同じですが?現役の先輩ですから学園でも色々力になれるし?」


 と爽やかな笑顔のランドール。



「………………えーと…?」


 そして…展開に追い付けないセレスタン。訳が分からないまま食後のお茶にした。

 兄(候補)はダイニングの隅に座り込みヒソヒソ話し始めた。彼らを横目にルクトル達と雑談する。


「いやあ、ラサーニュ君モテモテですね」


「ありがとうございます…(?)でも…どうしてナハト先輩も…?」


「「……………」」


 皇子ズは無言でカップに口を付ける。



 実はあの日、セレスタンがルシュフォードの銅像の前で涙を流した夜。次の日ランドールは…

『あの子の涙を見たくない。本当は俺が抱き締めてやりたかった。これからは…俺が甘やかして構い倒すぞ』

 と宣言していたのだ。彼本人にも理解出来ない感情に襲われて…新学期が始まったらセレスタンの教室に突撃する気満々だったのだ。


 ただそれを自分達が言っていいのか?と、皇子達は無言を貫いた。




 その時兄?の話し合いが終了して立ち上がる。ハーヴェイが自分達を順繰りに指差した。


「この人がガス兄(長男)、俺がハーヴ兄(次男)、こいつがランディ兄(三男)な」


「全員お兄ちゃんになったんですか!?」


「「「うん」」」


 と、彼女の意見は関係無く兄が爆誕したのであった。


「私はお姉様(長女)でお願いしますね!」


「へっ!?(末っ子)」


 更に姉も…よく分からない包囲網が完成したのである。




 ※※※




「え、課題やんの!?お前それは最終日に纏めてやるモンだぞ!」


「そそそうなんですか!?」


「嘘を教えるんじゃありません!!」


 

 掃除も洗濯もメイドがやってくれるので、彼女は課題をこなす事にした。するとハーヴェイが絶叫し、プリスカに怒られている。


「だってよぉ…長期休暇は課題なんざ忘れて遊び回り。最終日に母親(ババア)にボコボコにされて椅子に縛り付けられて、漸く机に向かったモンさ…

 当然終わらなくて、先生に怒られるのまでがワンセット」


「ひえ…僕には無理…」


 根が真面目なセレスタンには、想像すら出来ない。そもそも伯爵にどんな目に遭わされるか…!と、プリスカに教わりながら進める。



 暫くするとギュスターヴが部屋にやって来た。半日休みを貰ったから、一旦実家に帰るとの事。

 ブラジリエ領とラサーニュ領は隣接しており、馬を飛ばせば30分程で着いてしまうのだ。実家と聞き…ジスランはどうしているのか訊ねる。


「その…彼はしょっ中うちに来ていたので、休暇も入り浸ると思ったんですけど。まだ1回も来ていなくて…」


「……あー…実は。期末テストで全教科落第点を取って…父上監視の元、勉強させられているよ…」


 気まずそうに答えるギュスターヴ。するとハーヴェイが噴き出し…俺よりヒデエ!!と大笑いした。そんな彼に拳骨を落とし、ギュスターヴは出て行く。

 セレスタンは…来ない理由があった事に安堵した。そして落ち込んだ。



「(…いや、自分は突き放しといてその反応はどうなの?僕はどうしてこう、自分勝手な考えしか出来ないんだろう…)」


「(な…なんか急に悲しげな顔に…)セレス君、随分進んだし今日はもう終わりにしましょう」


「はい…」



 片付けをしていると、今度はルキウスが訪ねてきた。特に用事がある訳ではなく…彼女に会いに来ただけ。とは言えず、とりあえず部屋を眺める。

 するとベッドに自分の制服が掛けられている事に気付く。セレスタンも彼の視線を辿り…慌てて手に取った。



「これはっ!洗濯したんですけどっ!しわくちゃになっちゃったので、もう少々お待ちください!!」


「……いや、構わない」


「いーやー!!」


 制服を胸に抱えるも、ルキウスが手を伸ばし奪おうとする。こんなシワだらけ、なんならシミ付きで返せない!!と必死に抵抗する。

 が当然力では敵わず、ずるずると引き寄せられるだけなのであった。その様子を見ている大人3人は…


「(可愛い…)」


「(オヤツ取られたくねえ犬…)」

 

「(まとめて持ち帰りた…何を考えているルキウス!)」


 結局彼女ごと持ち上げ、天気も良いので外に行く事に。プリスカは厨房に向かい食事の確認をするらしく別行動。上着はメイドに回収された。





 庭の木陰にシートを敷き、ルキウスとセレスタンが並んで座る。

 セレスタンは何か気の利いた会話をせねば…!と焦ると同時に、雑誌で学んだ事を試すチャンス!と気合を入れる。脚が出ていないのは残念だが。



 メイドが飲み物やお菓子を用意し…


「冷たいので良かったか?」


「は、はいっ」


 ルキウスがジュースが入ったグラスを手渡す。今だ!と行動を開始した。



「(その7、さり気ないボディタッチ!)ありがとうございます」


「……!」


 両手で受け取り…右手を彼の指に触れさせる。効果は抜群で、ルキウスは完全に意識している。そこまでは良かったのだが…



「……ぁ…」


 彼女本人も顔を真っ赤にして照れてしまったのだ。その後は互いに謝罪し、気まずいままジュースを飲む。




「……思春期か?」


「うーん、スタンはともかく…ルキウス殿下初心すぎねえ?」


「変態皇子ですから…」


 ランドールとハーヴェイが超失礼な会話をしていたりして。




「(失敗した…!じゃあその4、目を合わせて微笑む!)」


 ちらりと見上げるとバッチリ合った。今度こそ!!



「…………」にこにこ


「………………」ピシ…


「……?」


 

 精一杯頑張って笑ってみたが…ルキウスは石のように固まってしまう。




「…なんだアレ?」


「うーん…いつも女性や子供と目が合うと、大体向こうが顔を引き攣らせて逃げますからね。慣れない反応に困っているんでしょう」


 次男と三男は完全に面白がっている。




「(無反応…?やっぱり僕なんかじゃ殿下を誘惑なんか無理だよう…!その2、甘えてみる!?)」


 甘えるってどうするの!?と考えに考えた結果…

 ススス…とルキウスに近付き。コテンと肩に頭を乗せてみた。

 


「………!!」


「…………(これちょっと照れるぅ…)」



 実はルキウス、最初から演技だと気付いている。それは彼が鋭いのではなく、セレスタンが下手くそなのだが。

 少し悲しかったけれど…可愛いもんは可愛いので、まんまと彼女に惹かれていった。

 だがやられっぱなしは癪なので。揶揄いの意味も込めて、誘惑に乗っかる事にした。



「んえっ!?」


「…………」


 ウサギがわざわざ狼の懐に入って来るのが悪い。セレスタンの腰を抱き、自分の膝に横向きに座らせる。



「…あの、殿下…?」


「ルキウスだ」


「ほいっ?」


「(ほいっ?て…)…だから、ルキウスと呼びなさい」


「……ルキウス、殿下?」


「…………」


「…ルキウス様…?」


「よし」


 満足したのか眉間の皺を深めて悪人面で、彼女の頭を撫でる。本人は「怒らせた!!?」と慄いているが。

 ルキウスは今度はクッキーを1つつまみ…彼女の口に近付ける。



「ん」


「ん?………あ…と…」


 その意図を理解して…おずおずと口を開けた。食べ終わるとすぐに、次が運ばれる。





「…雛鳥の餌付けか?」


「ルキウス、殿下…マジで少年趣味あったのか…!?」


「兄上ぇ…!」


「あ、ルクトル…殿下。現実を受け止めましょう…」


 

 ルキウスは完全にこの場の全員に誤解されてしまった。それでもそれぞれ敬愛する兄を、友人を、主君を守る為。変な噂が流れぬよう、決して口外すまい!!と固く誓うのであった。




「もぐもぐ…も、もういっぱいです…!」


「そうか?じゃあ最後」


 その間も餌付けは続いていた。今度はスコーン、小さな口で齧っていたらジャムが垂れてきた。

 セレスタンは慌てて、こぼすまい!と勢いのままに……ルキウスの指を舐めてしまった…



「「………………………」」



 何が起きたのか理解出来ず、2人は数秒固まった。状況を把握した瞬間、彼女は顔面を沸騰させる。勢いよく膝の上から降りて、ズザザザァ!!と離れ地面に尻もちを突く。

 ルキウスは暫く自分の指を眺めて…口角を上げ。彼女に流し目を送りながらおもむろに…見せつけるように残りを食べて、指を舐めた。



「——〜〜〜〜〜〜〜!!!!」



 セレスタンは声にならない叫び声を上げた。そこへ…





「逮捕ぉーーー!!!」


「ルキウス・グランツ!!顔が怖い容疑及びむっつりスケベ罪で逮捕する!!」


「なっ!?私は無実だ!!」


「問答無用!言い訳は取り調べ室(※サロン)で聞きます!!!」



 サングラスを掛けたルクトルとランドールが突撃して来た。彼らはルキウスを速やかに縛り、抱え上げてその場を走り去る。




 残されたセレスタンは…地面に座り込んだまま、胸元を握り締める。顔の熱が引かない、激しく心臓が脈打っている。

 先程の色気たっぷりな視線と舌使いが頭から離れず…大量の汗をかき、喉をごくりと鳴らす。


 今のは…なんだったんだ…?媚びは成功した?あの人何考えてんの!?と答えの出ない自問自答を繰り返し、ついに少女は思考停止した。



 その様子を騎士や屋敷の中からメイドが見ていて…なんとも言えない表情をしているのでした。



 その後セレスタンはルキウスと顔を合わせる度、頬を染めて誰かの背中に隠れるようになったとさ。




 ※※※




「ただいま」


「ガスさ、ガス兄。お帰りなさ…ん?」


 夕方になるとギュスターヴが帰って来た。ルキウスに軽く挨拶してからセレスタンの部屋にやって来た彼は1人ではなく…


「………」


「ジスラン…その頭は…?」


 袋詰めされた弟を小脇に抱えていたのである。しかもその頭には、ギャグのようなタンコブがいくつもあった。ついでに服もボロボロで、顔も若干腫れている。



「いやあ、言い訳ばかりするものだからつい、ね。ほら、言う事あるだろう?」


「おぶっ!」


「ジスラーン!」


 袋はべしゃっと床に落とされた。ギュスターヴは基本穏やかだが、時には誰よりも容赦無いのである。

 ジスランは芋虫状態で、己に駆け寄るセレスタンを見上げた。2人の目が合い…暫く見つめ合う。



「……すまなかった」


「…え?」


「今まで、本当にごめん。俺は…自分の理想をお前に押し付けるために、ずっと酷い振る舞いをしてきた。

 本当は…大事にしたかった。だって俺は、初めて会った時から…ずっ、と……」



 ずっとずっと、あなたが大好きなんです。



 そう言いたくて…言葉が出なかった。代わりに顔を赤くして、床に突っ伏してしまう。そして最後にもう一度、本当にごめんと謝罪した。


 それを聞いていたセレスタンは、ゆっくりと両手を伸ばし…ジスランの上半身を起こし。きゅっと抱き締めた。

 そうして静かに涙を流しながら言葉を紡ぐ。



「……もう…痛いのはやだよぅ…」


「うん…」


「本当に怖かった」


「…ごめん」


「僕の事が嫌いだから。弱っちくて情け無い僕が苛立たしくて、酷い事するのかと思ってた」


「違う!お前を嫌うなど絶対にありえない!」


「だから…次やったら。本当に嫌いになるからね!」


「わふぁっふぁ!」


 ジスランが動けないのをいい事に、両手で頬をぎゅううっと引っ張った。その状態で顔をキリッとさせる彼を見て…


「…ぷ。あははっ、変な顔!」


「…はははっ」



 2人は笑い合った。その姿にはわだかまりなど一切感じさせない、ただの友人同士のようで…ギュスターヴは少々複雑だった。



「(…殿下を応援したい気持ちもあるけれど。弟にも幸せになってもらいたい…そしてセレスには妹になって欲しい。うーん…僕は…中立でいよう!)」



 彼はどちらも手助けせず、完全に見守る方向で落ち着いた。




「ところで今日泊まっていくよね?でも客間も使用人部屋もいっぱいで…申し訳無いけど、ジスランは…」


「わかった一緒に寝よう!!」


「絶対ダメ!!お前はこっち!!」


「あー!あーーーっ!!!」ずりずり



「客間(騎士用)の…ソファーで…おい?」


 セレスタンの話を最後まで聞かず、兄弟は部屋の外に出て行った。





 その後はジスランも最終日まで一緒に過ごした。

 ルキウスが彼女の肩や頭に触れると、ジスランが無言で間に身体を滑り込ませ。

 ジスランとセレスタンが笑い合っていれば、ルキウスが彼女を持ち上げて膝に乗せる。



 男2人は互いをライバルと認識して…バチバチと火花を散らせる。


「殿下。セレスは今から俺とバドミントンをするんですが」


「いいや、私と遠乗りに行くのだ」


「どっちも約束してませんけど…」


 どうして2人が争っているのか分かっていないセレスタンは首を傾げるばかり。むしろこの2人仲良いな…とすら考えている。

 

 まあ大体横から兄と姉が掻っ攫って行くのだが。今も睨み合う男共を放っておいて、プリスカと楽しくお茶にしている。





 皆で遊んで、馬のお世話をして。勉強を教わって剣を振るって。

 そんなこんなであっという間に4日が経った。

 最初は無事に過ごせるだろうか…?と不安しか無かったが。終わってみればとても充実した日々だった。


 実はカリエもちょくちょく来ていたのだが…不思議とセレスタン以外は顔を合わせなかった。





「ではな。また会おう」


「はいっ!皆様、ありがとうございました」



 ルキウス達は見事に、全ての痕跡を消し去って行った。屋敷には十数人も客がいたなど感じさせない程に、完璧に元通りだ。

 それは伯爵がいい顔をしないだろう、自分も娘もいないのに皇族が来ていたなど…セレスタンが叱られてしまうのでは?という配慮からだったのだが。

 ちょっと犯罪者っぽい…と密かに笑いながら、セレスタンは彼らを見送った。






 


「…ガス兄とハーヴ兄は帰らないんですか?」


「いやあ、まだ仕事が残っていてね」


「そゆこと」


 ギュスターヴとハーヴェイは一緒に伯爵を出迎えるようだ。なので3人でのんびりと過ごす。

 しかしセレスタンは、ハーヴェイに「ださい」と言われたスタイルをしている。彼女にとって家族・使用人は無意識に…素顔を見せられない相手になっているのだ。


 


 約3時間後、伯爵達が帰って来た。シャルロットが真っ先に降りて来て、出迎えるセレスタンに抱き付いたのだが…


「ただいまお兄様!!…どうして騎士様がいらっしゃるのかしら?って、ガス様?」


 彼女の後ろに立つ2人を軽く睨み付ける。ギュスターヴは相変わらずだね、と微笑み。ハーヴェイは…目が笑っていない。


 伯爵も訝しげに騎士達を睨み付ける。そして…ギュスターヴが1つの封筒を取り出した。



「失礼、伯爵。こちら…皇太子殿下よりシャルロット嬢とセレスタンに皇宮への招待状を持って参りました。

 すると彼しかおらず、暫く誰もいないと言う事で一緒に留守番をさせていただきました。こちらの騎士は先日お会いしたと思いますが、僕の部下です」


「おお!そうか、それはご苦労だった。ふむ、ブラジリエの息子ならば安心だ。

 はは、こいつがどうしても行きたくない!と駄々を捏ねてな。残念だが気持ちを汲んで留守番させたのだ」



 行きたくないと言ったのは事実だが…まるで全部セレスタンが悪いかのような言い草に、ギュスターヴは頭に来た。

 ここで自分が何か言えば、セレスタンに危害を加えるだろう。そう考えて堪えた。


 シャルロットはセレスタンに「大丈夫だった?寂しくなかった?騎士様に何もされてないわよね!?」と確認し。

「大丈夫だよう。楽しかったよ!」という返答に安堵している。




 今回の留守番はギュスターヴが偶然知り、部下数人とお邪魔したという設定だ。

 領民には騎士や馬車を目撃されているので、完全に隠す事は出来ないと判断した。


 しかしあくまでも騎士だけで…皇族は来ていない。どうやら伯爵は信じ切っているようだ。

 それよりも皇宮に愛娘が招待された事しか頭に無い。プリスカの案だったのだが、ここまで見事に引っ掛かるとは思ってもいなかっただろう。



 そう説明している間に、ハーヴェイはバジルを捕まえる。話を合わせてもらう為の打ち合わせだ。



 バジルがジスランに「セレスタンが4日間1人」と相談。→ジスランからギュスターヴに伝わる、様子を見に来る。



「スタンとシャルロット嬢にはそう説明してくれ。実際は違うんだが…ちとややこしくてな」


「…かしこまりました」


「おう、話が早くて助かる」


 ここでバジルが「何故ですか」とでも言えば面倒な事になっていただろう。

 だがギュスターヴが「バジルなら大丈夫だよ。彼は賢いから、何か事情があると察してくれるさ」と言った通りでハーヴェイは満足だ。




「じゃあお兄様、屋敷に入りましょう。お土産もいっぱい買って来たし、沢山お話ししたいのよ!」


「うん。それではまた、ガス…様。ハーヴェイ卿」


 セレスタンは妹に腕を引かれ屋敷に入って行く。その姿を見送った後…騎士達は馬を駆けさせた。







「副団長。シャルロット嬢って…いつもあんななんですか?」


「うん?そうだね…昔からお兄ちゃん大好きで過保護だったかな」


 帰り道の会話にて。ギュスターヴは過去を懐かしんでいるのか、楽しげに笑った。だがハーヴェイは…



「ふーん……俺、あの子嫌いですわ」


「………え?」


「……………」



 ハーヴェイは真っ直ぐ前を見ながらそう言った。

 彼は基本女好きで、誰彼構わず誘いまくる軟派男なので…美少女で人当たりの良いシャルロットに対し、そう言い切るのがギュスターヴには信じられなかった。


「ど…どうしてだい?あの子は賢くて優しい女の子だよ?」


「…副団長にはそう見えるんですね」



 彼はそれ以上何も語らず。ギュスターヴも追及せず。首都に向かって馬を走らせるのであった。







 その日の夜、セレスタンの部屋。

 4日間楽しかったなあ…と微笑みながらオルゴールを手に取った。そして蓋を開けると…



「……何これ?」



 そこには、真っ赤なルビーのブローチが入っていた。女性用だろうが、男性が付けても違和感は無いだろう。

 当然セレスタンは入れていない。カードも一緒に入っていたので手に取ると…



『親愛と詫びの気持ちを込めて』



 綺麗な文字でそれだけ書かれていた。


 セレスタンは不思議に思いつつも…なんだか嫌な感じはしないので。

 

 いつかお礼を言おうと考え…蓋を閉める。





 こうしてセレスタンの宝物に、初めて宝石が入れられたのであった。

 


セ「ねえジスラン、勉強地獄は…?」

ジ「3日分、全部勘で解いて来た!」


ギュ「それで全問正解してるんだから…ある種の才能だよね」

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなろくでもない連中のうちの誰かとくっつけるのだとしたら、主人公かわいそうすぎだろ こいつらの滞在の後始末を主人公一人に押し付けるんだろ? で、伯爵に叱られ、そして何事もなかったかのように…
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