8.確認
リンリ達が救出作戦に旅立って2日、
王都は特に敵の襲撃も無く、
アミアもたまに訓練を見に行く位で、
基本は暇だった。
王女と話せば手伝える事は山のようにあるのだが、
以前の返事をしていないので顔を合わせ辛い。
テルテのように機械に興味も無いので、
部屋で考える時間が増えていた。
「コンッコンッ」
部屋がノックされたので出ると、
そこにはテルテがいた。
「珍しいな」
「ちょっと根を詰め過ぎたから気分転換に」
椅子を薦めて、対面のベッドに座る。
「最近はどんな感じなんだ?」
「魔術師のサリサって子が機械武者に興味があって、
色々教えてたんだ。
うち以上に飲み込みが早くてビックリしてる。
もうすぐここで一番詳しくなるよ」
テルテは楽しそうだ。
「それで、アミアはどうしたいんだ?」
「随分抽象的な質問だな。
王国との関わり方か?
それともリンリとの事か?」
「どっちもだよ。
デレンの屋敷に行く前にリンリから話があったんだ。
時間が経てばうまく行くかと思ったけど、
そうでもないみたいだしな」
テルテの言いたい事は分かるが、
結局アミア自身が煮え切らない所だ。
何と言っていいか分からない。
「王国の事は、出来れば離れたいと思ってる。
縁もあるし、仲良くなった人も多い。
でも、いつまでも命がけで守りたいとは思わない。
ただ、リンリはそうは思ってないみたいだ。
あたしはリンリと離れるつもりは無いし、
かといってこのままだと危険だと思ってる。
なんで、何も決まらず、平行線だ」
「リンリと共にこの国を守る、
っていう選択肢は無いのか?
両想いなんだから、
ここで一緒に暮らすのもいいと思うぞ」
「正直、心は揺れている。
リンリが望むなら、それもありかと。
でも、違うんだ。
リンリの好意はあたしの好意とは違う。
リンリには善意の気持ちが有って、
あたしへの好意もその一部だという気がするんだ。
だから、素直に納得出来ない」
とりあえず頭の中の考えを言葉にする。
自分達を見てきたテルテになら、
ある程度は伝わるだろうと考えて。
「リンリの気持ちについては、
考え過ぎだと思うぞ。
アミアもリンリも違う人間だ。
考え方だって感じ方だって違う。
どちらかが少し妥協すれば、
うまく行くとうちは思うんだけどな。
あと、王国の件に関しては、
アミアの考えに同意だ。
今後も危険は増えるだろうし、
それは王国が抱えるべき問題だと思う。
アミア以外の戦力も増えたし、
西側の戦力も集結させれば、
復興も出来るだろう」
「テルテには話しておくか。
実はあたしはクルク王女の従妹にあたるらしい」
アミアは王女との関係を説明した。
「なるほどなあ。
それじゃあ離れたくなるのは分かるよ」
「クルクの事は嫌いじゃないし、
親類が生きていた事は嬉しい。
でも、あたしにとっては今更なんだ。
姉さんは死んでるし、
両親はもっと前に死んでる。
王族の血が流れていようがあまり関係は無い」
「まあ、アミアの好きにすればいい、
ってうちは思うよ。
うちもしばらくしたらここを離れるつもりだし」
初めて聞く話だった。
「どこへ行くつもりなんだ?」
「今興味があるのは機械武者のエネルギー、
焔玉の事だ。
だから、その作成者に会いたいと思ってる。
前にラーラが言ってたと思うけど、
『禁じられた光』っていう物が、
ラーラが持っていた資料に載ってたんだ。
それは大昔に使われたエネルギーらしく、
うちが探してるお宝の一つなんだ。
で、焔玉の製造方法とそれが関係してるのでは、
とうちは睨んでる。
王国に敵対するつもりは無いけど、
うちは自分の興味を優先するつもりだ」
「そうか。
どこにいるか分かってるのか?」
「巫女で知ってる人がいないか、
以前聞いたんだけど、
詳しくは分からないって。
ただ、今回救出作戦が成功すれば、
知ってる人がいるんじゃないかと」
テルテの考えは立派な気がする。
恋愛感情に流されて、
自分の将来すら考えていない事に比べると。
ただ、テルテと共に出ていく気も無かった。
「一人で行くのか?」
「そのつもりだ。
この件はアミアも関係無いし、
付き合わせるつもりも無いしな」
「そうか。
まあテルテならそう簡単に死なないだろう」
「誉め言葉と受け取っておくよ。
てな感じだからさ、
アミアも好きにすればいいと思うよ。
リンリはさ、もっとアミアが強引に行けば、
言う事聞くと思うぞ。
うちは二人が結ばれる事を祈ってる」
「ありがとう。
考えてばっかりだけど、もう少し考えてみるよ」
テルテは手を上げて出ていった。
アミアはそろそろ覚悟を決めないと、
と思うのだった。
『起きて下さい、敵襲です!』
深夜、
トリリトの魔法の警告でアミアは起こされる。
急いでローブを羽織り、走って応接室へ行くと、
既に数人が集まっていた。
「銀色の正体不明の鎧と、
これは悪魔鎧だ。
デレンの研究成果は敵に渡ったみたい」
ラーラがドゼビムの形見の水晶を見ながら言う。
覗き込むと銀色の鎧の集団と、
後方に悪魔鎧が3機見えた。
(予想が当たったか)
悪魔鎧とはアミアは直接戦っていないが、
エリエとラーラが戦い、苦戦した相手だ。
それが3機なのだから、かなり手強い。
「どんな状況ですか?」
クルク王女もやってきて、
簡単に作戦会議を行う。
「敵が城まで来るのに15分ほど、
内訳は銀色の鎧が200機、悪魔鎧が3機だ」
アミアが得た情報を説明する。
「悪魔鎧は以前は魔力を与えて肥大化させましたが、
同じ方法が効くかは分かりません」
ラーラが補足する。
「双子は既に2重適合して正門前で待機してる。
覚醒出来るのはあたしだけなので、
あたしが悪魔鎧の相手をしよう。
残りのメンバーは以前と同じく、
左右に分かれて銀色の鎧を魔導機で破壊して欲しい」
アミアはなるべく戦力が均等になるように分ける。
クルク王女は対となる不死鎧が無いので、
城に待機してもらう事にした。
ドドはこの後声をかけて、
出来れば参戦してもらうつもりだ。
『それじゃ、銀色の鎧の方は、
トリリト、トルルトの二人に任せた』
『はい』
『任せとけ』
以前は苦戦したようだが、
今回は一度戦った事のある相手で、
テルテとドドも加わったので任せる事にする。
ドドは戦い易いのか鎧サイズで参戦している。
アミアは覚醒し、正面の銀色の鎧を蹴散らしつつ、
悪魔鎧まで近付こうとした。
(確かに人が動かしてない動きだな)
銀色の鎧の反応はそれなりに速いが、
動きは単調で、よく見れば躱しやすい。
アミアにとって敵では無かった。
そして正面の悪魔鎧が警戒して構える。
(やってみるか)
アミアはハルバードを構え、軽く打ち込む。
正面の悪魔鎧は手を盾にし、それを防いだ。
「代表者と話がしたい。
条件が良ければそちらに付いてもいい」
アミアは接近したところで声に出して言う。
相手が反撃したので、
一旦距離を取り、相手の行動を窺う。
悪魔鎧は3体とも一時的に攻撃の手を止めた。
(さて、どう出るか)
もちろんアミアは本心では言っていない。
悪魔鎧は悪魔と融合した鎧で、
デレンが使っていた時は悪魔の意思で動いていた。
今回も同じか、中に誰か乗っているかは分からないが、
言葉が通じるのは確かな気がする。
「お前らは敵だ。
破壊する以外の選択肢は無い」
中央の悪魔鎧がそう言い、
3体で再び攻撃を仕掛けてきた。
声は男性に近く、悪魔のものと思われた。
(なるほど)
アミアは戦いに集中しつつ、
敵が取った答えについて考える。
もしアミアが寝返ったなら、
城の制圧は楽になる筈。
それを即座に否定したのは、
敵が独自に考え判断したか、
誰かが作った筋書きにアミアの裏切り、
というのが存在しないか、か。
敵の猛攻に考えが中断され、
アミアは後で考える事にした。
(さて、3対1か)
魔法生物を使った防御と、
悪魔と鎧を合わせた再生速度、
メレンの融合体より手強いかもしれない。
ただ、リンリは魔法生物を無力化しつつ、
フラーネを倒したという。
リンリに出来て自分に出来ない訳は無い、
と思いたい。
(まずは1体)
ハルバードは背中に付け、両腕から光の刃を出す。
左から攻撃してきた1体に光の刃で斬り付けるが、
表面の装甲は斬れても、
その内側の魔法生物で攻撃が止まり、
内側までダメージが入らない。
(くっ!)
他の2体が背中と右足を攻撃し、
魔法生物特有の痛みがアミアを襲う。
しかし、以前の戦いで感じた痛みなので、
前より意識ははっきりしていた。
(包み込むように潰す!)
リンリは無意識で出来ていたようだが、
アミアは頭で考えないと魔法が使えない。
が、イメージは明確になってきた。
再び攻撃してきた1体に対し、
刃で斬り付けると同時に、
その内側に魔法を発動する。
すると中の魔法生物が弾け、
刃は内側の悪魔の心臓へと突き刺さった。
(よしっ!)
破裂すると聞いていたので、その1体から離れると、
確かにその悪魔鎧は破裂した。
しかし休む間もなく、残り2体は猛攻をしてくる。
(次は2体同時に!)
アミアは集中し、今度は考えずに、
感じるままに相手の心臓を狙う。
(そこ!)
2体の攻撃をカウンターで狙い、
魔法を発動しつつ両手の刃を左右に突き出す。
それぞれ心臓を貫き、破壊する事が出来た。
『悪魔鎧は片付けたぞ』
『こちらも、もう少しです』
魔導機の魔法で大半の銀色の鎧は片付き、
トリリト達は残りを片付けている所だった。
(何となくだが、
ミルミの言ってる事が分かった気がするな)
今回の敵の戦力も前回の襲撃よりは強大だが、
王都に残ったメンバーで対処出来るものだった。
アミアはミルミの言う筋書きの存在を、
ある程度信じられると感じていた。
『ただいま、アミアちゃん』
『おかえり、ご苦労様』
4日後、リンリが連れてきたのは巫女達以外に、
大量の機械武者と市民達だった。
市民は東の国の褐色肌の人と、
隷属させられた元王国民が混じっていた。
住む場所を分けないと大変だな、
とアミアでさえ感じられた。
正門の中でクルク王女が待っていた。
各代表者は鎧を降り、その場で挨拶をする。
「皆さんご苦労様でした。
ラハン様ですね。
初めまして。
私は王女のクルク・デクスビアと申します。
私達はあなた方を歓迎致します。
ただ、全ての市民が喜んで受け入れる、
という事は難しいです。
しばらくは距離を取って生活して頂きます」
「デクスビア殿、かたじけない。
拙者はトワの国の元大将、ザンザ・ラハンと申す。
今は流浪の身、領民の寝る場所を頂ければ、
それで十分です。
戦力は拙者も含め、存分に使って頂ければ」
「分かりました。
すみませんが、城は基本的に男子禁制ですので、
今後の事は町でお話しさせて下さい」
「了解した。
それでは、また後程」
ザンザは従者に案内され、
町の外れの方へと東の国の民と共に移動した。
「ナナ様、ご無事で何よりです」
「クルク王女こそ、
迅速な対応ありがとうございます」
二人は再会を喜び合う。
そんな中、アミアは違和感を感じ、
シルシに話しかけた。
「シルシ、その子は?」
「・・・町で拾った。
ボクから離れない・・・」
シルシの横には更に小さい子供が、
縋るようにくっついていた。
赤茶色のボサボサの髪だが、
顔はとても可愛らしい。
上目づかいでアミアの方を見ている。
「帰る途中で休むのに町に寄ったんだけど、
妖魔に占拠されてて人はいないと思ったんだ。
そしたらシルシちゃんがこの子を見つけて。
唯一の生き残りだったみたい」
「そうか。
どうするんだ?」
「・・・責任もって育てる・・・」
その子もシルシの言葉に頷く。
シルシにも妹が出来たみたいなのかと思い、
まあ城に置く分には何とかなると思った。
実は悪魔や超越者だった、なんて事は無いだろう。
『後で話がある』
その時頭の中に声が響き、
視線を感じた方を見るとミルミが立っていた。
『あたしもだ』
アミアもミルミと話したいと思っていた。
各自、城に移動を開始すると、
ミルミの姿は消えていた。




