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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第1部 出会い
10/82

10.作戦準備

「一番誘導しやすい妖魔を教えて欲しい」


アミアはテルテが目覚めたのを見計らって質問をする。

すでに起床していたアミアとリンリは、

前日の続きである魔法などの知識の共有をしていて、

その中でアミアは何かを閃いたようだった。


「誘導ねえ。

って事はヒュドラに囮としてぶつけるって事だろ?」


テルテの反応にアミアは頷く。


「となると、知恵のあるやつらは無理だと思った方がいい。

ゴブリンはあまりに強大な相手だと命令を聞かずに逃げ出す。

オーガも勝てる見込みのない戦いはしない。

てことで、やっぱりオークかな。

あれは怒らせれば死ぬまで突撃する。

例えばメスを殺したりすれば延々追いかけてくるだろう」


テルテは自分の知識から回答する。


「なるほどな。

ところでオークのオスとメスの区別ってどうつけるんだ?」


アミアは素朴な疑問をぶつける。

今まで何匹もオークを倒してきたが、

オスとメスの区別がついた事は無かった。


「まあそうだよね。

慣れると何となく分かるんだけど、

一般的に一番分かりやすいのは牙かな。

オスは牙が鼻より上まで伸びてるんだけど、

メスは鼻より下までか、牙が無いかのどちらかだ。

子供のオークもその場合があるけど、

まあそこは大きさで区別付くよね」


テルテがオークについて説明する。


「そうか、参考になった。

また後で色々聞くと思うんでよろしく」


アミアはそういって何かを考えるように一人自分の不死鎧の方へ歩いていった。


「いつもあんななの?」


テルテがリンリに話しかける。


「うーん、どうでしょう。

まだ会って3日ぐらいだし、

あれがいつも通りなのかはちょっと。

でも、邪教団で隊長やってたし、

今までも色々作戦考えてくれたんで、

ああいう感じなのかもしれないです」


とリンリは話しながら、

話過ぎたかな、とも思った。


「そうか、あれが悪姫だったのか。

全然想像と見た目が違うなあ」


「でしょ!。

私も最初に見た時ビックリして。

すっごい可愛いですよね」


リンリは同意が得られて嬉しい。


「だなあ。

あんな容姿なら鎧乗りになれて運が良かったよなあ」


「運が?

いつ死ぬかもしれないのに?」


「あ、まあ、そうか。

ごめん。

それはうちの見方だよな」


そこでリンリもテルテが言う意味が少し分かった。

リンリも教団に入る前の生活は酷かったし、

拾われなかったらどうなっていたかとは思う。


「でもテルテさんも美人じゃないですか。

恋人とかいるんじゃないんですか?」


「うちは周りに変人扱いされてるし、

そもそも人付き合いは殆どしてない。

こんな世界で金の絡まない人付き合いなんて

普通には出来ないよ」


テルテの顔が少し暗くなる。

あまり踏み込んではいけないんだとリンリも理解した。

それからはリンリの教団での話や、テルテのいた町や村の、

差し障りのない範囲の雑談を交わすのだった。



「大体の案が出来た」


それからしばらくしてアミアが戻ってきた。


「えっ?

私がヒュドラの首を刎ねるの?

アミアちゃんじゃなくて?」


おおよその案を説明したところでリンリが驚く。


「ああ、さすがにヒュドラの首を刎ねるとなると、

相手の攻撃を受けずに済むのは難しい。

あたしのリグムは攻撃特化だから、

下手すると1撃で大破する可能性もある。

そもそも不死鎧と神聖鎧だと神聖鎧の方が頑丈だ。

それに硬化の魔法もあるし、

ブレス耐性の魔法も神聖魔法にはある。

逆にあたしは攻撃を任せられれば、

囮とかく乱に専念出来る。

大丈夫だ、ヒュドラの首は1点に1つしか攻撃出来ないから、

あたしが常にリンリを見守って指示すればどうにかなる」


アミアの話でリンリも作戦の意図は理解出来た。


「分かりました。

でも私の剣だと1回で切り落とすのは難しいかも。

時間との勝負の作戦だと厳しくない?」


「その通りだ。

だから今回はあたしのハルバードを使ってもらう。

リンリは武器は一通り使えるって話だし、

武器なら不死鎧の物だろうと関係なく使えるだろうしな。

まあ、ヒュドラと戦う前に別の妖魔で数回使い馴らしてもらおうとは思うけど」


「アミアちゃんのあのハルバードを・・・。

ますます責任重大だね」


「ヒュドラを倒すには力を合わせる必要がある。

そして、あたし達には倒せる力がある。

だから大変だと思うが協力して欲しい」


「もちろんやるよ。

前回は助けてもらったし、

頑張るよ」


リンリが気合を入れる。


「なんか、あんた達思ったのと違うな。

邪教団だから他人をコマのように使うかと思えば違うし、

聖教団だから死ぬのも恐れない、って感じでもないし。

ま、うちの勝手なイメージだったけど」


「教団にいた頃はそんな感じだったよ。

でも、今は教団として動いてるわけじゃないし、

あたしは自分がうまくいくと思う事を実行してるだけだ」


「私は前からこんななんで教団内でも異端視されてたかなあ」


そういうリンリだが別に気にして無さそうな笑顔だった。


「あとはテルテにも色々お願いがある。

まずはヒュドラの周辺にあるオークの巣を教えて欲しい」


「ちょっと待ってな」


テルテはそういうと地図を持ってきて広げる。


「ここがヒュドラの縄張りで、

一番近いオークの巣だとここかな。

それなりに規模が大きくて、

他の妖魔も手出しをしてないところだ。

でも、囮として使うにしてもどうやるんだ?」


「数匹のメスを魔法で使役して、

オスたちをおびき寄せる。

後はメスをヒュドラに殺させれば完了だ」


「それってちょっと酷過ぎないですか?」


話を聞いたリンリが口を挟む。


「妖魔を人間と同じ感覚で見ると確かにそうだが、

妖魔との関係は殺すか殺されるかの関係だ。

それに、囮無しじゃヒュドラには勝てない」


「アミアの言う通りだな。

妖魔を人間と同じに見てたら下層では生き残れない。

妖魔にとっての人間だって、

単なる敵だ。

人間が妖魔に捕まったら殺されるか、

ペットみたいに玩具として飼われるかのどっちかだ。

そこは割り切った方がいい」


テルテもアミアと同意見のようで、

リンリは自分の考え方が間違っているんだと理解した。


「じゃあ、オークの巣に寄って、

誘導させつつヒュドラの巣に向かうって事で決まりだ」


「了解」


「あと、テルテにもヒュドラと戦っている時に

頼みたい事がある」


「うちが?

危険な事はやらないぞ」


「そこで相談なんだが、

地上に出た後もあたし達は行く当てがない。

そもそも自分たちがいた教団周辺での情報はあるが、

それ以外の情報が少なすぎる。

なんで、しばらくの間テルテを雇いたい」


「雇う?

うちを?

まあ、いいけど、いくら出せるんだ?」


テルテはアミアの提案に興味を示す。


「あいにく二人とも金目の物は殆ど持ってない。

で、だ。

ヒュドラが持っている財宝、

ヒュドラから取れる素材、

全てをテルテに譲る、

ってのはどうだろうか」


「そう来たか。

確かに本来は倒した者のものだしな。

しかも、倒せないと報酬はもらえないから、

うちも真面目に手を貸す必要が出てくると。

うん、悪い話じゃないし、その考え方も嫌いじゃない。

のった!」


テルテは笑顔でアミアの手を取った。


「で、頼みたい事ってのは・・・」


そこから3人で細かい作戦を詰め、

アミアの案を多少修正しつつ、

ヒュドラ討伐案が完成したのだった。



「じゃあ準備はいいな」


デュエナの回復も完了し、

3人の気力体力も戻ったところで出発となった。

計画通りデュエナがリグムのハルバードを身に着け、

リグムは代わりにデュエナの長剣を身に着ける。


「思ったより軽く扱えるんですね」


デュエナがハルバードを振って感覚を確かめる。


「そいつは特別らしいからな。

おそらく教団で一番敵を斬った武器だろう」


「そっか・・・」


リンリは本来自分の仲間を斬ったであろう武器を使うのに、

何らかの罪悪感を感じるべきかと思うのだが、

どうしてもそんな事は思えなかった。

武器は武器でただの道具だし、

戦いなのだからどちらかが倒されるのは当然だ。

自分たちだって散々殺してきたし、割り切って考えるなら、

アミア達だけが悪いわけじゃない。


「やっぱり使うのは嫌か?」


「あ、別にそうじゃなくて。

でも、本当に私が使うのでいいの?」


「ああ、それは確定事項だ。

リンリの腕は信用出来るし、

カバーはあたしがする。

作戦通り進めれば何も心配はない」


とは言うものの、本当にうまくいくかはアミアには分からなかった。

が、指示する者に自信が無ければ誰もついてこない。

今回は特に意思疎通が大事になってくるので、

信じ込ませるしかない。


「分かった。

私、アミアちゃんの為なら頑張れる」


リンリは本当に変わったのだろうか。

それとも、一時的に恐怖が遠のいているだけで、

ヒュドラを見たら逃げ出すのだろうか。

アミアに他人の心は分からない。

でも、信じてもらう為にはこっちも信じるしかない。


「テルテもいいか?」


「いいぞ。

まあ、うちは言った通り作戦が失敗になったら逃げさせてもらうけどな」


出会った時と同じ格好に戻ったテルテが聞き取りにくい声で応える。

アミアが鎧なしに暗闇でどうやって行動しているのかテルテに聞いたところ、

分厚い眼鏡が魔法の品らしく、

暗闇でも妖魔と同程度に目が見えるようになるとの事だった。


移動は地形を理解しているテルテに先導してもらい、

センサーに敵の反応があれば知らせる形で行った。

途中リンリの馴らしを含めて、中型妖魔との戦闘をあえて行ったが、

一通りの武器は使えると言っていた通り、

簡単に敵を撃破していた。

アミアは思ったより使いこなしているとすら思った。


「あれがオークの巣だ」


テルテの案内でヒュドラの囮に使うオークの巣を先に確認する事にし、

遠目に観察する。


「40匹ぐらいいるな、大きな集団だ」


アミアが声に出して感想を述べる。

念話はテルテには通じないので、

戦闘時以外は鎧から声を出すようにしていた。


「アミアが言ってるメスを使う作戦なら、

半数以上は連れていけると思うぞ」


「ああ、それなら想定内の数に足りる。

じゃあ、次はヒュドラの巣まで一旦行こう」


囮を使うにもそこまでの道のりが重要になる。

邪魔になる妖魔がいる場合は先に取り除いておく必要があるからだ。

ヒュドラの近くに着くまでに2回ほど戦闘し障害を排除する。


「これ以上近付くとヒュドラに気付かれる」


テルテの合図で移動を止める。


「センサーにヒュドラの反応を捕らえてるから大丈夫だ」


センサーに映るヒュドラの反応は途轍も無く大きい。


「これがヒュドラですか」


リンリもさすがに驚いてるようだ。


「じゃあ一旦分かれるって事で。

うちは頼まれた準備をしてるから、

必要になったら合図をよろしく」


「頼んだぞ」


「大丈夫、逃げたりしないから。

ヒュドラの素材は易々と手に入るもんじゃないからな」


テルテが2体の鎧から離れていく。

利害の一致は便利だな、とアミアは思った。


『じゃあリンリはここで待っていてくれ。

作戦通りやれば大丈夫だから』


テルテが移動したので念話に切り替え声をかける。


『了解。

頑張るから』


リンリは気張った声を出す。


『じゃあ行ってくる』


テルテもアミアも移動してしまい、

リンリは一人、ヒュドラのそばに取り残された形になった。

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