・楽園
「アミアちゃん、今日の収穫はどう?」
「今日は大漁だぞ。
昨日仕掛けた罠がうまくいったよ」
アミアは網一杯の魚介類を見せる。
アミアの小さな身体は獲物で隠れる程だった。
日はまだ高く、
薄着から覗く二人の肌は程よく焼けている。
「そっちはどうだ?」
「収穫出来そうな野菜があったのと、
果物をいくつか。
後は豚が罠にかかってたからそれも。
今日はエリエちゃん達が来る日だしね」
「そうだな、腕を振るわないとな」
観察者と対話したあの日、
ミルミが連れてきたのはこの島だった。
大きさ的には数十キロメートル程の小さな島だが、
海、川、山、湖、森、草原と豊かな自然があり、
綺麗な水も天然の温泉もあった。
生物は命の危険が無い野生動物しかおらず、
人間、妖魔、超越者はアミア達以外いない。
ミルミ曰く、
この島は子供の頃に流行った教育用玩具で、
唯一親にねだって買ってもらった物だと言っていた。
ここは閉じた世界で、生態系も完結し、
観察者の観察範囲に入っていないとも。
どこまで本当かは分からないが、
寝食生活出来て安全な場所だと分かったので、
当座はここで暮らす事にしたのだ。
「あれから1年かあ。
アミアちゃんは髪は伸びたよね。
背は殆ど変わらないけど」
「リンリは胸も尻も大きくなったよな」
髪はリンリの希望で、
背中までは伸ばすようにしていた。
そして身体の成長の方はもう諦めた。
リンリの方は更に女性らしい身体つきになったが、
羨ましくは感じなくなった。
より愛しいと思うようになったからだ。
「エリエちゃんのお腹、
また大きくなってるかな?」
「もうすぐ子供が生まれるんだよな」
島に来て、超越者としての能力を持ち続けるか、
人間に戻るかをミルミに聞かれた。
どちらにするかをミルミは自由に出来るらしい。
アミアとリンリはとりあえずは人間に戻してもらったが、
エリエは悩まず超越者を選び、
その力を使ってミルミの子を妊娠していた。
詳しい方法は聞いていないが、
超越者にとって性別は些細なものらしい。
そんな夜の情事の事もあり、
最初は4人で同じ小屋で暮らしていたが、
アミアとリンリは島の反対側に自分達で家を作り、
そこで暮らす事にした。
なるべく自給自足にしたのだが、
道具や服などの生活用品を1から作るのは難しいので、
そこら辺はミルミに譲ってもらった。
今はアミアとリンリで役割分担を決め、
殆どの衣食住を自給自足出来ていた。
不便なところもあるが、
それも生きる為の楽しみになっている。
ミルミとエリエは超越者の力で、
自由に欲しい物を取り出し、
好きな食べ物を作り出した。
そもそも超越者は食事も不要なのだが、
エリエが習慣で食事をし、
それにつられてミルミも食べるようになっていた。
「邪魔するぞ」
「こんばんは」
日が沈み、二人で食事の準備をしていると、
ミルミとエリエがやって来た。
「うわー、大きくなったねー」
リンリはエリエのお腹を見て声を上げる。
確かにエリエのお腹は胸より大きく膨らんでいた。
「歩くのも結構大変なんですよ。
まあ、超越者の力を使えば、
苦じゃないんですが」
「油断すると危ないからな。
力はあくまで保険ぐらいに考えておけ」
「ミルミもすっかり親の顔だな」
アミアはテーブルの上に料理を並べる。
「子供を作った事は無いからな。
とりあえず経験はしておいて損は無い」
「わたくしの次はミルミが産む予定なんですよ。
順番に10人位は産もうかと」
「大家族だね。
そっかー、それもいいかも」
リンリはそれを想像しているようだ。
「二人も早く超越者になればいいのに。
見た目だって好きに変えられますよ」
エリエは小さな少女の姿になる。
ただ、そのお腹の大きさは変わらない。
「やめんか、子供がいるうちは」
「そうですね、すみません」
エリエはそう言うが、
あんまり反省しているようには見えない。
徐々にエリエに主導権を奪われているのが分かる。
「子供はいいけど、
そうなると生活が大変になるしね。
当分は二人でいいよね?」
「そうだな。
産むにしてもリンリが成長しきってからかな」
「まあ、超越者にならんでも、
女性同士で子供を産む方法はある。
そこら辺は二人の好きにすればいい」
ミルミが言うには人間を辞めずとも、
子供は産めるという。
人の寿命で老いて死ぬか、
超越者になって長く生きるかを決めるのは、
もう少し考えようとアミアは思った。
「うむ、料理の腕は上がってるようじゃな」
「こっちのスープはどちらが?」
「スープはアミアちゃんで、
肉とかを焼いたのは私だよ」
「まあ時間は十分あるからな、
四苦八苦した結果だ」
食事を食べながら談笑する。
ミルミに関してはたまにあっちの世界に戻ってるようで、
月に1度集まった時にその話を聞く。
色々問題はあるようだけど、
もう心配はしていない。
全ては向こうの世界の仲間に託したからだ。
そして今のアミアの心配事は、
明日の魚が捕まえられるかだった。
「楽しかったね」
「そうだな」
エリエ達が帰り、二人で浜辺に座る。
食後にここでくつろぐのが日課になっていた。
二人きりで寂しいと思う事は無いが、
たまにエリエ達と会う事は、
楽しみの一つになっていた。
「もっと色んな人と一緒に暮らしたかったか?」
「ううん。
私は、アミアちゃんといられれば、
それだけで幸せだよ」
「あたしもだ。
愛してるよ、リンリ」
「私も愛してる」
裸になって、浜辺で何万回目のキスをする。
月夜は2人を優しく照らす。
アミアとリンリは飽きる事無い日常を謳歌していた。
【FIN】