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皇国の精霊姫  作者: 雨野
訣別編
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16歳の誕生日



 12月24日は双子の誕生日、16歳になった。

 シャルロットはラサーニュ邸で夜会を開き…通常より1年早い社交会デビューを果たす。


 その数日前には皇宮にて、正式に爵位を賜っていた。

 これにより彼女は伯爵令嬢ではなく、正真正銘ラサーニュ伯爵となった。



 パーティーのエスコート役はセレスタン。気まずいながらも義務は果たす。


「「(本当は…お揃いのドレスで参加したかったなあ)」」


 ダンスを踊っている間も、2人は微笑みの下に涙を隠していた。

 シャルロットはジスラン達とも踊り、セレスタンはルネと踊る。

 ルネはその後アリスティドに「レディをダンスにすら誘えませんの!?」と絡んでいた。


 セレスタンはプリスカと踊り、輪を外れて壁の花になる。

 暫くの後ルシアンが隣に立った。


「誕生日おめでとう、セレス」


「ありがと、ルシアン」


「……兄上な、正式にマルケス令嬢と婚約したんだ」


「え…そうなんだ?」


 彼らの視線の先、ルキウスとエルミニアが踊っている。ルクトルの婚約者は体調不良で不在だ。

 セレスタンは「そっかあ、おめでとう!」とだけ答えた。


「…なんとも思わないのか?兄上の事、好きだったろう?」


「……知ってたのね。確かにそうけど…もう終わった事だもん」


「(兄上はセレスにどう報告しようか悩んでいたのに…温度差が)」


 彼らが談笑していたら、こっそりとルクトルが歩み寄る。


「こんばんは、セレスティーヌさん」


「こんばんは…って挨拶したじゃないですか」


「さっきは皇子として、ですよ。それより…寄付された白金貨、大変助かりました」


 セレスタンは「それはよかった」と安堵する。

 今日のシャルロットのドレスも、そのお金で仕立てたものらしい。


「それでですね…今いいですか?」


「?」


 2人とハーヴェイはルクトルに導かれるがままに、屋敷の奥へ進む。

 かつて使っていた部屋…たった数ヶ月前なのに、酷く懐かしい。


 そこにナディア、アビー、クレアが待機していた。


「何してるの?」


「「「ふっふっふっ…!!」」」


「え………ひゃーーーっ!?」



 ルシアン、ルクトル、ハーヴェイは追い出され。

 セレスタンには美しいドレスを着せられた。



 長い黒のウイッグ、紫のコンタクト。薄くメイクをすれば別人に変身だ。

 薄桃色のドレスには細かな宝石が散りばめられ、腰のリボンがワンポイントとして目立っている。


「これは…」


「皇弟殿下からのプレゼントですよ」


「パパが…?」


 それだけでなく。

 ルビーのブローチ。

 アメシストのブレスレット。

 パパラチアサファイアのネックレス。

 そして…安物だけれど、宝物である指輪を付けて完成だ。


 どれもセレスタンが愛した男性からの贈り物だった。

 ルシアンとハーヴェイは、出て来たセレスタンの姿に言葉を失った。



「…どう?」


「……綺麗、だ。其方のような美しい女性をエスコートできるのであれば、私ももっと気合を入れるべきだったな…」


 ルシアンは自分の髪をいじりながら、悔しそうに唇を尖らせた。


「何言ってるの…君は充分格好いいじゃない」


「馬鹿を言うな。今の其方を誰にも見せたくない…独り占めしたい。

 アクセサリーがまるで役目を果たしていないな、霞んで見えるぞ」


「お馬鹿め…」


 ルシアンはスッと腕を伸ばし、セレスタンはゆっくりと手を重ねる。

 セレスタンはルシアンのレディとして、仮の身分で無理やり参加。

 会場に戻れば、皆が突然現れた美少女に興味を抱く。



「セレスティーヌ、私と踊ってくれないか?」


「はい…喜んで」


 2人は手を取ったまま踊り始める。

 シャルロットとバジルはすぐに気付き…嬉しそうに笑っていた。



 踊り終わるとジスラン、エリゼ、パスカルが歩いてきた。


「セレス…?」


「えへへ〜…うん」


 にへっと笑えば、エリゼ以外の男が頬を赤らめる。

 ジスランがダンスに誘おうとするも…


「ざーんねん、俺が先!」


 ハーヴェイが攫って行ってしまった。

 その次はルキウス、ルクトル、ランドール、ギュスターヴ…中々順番が回ってこない。



「殿下。あちらのレディはどなたですの?」


 シャルロットがすっとぼけてそう訊ねる。ルシアンは「はんっ!」と鼻を鳴らした。


「私の婚約者だ」


「こ…!?そ、そうですか…」


「ああ。この会場の誰よりも美しい…女神だの妖精だのいう、美の象徴でも言い表せない愛らしい女性だ」


「「「うんうん」」」


「(こいつら仲良いな…)」


 セレスタン大好きな3人は深く頷く。

 今も彼女は、楽しそうにアリスティドと踊っていた。


「…何故あいつが先に!?俺のが親しいのに…!」


「俺なんて、この場の誰よりも彼女と早く出会っていたというのに…!」


「私なんて、生まれた時から一緒よ…!!」


「お前はなんで対抗意識燃やしてんだよ…」


 ようやく戻って来たセレスタンだが、疲れたのでダンスはもういいや、と笑った。

 だがジスランとパスカルが絶望したので…結局頑張った。




「あ…足痛いぃ〜!」


 やっと休憩、ベンチに腰掛けた。ルシアンは飲み物を取りに離れていたが…




[……セレス、聞こえるか?セレス]


「…ん?この声…ミコト!?」


 脳内にグラスの声が響き、耳を澄ませながら姿勢を正した。


[よかった、届いたな]


「えっと…これ、何?」


[伝令魔法。最近出来るようになったんだ]


「すっごーい!」


 セレスタンは目をキラッキラに輝かせるが、側から見ればただの独り言。

 胡乱な視線を感じ、赤面して咳払いをした。


[あ、すまん。頭の中でおれに語りかけるよう念じてくれればいい]


(それなら…聞こえる?)


[うん。誕生日おめでとう、セレス]


(え…わざわざそれを言う為に…?)


[好きな人の生まれた日だ、本当なら駆け付けたいに決まってる!

 だけど…おれもう少しで何かが掴めそうなんだ。だから…絶対迎えに行くから]


(…うん)


[期限はあと1年…愛してる。

 おれがお前にした仕打ちは許せるものではないだろう。それでも…]


(ううん、もういいの)


[え…?]


 声しか聞こえないが、グラスは戸惑っているようだ。


(あの後考えてみたんだけど。逆の立場だったら…僕もそうしたと思う)


[逆の…?]


(……教会で亡くなった…君とバジルにとって家族の子供達。

 彼らの記憶を持たせず、ただ綺麗で安全な世界に君を閉じ込めたかもしれない)


[そ…それは…]



 グラスが無垢な子供に戻ったとして。

 思い出せない過去も、苦しい記憶も全て遠ざけて。

 愛情いっぱいに育てる…その選択肢があったのならば。



(君が忘れても、僕は僕の罪を覚えているから。君から貰った全ての感情を決して忘れないから…

 グラスは新しい人生を送ってね。と言うに違いない)


[……………]


(だから僕に、君を責める資格はない。

 でも…ルシアンの気持ちも分かる。だから…

 1年後、僕はルシアンと結婚するよ)


[……!分かった…だけど頼みがある]


(…なあに?)


[それまでは、キス以上はしないでくれ!]


「し…してたまるかお馬鹿ー!!!」


「うわっ!!?」


 セレスタンは勢いよく立ち上がる。

 いつの間にかルシアンが横に座っていて、相当驚かせてしまったようだ。



「あ、ごめん」


「いや…目を瞑ってじっとしてたから、寝てたのかと…」


 グラスの声も聞こえなくなっている、魔法が切れたようだ。

 セレスタンは正直に何があったのか説明した。


「そうか…(やはりグラス…いや、私はセレスが幸せならそれでいい)」


「それで、ね」


「?」


「ルシアンに…キス以上は許すなって…」


 照れながらそう言う姿に、ルシアンは胸が高鳴る。

 横に座るセレスタンの肩を抱き、強引に唇を重ねた。


「ん…っ」


「………セレスティーヌ。今だけでいい、私を見てくれ…」


「う……」


 もう1度キスをして、セレスタンは着替える為に逃げた。




「はあ…可愛い。だが私は報われなさそうだな…」


 残されたルシアンは項垂れて、ハーヴェイに愚痴っていた。


「もういっそ、一妻多夫制の国に移住しちゃえばどうっすか?世界には少数だけど、そういうとこもありますし」


「………………」


「グラスの次、2番目の夫でいいならですけどね」


 ハーヴェイは冗談で言ったのだが。


「………調べてみるか」


「(え、マジ?じゃあ俺3番目にしてもらおっかなー!)」


 だがそれを言うと、4番目5番目を名乗りそうな男がいる。

 ルシアンも本気にしてはいないが、一応頭の片隅にいれておく事にした。 




 ※※※




「よっすー」


「あらユルフェ様!いらっしゃーい!」


「おぅ…」


 冬期休暇中、アリスティドは地元の大衆食堂に足を運ぶ。

 料理を食べる為と、セレスタンの「プリン美味しかった!」という伝言を伝える為と、巨乳の看板娘に会いに来ちゃったのだ。


「お久しぶりです、いつものメニューでよろしいですか?」


「おぅ…」


 看板娘はラサーニュ姉妹やルネのように、華やかな容姿ではないが。

 田舎の元気いっぱいな娘…磨けば光る、原石のような少女だった。彼女を目当てにする男は数多くいる。


「お待たせしましたっ!どうぞごゆっくり」


「おぅ…」



 運ばれた料理を食べつつ、弾ける笑顔で働く看板娘を目で追う。

 身分差もあるし恋心ではない、と本人も自覚しているが…巨乳には抗えないこの男。

 忙しい昼時、アリスティドは客が少なくなるまでプリンを食べながら待っていた。


「モ…モニク」


「はい?」


 空きテーブルを拭く看板娘…モニクに声を掛ける。

 アリスティドは冷静に…と心臓を落ち着かせて口を開いた。


「前の…持ち帰ったプリンだけどよ。学園の先輩が、懐かしい味がして美味しかった…つってた」


「まあ、ありがとうございます!えへへ、お母さんのプリンは絶品ですもの!

 どんなお方なんですか?」


「セレスタン・ラサーニュっつー先輩だ」


「へえ…?(なんか、どこかで聞いた事あるような?)その方のお写真とかありません?」


「これだ…」


 こんな事もあろうかと、バッチリ用意しておいた。

 セレスタンが真ん中で微笑み、ルシアンとアリスティドの両腕を組んだ状態で撮った物だった。

 モニクが屈んで手元を覗き込んでくるので、ドッキドキで説明を始める。



「ここ、こっちの赤髪がセレスタン先輩。黒髪が第三皇子ルシアン殿下だ」


「え、皇子様とお友達!?ユルフェ様すっごーい!」


「おぅ…」


「どちらも美しいお方ですねえ。

 よかったら…このお写真いただけませんか…?」


「おぅ…」


 ありがとうございますー!と大喜びのモニク。アリスティドも満足気に帰って行く。




「ねー見て見てお母さん!皇子様のお写真ゲットしちゃった!」


「まあ、ユルフェ様にご無理を言ったの?」


「違うもん、お願いしただけ!」


 昼が終わり準備中の札を表に吊す。

 食堂の女将は娘のはしゃぎように呆れた。


「これ食堂に飾っちゃだめかなあ?」


「不敬よ。こっそりと部屋で眺めてなさい」


「むー。お母さんも見てよ、とっても素敵なのよ!」


「忙しいから後でね」


 そう言って女将は、下拵えの為厨房に行ってしまった。

 モニクは一旦休憩、部屋に行きベッドに寝転がった。



「ラサーニュ様…やっぱどこかで聞いた事あるような?うーん…

 ……あっそうだ!私ラサーニュ領に住んでたんだっけ!」



 それはずっと昔の記憶。両親はこの地に来て以来、ラサーニュ領で過ごした日々を語った事はない。

 スッキリしたモニクだが、なんとなく母はラサーニュの話題を避けているように思える。


「セレスタン・ラサーニュ様か。すっごく可愛らしい…この方がお母さんのプリンを気に入ってくれたんだ。

 うーん…お母さんには内緒にしとこっと」


 モニクは写真を写真立てに入れて窓枠に飾った。





「ユルフェ様…か。今アカデミーに通っていらっしゃるのよね…」


「………聞いてみたら、どうだ。お嬢様について…」


 女将は口下手な夫と一緒に野菜の皮剥きをしていた。

 悲しげに笑い、手を止めて窓の外を眺める。


「…学年は違うはずだもの、接点が無いでしょう。

 でも…今、どうされているのかしら…


 セレスタンお嬢様…」


「……………」


 女将は一筋の涙を流す。

 彼女の頬を拭い、夫は黙々と作業を続けた。





 ※※※





「ですから父上。セレスと結婚しない場合、私はいずれ国を出たいと思います」


「………………へ?」


 同時刻、皇宮にて。

 ルシアンはずっと胸に秘めていた思いを父に打ち明けた。


「どうせ私はセレスには選ばれないでしょうが…一緒に旅に出たいんです。

 セレスティーヌ、グラス、ナディア嬢、ハーヴェイ卿と共に」


 ハーヴェイはルシアンの斜め後ろに控える。皇帝に何を言われても「殿下の御心のままに」としか答えない。


「えっと…旅行?ならもっと付き人を…」


「違います、旅です」


「どゆこと?」


「…世界を回って、どこかに定住するかもしれない。いずれグランツに帰って来るかもしれない。未来は不確定、という事です」



 ルキウスは正式に婚約し、来年にでも結婚する予定だ。

 その後はルクトルも籍を入れる予定で…後継には困るまい、とルシアンは言う。


 ただ皇帝は、可愛いルシアンに危険な真似をして欲しくない…



「…旅は、大変だぞ?」


「皆で力を合わせて乗り越えます」


「野宿とか、食事に困る時もあるかも?」


「ナディア嬢は先日、単独で熊を仕留めて調理したそうです」


「その令嬢はゴリラの化身か何か?

 えっと…お金に困ったら…」


「その場で稼ぎます」


「「………………」」


 2人の攻防を、ハーヴェイと宰相は冷や汗をかきながら見ていた。



「…………だめ」


「なぜですか?」


「危ないから」


「可愛い子には旅をさせよ、と言うでしょう」


「帰って来なきゃ意味ないじゃん…」


「……死ぬまで帰って来ない訳では…多分」


 皇帝は机に両肘を突いて、どう息子を説得するか悩んでいる。

 あんまり否定して嫌われたくない。だが…

 いっそ送り出して、苦労を身をもって体験させる?でも…


「……旅に出る理由が弱すぎる。

 グラスは故郷を探す為、セレスティーヌは愛するグラスについて行く。

 だがお前は?セレスティーヌを愛しているなら…辛いだけだぞ」


「……………」


 結ばれないと分かっている相手の側にいては苦しいだろう。

 そう思ったのだが…



「…私は、それでも」


「この話はお終いだ。さあ出て行きなさい」


「父上!」


 ルシアンの声を完全シャットアウトする皇帝。

 何を言っても聞く耳持たず…その場は諦めて執務室を出た。




「私は諦めん!ならばいっそ皇室から除籍される不祥事を起こしてやる!」


「程々にしましょうね〜…」


 部屋に戻り、ハーヴェイと作戦会議開始。


「うーん…ハーヴェイ卿、世間に私の悪評を流してくれないか?」


「どのような?」


「……誰がどう見てもクソ野郎だと思われるような…

 気に入らない使用人は鞭打ちにして手首を斬り落とす。

 女性を軽視し、取っ替え引っ替え部屋に呼びまくる。

 兄上達の功績を横取りし、あたかも自分の手柄のように言い触らす。

 あとは、うーん…」


「はっはっはっ、俺を殺す気ですか?

 そんな噂流したら、処刑台まっしぐらじゃないですかーっ!」


「………むぅ。では今まで以上に横暴に振る舞うしかないか…

 特に社交界において、女性を敵に回すと後が怖い。

 なのでそれを逆手に取って…」



 ルシアンは頑張って嫌われようと画策する。

 セレスティーヌだけ、彼女だけ自分をみてくれればそれでいい。




 翌日。皇宮の練武場にて。


「……殿下、何をなさっていらっしゃるのですか?」


「鍛錬の妨害」


「「「……………」」」


 ルシアンはど真ん中で大の字に寝転がっていた。

 騎士達は苦笑しつつ、踏まないようかなり距離を取って普通に鍛錬を始めた。



「……へくちっ!ふぅ…この辺にしておいてやろう」


 寒くなってきたのでやめた。

 その後皇宮内で「第三皇子殿下が可愛い」という噂が飛び交った。


「なんでだ!!!!」




 ※※※




 セレスタンは自室で、シャルロットに貰った誕生日プレゼントを眺めていた。

 一見するとただのポシェットだが、実は魔道具…マジックバッグである。

 中は見た目の30倍広く、どれだけ物を入れても重さは増えない。

 口は広がらないので大きな物は入らないが、それを差し引いても有用なもの。


 かなり高価なはずだが…ありがたく貰う。


「いくらしたんだろう…?怖いけど、旅のお財布に丁度いいんだよねえ」


 セレスタンもプレゼントを用意したが、渡せなかった。

 いや、最初から渡す気が無かったのだ。



 プレゼントとメッセージカードを、机の一番上の引き出しに入れる。

 中断していた刺繍を再開、祈りを込めながら黙々と針を刺す。




 やがて年が明け、冬も終わりを迎え。

 セレスタンは5年生、最終学年へ進級した。



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