11.開戦
王都に帰ってきた日の翌朝、
アミアは昨晩の会議はうまくいったものの、
いざ寝ようとしても眠れず、睡眠不足だった。
(リグムに乗ればいいんだけど、
もうすぐ会議の時間だしな)
同化する事で体調は整えられるが、
時間的余裕も無いので、諦めて応接室に向かう。
何より問題は自分の気持ちの方だと分かっている。
応接室には既に半分ぐらい人が集まっており、
リンリも先に入っていた。
いつも通りリンリの隣に座る。
「アミアちゃんおはよう」
「おはよう」
リンリに特に変わった様子は無い。
アミアも仕事モードに切り替えているので、
思ったより動揺は無かった。
やがて前日と同じように人が集まった。
席の並びはほぼ前日と同じなのだが、
今回は追加で参加している人がいる。
夜の打ち合わせの結果、2重適合出来る人は、
作戦で重要な役割になるので、
この会議に出てもらう事になったのだ。
候補生からはシルシと双子の3名、
巫女からは4名参加してもらう事になった。
「皆さんおはようございます。
作戦会議を始める前に、追加で参加してもらう方に、
自己紹介をしてもらおうと思います」
クルクの挨拶で、自己紹介が始まり、
巫女はそれぞれ、メグリ・オウコウ、
アミン・サクハ、カレカ・トドウ、
ゼンゼ・ヨイムと名乗った。
メグリとアミン、カレカとゼンゼがペアで、
メグリとアミンはアミアが捕らえられた時、
神装に乗っていた二人だった。
「昨日軽く説明を受けたと思いますが、
彼女達は鎧で2重適合が行えるので、
今回の戦いで重要な存在になります。
なお、私も2重適合で戦います。
他にナナ様、エリエ様、アミア、リンリは、
鎧で覚醒が行える、更に重要な存在です。
その事を覚えておいて下さい」
クルクは主に二つの教団の代表に向けて言った。
情報自体は昨日個別でタンタに伝えて貰っている。
代表者二人はリンリの強さを見ているので、
その意味は理解しているだろう。
「それでは作戦会議を始めます。
今回の戦いでは私クルク・デクスビアが、
大将を引き受けたいと考えております。
異論のある方はおりますでしょうか?」
昨夜の時点で王国側の面々で進め方を話してあり、
その順にクルクは進めていく。
クルクの言葉に対して反論は無い。
「ありがとうございます。
作戦についての話は、アミアが致します。
アミア、皆さまに説明をお願いします」
アミアは覚悟はしていたが、
ここからはアミアの責任になる部分もある。
アミアは気合を入れて話始める。
「はい。
あたしの口調について見苦しい所があると思うが、
そこは我慢して欲しい。
まずは城に集まった戦力を説明する。
王国騎士団は神聖鎧6機、不死鎧4機の計10機。
神聖騎士団は神聖鎧13機。
デュガール教団戦闘部隊は不死鎧13機。
トワの国の巫女は神装30機。
魔術師の魔導機10機。
あとは龍神であるドド、
テルテの機械武者が1機参加する。
合わせてドドを除いて77機の大部隊になる。
王都には他にも機械武者があるが、
王都防衛に残すので、今回の戦いには参加しない」
アミアが説明し、テルテが机の上に、
用意した所属別の簡単な模型を乗せる。
「次に現在の敵の戦力だ。
目的の巨神の他に敵がいた場合、
その排除は必要になる。
魔術師ドゼビムより魔法の道具を借りたので、
上空からだが、敵の様子を見る事が出来た。
ラーラ、出してくれ」
昨晩ラーラと事前に打ち合わせをして、
ドゼビムの水晶を巨神の位置に固定してあり、
それを魔法で全員が見れるように拡大してもらう。
「これは・・・」
大巫女ナナがその状況を見て声を出す。
巨神がちょうど東の国の村の上を通った後だからだ。
村は無残に踏み潰され、
その反動で周りの土地も大きく破壊されていた。
そして、驚くべきはその周囲だ。
巨神からはある程度距離を取っているが、
巨神の右前辺りに東の国の物と思われる機械武者の軍勢、
左前には悪魔と大型妖魔の群れ。
その数は以前アミア達を待ち伏せていた物より多い。
さすがに集まった者達はその状況に恐怖する。
「巨神は朝に4歩、夜に4歩、
12時間おきに決まった歩数進んでいる。
見えている軍隊もそれに合わせて進んでいる」
この情報はラーラが移動中に確認してくれた事だ。
テルテとラーラが敵の情報をまとめてくれていたので、
アミアはこのタイミングで情報を出す事が出来た。
「これをあたいらで全部倒すのか?」
邪教団の隊長ビンサが無理と感じて声に出す。
「無理に全滅させる必要は無いが、
巨神を無力化させる際に、
邪魔されると作戦は失敗になる。
だから、出来れば全滅させたいと思っている」
アミアは悪魔は一旦逃げても邪魔してくるだろうし、
妖魔も命令されているなら逃げ出さない可能性が高い。
結局全滅させる必要があると思っていた。
「先に巨神を倒す為の手順を説明しておく。
巨神を倒すには3つのプロセスが必要になる。
一つ目は巨神を傷付け、修復状態にする事。
これは巨神の足の関節部を集中攻撃すれば、
自重でバランスを崩し、数時間の修復状態に出来る。
これにはまず龍神ドドの圧倒的な攻撃力が欠かせない。
後は攻撃力の高い覚醒した鎧、2重適合の鎧が加われば、
可能だという事だ」
アミアはドドに聞いた、
過去に海底に沈めた際のやり方を説明する。
「二つ目は巨神を魔法で空中に固定する事。
これはどの系統の魔法でも出来るが、
魔術師は三つ目で必要になるので、
神聖鎧、不死鎧、神装の力を合わせて行う。
神力が残っている鎧が40機あれば可能なので、
その数を残すように戦闘を行う必要がある」
機械武者と魔導機を除くと66機で、
更に2重適合以上出来る機体を除いて54機。
2割以上損害が出た場合、危険という計算だ。
「三つ目は巨神をテレポートで海底に送る事。
今回魔導機の力でテレポートと更に封印が出来るそうだ。
ただし魔導機が揃っている事、
魔術師の魔力がほぼ残っている事が必要なので、
それを守れるかどうかが重要になってくる。
一つ目の修復状態と二つ目の空中への固定は、
あの巨大な物体を途中で抵抗されずに、
テレポートさせる為に必要な順序だそうだ」
詳しい理由は知らないが、
ラーラもこのやり方で出来るだろうと言っている。
「で、3つのプロセスを踏まえて、
巨神の周りの敵を倒す事を考える必要がある。
最初に戦闘に参加出来ない機体を取り除く。
魔導機はテレポートに必須で、
戦闘には参加出来ない。
と同時に、伏兵や奇襲の時に魔導機を守る必要がある。
この役目は単騎でも強力な機体である、
ナナさんのクオンとエリエのアイシンにお願いしたい。
ただ、2機だけだと完全にカバー出来ないので、
追加で2機、2重適合出来る神装を守りに加える。
これはメグリさん、アミンさんでいいですか?」
「はい、その二人なら十分に役目を果たせるでしょう」
ナナが答え、該当の二人も頷く。
正直覚醒が使える二人を護衛に置くのはどうかと思ったが、
代わりが効かない重要な部分で、
自分達が敵ならここを狙うだろうと、
重点に置く事にしたのだ。
「また、後方からの敵に備えて、
テルテのシウンには背後を見張って貰い、
ラーラには水晶で伏兵の動きを警戒して貰いたい」
アミアは言いながら周りから同意を得る。
「次に左翼、機械武者の軍勢と戦う部隊を決める。
巫女の神装は二つ目の魔法の工程をお願いするが、
神力を温存しても戦闘では活躍出来ると思う。
なので、相手を理解していて、
比較的容易に倒せるだろう、
右側の機械武者の部隊と戦って欲しい。
ただ、新型機は強力な機体もいると思うので、
リンリのデュエナを加え、
2重適合が使えるカレカさん、
ゼンゼさんの3人に主力として戦ってもらう」
本来デュエナは超越者が現れた時の為に、
力を温存しておきたいと思った。
だが、4人の強力な神装は魔術師の護衛に付けたので、
残りの巫女だけでは不安もあり、
左側の部隊を任せる事になった。
邪教団や聖教団との共闘よりはリンリが戦い易い、
という意図も無い訳ではない。
「最後に右翼の部隊を決める。
巨神の左側は悪魔や大型妖魔など、
危険な敵が多い。
特に悪魔は2重適合前の鎧で戦うのは難しい。
ただ、大型妖魔とは各教団も戦ってきたし、
王国騎士団も戦い慣れてきている。
ドドには一つ目の行程で力を発揮してもらうが、
悪魔の相手は体力を温存しつつ出来るそうだ。
なので強力な悪魔の相手はなるべくドドに振り、
2重適合出来るクルク王女、シルシ、
トリリトとトルルトは、
そこから漏れた悪魔の相手をする。
王国騎士団と聖騎士団、教団戦闘部隊は、
神力をなるべく温存しつつ、
各自協力して大型妖魔の各個撃破をお願いする。
あたしのリグムは中間地点で全体を見回し、
強力な敵が出た場所に援護に回る。
いかがだろうか?」
テルテが机の上に決まった部隊毎に模型を並べ、
更に敵を表す模型を置いて、
おおよその位置関係を表した。
恐らく犠牲が出る作戦だろう。
ただ、巨神を倒す為の力を残し、
かつ敵を排除する為には、
全員が協力して戦う他に無い。
「途中で作戦が失敗した場合、
撤退となるのでしょうか?」
神聖騎士団の代表であるキマキが発言する。
「途中で失敗しても、
出来る限りその場で代案か、
次の策を考えるつもりだ。
それでもどうしようもないと判断した場合、
撤退命令が王女から出るだろう」
アミアは建前を述べる。
実際、撤退はありえない。
失敗は王国の敗北であり、
東西関係無く、滅亡の第一歩になるだろう。
ここまで戦力が揃う事が、
今後あるか分からないのだから。
「さて、ここまでは全て、
現在把握している敵の戦力と、
多少の伏兵を考えての作戦になっている。
“超越者”が敵として現れた時の対応は含まれていない。
超越者は龍神ドドに匹敵する、
悪魔より格段に強い存在だ。
もし現れた場合、絶対に戦おうとしない事、
防御に専念して繭を守るように逃げる事。
神聖鎧は秘奥義で身を守り、
不死鎧は魔法で身を隠すなど、
この時は力を惜しまないで欲しい。
超越者については正直対策出来ていない。
ドドに抑え込んでもらう事は可能だが、
そうすると巨神戦で力が使えなくなる可能性が高いそうだ。
だから、出現した場合、覚醒を使える者、
あたしとリンリ、エリエ、ナナ様が力を合わせ、
撃破を試みようと思う。
正直可能性は低いが、
ドドが言うには不可能ではないそうだ」
昨日の晩の会議で、一番問題になった点だった。
現在の作戦で予備の戦力としているのは、
アミアのリグムのみで、
それも全体を見つつ、遊ばせる訳ではない。
そこに超越者が加わり、
覚醒出来る4人を取られると、
他のどこかが危険になる可能性が高い。
ドドがいる右翼が一番手堅いが、
左翼は巫女次第、
魔導機の護衛が特に危なくなる。
超越者がいるなら黒幕だろうし、
そうそう戦いには出てこないだろう、
とは言われているが、
超越者だからこそ動きが読めない。
ミルミは傍観者を決め込むと言っていて、
前回の待ち伏せの時のように戦う事は無いだろう。
「全員が全員、
巨神を倒すのに欠かせない戦力だ。
自分の身を守り、仲間の身も守る。
特に力のある者は周りに気を配り、
手薄になったところをフォローして欲しい。
とりあえず現状決まった作戦は以上だ。
何か意見等あれば、遠慮なく言ってくれ」
その後、少しだけ足りない知識を補ったり、
不安な点や指揮系統を話し合った。
左翼の指揮官はリンリが行い、
右翼はタンタが指揮官、後衛はエリエが指揮官で、
総指揮がアミア、大将がクルクとなる。
左翼のリンリは気になるが、
巫女自体が統率取れているので、
アミアが少しフォローすれば大丈夫だろう。
念話でのやり取りは全機体、ドドも含めて可能で、
超越者が出たなどの緊急の報告は全体に、
それ以外の報告は仲間の部隊と指揮官に流し、
そこから総指揮官のアミア、
クルクに重要な情報が流れるようになっている。
それとは別にアミア、リンリ、テルテ、エリエの4人は、
4人の中でのみの連絡を行い、
気付いた情報を互いに把握出来るよう考えていた。
「戦闘の予定地点は、東の国との国境付近の平地、
明日の昼に戦闘になる予定だ。
今日の昼前に出発するので、
それまでに準備をしておいて欲しい。
代表者はそれぞれメンバーに周知し、
その時点で問題点などが出たら、
あたしかリンリ、テルテ、
エリエの誰かに伝えてくれ。
それでは王女、最後にお言葉を」
「みなさん、戦いは激しいものになると思います。
それでも力を合わせれば成功すると信じております。
この作戦が成功すればバラバラだった人々が、
今一度協力し合う世界の切っ掛けになります。
こうして違う考えだった人々が、
ここに集まっている事自体が奇跡なのです。
その事を胸に頑張りましょう」
クルクの言葉で会議は終わる。
それぞれの格納庫へ出発の準備へと向かった。
『今回は城に残らせてもらうぞ。
まあ、戦いの様子は魔法で見てるがな』
出発の前、
アミアがいつもの4人で最終確認をしていると、
ミルミが姿を出して宣言した。
『ミルミ様、寂しくないでしょうか?
わたくしは残っては駄目ですかね?』
エリエが冗談か分からない事を言う。
『お主は重要な立場じゃろうに。
ふざけてないで行ってこい。
まあ、うまく行ったら褒めてやる』
『本当ですか。
一晩添い寝してもらってもいいですか?』
『調子に乗るでない。
まあアミアもリンリもテルテも頑張ってこい』
珍しくミルミが応援してくれた。
『ああ、頑張ってみるよ』
『ミルミちゃんありがとうね』
『生きて帰れるよう努力するよ』
3人が応えるとミルミはルミルに戻り、
消えていった。
「ミルミ様のご期待に副えるように頑張りましょう!」
エリエの気合が入ったのはいい事だな、
とアミアは思う。
また、ミルミが城に残る事で、
悪魔等が城に奇襲した場合、
撃破してくれる可能性が気休め程度だが出てきた。
今回の作戦でほぼ全戦力を使う事への躊躇いが、
少しだけ軽減された気分だった。
巨神へ向けての進軍が始まった。
移動は鎧で、そこそこの速度で行う。
ドドもこの人数は乗せられないので、
体力温存の為と鎧サイズに変わった。
王国騎士団が先頭を行き、
次に神聖騎士団、魔術師達、
教団戦闘部隊、巫女達が一番後方だ。
休憩は夜に中間地点で一度行った。
アミアはそこでシルシ達2重適合を始めたばかりの、
候補生の訓練を行う。
付け焼刃ではあるが、
悪魔相手ならシルシも双子達も大丈夫だろう、
というところまでは何とかなった。
そして、翌日の昼、太陽が高く昇る平原で、
互いの軍勢は睨み合った。
巨神は大きな影を作り、
その巨大さは山のようで、見る者を圧倒する。
本当にあんなものを動かせるのかとアミアは感じた。
朝に大きな振動を伴って移動しており、
巨神は夜まで動かないだろう。
ラーラの水晶と各鎧のセンサーで見ても、
現状、目前の敵以外の伏兵はいない。
『左翼、準備出来ました』
『右翼も大丈夫だ』
左翼のリンリ、右翼のクルクから念話が届く。
『後方部隊、守りは万全です』
『背後に敵影は無い』
エリエとテルテからも念話が届き、
準備が完了した事が分かる。
『クルク王女、開戦の合図を』
『みなさん、ここが正念場です。
この戦いに人類の未来がかかっています。
決して命を粗末にせず、全力で戦いましょう。
左翼、右翼、戦闘開始!』
「「おおーーーー!!!!」」
巨神大戦の幕が上がった。




