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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第6部 決意
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9.旅立ち

「新たな国を建国しようと思います」


クルク王女は部屋にいる全員に告げる。

応接室にはアミア達とエリエ、

大巫女ナナ、魔術師のラーラとフレフ、

王国騎士団からはニギニとタンタ、

後はドドとミルミも参加していた。


「王国の生き残りの方も大分集まり、

更に東の国の方も増えました。

名前だけ王国として残っていましたが、

前王は死去し、

私もそれを正式には継いでおりません。

もちろん元の国のまま王位を継いでも良いのですが、

そうすると東の国の民の扱いが難しくなります。

ですので、旧王国の民と、

東の国の民が平等に暮らせる、

新たな国を作ろうと考えました。

王制ではなく、君主として私クルクと、

大巫女ナナ様の2名を立て、

両名で統治する国にしたいと考えております。

ナナ様には既に了承を得ております」


「はい、わたくしもクルク王女の提案を、

受け入れたいと思いました。

既にトワの国は何者かに支配され、

正常に統治されておりません。

それを取り戻すにも巫女の力だけでは難しく、

民を助けても受け入れる場所が無ければ、

手を出せません。

ですので、王国とトワの国を合わせた、

友好的な国が必要でした。

力を合わせれば過去の悲劇を乗り越え、

共に平和な生活が取り戻せるのでは、

と考えております」


王女に続き、ナナも意思を表明した。

混乱した今の世界では力を合わせる事が、

正しい事だとアミアは感じた。

ただ、ミルミの言っていた事は気になる。

これも仕組まれた事なのでは、と。

ミルミの方を見たが、特に表情は読み取れなかった。


「部外者である立場から意見させて下さい。

それぞれの国の民はそれを素直に受け入れ、

今まで敵対、隷属していた人達と、

共に生きる事が出来るのでしょうか?」


珍しく意見したのはラーラだった。

両国民が言いにくい事をあえて言ったのだろう。


「恨みや憎しみは簡単には消えないでしょう。

しかし、ここは妖魔に襲われており、

東の国と手を組んだ何者かにも攻撃されています。

その被害にあっているのはどちらの国の民も同様で、

それに立ち向かう為に手を取る事は、

可能だと私は考えております」


「ラハン領の民は元々王国への進攻に反対し、

隷属させていた事もありません。

支配した土地の者も一部おりますが、

大半がラハン領の者だと理解いただければ、

少しはその姿勢も変わると考えております」


クルクとナナ、二人の指導者がいれば、

民はまとまるとアミアは思った。

この後、新たな国は未だ隷属されている町を解放し、

居場所の無い東の国の民も受け入れるだろう。

そうすれば人口と共に戦力も増え、

地下の鎧も使えば、

東の国にも対抗出来るようになるだろう。

まさに理想の国だ。

反対する者も少ないと思える。


「他に意見のある方はいらっしゃいますか?」


特に意見は無く、

もう少し色んな意見を取り入れたのち、

正式に発表する事に決まった。


『後でお主の部屋へ行く』


アミアが部屋を出る時にミルミからそう言われ、

自室に戻ると、既にミルミが座っていた。


「さて、どちらから話そうか?」


「じゃあ、あたしから。

王都が襲撃された際、会話出来る敵と接触し、

寝返る気があると伝えてみた。

結果としては、すぐに断られた。

あと、敵はデレンの悪魔鎧も使っていた。

一連の黒幕が同一なのは確かだ。

そして、敵は東の国と王都の襲撃、

どちらも制圧出来る戦力を持ちながら、

それを出し惜しみしていると感じる。

まるで、こちらを勝たせてくれているように」


話が飛躍し過ぎな気はするが、

アミアはミルミに言われた事を元に考え、

確かめ、結論に至った。


「なるほど。

お主も色々と考えたようじゃな。

まあ、ちょっと無駄な作業をさせてしまった。

これが黒幕じゃよ」


そう言ってミルミは服から一つのクリスタルを取り出す。

中には若い人間の男が見える。

余り強そうでも無く、威厳も無く、

どこにでもいる平民の若者に見えた。


「本当か?

じゃあ、超越者か、それとも他の存在か?」


「いや、ただの人間じゃ。

デレンが接触したのもこいつだと証言しておる。

東の国に行った際に裏で色々と調べて、

捕まえてきた。

巨神を動かしたのも、銀色の鎧の発掘も、

この町への襲撃もこいつの指示だと、

自白しておる」


クリスタルの中の男は観念したのか、

特に抵抗する様子は無く、項垂れている。


「何者なんだ?

魔術師か?

それとも、もっと凄い力があるのか?」


「それが、本当にただの人間なんで、

わらわもビックリしたのじゃ。

それなりに頭は切れるが、天才では無い。

野心も野望も無い。

ただ、予知の力が突然湧き、

それを餌に超越者や悪魔と交渉し、

望む物を与えて東の国を裏から支配したと。

大きく動き出したのは巨神騒動からじゃ。

優秀な超越者、悪魔、人を集められたので、

色々うまくいった、という、

嘘のような話じゃ」


「じゃあ、黒幕を捕まえたって事は、

もう王都への襲撃や、

東の国の混乱は無くなるのか?」


「いや、無くなりはせん。

もうすぐ次の襲撃が始まるじゃろう。

こいつはたまたま上に立っただけじゃ。

いなくなればその下の者が同じ立場になる。

もう種は蒔かれてしまった。

指示を出すのは誰でもいいのじゃ。

ただし、敵が新たに生まれる国を、

上回る事は無いじゃろう」


ミルミの言っている事は何となくは分かるが、

本当にその男が黒幕とは思えなかった。


「あたしにはよく分からない。

そもそも予言の話をしたのはミルミだ。

予言を与え、そいつを動かしたんなら、

そいつは黒幕じゃないんじゃないのか?」


「その通りじゃ。

こいつは黒幕に仕立て上げられた男、

いや、その役目を与えられた男じゃな」


「じゃあ誰がそれを?」


「そんな事出来る存在は一つしか知らん」


「“神”様か?」


「恐らくな。

なんで、

わらわはそれを確かめに行くつもりじゃ」


ミルミはにやりと笑う。


「そんな事が・・・」


『皆さん、敵襲です。

応接室に集まって下さい』


魔術師から魔法で連絡が来る。


「まあ、それももう少ししてからじゃ。

とりあえず当面の戦いをしておれ」


「納得は出来ないが、分かったよ」


アミアはミルミを置いて部屋を出ていった。



『次から次と新作が出てくるな』


アミアは緑色に輝く鎧の相手をしながらぼやく。


『でも、性能的にはそこまで強くなってないね』


リンリはデュエナで大型の悪魔鎧を叩き斬った。


『こっちの方はほぼ完了です』


ニギニからも念話が来て、

王都に攻めてきた敵の殆どが撃退出来ていた。

アミアも緑色の鎧を切り刻み終わる。


『大物は二人で行くぞ』


『うん』


リンリとは久しぶりの共闘だ。

目の前に残ったのは竜の形をした銀色の鎧。

3つ首を持ち、炎と吹雪と雷のブレスを吐く。

リグムが素早く動いて、ブレスを誘導し、

デュエナがその首を叩き斬る。

アミアはヒュドラ戦を思い出していた。

しかし、リンリは昔と比べると大分強くなった。

首はすぐに無くなり、

再生を始める前に胴体を二人で協力して破壊する。

分厚い装甲も、早い再生速度も、

覚醒した2機には敵わなかった。


『大物も倒したぞ』


『こちらも完了です』


エリエも巫女達と悪魔鎧を倒し終わったようだ。

ミルミの言う事が正しいとすると、

今後も定期的に新たな敵が現れそうで、

アミアは少しげんなりした。



襲撃の2日後に新しい国の建国宣言が行われた。

立派な服に身を包んだクルクとナナが、

手を取り合って宣言した。

新たな国は『ルナ』と名付けられ、

元王国民からも元東の国の民からも受け入れられた。

アミアは再度クルクに誘われたのだが、

答えを濁して会わないようにしていた。


町中がお祝いムードの夜、

アミアとリンリはテルテに呼び出された。


「その恰好は、どこか調査にでも行くのか?」


テルテの部屋に行くと、

テルテは昔のような旅支度だった。


「アミアには前に言ったけど、

うちはここを出ようと思う。

機械武者については東の国の技術者も来たし、

うちの知識は魔術師のサリサに引き継いだ。

だから、うちは特にここで必要とされてない」


「そんな事無いよ。

テルテちゃんがいないと私は寂しい」


「リンリ、ありがとな。

これはうちの我儘なんだ。

ここで調べたい事は調べた。

これ以上調べるには東に行くしかない。

アミアには言ったが、これはうちの問題で、

二人に手を借りようとは考えてない。

シウンもあるし、一人でなら生き延びられる」


そうは言うが、テルテの顔は少し寂しそうだ。


「他に誰かに伝えたのか?」


「クルク王女、今は王女じゃないか、

クルク様には一応。

引き留めれたけど、やりたい事があるって言った。

あとはサリサには匂わせといた」


「ミルミちゃんやエリエちゃん、

ラーラちゃんには言わなくていいの?」


「あんまり湿っぽいのは好きじゃないし、

ミルミは多分知ってるだろう。

別に今生の分かれになるとも思ってないし」


そう言ってテルテはリュックを背負う。


「最後に、これは友人として。

二人とも、お互い好きなんだし、

もっと素直になれ。

アミアはもっと我儘になっていいし、

リンリはもっとアミアを甘えさせてやれ。

別に二人が逃げようが、悪の根源を倒そうが、

すぐに次の問題は出てくる。

自分達の幸せを求めて、

他はついで位の気持ちの方が、

気が楽だと思うぞ。

それじゃあな」


テルテは背を向ける。


「テルテ、ありがとう。

元気でな」


「テルテちゃん、またね」


アミアとリンリはテルテの背中を見送った。

アミアはテルテの気遣いを感じ、

決意する。


「リンリ、明日、

もう一度話をさせて欲しい」


「うん、分かった」


テルテの事もあり、

二人はそのまま部屋へと戻った。


===========================================================================


(うーん、心配だけど、

あとは二人の問題だしなあ)


テルテは荷物をシウンに仕舞い、

シウンを起動させる。

夜中の格納庫は誰もおらず、

なるべく音を立てないように扉を開け、外に出た。


「わらわに声をかけないとは、

恩知らずじゃのう、お主は」


「テルテさん、お元気で」


城の外にはミルミとエリエが並んで立っていた。


「ああ、二人もお幸せに」


「最後までふざけた奴じゃ」


「はい、ミルミ様はわたくしが、

責任をもって幸せにします」


そのまま横をすり抜け、

城の裏の道から城壁に登り、外へと出る。

するとシウンのレーダーに、

1体の鎧の反応があった。


『待ちくたびれた』


『誰も頼んで無いぞ。

1人の方が気が楽なのに』


『見捨てて野垂れ死んだら、寝覚めが悪い。

それに、同じ方向に調べ物が有ってな』


シウンは待機していた魔導機に近付いていく。

ラーラの魔導機がそこに立っていた。


『他の魔術師はいいのか?』


『一応フレフに頼んでる。

元々一時的な協力関係だし、

新しい国に興味が無くなれば、

帰る奴もいるだろう。

あたしは師匠もいなくなったから、

自由にやらせてもらおうとね』


『まあ、お前はそういう奴だよな。

・・・話し相手がいるのは、少しだけ嬉しいかな』


『相変わらず素直じゃないなあ。

まあ、いいさ、気楽に行こう』


『お前が言うなよ』


テルテはコクピットの中で微笑み、

先導して進んでいく。

新たな知識を求める旅へと。

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